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地方行財政-地方行政

NPOとの協働、地方の観光振興

4月9日の日経新聞「データで読む地域再生」は「観光資源、NPOと磨く 企業参入少ない自治体で」でした。

・・・地方の観光振興の支え手としてNPO法人の存在が重要になっている。人口あたりの観光NPOの数で全国最多の鹿児島県は旅行消費額の伸び率が全国平均の3倍だ。民間企業が採算面で参入しづらい地域で、独自の観光資源を磨きあげようとするNPOの知恵と熱意は、新型コロナウイルス禍で注目を集める「マイクロツーリズム(近場の旅行)」時代に生きてくる・・・

過疎地域で、自治体が非営利団体と連携しています。民間企業がない、あるいは参入してくれない地域では、非営利団体は力強い味方です。
私もかつてはそう思っていたのですが、非営利団体・NPOと聞くと、ボランティア活動から連想して無償で活動する団体と思ってしまいます。それは間違いで、「もうけを会員で配らない」という意味です。すなわち、企業と同じように料金を取り、もうけを出してよいのです。違いは、そのもうけを会員に配らず、次の事業に充てることです。こうしてみると、非営利団体と企業とは、活動においてほとんど同じです。

1995年に起きた阪神・淡路大震災が、ボランティア元年と呼ばれました。2011年に起きた東日本大震災では、個人ボランティアだけでなく、法人格を持った非営利団体が大活躍しました。政府もそれらと積極的に連携して、被災者支援や町の復興に取り組んでもらいました。彼らには熱意や技術があるのですが、資金と信用力がありません。そこを、政府が補ったのです。
かつては「市民団体」は行政の敵とは言わないまでも、別世界の人でした。多くの人がそう考えていたのではないでしょうか。
東日本大震災での行政と非営利団体との協働は、その後の手本になったと考えています。この記事にある観光だけでなく、すでに孤立防止、引きこもり対策、子供の貧困対策などで、非営利団体の力を借りています。

小西砂千夫著『地方財政学』

小西砂千夫先生が『地方財政学: 機能・制度・歴史』(2022年、有斐閣)を出版されました。500ページ近い大著です。これまでも先生はたくさんの地方財政の本を出版されていますが、それら研究成果の集大成でしょうか。

歳入と歳出の概要、国と地方の財政関係、財政調整制度の仕組みなど、日本の地方財政制度と実態を説明するだけでなく、次のような項目もあります。
 序章「統治」の学としての地方財政学
 第1部 地方財政をめぐる枠組み
  第1章 地方財政制度の起点
  第2章 地方財政をめぐる法的な枠組み
すなわち、制度の沿革にさかのぼり、なぜこのような制度ができているのか、政策制度の意図まで書かれています。学者による分析だけでなく、制度を設計した政府の側に立っての説明もあるのです。
これだけのことを書ける人は、なかなかいません。この本が定番になるでしょう。

冒頭のはしがきに、先生が、地方財政の制度運営(自治省)と研究(学界)との狭間を埋めることを任務とされた、いきさつが書かれています。私との対談(2004年)だそうです。光栄なことです。対談「地方交付税制度50年:三位一体改革とその先の分権へ」(月刊『地方財務』2005年1月号。対談の写真
先生は、総務省地方財政審議会会長に就任されました。

アメリカ、連邦から州への交付金の使い方

3月1日の日経新聞、エコノミスト誌の転載「米1.9兆ドル対策、州支出は放漫」が興味深かったです。国から地方への交付金が、どのように使われるかについてです。米国救済計画法(ARPA)です。

・・・2021年3月に成立したARPAに基づく経済対策は総額1.9兆ドル(米国の国内総生産=GDP=の9%に相当)規模に上る。前提には、州政府と連邦政府が深刻な財務難に陥っているとの判断もあった。だが実際には、同法の発効前から税収は急速に回復していた。来年度予算案の作成に取りかかっている知事や州議会議員らは、良くも悪くも独創的な方法で支給された資金を使おうとしている。
資金の一部は賢明な投資に振り向けられ、何年も恩恵が見込める。一方で、その多くは長期的にコストが発生する大規模な新インフラ建設計画や社会プログラムに投じられている。潤沢な資金を貪る知事たちは民主党・共和党を問わず、政治的な上昇機運を享受している。だが、資金はいずれ底を突く。高水準の州財政は長続きしない。

