7月25日の読売新聞夕刊に、柳沢正史・筑波大学教授の「眠り確保で日本は元気に」が載っていました。
柳沢 色んなデータにあるように、日本人って世界一睡眠不足で、私に言わせると、日本が元気がない原因は眠れてないから。これをなんとかしたい。それに尽きます。
――OECD(経済協力開発機構)が2018年に発表したデータによると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分とされていますね。
柳沢 これは調査対象国の平均より1時間以上短い。調査結果を見てもわかるように、生産性が高く、リッチな国の人々はよく眠っている。
――1年に換算すると15日分も寝る時間が少ないけれど、それだけ日本人は勤勉に働いているといえませんか。柳沢先生と同世代の私の受験時代は、四当五落(4時間睡眠で勉強に励むと合格、5時間寝ると落ちる)という言葉がありました。
柳沢 科学知識が教えることは全く逆で、むしろ四落五当、いや、よく眠ったほうが記憶は整理され定着するので、七落八当といってもいい。最高のパフォーマンスを発揮するには十分な睡眠が必要。だから寝ると落ちるんじゃない。寝ないと落ちる。
まして、試験前の一夜漬けはとんでもない。徹夜明けの脳は、酒酔いと同程度まで機能が低下する。24時間戦うなんてあり得ませんよ(笑)。睡眠不足になると肥満や認知症など様々な不具合も招きやすく、いいことはない。
――充分な睡眠を心がける大谷選手が、すぐれたパフォーマンスを発揮しているのは理にかなっているんですね。
柳沢 はい。スポーツもただ練習するだけでは技能向上は頭打ちになる。そこで一晩寝ると次のレベルにいける。
寝る間を惜しんで働く人は要注意ですよ。本人は頑張っているつもりでも、寝不足では効率が悪く、作業時間がかかり、ますます寝る時間が削られる。悪循環に陥ってしまいます。
――日本人はなぜ、睡眠を重視してこなかったのでしょうか。
柳沢 頑張っていいモノを作ればもうかるという成功体験が親から子に伝わり、「寝るのを惜しんで頑張れ」「いつまで寝ているんだ」という価値観が生まれたように思う。でも、それは偽りの成功体験です、私に言わせると。
ここに面白いデータがあります。「NHK国民生活時間調査」によると、私の生まれた1960年の日本人は夜10時までに就寝する人が67%もいて、今より1時間多い、8時間13分寝ていた。
次第に遅寝になっていきますが、それでも高度成長期の日本人はよく寝ていた。寝る時間を削って頑張ったから経済成長したというのは誤った認識で、よく寝ていたからこそ高度成長があったと思っていいぐらいですよ。