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地方行財政

地方財政の仕組み・ミクロ

小規模過疎県の方が、1人あたり一般財源(経費)が大きくなることについて。

朝日新聞平成15年12月6日の記事「置き去りの改革・下」の補足です。図表で、県民1人あたり一般財源収入額の比較が示されています。財政力の強い(税収が多い)県の方(図表では上)が、一般財源が大きくなっているのは、簡単には次のような理由です。
①上の県の方が人口規模が大きく、規模の経済が働いて、県民1人あたりでは「安上がりになる」こと。人口1千万人を超える東京都も、人口80万人に満たない島根県でも、知事は1人です。
②道路・港湾・農業などの経費は、人口に比例せず、面積などに左右されること。それを人口1人あたりで比較すると、過疎の県ほど割高になります。
③政令市を抱えている県は、仕事の多く(道路の管理や保健所など)が政令市に移管されていて、県の仕事が少なくなっていること。神奈川県では、横浜・川崎と2つも政令市があり、それだけ県の仕事が少ないのです。(12月6日。続く)
(地方団体の財政状況が一目で)
昨日から、全地方団体の主要な財政指標が、類似団体と簡単に比較できるようになりました。総務省が作った様式で全団体が作成し、インターネットでリンクされました。「財政比較分析表」のページから、全国の市町村を見ることができます。あなたの住んでいる市町村がどの位置にあるか、クリックしてみてください。数字の見方も解説されています。
全地方団体「財政比較分析表」の特徴
1 類似団体や県内市町村との比較が一目で
「財政比較分析表」は、団体間で比較可能な財政情報を開示するものです。その市町村の主要な財政指標が、類似団体と比較してどのような位置付けにあるかを図示します。これまでも、これらの数字は公表されていましたが、それだけでは、住民が見ても良いか悪いかすぐには分かりません。そこで、類似の団体との比較をするとともに、それを見やすくすることにしたのです。
2 主要指標の他団体比較とレーダーチャート
(1)まず、地方団体の主な財政指標として、「財政力指数」など6つの指標をとりあげました(画面の左右に6つ並んでいます)。そして、人口・産業構造の似通った類似団体の最大値・平均値・最小値と、その団体の数値をグラフに図示しました。あわせて、全国市町村と県内市町村の平均値も明示することで、比較しやすいようにしたのです。
この6つのグラフは、それぞれ上の方が良好になっています。その団体の数値は赤丸で示してあるので、それが下にあるほど他団体に比べ悪い状態にあることになります。
(2)これを指数化して、真ん中のレーダーチャートに図示してあります。この図では、各財政指標が良好なほどレーダーチャートの六角形が大きくなり、類似団体との比較がひと目でわかる仕組みになっています。
3 自己分析欄
分析表のもう一つの特徴は、「団体による自己分析欄」を設けたことです。ここには、各団体が財政指標の「良し悪し」についてその理由を自己分析し、説明したうえで、指標の改善に向けた具体的な取組を記述するようにしてあります。
4 全国リンク
全団体がこの分析表を公開し、それを総務省のHPでリンクさせました。これで、住民にとって自分の住んでいる団体の財政状況が、簡単に把握でき、また評価できるようになりました。
わかりやすい財政分析表の見方を、長谷川君が作ってくれました。次のページに貼り付けてあります。
(この解説は、長谷川 淳二君の協力を得ました。2006年4月1日)
早速、「「財政比較分析表」の見方 が開けない」との声がありました。だめなときは、一度あなたのパソコンに(デスクトップにでも)保存してください。この部分を右クリックして、「対象をファイルに保存」をクリックしてください。そして保存したファイルを開いてみてください。このHPの読者は、私同様デジタルディバイドな人が多いので・・。
実は、このpdfファイルの貼り付けも自分ではできず、お師匠さんの玉岡雅之神戸大学助教授の手取り足取りでできました。ありがとうございます。(4月3日)