州の一般財源(その大部分が税収)はパンデミック当初こそ急減したが、現在はあふれ返っている。過去最大の財政黒字を計上する州も多い。ARPAで配分される連邦政府の資金は州・地方政府への直接支援に3500億ドル、医療インフラ、学校、交通機関への支援が3000億ドル超に及び、州政府に前例のない規模の財源を与えた。
ARPAの資金は、26年までに消化しなければ全額を失う。予算分析のアナリストの間では、その時点で歳入がパンデミック前の趨勢に回復しているとの見方が多い。ARPAは資金使途に一定のルールを定めているが、州政府は自身が適切と判断した用途に巧みに資金を配分している。

賢明な投資から見てみよう。ほとんどの州は万一の場合に備え、資金を予備費に回している。各州の予備費が歳出に占める比率の中央値は、過去30年間で最高に達した。新型コロナ禍で底を突いた失業保険基金は補充された。ただし、州政府は今後、失業保険基金に充当された連邦資金の中から800億ドル以上を支出することになっている。
これらの賢明な支出は、州政府が次の困難を乗り切る力となる。また、長期的なリターンが期待できる単発投資に資金を投じる州も多い。ほとんどの州は修理・修繕、環境汚染対策、旧式コンピューターの更新など積み残されていた投資(総額8730億ドル)を実行するためにARPAの資金を使っている。ARPAの大盤振る舞いは、パンデミックという激変期のさなかに公的医療制度や教育の強化にも役立っている・・・
・・・一方で、多くの州政府が乗り出しているインフラ投資計画は玉石混交だ。ARPAの管理に関する財務省の規定では、各州が投資できるインフラは高速インターネット、下水道、水道の3種類に限られている。各州は勢いこんで高速インターネットに資金を配分し、推定76億ドルがすでに投じられている。
だが、ワシントンに本拠を置くブルッキングス研究所のアディー・トメア氏は、こうした予算の使い道で経験のある州はほとんどないと警鐘を鳴らしている。22年は1.2兆ドル規模の「インフラ投資法」に基づく資金配分が始まるため、インフラ投資はさらに底上げされることになり、大部分が高速インターネット網への投資に向かう。
しかし実際には、州議会議員の多くは、たとえいくら悪い政策でも、「歳入補塡」の資金を使えるようになったことで肝煎りの案件を優先的に支援できるようになった・・・

住みよい町を続ける

2月19日の日経新聞に、「住まいのまちなみコンクール」という全面広告が出ていました。受賞したのは、福島県いわき市の葉山自治会です。「住まいの街並み」と聞くと、きれいな街並みの風景を想像しますが、地区や事業者ではなく、自治会が表彰されています。

住まいのまちなみコンクール」のホームページによると、「このコンクールは、地域の特性を活かし、魅力的な住まいのまちなみを育む維持管理、運営などの活動に実績を上げている住民組織をまちづくりのモデルとして表彰し、支援します」とあります。
かつては、新しい住宅地を創り出す事業者(住宅地の生みの親)を表彰するものだったそうですが、住み継ぐことができるまちなみをいかに維持管理、運営していくかを主眼とした、育ての親である住民組織を対象にするようになったそうです。

モノを作ればよい時代から、運営を続けていく時代になりました。住みやすさを維持するには、継続的な努力が必要です。それも、建設業者に作ってもらってお金で買うことができず、住民が自分たちで続ける必要があるのです。
これも、モノからコト(関係)への変化の一つでしょう。さらにその関係は、継続することが必要です。モノなら作れば完成、買えばすむですが。

母子手帳の効果

日経新聞の医療健康面、毎週火曜日に、板東あけみ・国際母子手帳委員会事務局長が、母子手帳について連載しておられます。2月1日の第1回は「日本生まれの母子手帳」でした。
母子手帳が日本で発明され、海外にも広がっていることは有名です。ここでは、学生たちが自分の母子手帳を読み返す効果が書かれています。

大学の授業の際に、自分自身の母子手帳を持参してもらうのだそうです。自分の母子手帳をじっくり見るのは、多くの学生にとって初めてです。
学生の一番目を引く場所は、余白に書かれている記述だそうです。初めて寝返りができた、離乳食が進まないなど、何気ない喜びや悩みが書かれていて、自分が大事に育てられてきたことを実感します。
それが、自己肯定感につながっているようです。