被災者支援本部や復興庁が、設立母体なくできた組織だと指摘しました(組織の能力3)。すると、仕事の仕方や社風を作らなければなりません。もっとも、意識して作らなくても、自然とできあがるものでもあります。しかし、自然とできあがる社風が、組織の運営に適切なものかは、保証の限りではありません。
ここに集まった職員の多くは、国家公務員です。国家公務員の良いところと悪いところを持っています。官邸、国会、与野党、各省との仕事のすりあわせ方は、みんな知っています。法令の読み方、法律のつくり方、予算の要求や執行の仕方も、知っています。
他方、しばしば批判される欠点「それは前例にありません」「法律に書いていません」「予算がありません」という公務員的思考を、持ってきている人もいます。
被災者支援本部も復興庁も、「これまでにない大災害」に対応するために作られた組織です。「前例がありません」などという発想自体が、矛盾しています。
そして、スピード感です。目の前に今、困っている人や自治体がいるのです。「それは私の所管ではありません」とか、検討のしっぱなし(お蔵入り)では、存在意義がありません。もちろん、その場で回答できないもの、検討に時間を要するものはあります。しかし、できるだけ早く、的確な回答をすること。前例がないことでも、できないか知恵を出すことが必要です。
できない理屈を探すのではなく、また自分の所管でないことの理由付けを考えるのではなく、どうしたらできるか、誰ならできるかを考えるのです。(ただし、全ての要求に、国が答えられるものでもありません。国民の税金で行うのですから、一定の限度があります。)
そして、予算をつけたことや通達を出したことで、「やりました」としないことです。それは、霞が関ではアウトプットですが、被災地ではインプットです。現地で結果を出さない限り、「やりました」とは言えません。
この項続く。
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組織の能力、4。信頼という武器
組織の力の一つとして、「武器」(手段)を挙げました。ところで、行政組織の能力を考える際に、「武器の有効性」もあります。
すなわち、同じ政策で同じ手法あっても、受け取る国民・住民の意識の差によって、効果が違うのです。鉄砲やミサイルなら、性能が同じなら、相手に与える被害も同じです。
しかし、行政の手法の多くは、住民がそれに従ってくれることで、成果を発揮します。
自動車の速度制限をした場合や飲酒運転を禁止した場合、運転手が従ってくれると、コストは低いです。しかし、違反者が多いと、取り締まるための費用がかかります。
役所に対する住民の信頼度の差によって、行政の手法は、有効性(威力)が違ってきます。住民の信頼を得ている役所だと、仕事は進みやすく、そうでない場合は説明して説得するのに、時間と手間がかかります。
企業の場合は、企業ブランドでしょうか。同じような品質や性能の商品でも、老舗のブランドがついていると、消費者は知らない会社の商品より老舗のものを信用して買ってくれます。
商売や行政は単体で成り立っているのではなく、消費者や住民との関係の中で成り立っています。そこで武器の一方的性能とは違い、相手との信頼関係が有効性を高めるのです。武器はハードパワーであり、信頼はソフトパワーです。
さて、おさらいをすると、組織の能力は、次のようなものから、なっています。
まずは、職員の数と質、組織の編成。そして、仕事の仕方と社風。ここまでは、組織内の要素です。
つぎに、任務を達成するための「武器」(手段)があります。そして、住民からの信頼があります。これらは、相手方との関係です。
不可抗力におわびは必要か
最近の大雪の日の新聞に、配達遅れをお詫びする文章が載っています。「新聞の配達が遅れて、申し訳ありません」とです。読者から、苦情が来るのでしょうか。
でも、仕方ないですよね。こんな日に、ふだん通りに配達することは、新聞社と配達店の能力を超えています。お詫びする必要があるのでしょうか。
電車が遅れた場合も同様です。お客さんが急病になって介助した場合、人身事故で遅れた場合などで、「到着が遅れて申し訳ありませんでした」とアナウンスがあります。でも、これも鉄道会社の責めではなく、対応能力を超えています。
自らの責任でないこと、また努力しても改善できないことをお詫びするのは、変ですね。自らの過失など責めを負う場合と負わない場合とで、同じお詫びをすると、おかしな結果になると思います。後者の場合は、「今後このようなことのないように、注意します」とは、言えないのです。
不可抗力の場合は、遅れる事実とその理由を例えば「雪のため、配達が遅れる場合があります。ご了承ください」と伝えておけば、一般の方は納得するでしょう。「それなら、しゃあないなあ」と。
組織の能力、3。「武器」としての商品、予算と権限
組織の能力のうち、前回書いた「仕事の仕方」は、私のライフワークです。古いところでは『明るい係長講座』で、その後も、このホームページで「仕事の仕方」シリーズを書き続けています。
第1回に書いた「職員集め」と「組織編成論」は、被災者生活支援本部、復興本部で、実践することができました。そして今の復興庁で、実践中です。
ところで、復興庁は、まさに新しくできた官庁です。それは、次のような意味です。過去にも、いくつか新しい官庁ができましたが、それらは設立母体がありました。消費者庁(内閣府国民生活局)、金融庁(大蔵省銀行局、証券局)、環境庁(厚生省公害部、国立公園部)などです。( )内が、母体となった組織です。もちろん、他の省庁からも参加しましたが、核となる組織がありました。
ところが、被災者支援本部や復興庁は、まさに寄せ集め所帯で出発しました。これは、珍しいケースでしょう。
さて、組織の能力が、極めて明瞭にわかるものがあります。軍隊です。戦争すると、直ちに結果が出ます。相手より強くなければ、負けます。
その差は、兵員の数、訓練による兵士の質、指揮官の指揮能力などです。そして、持っている武器の性能と数も、大きな要素です。
企業なら、武器(道具、手段)に当たるのは、安くて良い商品とサービスでしょうか。行政の場合は、予算や法律などでしょう。
すると、任務にふさわしいだけの、予算や権限が必要になります。責任者としては、それをそろえる必要があります。
組織の能力、2。仕事の仕方と社風
次に、仕事の仕方があります。上司からは明確な指示が出て、部下がそれに答えているか。指揮命令系統は、はっきりしているか。各人に与えられた目標は明確か、成果はきちんと評価されているか。
また、庶務がしっかりしているかどうかも、重要です。職員が仕事をしやすいように、パソコンや備品をそろえたり、出張旅費や福利厚生を素早くやってくれるかです。表からは見えにくいですが、「縁の下の力持ち」です
このほかに、「社風」とも言うべきものがあります。職員が新しい仕事に挑戦する雰囲気にあるか、会社がそれを許すか。自由闊達な雰囲気で、風通しがよいか。職員は、のびのびと仕事ができるか、それとも上司の顔色をうかがっているか。派閥で人事抗争を繰り返しているかなどなど。これは、最も目に見えない要素です。
同じように職員をそろえていても、良い上司がいて、良い雰囲気の職場だと、良い成果が出ます。その逆もあります。
このように、単に人数を集めただけではダメ、職員一人ひとりの質を向上させるだけでもダメなことが、わかってもらえるでしょう。組織の能力とは、職員の数と質の合計ではないのです。
さて、職員の人数は多い方が、そして職員の質は良い方が、上司としてはありがたいですが、常に満足できる水準とは限りません。ほとんどの場合は、不足している中で、やりくりを考えなければなりません。
他方、組織編成、明確な指揮命令系統や指示、職員にやる気を出させること、社風は、上司が努力すれば、かなりの部分は改善できます。そして、経験不足の職員を育てること、腐っている職員を再活性化することも、上司の仕事です。