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地方行財政

池上先生の新著

池上岳彦立教大学教授が、「分権化と地方財政」(岩波書店)を出版されました。「シリーズ:現代経済の課題」の1冊としてです。そこでは「分権的福祉政府」を提唱し、税、交付税、地方債にわたる分析と改革案を述べておられます。三位一体改革への言及もあります。
地方財政は、今もっともホットな学問分野になっています。新聞記事だけでなく、次々と論文や書籍が出版されます。国庫補助金廃止と税源移譲は、理論的裏付けに基づきスタートしました。そして、現実に改革が進むと、新たな問題もでてきます。すると、また理論が展開します。このような学問と実行のキャッチボールで、三位一体改革が進むんだと思います。

三位一体改革13

日々の三位一体改革:続き
【足並みの乱れ】
今朝(7月7日)の日本経済新聞は、昨日の続きで「なるか地方発補助金改革:下」を載せていました。「自治体、足並み乱れる」という見出しで、「地方側は、知事と市町村長、そして市町村長同士で意見が違う」こと「都市と地方の意見も違う」ことを取り上げています。しかし、「地方案のとりまとめは、権限移譲を獲得する布石として千載一遇のチャンスのはず」と述べ、地方団体にハッパをかけています。
また、同紙の「経済教室」では、神野直彦東大教授が「東京問題は解消可能」という論文を寄稿しておられます。そこでは「三位一体改革は補助金廃止・税源移譲であるが、その目的は公共サービスの負担と供給を、国民に身近な空間で決定できる仕組みを作ること、国民が自分の生活と社会のあり方を決定できる権限を強めることである。」
「ところが、こうしたビジョンを明確にした改革は、既得権益を奪われまいとする勢力から激しい抵抗に遭う。」「改革を阻止するための常套手段は、常に分断工作である。三位一体改革の場合は、それが東京問題であり、東京とそれ以外の自治体との対立をあおり・・」です。ぜひ、本文をお読みください。(7月7日)
【全体像を示せ】
今朝(8日)の日本経済新聞の「経済教室」は、増田岩手県知事の論文でした。「分権国家の全体像を示せ」という表題です。私も、その趣旨には賛成です。しかし、霞ヶ関(国家官僚)も永田町(中央の政治家)もそれを示せないところに、問題と難しさがあるのだと思います。官僚は全体像を示すどころか、抵抗勢力になっているのですから。だからこそ、三位一体改革には、単なる税収の帰属の変更だけでなく、「この国のかたち」=政治構造改革の意味があるのです。
私の考えは、「走り走り考える」「考えながら走る」という方法です。現在の「三位一体改革」は、正にこれです。
14年:三位一体の方向を決めた。しかし、芽出ししかできず。
15年:そこで、3年という期限と4兆円という補助金削減目標額を決めた。これで、補助金削減1兆円は達成。しかし、一般財源化は少なく、また補助金選定に困難。
16年:そこで、一般財源化目標を決め、補助金は地方団体に選んでもらうこととした。
こうして、「堤防」を補強し、徐々に幅を狭めて、流れを作ってきたのです。というか、この方法しか、今の日本では進まないと思います。詳しくは、月刊「地方財務」8月号に書きました。(7月8日)
【国税と地方税の組み替え】
今朝の日本経済新聞「経済教室」は、持田信樹東大教授による「協調的分権を目指せ」でした。平等なサービスを目指す「行政的分権」や、自己責任と競争を目指す「競争的分権」ではなく、公平と効率を目指す「協調的分権」を提唱しておられます。
そして、国庫補助金の一般財源化のほか、交付税財源となっている消費税の地方消費税への組み替え、地方財政計画の見直しを主張しておられます。(7月9日)
【あれも問題、これも問題。ではどうするの】
今朝(11日)の朝日新聞には、「格差社会:下」として、「都市と地方」が取り上げられていました。読んで思ったことをいくつか書きます。
1 義務教育費国庫負担金を(廃止して税源移譲し)、人口割で配った場合の試算を載せていました。東京は800億円増え、北海道は200億円減るというものです。
→これって、何を主張したいのですかね?三位一体改革を止めろと言う主張でしょうか。
実は現在でも、義務教育負担金は、必要額の2分の1しか配られていません。残りの額は、地方税と交付税で賄っています。国の負担率を2分の1から10分の10にすれば、より格差はなくなります。「国庫負担は国の責任だ」と主張する人たちも、なぜかそれは主張しないのですが。記事は、そのような主張とも読めませんし。
2 「公共事業や地域振興に補助金と交付税をつぎ込んだが、それによって地方が甘え、配分のゆがみがひどい。地方が自立するよう三位一体改革を進めている。しかし、現実には新たな地域格差が生じている。景気回復の恩恵を受ける地域と取り残され疲弊する地域をどうするか」という主張について。
→こういう主張って、ありがたいような、そうでないような。景気回復の地域間格差を埋めることを、交付税に期待されても困るんですよね。これまでは、それを公共事業で埋めたんです。でも、それが地域の自立に逆行しているというのが、現在の共通認識でしょう。
全国で標準的行政サービスが実施できるように財政保障をすることは交付税の任務ですが、景気回復の差による地域間の「元気さの違い」を埋めることは、交付税には荷が重すぎます。シャッターの続く商店街を活性化することは、交付税には無理です。
→で、この記事はどうしろと、言いたいのでしょうか。「地域間に経済回復の差がある」という主張は、わかります。「公共事業、補助金、交付税による格差是正は地域の甘えを助長した」「義務教育負担金を人口割にしたら差が広がる」も理解できます。で、これらをつなぎあわせれば、どうしろと主張しているのでしょうか。「それは官僚が考えろ」ということでしょうか。
問題点の指摘は、マスコミの重要な使命です。でも「これも問題」「あれも問題」といっていると、結局、改革は進まないんですよね。全てを解決する「魔法のような解決案」はありません(かつては、お金で全て解決したんですが)。より問題の少ない改革案を組み合わせるしかないのです(ではな
いでしょうか、辻さん)。
私は、現在進めている三位一体改革は、この問題を次のように解こうとしていると考えています。
①国家が保障する行政サービス(安全・教育・福祉)の範囲を限定すること。この範囲の外は、地域で自由にしてもらう。地域振興などは、一定部分は財政保障しますが、それ以上は地域の自由に。もちろんその分は、地域での差が生じます。
②国家が保障する部分(財政保障)であっても、まずは地方税に税源移譲し、それで足らない分は使いやすい一般財源(地方交付税)で保障する。国庫補助金は資源配分のムダを生じるので、なるべく減らす。です。(7月11日)

