あるところに紹介されていたので思い出し、四方田犬彦著『先生とわたし』(2007年、新潮社)を読みました。アマゾンでは、次のように紹介されています。
「伝説の知性・由良君美が東大駒場で開いたゼミに参加した著者は、その学問への情熱に魅了される。そして厚い信任を得、やがて連載の代筆をするまでになる。至福の師弟関係はしかし、やがて悲劇の色彩を帯び始める……。「教育」という営み、そして「師弟」という人間関係の根源を十数年の時を経て検証する、恩師への思い溢れる評論」
由良君美先生は、確か東大駒場で英語を習った記憶があります(もっとも、私の記憶が不確かなことは先日証明済みです)。名前を覚えていたので、読んでみようと思いました。師弟の軋轢、といっても師の一方的な悩みからきていたようですが、それをあとになって理解する弟子の話は、胸にくるものがありました。
旧来「治外法権の」と訳されていたextraterritorialに「脱領域」という訳語を、deconstructionに「脱構築」という訳語を与えたのは、由良先生とのことです。在外経験がないことも意外でした。
著者の四方田さんが1972年に東大文Ⅲに入学し、由良ゼミに入ることから物語は始まります。私は1973年の入学なので、1年違いで駒場の空気を吸っていたことになります。当時の駒場の情景が書かれていて、懐かしさとともに、私とは全く違った高尚な議論がされていたことを教えられました。
文学、社会、自然ととんでもない範囲と数のゼミが開講されていて、田舎からきた18歳には「これが知か」と、まぶしかったです。いくつも参加しては、途中で挫折しました。今から思うと、もったいないことでした。住んでいた駒場寮が、学内にあるのに、勉強にはふさわしくない環境でした。と、言い訳をしておきます。