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地方行財政-地方行政

地方議会の課題

2月1日の朝日新聞オピニオン欄は、前長野県飯綱町議会議長・寺島渉さんの「地方議会は変えられる」でした。
・・・なり手不足を解消しようと、夜間議会、日曜議会、若手への報酬の増額などを始めている議会がありますね。形式的な改革ばかりをしても根本的な解決にはなりません。なり手がいないし、議員も多すぎるといわれるし、安易に定数削減をすると、二元代表制を弱める危険性すらあります。
今の地方議会には魅力がない。身近に議員がいなくて、話す機会もない、何をやっているのかわからない。そんな不信感から住民が議会から遠ざかっている。そこを改善しなければなりません。
地域の課題が変化しているのに、議員が変わっていない。昔は生活の基礎、農道や用水路のハード整備など鮮明な行政への要求がありました。現在は地域のインフラ整備も一段落し、子どもをどのように地域で育てるのか、高齢者の福祉をどうするのか、集落ではなく町全体で共通の課題を考えなければいけなくなった。そのために、議員は政策立案していくことが求められますが、その姿勢がない。首長の追認機関のままでいいという議員もいる。それが住民との間にギャップを生んでいます・・・

・・・議員を出す地域の機能が低下しているんです。集落は行政、農業、生活、住民自治の基礎ですが、若者が流出し、高齢化で基礎がぐらついている。昔は農協青年部の米価闘争など政治活動を学ぶ場所が身近にあった。
今はいかに個人がインターネットなどを使って稼ぐか。横の連携が弱くなって、集落の中で人々が個々に分断されています。集落が男性中心の運営で昔から変化しないことも問題です・・・

北村亘先生の新著『地方自治論』

北村亘・大阪大学教授が、『地方自治論 2つの自律性の狭間で』(2017年、有斐閣)を出版されました。お三方の共著です。
大学での地方自治論の入門的教科書です。「これまでに出版されてきた研究書や論文の成果をできるだけ取り入れて、わかりやすく書いたつもりです」と書かれています。
また、「地方自治の研究者の関心を意識すると、学生の視点から乖離する。そのバランスをどう取るかについて苦労した」との趣旨のことが書かれています。

そこなのですよね、大学の授業や教科書を書く際の苦労は。相手が地方自治を専門に学ぶ人や自治体職員なら難しくてもよい、いえどんどん詳しくしてもかまいません。
しかし、学部生は、彼らの関心の一つとして地方自治論の授業を取っています。また、地方公務員になる人も多くはありません。
すると、話を何に絞るか、最低限何を理解してもらうかを考えなければなりません。そして、興味を持ってもらうことも、必要です。
本書では、制度論だけでなく、地方政治や地方行政の運用や実態について、多くの記述がされています。学生には、取っつきやすいでしょう。

本書では、2つの自律性に着目しています。一つは、地域社会に対する地方政府の自律性です。住民自治の世界です。もう一つは、中央政府に対する地方政府の自律性です。団体自治の世界です。
また具体政策分野として、教育、子育て、高齢者福祉を取り上げています。わかりやすい、読みやすい教科書です。

犬丸淳著『自治体破綻の財政学』

犬丸淳・島根県環境生活部長が、『自治体破綻の財政学 米国デトロイトの経験と日本への教訓』(2017年、日本経済評論社)を出版されました。
犬丸君は、1997年採用の自治省(総務省)官僚です。ニューヨーク勤務の際に、デトロイト市の財政破綻を研究し、論文を発表してきました。本書は、その成果をまとめたものです。450ページに上る大部な本です。

人口70万人、かつては自動車産業で栄えた大都市が、2013年に180億ドル、約2兆円の負債を抱え財政破綻しました。市はその後、連邦破産法の適用を受け、財政再建の道を進んでいます。
企業ならば、清算して会社を解散することができますが、自治体はそうはいきません。住民を抱え行政サービスを提供しなければならない自治体が財政破綻した場合に、どのようにするか。アメリカでは、その後も自治体の財政破綻が起きています。
日本でも、夕張市が同様な状態に陥り、再建が進められています。
本書では、夕張市との比較もされています。ご関心ある方は、一読ください。

小西砂千夫著『日本地方財政史』

小西砂千夫先生が、『日本地方財政史』(2017年、有斐閣)を出版されました。副題に「制度の背景と文脈をとらえる」とあります。
目次を見ていただくと、財政調整制度、国庫支出金、地方債などの主要項目の他、災害財政、財務会計なども含まれています。
そして、それらの各論をはさんで、「序章 統治の論理として」「第1章 制度の歴史的展開」「第12章 内務省解体」「終章 制度運営のパワー・ゲーム」という興味深い章があります。

「あとがき」p407に、次のような記述があります。
・・・編集者のお勧めに従って、書名を『日本地方財政史』としたが、本書は、いわゆる歴史の研究書ではない。歴史研究のアプローチならば、多面的にその時々の出来事を捉え、事実を再構成しなければならない。本書の内容は、そういった歴史的検証を加えたものではなく、「自治官僚による地方財政制度における内在的論理」、言い換えれば、地方財政における統治の論理を書き起こしたものである・・・

これは、なかなか書けるものではありません。これまで深く地方財政制度を研究してこられた先生でなければ、書けない本です。
各論の変遷をおさえつつ、なぜその時期にそのような制度ができたか。そして、先生も述べておられるように、理想だけでは実現せず、現実(実務、政治的力関係など)との妥協によってできたことなどを、考察する必要があります。その大きな流れを、「統治の理論」という言葉で象徴しておられます。
各論だけでなく、それらを通した視点・総論が重要なのです。今後、地方財政制度を議論する際には、必須の文献でしょう。

本来なら、地方財政制度を設計してきた関係者(自治官僚)が、書くべき本かもしれません。私も『地方交付税―仕組みと機能』や『地方財政改革論議』「近年の地方交付税の変化」(月刊『地方財政』2004年1月号)を書いていた頃は、それを意識していたのですが。小西先生と対談もしていました。その後、地方財政を離れ、官房や内閣の仕事に移ったので、できなくなりました。
小西先生、ありがとうございます。