三位一体改革12

日々の三位一体改革
【官房長官の釘刺し】
21日の毎日新聞は「正念場迎えた自治体」という野倉恵記者の記事、読売新聞は青山彰久記者による「地方交付税」の解説が、大きく載っていました。
先週は、地方6団体の代表が、財務大臣と官房長官とそれぞれ会談しました。また18日の閣議では、官房長官から各大臣に「地方団体の補助金見直し作業に邪魔をしないように」との発言がありました(各紙による)。(6月21日)
【自民党の公約】
25日の日本経済新聞には、自民党の全面広告が載っていました。小泉総理と安倍幹事長の大きな写真です。そこでは、7つの「日本の中長期的な課題」が取り上げられていました。経済、社会保障などと並んで、三位一体改革は6番目に掲げられています(他紙にも、順次載るんだと思います)。
一方、民主党は全紙に4段広告でした。岡田代表の写真とともに、今回は8つの約束を載せてあります。補助金改革は、引き続き2番目の項目です。(6月27日)
【知事の意見】
連日、三位一体改革関連記事が新聞をにぎわしています。28、29日の日本経済新聞は、47知事のアンケートを載せていました。
それによると、「骨太の方針2004」で3兆円の税源移譲規模を明記したことについては、おおむね前進と評価されています。一部の知事を除き、三位一体改革の実現可能性は十分ある、政府が求めている地方団体による補助金廃止案づくりは可能となっています。補助金廃止に合わせて、国による規制もなくすべきという意見が多いです。
義務教育補助金廃止には消極的な知事もおられます。今後、3兆円の廃止すべき補助金を選定する過程では、いろんな意見が出ると思います。しかし、3兆円の税源移譲につながる補助金となると、絞られてくるはずです。
その他、29日の朝日新聞では「検証マニフェスト」として、三位一体改革が取り上げられていました。(6月29日)
今日30日は、東京新聞が「目で見る参議院選挙」シリーズで、三位一体改革を取り上げていました。小泉純一郎首相が進める、構造改革の柱の一つとしてです。
また、朝日新聞は、29日に開かれた全国知事会の委員会の模様を伝えています。それは、三位一体改革を扱う委員会と、教育改革を議論する委員会です。知事5人が、義務教育費国庫負担金について議論し、結論は出なかったということです。(6月30日)
今朝(6日)の日本経済新聞は、「なるか地方発補助金改革:上」を載せていました。「霞が関に総務省包囲網」という見出しです。地方団体がつくる補助金廃止案に対し、各省が阻止に回っているとの内容です。もっとも、その包囲網の代表として文部科学省が出てくるのはわかるとして、財務省が出てくるのは不思議ですよね。
地方紙は、共同通信社が実施した、全国知事アンケートを載せていました。ポイントは、義務教育国庫負担金の廃止に11知事が反対しているということでした。
なお、日本経済新聞に先月末に載った知事アンケートの詳細は、「日経グローカル」7月5日号に載っています。ポイント(既に紹介したことですが)は次の通り。
①「骨太の方針2004」は、7割の知事が評価
②「税源移譲額明記」は、8割が評価
③補助金改革とりまとめは、8割が可能
④補助金改革は、国の関与廃止が前提
⑤補助率引き下げは反対
⑥義務教育負担金廃止は、3分の1が反対
⑦交付税改革は、財源保障機能維持、です。(7月6日)

