カテゴリー別アーカイブ: 仕事の仕方

生き様-仕事の仕方

厳格採点をした教員が辞めさせられた

4月14日の日経新聞「揺れた天秤 法廷から」に「厳格採点で不興 雇い止め」が載っていました。
・・・新年度が始まり、大学のキャンパスに学生の姿が戻ってきた。授業の進め方は教員によって様々だが、大学側が学生の「支持率」を重視しすぎるのは考えものかもしれない。厳格な採点で知られたある非常勤講師の男性は「学生に不人気」と大学側にとがめられ、雇用契約の更新を断られた。理不尽な雇い止めか、厳格さが嫌われる時代なのか。男性は不当な対応だとして司法の判断を仰いだ・・・

・・・雇い止めの理由として突きつけられたのは、大学が学生に実施したアンケート調査だった。「授業がわかりにくい」「声が小さい」――。自由回答欄に男性の授業に対する学生のクレームが連なっていた。授業の満足度や理解度を尋ねた5段階評価で、男性はいずれの項目も中間評価の「3」は超えたが、教員全体の平均は下回っていた。最も差が大きかった項目は0.9ポイント低かった。
大学側がそれに加えて重視したのが「不合格率」だ。教員が合格と認めなければ学生は単位を取得できず、翌年に改めて同じ科目を受講し直さなければならない。他の英語の非常勤講師の不合格率は軒並み1%前後にとどまり、最大20%の男性は際立っていた。

訴訟で男性側は「成績評価は大学側から示された基準に従っている」と反論した。大学は授業に関する指針で、配点割合を「提出課題30%、授業態度20%、筆記試験50%」と示していた。課題をこなして真面目に授業を受けていても、試験の点数があまりに低ければ単位は認定されない仕組みだった。
男性は授業や試験についても大学の教育方針に基づいていると主張した。学生の学力を考慮すると大学指定の教科書は難しすぎると感じていたが、試験を簡単にすれば大学の求めるレベルを満たさないと逡巡(しゅんじゅん)し、難易度を維持する代わりに授業で繰り返し復習を呼びかけた。試験問題も解きやすいように教科書の一部をそのまま出題した・・・

・・・京都地裁は23年5月の判決で男性側の主張をほぼ受け入れた。学生アンケートは「どこまで学生の真摯な意見が反映されているのか、教員の指導能力や勤務態度を判定できているのか明らかではない」と指摘。全体平均を下回っても中間の3ポイントは超えており「(男性に)不利益な評価をする妥当性も疑問」と投げかけた。
不合格率の高さについても「むしろ(大学側の指針に)忠実に従ったために多数の不合格者を出した」と認めた。合理的な理由を欠く雇い止めだと認定したうえで「講師の地位にあることを確認する」と結論付けた。大学側が控訴したが、23年12月に大阪高裁で和解が成立した・・・

「月刊うめさお」

梅棹忠夫先生が、60歳を超えてから失明してご苦労されました。当時、食事が難しいこと、口に入らずこぼしてしまうことを書いておられて、なるほどと思いました。『夜はまだ明けぬか
ところが、その条件の下でたくさんの書物を出されました。私も梅棹先生の視野の広い発想を尊敬していましたが、これには驚きました。当時「月刊うめさお」と呼ばれていました。

検索すると、朝日新聞デジタル版「生誕100年、梅棹忠夫さんなら今なに思う」(2020年6月12日)に息子さんが書いていました。
・・・中国から帰国後、ウイルスによる視神経炎のため、視力を失った。マヤオさんは「当時65歳だった父の失意は深かった。しかし、周囲のサポートによって口述筆記で全23巻の『梅棹忠夫著作集』を刊行し、『月刊うめさお』といわれるほど多くの本を出した。それだけ多くの知の引き出しを持っていた」と振り返る・・・

ある人から「全勝さん、よく原稿が続きますねえ」と言われました。褒められたのか、あきれられたのか分かりませんが。1か月に3回の連載「公共を創る」の執筆は大変な負担です。そのほかに、コメントライナーが2か月に1回程度です。短い文章ながら日刊の、このホームページもあります。
で、「月刊うめさお」を思いだして、「週刊おかもと」やなあと思いました。もっとも梅棹先生のは内容の濃い本ですが、私の原稿は内容も文字数もたいしたことはありません。比較すると、梅棹先生に失礼です。

