カテゴリー別アーカイブ: 地方行政

地方行財政-地方行政

住民組織が土地利用も議論

3月16日の日経新聞、斉藤徹弥・編集委員の「滝桜の三春、持続する自治 住民組織が土地利用も議論」から。

・・・人口減少で使われなくなった土地をどう管理していくのか。国が今夏に策定する国土計画は、地域の土地利用を住民が話し合って決める「国土の管理構想」という考え方を取り入れる。それを40年ほど前から実践している町があると聞き、福島県三春町を訪ねた・・・
・・・街づくりの中核は独自の住民自治組織「まちづくり協会」が担う。若い商業者らに街づくりの機運が高まっていた1982年、当時の伊藤寛町長が合併前の町村単位の7地区に設けた。
住民は同町出身の建築家、大高正人氏ら専門家を交えて三春らしい街づくりを考えた。「住民にとって何が必要か考え、住民との共同思考を重視する。そこで培われた住民自治の力が事業の成否を決める」。伊藤氏は退任後、日本建築学会でこう振り返っている。
住民自治は様々な分野で事業を前進させた。建築では三春住宅研究会や学校建築研究会といった公民連携に発展し、町に優れた建築を生んだ。
土地利用では農地や宅地などのゾーニングを協会が担った。住民は説明会やワークショップで土地の歴史や人口動向も踏まえた議論を重ね、土地利用計画をまとめた。会合は7地区で延べ205回に上ったという・・・

・・・国は国土の管理構想を市町村主体に進める方針で、三春の取り組みは一つの理想だ。そこでは首長の熱意や住民自治組織の力量が問われる。ただ住民自治組織は60〜70代が中心で、企業の定年延長もあり、人材確保は三春でも課題だ。
郡山市に隣接する岩江地区は子育て世代の流入が多い。新しい住民と関係を築くため、伊丹さんは通学や給食で子どもを見守る活動に力を入れ、健康づくりのサロン活動も始めた。地域に育てられた記憶が子どもに残れば、将来戻ってくるきっかけにもなる。
伊藤元町長は「住民がこだわりを持って造ったものには愛着が湧き、町を愛する心が生まれる」とも語っていた。住民自治の街づくりは人づくりでもある。時間と手間を要するが、地道に取り組み続けること自体が地域の持続につながる・・・

「平成の地方制度改正をひもとく」2

山﨑重孝・元自治行政局長を中心とした座談会「平成の地方制度改正をひもとく」(月刊『地方自治』)、2023年2月号は職務執行命令訴訟の改正についてです。(1月号

2000年に行われた分権改革以前は、機関委任事務という分類がありました。地方公共団体が処理するのですが、首長(知事、市町村長)が法令に基いて国から委任され、「国の機関」として処理する事務です。
機関委任事務について国は包括的な指揮監督権を有し、知事が機関委任事務の管理執行について違法や怠慢があった場合に職務執行命令訴訟を経て主務大臣による代執行を行うことができるうえ、総理大臣による知事の罷免が可能でした。公選による知事の身分を奪うことはおかしいので、知事罷免制度は1991年の地方自治法改正により廃止されました。

なぜ機関委任事務や職務執行命令訴訟という仕組みがあったのか、そしてなぜ廃止されたのか。この座談会を読むと、よく分かります。

「平成の地方制度改正をひもとく」

月刊『地方自治』2023年1月号から、山﨑重孝・元自治行政局長を中心とした座談会「平成の地方制度改正をひもとく」が始まっています。
戦後改革で地方自治が制度化されました。その後、安定した時代に入り、地方自治法は大きな改変がありませんでした。それが、平成に入って、さまざまな改正が試みられ、その延長線に分権改革が行われました。

私は若い頃、自治省財政局で交付税法の改正を毎年やっていたので、行政局が法律改正をしないことを「批判」していました。一方で、地方自治法の逐条解説はどんどん立派になるので、「法改正でなく、逐条解説ですませているのではないか」とです。
もっとも交付税法改正も、制度を大きく変えるのではなく、数字の更新と小さな改正でした。自治法にしろ交付税法にしろ、よくできていた法律なので、基本的な改正は不要だったともいえます。

どのようにして、動かない法制度を変えていったか。関係者の思いと苦労が書かれています。これは、勉強になります。

砂原庸介・神戸大教授「領域を超えない民主主義の未来」

東京大学出版会の宣伝誌『UP』2月号に、砂原庸介・神戸大教授が「領域を超えない民主主義の未来」を書いておられます。

昨秋に出版された『領域を超えない民主主義』を踏まえて、地方自治における民主主義の課題を簡潔に述べたものです。『領域を超えない民主主義』では、都市圏と一致しない自治体の区域が、地域課題を適切に解決できない問題を取り上げていました。そしてその終章で、多くの問題の基底に自治体における政党の不在があることを指摘していました。

この本に限らず、砂原教授の基本的視角は地方行政における政党の不在です。『UP』の小論では、その点が明快に説明されています。一読をお勧めします。

感染症対策と地方行政

月刊『地方自治』2023年1月号に、田中聖也・行政課長が「新型コロナウイルス感染症対策に何を見るか」を書いています。

この3年間の新型コロナウイルス感染症対策に関して、次のような論点が論じられています。
・明治以来の感染症対策と地方団体の役割
・感染症対策の二つの法律の特徴
・危機管理法制(災害対策基本法、原子力災害対策特別措置法、武力攻撃事態における国民保護法)としての感染症対策
・関係機関の連携の重要性
・国と自治体間の情報共有と意思疎通のあり方
・これまでにない事態で法律上明確でない場合の国や自治体の役割と責任
・国からの「要請」で処理することの問題
・大都市圏での自治体の区域を越えた事務の調整

紹介が遅くなって申し訳ありません。国と自治体との関係を考える際に、重要な論文となるでしょう。私が東日本大震災で対応したのはこれまでにない災害でしたが、原発事故以外は、災害は終わっていました。それに対し、新型コロナウイルスは危機が進行形でした。ここに、大きな違いがあります。

このような法制面での検証とともに、自治体現場での優良事例や問題事例などの収集・検証も期待します。例えば2月1日の読売新聞が、「山梨県の新型コロナ対応 検証報告書 読売調査研究機構」を伝えています。
・・・山梨県の新型コロナウイルス対応について読売調査研究機構が検証した報告書は、未曽有のパンデミック対策に試行錯誤し、苦闘する自治体や医療関係者の姿を浮き彫りにした。変異を繰り返すウイルスに、どう機動的に対応するか。感染拡大を防ぎながら、いかに地域経済を守るか——。いずれも全国の自治体に共通する課題である。山梨県に関する報告書の検証結果や提言は、他の都道府県にとっても参考となるはずだ・・・