三位一体改革その2

2003年11月~12月
2003年11月18日の諮問会議から、三位一体改革が再び動きはじめました。民間委員の発言を受けて、総理から「16年度予算で1兆円の補助金削減・縮減や税源の移譲を目指す」との強い指示がありました。
私の見方】(「新地方自治入門補足と追加」のページと重複)
私は、2003年11月9日に行われた衆議院選挙は、後世「マニフェスト選挙」と呼ばれるものになると考えています。それは、「今回、有権者がマニフェストによって投票したか」ということではありません。
私が今回の選挙を「マニフェスト選挙」というのは、今回のマニフェスト、特に与党のものが今後の政治を「縛り」、そのことが日本の政治を変えると考えているからです。
躍進はしましたが負けた民主党は、マニフェストを実行する必要はありません(できません)。しかし、勝った与党は、約束を実行しなければなりません。そして、野党は、与党の実績を追求します。
その中でも注目されるのは、「三位一体」です。これは、他のマニフェストと違い、時期と量が明示されています。しかも、「3年間で4兆円」というと、多くの人は初年度にある程度の成果を期待するでしょう。そして、このマニフェストは次回の総選挙はもちろん、来年7月に行われる参議院選挙が「中間試験」になると考えられます。それを考えれば、16年度予算ではなんらかの結論を出さなければならない、と関係者は考えると思います。
交付税改革
11月28日の経済財政諮問会議に、麻生大臣が三位一体改革の中で、「交付税改革」を発表しました。その骨子は、
①総額の削減加速
②算定方法の大幅簡素化
③地方団体の不安解消です。

このうち②は、
ⅰ県分の補正係数を半減
ⅱ県分公共事業の事業費補正(災害等を除く)を原則廃止
ⅲ市町村分の段階補正を引き続き合理化
ⅳアウトソーシングによって単位費用を引き下げ、です。
来年度から、順次実行することになります。

補助率カット
今回の補助金削減で、補助率を引き下げると回答した省があるそうです。私は、順次補助率を引き下げ、3年後に補助率0%(一般財源化)にする第一歩なら、良いと思います。でも、それが生活保護費なら、いかがでしょうか。生保は、中央政府が責任を持つ仕事の代表だと思います。なぜ、厚生省は、真っ先に生活保護を「放棄」するのでしょうか。
また、他の補助金については、「国が責任を持たなければならないので、補助金堅持」という主張もあります。それなら、なぜ補助率2分の1で堅持するのですか。それほど重要なら、10分の10国が持てばいいのです。国の責任といいながら、半分しか金を出さないから、交付税が必要になるのです。

教育の水準論
「教育の水準を確保しなければならない」という意見について。
今、父兄が教育に期待している水準は、何でしょうか?それは、先生の給料の水準でしょうか。私は違うと思います。私が、子供が通っている学校に期待する水準は、教育内容の水準です。それは、いじめがないことや学級崩壊がないこと、必要な知識や生き方を教えてくれることです。
しかも、今回の一般財源化は、教員の数を減らしたり、給与を減らすことを目的とはしていません。先生の給与の財源を、県2分の1から、2分の2にしようとしているのです。
今、教育に求められている喫緊の課題は、「教育の内容の水準の確保」でしょう。それを、「先生の給与の財源を誰が持つか(金額は変えずに)」という問題に「矮小化」しているとしたら、それは「行政と政治の罪」と後世批判されると思います。あなたは、どう思いますか?(11月28日)
朝日新聞一面
12月4日の朝日新聞第1面に、私の発言が載りました。
「破綻の聖域 地方交付税」という表題で、「『地方交付税制度は破綻状態に近く、今のままでは制度として維持できない。官僚だけでは処理できなくなっている』総務省の岡本全勝・交付税課長が地方自治体職員ら約140人を前に、制度の窮状を明らかにした。東京・新宿で11月11日に開かれた地方自治講演会。交付税の責任者が吐露した本音に、参加者は驚いた。」という書き出しです。
その補足と「訂正」です(朝日新聞のHPは有料なので、リンクは張れません)。