適切な対人距離

2月24日の日経新聞に、「適切な対人距離、会話円滑に 初対面は1.2メートル、同僚は70センチ」が載っていました。いつものことながら、古い記事で申し訳ありません。ここのところ原稿などに追われて、このホームページでの紹介が遅れているのです。取り上げたい記事が、「素材の半封筒」にたくさん溜まっています。

・・・オフィスへの出社回帰が進んでいる。円滑なコミュニケーションにはどのくらいの対人距離が適切なのか。カギを握るのが自分の周りの目に見えない縄張り「パーソナルスペース」だ。
パーソナルスペースは心理学で「自分の体の延長のように感じ、他者に侵入されると生理的に不快感を覚える空間」を指す。1960年代に米国の心理学者ロバート・ソマーが定義した・・・

・・・その広さは人によってまちまちだが、相手との関係や場面によって伸び縮みする。米国の文化人類学者エドワード・ホールはパーソナルスペースを侵害しない快適な対人距離は4つに大別されると説いた。
快適な対人距離は大きく4つ
「密接距離」はすぐに触れ合うことができる距離(45センチまで)。相手の表情がよく見えるため、家族や恋人同士の会話に適している。
「個体距離」は両者が手を伸ばせば触れることができる距離(45センチ〜1.2メートル)で、同じ部署の同僚や友人とのコミュニケーションが活発になる。
「社会距離」は手を伸ばしても相手に触れることができない距離(1.2〜3.6メートル)だ。複数人の顔が目に入るので、プレゼンテーションや商談にぴったりとされる。相手の目線が気にならないので、一人で集中して仕事をするのにも向いている。
「公衆距離」(3.6メートル以上)は大人数の様子が把握できるため、講演などに適している。
パーソナルスペースの広さは自分の精神状態や空間の明るさなどでも変わる。気分が沈んだり、周囲が暗かったりすると相手と距離をとりたくなるので拡大する。一般的に男性の方が女性より体格が大きいので、広い傾向がある・・・

・・・「初対面では個体距離と社会距離の境界である1.2メートルほど離れるのが望ましい」と磯さん。同じ部署の同僚同士で会話する場合は「70センチ前後がよい」と説明する。一定の距離をとることでより早く打ち解けたり、仕事の集中力が上がったりなどの効果が期待できるそうだ・・・
・・・オフィス家具大手コクヨの東京都港区のオフィスは営業部署の社員が集まるフロアはフリーアドレスだが、対人距離が50センチ〜1.2メートル強ほどになるように椅子を配置している。「営業は情報が命。交換を促すために自然に話しかけやすい距離を意識した」(商品企画責任者の岡田和人さん)。三角の形状の机を配置し、正面にいる社員と視線が合わない工夫もしている。
色々な部署の社員が集い、自身の作業をこなすフロアでは1.8メートルほどの距離を空けている。さらに左右と前にはパーティションを用意し、社員が他人の視線を気にせずに集中できる環境を整える・・・

中途採用者の増加が与える衝撃

3月26日の日経新聞「銀行変身㊦働き方アップデート」に「みずほ、中途採用数が新卒超え 退職者カムバック歓迎」が載っていました。
・・・新卒で入行し、定年や出向まで勤め上げるのが当たり前だった銀行の働き方が変わり始めた。2023年度の3メガバンクの採用全体に占める中途採用の比率は半分に迫り、みずほフィナンシャルグループ(FG)は初めて中途採用数が新卒を上回る見通しだ。退職者は「裏切り者」という冷たい視線を浴びることもあったが、今では退職者の再入行も当たり前になり、「人材の回転ドア」が回り始めた・・・