外国の地方行政

自治体国際化協会(クレア)から、レポート257号「フランスの都市計画」の他「スウェーデンの地方自治」「イギリスでの地域リーダーシップの強化と公共サービスの高品質化」という冊子が発行されました。
このうち「イギリスでの地域リーダーシップの強化と公共サービスの高品質化」は、ブレア政権が進める地方自治制度改革の根拠となっている白書の翻訳です。
イギリスでは、総選挙の際に政党がマニフェストを国民に示します。政権を取ると、そのマニフェストを実行するために、より具体化した「白書」ホワイト・ペーパーがつくられます。そして、ものによっては法律が作られ、また実施計画の達成状況が政策評価を受けて公表されます。
地方自治制度改革もこのような手順を踏むため、「法律改正」もしばしばあるとのことです(前回の出張で聞いてきました)。イギリスの地方自治全般については、同じくクレアから「イギリスの地方自治」という立派な本が、昨年発行されています。
ヨーロッパ探検記でも書きましたが、日本も地方自治という制度は欧米をお手本にそろえましたが、運用はかなり違うようです。この本は、制度改革の進め方や目標などについて、おもしろいことが書いてあります。日本は制度を「輸入」する時代は卒業しましたが、運用や精神はまだまだ見習うことが多いと思います。

三位一体改革11

地方団体へのメッセージ
今回の「骨太の方針2004」、特に「3兆円税源移譲明記」には重要な意義があると、私は考えています。まずここには、地方団体に対し、いくつかのメッセージが込められています。
(1)地方団体に安心感を持ってもらう。
①「安定的な一般財源総額の確保」という記述=これは16年度において交付税等の削減が大きく、また突然だったことに、地方団体から反発が大きかった。それに答えるものです。
②「3兆円の税源移譲目標の明示」=16年度は1兆円の国庫補助金削減に対し、一般財源化は0.4兆円でしかなかったことに、地方団体からの不満が大きかった。それに答えるものです。
③「18年度までの改革の全体像を、秋までに明らかにする。その際には、地方団体の意見を聞く」との記述=これも地方団体からの意見を取り入れたものです。
これらは、改革を進めるためには、地方団体の理解が必要だからです。
(2)地方団体にも責任を。
「3兆円の国庫補助金改革の具体案を、地方団体に取りまとめてもらう」=これは、地方団体にも、三位一体改革に責任を持ってもらおうとするものです。
もちろん、なかなか進まない改革を進める「てこ」になる意味や、政治と官僚の関係などの論点もあります。それらは、追い追い解説しましょう。今朝(4日)の、読売新聞の解説(青山彰久記者執筆)や朝日新聞の社説が、参考になります。(6月4日、6日)
これからの困難
先週、内閣府が、全国知事会などに「8月20日までに、補助金改革案を取りまとめるよう」要請しました。また11日の閣議では、麻生大臣が各大臣に対し、地方団体が案を取りまとめる際に「邪魔をしないでほしい」旨を訴えました。大臣は、全知事・市区町村長・議長に、御手紙も出されました。(12日付け朝日新聞など。13日付読売新聞解説がわかりやすいです)。
「骨太の方針2004」に「3兆円税源移譲」が明記されましたが、実現には、まだ困難が予想されます。
進む改革
しかし、「三位一体改革」は、いくつもの困難を伴いながらも、着実に進んでいます。片山プラン(5.5兆円の税源移譲提案)が14年5月。三位一体改革の方針が閣議決定されたのが、その6月。3年間で4兆円の補助金改革を決めたのが、15年6月でした。16年度には1兆円の補助金削減と部分的税源移譲を実現しました。そして16年6月には、3兆円税源移譲目標を決定しました。
こうして見ると、とぎれることなく、確実に前進していることがわかります。近年の構造改革の中でも、もっとも進んでいるものでしょう。
現在、論点を整理して、「進む三位一体改革-評価と課題」という原稿を執筆中です。しばらくお待ちください。乞うご期待。(6月13日、14日)
大きな政治争点
17日の朝刊各紙に、民主党の全面広告が載りました。岡田代表の顔が大きく写っているものです。ごらんになった方も多かったと思います。そこに、マニフェストとして、3つの約束が掲げられていました。その2が「18兆円の補助金を廃止し、地域で住民が使い道を決められる自主財源に」でした。
地方財政改革は、ここまで大きな政策争点になりました。
今朝の日本経済新聞の社説は、「地方の結束が試される番だ」でした。地方財政は、毎日のように新聞をにぎわしています。国民にこれほどまでに関心を持ってもらえて、ありがたいことです。「数年前には考えられなかったことですね」とは、ある旧知の新聞記者の談です。
今晩も、政策研究大学院で講義をしてきましたが、新聞切り抜きだけでも、議論ができます。
もっとも、私は地方分権も重要ですが、日本にはそれに劣らず重要な政策課題があると考えています。例えば教育についていえば、教員の給与の財源をどうするかより、教育の内容・いじめ・不登校・学力低下・学級崩壊・非行を議論すべきでしょう。しかも三位一体改革は、教員の給与を下げるといったような議論をしているのではないのです。文部省が早く、「補助金官庁」から「政策官庁」に転換することを望みます。(6月18日)