「交付税制度は破綻状態に近く・・」 という記述について。
正確には「交付税制度は、制度としては機能的な制度です。しかし、現在は財源が大幅に不足して、持続が難しいのです。そして、その財源は税であり、その総量を官僚は決めることができません」ということです。
新聞記事だと、「交付税制度が破綻」と読めます。担当課長としては、「もし破綻になるような制度だったら、それを改革する」のが務めです。私は、それを放置するような無責任な官僚には、なりたくありません。
記者も私の志を理解して、わざわざ私の名前を出してくださったのだと思います。でも、この文章では誤解されそうなので、この点は朝日新聞に「抗議」します。

「交付税の見直しは手つかずのままだ」という記述について。
この点は、大きな事実誤認です。例えば経済財政諮問会議「骨太の方針2001」で述べられたことを、もっともよく実行したのは交付税です。総額の削減は国の歳出削減率よりはるかに大きく、段階補正・事業費補正の削減も「忠実に」実行しました。その他の提言と、検証してみてください。この点も、抗議します。

これまでのこの種の新聞報道に比べると、今回の記事は「正確かつバランスが良い」と思います。その点では、辻記者と宮崎記者にお礼を述べたいと思います。しかし、正確を期すために、この二点を述べておきます。(12月4日)

行政評価

月刊『自治研究』(第一法規)8月号に、砂原庸介執筆「行政と評価-地方自治体の行政評価が意味するもの」が、載りました。砂原君は、東大大学院の若き社会学者です。私の東大でのゼミの「塾頭」もしてくれています。
論文は、行政評価の導入手法等を研究したのではなく、なぜ今の時期に行政評価が導入されたかを、広い視野から研究しています。そして、政治と行政に対する「信頼」確保のためであると位置付けています。『自治研究』は、公法・行政・地方自治関係では、もっとも権威ある専門誌です。地方自治体関係者など広く読んでいただきたい論文です。

神野先生の新著

神野直彦東大教授池上岳彦立教大学教授の編集による「地方交付税何が問題かー財政調整制度の歴史と国際比較」(東洋経済新報社)が発刊されました。以下、はしがきの要約です。
「競争社会」を目指す経済学思想に基づいて、地方交付税制度は破壊されようとしている。「地方交付税は弱者に甘えをもたらし、非効率であるがゆえに、弱者となった者に非効率な乱費をもたらすだけである」などと、したり顔で主張されている。
こうした「構造改革」が失敗しているのは、「何のために改革をするのか」という改革の基本原則を無視したからである。地方交付税の改革もまた、財源保障機能の廃止を言い出すに及んでは、ヴィジョンなき破壊の典型である。必要な改革は、制度の破壊ではなく、未来の設計図を準備した改革である。本書では財政調整制度を国際比較と歴史的観点から分析し、財政調整制度の改革の方向を提示する。

学会発表余話

実は、学会の講演では、かなり抑えて話しました。話のスピードも、「唾のとばし方」も、そして内容の「つっこみ方」も。いつもの調子の、半分ぐらいの「血圧」でしゃべりました。参加者の評価は、「岡本課長も、あんな話し方ができるんですね」「分かりやすかったですが、もっと話したいことがあったんじゃないですか」「いつもの全勝節じゃなかった」などなど。
抑制して話したのは、聴衆には研究者から町村職員まで様々な人がいるので、その反応を確かめながら話したこと、また、公式の場でいつものように元気よく「脱線」するわけにはいかないからです。
さらに、真ん前の席に神野直彦東大教授、金子勝慶應大学教授、中井英雄近畿大学教授、齋藤愼大阪大学教授などなどが座って聞いておられるのですよ。こんなに晴れがましい、かつ緊張する機会は、めったにないでしょう。