3月25日の朝日新聞には、「転職=前向き、若手社員の価値観変化 「スキルつける」早めの決断」が載っていました。
・・・若手社員の転職に対する価値観が大きく変化しています。「早くスキルをつけたい」と転職を前向きに捉える人が増え、SNS投稿が後押しするケースも目立ちます。対する企業は、社員の定着に試行錯誤し、「もったいない離職」を防ごうと対策を進めています・・・
・・・「マイナスな話ではなくて、やりたいことを考え直して逆算した結果、今辞めた方が良さそうだと考えた」。東京都に住む20代半ばの男性は昨年秋、2年半勤めた大手金融機関を辞め、デザイン会社に転職した。
大学時代に就職活動をしていたころは、海外で働けることを優先して企業を選んでいた。だが、次第に空間設計やマーケティングを通じて人を幸せにしたいという夢が出てきた。将来、結婚して共働きになったときに全国転勤を続けることへの不安もあった。
終身雇用へのこだわりもない。転職前にみていた上司の姿は、ハードな働き方をして管理職になっても、自身がやりたかったことはできていないように映った・・・

霞ヶ関の各省も、中途採用が広がり始めました。早期退職者が増えて、新卒だけでは職を埋めることができなくなったのです。他方で自治体では、新規採用でも民間経験者が増えているようです。
この20年間で、労働に関する意識と慣行が大きく変化しました。記事でも書かれているように、転職者が増えたのです。かつては、採用された会社や役所で定年まで勤め上げることが「当然」であり、途中退職者には落伍者の烙印が貼られました。また、そのような人を企業は採用しなかったのです。社員にとっては「楽しくない職場であっても、しがみつくしかない」、企業にとっては「意欲のない社員だけど、飼っておく」という、双方に不幸せな事態が続いていました。

転職が普通になって、外部労働市場が活性化すると、「この職場は私には合わない」と考えれば、転職できるようになったのです。これは、よいことです。少し異なりますが、プロ野球でフリーエージェント制が導入され、優秀な選手はよりよい待遇を求めて移動することができるようになりました。球団は引き留めるためには、処遇を上げなければなりません。
企業や役所は、逃げていく社員や職員をつなぎとめるために、処遇を変えたり職場を変えたりしなければなりません。転職する彼ら彼女らは仕事のできる人たちですから、損害は大きいです。他方で仕事のできない社員は転職せずしがみつきますから、この人たちをどのように処遇するかも課題になります。
社内や役所内での人事方針や仕事の仕方も、変えざるをえなくなります。「やりたい人にやりたい仕事をさせる」「仕事をしない人にはそれに見合った処遇にとどめる」ことが進むでしょう。前者は例えば「手上げ方式」で、社員がやりたい仕事の希望を出し、希望者の中から適任者を選びます。後者は、いつまで経っても同じ仕事で給料も上がらないです。

事業縮小議論、人物が見える

日経新聞「私の履歴書」4月は、三村明夫・日本製鉄名誉会長です。11日の「大合理化」から。
1985年のプラザ合意によって、円高が急速に進み、日本の鉄は国際競争力を失います。1970年に富士製鉄と八幡製鉄が合併してできた新日鉄は、それまでも過剰な生産設備を削減してきましたが、大胆な削減はしませんでした。しかし、いよいよ避けて通れなくなりました。三村さんは計画づくりの事務局責任者になります。6万8千人いた社員を1万7千人、すなわち4分の1に縮小し、12基あった高炉のうち5基を閉めます。

・・・半年足らずのSPC(注、合理化検討会議)だったが、そこで得た学びは米国留学より何倍も大きかったように思う。ひとつは危機は組織再生の好機でもあることだ。長年引きずった課題に決着をつける絶好の機会であり、逃げずに立ち向かえば、企業は再び躍動する。
もうひとつは「聖域なき合理化」とはよくいわれるフレーズだが、実際は侵してはならない聖域が厳然としてあることだ。当社の聖域とは品質や職場の安全だが、これについては後述したい。

最後に人を見る目だ。14人のSPC構成員はいずれも私の上役だが、真剣勝負のやり取りの中で各人の実力や人格が浮き彫りになった。日ごろは偉そうに振る舞う人が急におとなしくなったり、地味な人が誰もがうなずく正論を堂々と開陳したりする場面がしばしばあった。
「上から3年、下から3日」という言葉をご存じだろうか。人を判断するのに上からみれば3年かかるが、部下として仕えれば上司の長所も短所も3日で分かるという格言だ。この言葉はいまに至るまで私自身への戒めでもある・・・