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地方行財政

2003年地方財政学会

7月4日、5日と札幌で、日本地方財政学会2003年度総会が開かれました。300人近くが参加し、大盛況でした。基調講演をさせていただきました。テーマは、「交付税の現状と改革課題」です。1週間前に三位一体が決まったばかりで、ホットな話題を解説しました。
各分科会も、税、国と地方、公共事業、福祉、地方債、海外事情と盛りだくさんでした。発表者も研究者と実務者、海外からの参加と、内容も理論研究、シミュレーション、事例研究と、バラエティに富んでいました。「大会プログラム」をご覧下さい。夜は、全国の研究者と懇親を深めてきました。
5日の北海道新聞も、紹介してくれました(川村記者ありがとう)。概要は、「第11回地方財政学会の基調講演と概要」月刊『地方財務』(ぎょうせい)2003年9月号に、まとめてあります。
各自治体が今後の税財政を考えるに当たっても、研究の第一線を知ること、また研究者と知り合いになることは、有意義だと思います。自治体の職員の加入も大歓迎です。会員は現在500人を超えています。
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写真は、玉岡神戸大学助教授の提供です。

三位一体改革について

ここからは、三位一体改革の日記です。三位一体改革までの地方財政改革(平成14年春以前)については、拙著「地方財政改革論議」をご覧ください。また、ここに書いた経緯は、「進む三位一体改革ーその評価と課題」「続・進む三位一体改革」として、論文にまとめてあります。そちらをご覧ください。
2003年5月~6月の動き
この間の三位一体改革については、次の拙文をご覧下さい。
①「三位一体改革についての座談会」神野直彦東大教授や柏木孝大阪市財政局長らとの座談会(月刊『地方財務』(ぎょうせい)2003年7・8月合併号
②「第11回地方財政学会の基調講演と概要」月刊『地方財務』(ぎょうせい)2003年9月号

1 骨太の方針2003
三位一体改革を含んだ「骨太の方針2003」が、6月27日に閣議決定されました。三位一体改革の部分は、原案通りです。別紙の「国庫補助金整理方針」は分量が減りましたが、骨格はそのままです。
期限を切った数値目標が閣議決定されたことは、大きな前進です。これから各年の予算編成で、どのように実現されるかが課題になります。
「歯止め」
今回の決定は、
①総理が指示されたこと(官僚が作った玉虫色の作文でない重み)
②経済財政諮問会議の場で、今後監視がされること(公開公式の場)
③今回の「騒動」をめぐる連日の報道で、広く国民が関心と理解を持ったこと(世論の監視)
が、今回の方針を骨抜きにしない歯止めになると期待されます。地方団体も、先送りにされないように働きかけをする必要があるでしょう。
(6月28日)

2 三位一体原案
6月18日の経済諮問会議で、三位一体改革の方向が決定しました。骨太の方針2003(案)の19ページからです。
「ポイント」
ポイントは、次のとおり。
今後3年間で、国庫補助金を4兆円廃止縮減する。
これに見合った財源を、国税から地方税に移譲する。義務的経費は10割、その他は8割。
交付税は、歳出規模を削減することで縮小。

「ベルトコンベアー論」
具体的な補助金削減や税源移譲は、これからの毎年の予算編成時の作業になります。いわば、「ベルトコンベアが決まった。それに乗せる量も決まったが、何を乗せるかはこれから」ということです。
しかし、数値目標が決まり、税源移譲がしかも基幹税でと決まったことは、画期的なことです。基幹税とは、国の場合所得税・法人税・消費税を指します。
もっとも、これから具体の補助金廃止になると、困難が予想されます。各自治体も、例年のように「××補助金確保」と要求するようでは、「なんだ、地方団体は補助金存続を要求しているじゃないか」と言われ、進まないでしょう。(6月18日)
3 分権改革推進会議の「迷走」
これに先立ち、5月中旬に分権改革推進会議の「水口私案」が表にでて、大論争を巻き起こしました。それについてのコメントです。
(1)分権改革会議の使命
地方分権推進会議の水口試案が、ようやく公表されました。会議を非公表にする進め方については、前回批判しました。次に、その内容の問題点です。
私は、「地方共同税構想」は将来の選択肢の一つと考えています。もっとも、今回の案は私の考えているものとは違います。それについては、別途批判します。

問題はそこにあるのではなく、分権会議の「使命」です。分権会議の仕事は、前身の「諸井分権委員会」が残した課題を進めることです。財政について言えば、地方の自立に向けた改革を提言することでしょう。
そのために、国庫補助金の廃止・税源移譲が必要ということは、関係者の共通認識です。それらに手を着けず、交付税だけを縮小しようとするのは、使命を忘れています。交付税を減らすためには、国による事務の義務付け廃止と税源移譲が前提条件です。

国全体が多額の借金をしており、財政再建が必要なことは、私も発言している通りです。それは忘れてはなりません。しかしそれは、経済財政諮問会議の責任、財務省財政制度審議会の場でしょう。なぜ、国が義務付けている義務教育・福祉・公共事業の水準(予算額)を削減しないのでしょうか。それを(国が)削減しないで、交付税(地方)を削減しようとするから、理論的に成り立たないのです。また、「責任放棄」と取られても仕方ありません。(5月25日)

(2)水口私案の問題
地方分権改革会議で、地方財政改革の報告書案が議論されているようです。新聞でも報道されています。批判的記事が多いようです。「どこが三位一体」「税源移譲先送り」と書いたものもありました。私は次のように考えています。
「秘密主義」
まず、審議の進め方です。この会議は秘密会で進められています。記者は入れず、会議後記者会見もなされていません。
審議会は原則公開と、閣議決定されています。非公開にする場合はその理由を示す必要があります(平成11年4月27日「審議会等の整理合理化に関する基本的計画」)。
国と地方のこれからの関係を議論する会議が、なぜ非公開なのでしょう。国家利益やプライバシーがある場合は分かりますが、今回の会議では、何が隠さなければならない「秘密」でしょうか?隠す相手は誰でしょうか?

「国家財政優先」
もう一つは、当然その中身です。秘密になっているので、詳細は分かりませんが、新聞報道を読む限りでは、次の問題があります。
交付税の改革は述べられているようですが、歳出について触れられていないようです。私がいつも述べているように、交付税は独立変数ではなく、法令で決まった事務の「従属変数」なのです。義務教育を義務付けておいて、国庫負担金は半分しか出さない。だから、交付税で財源保障をしているのです。それを無視して、「交付税による財源保障は廃止する」といった議論をしても、無茶な話です。
そもそも、分権会議なのに、いつの間にか「国家財政再建のための地方歳出削減会議」に転化しているように見受けられます。(5月15日)