カテゴリーアーカイブ:人生の達人

知能指数は能力の高さを表さない

2025年10月6日   岡本全勝

東京大学出版会の宣伝誌『UP』6月号から、高岡佑壮・東京認知行動療法センター臨床心理士の「知能検査を受ける前に」が連載されています。主旨は、「知能検査で「能力」は調べられない」です。

小学校で受けた知能検査。知能指数が高いと、頭が良いと喜びました。でも、あまり勉強ができないA君の数値が高く、なぜだろうと思いました。その後、見聞きすることがなくなりました。
この論考は、知能検査の内容と限界を、わかりやすく説明しています。職場での「能力」を考えるにも、参考になります。偏差値が高い大学を出ているのに、仕事ができない職員がいるとか。詳しくは原文を読んでいただくとして、私なりの理解を書いておきます。

・知能検査では、人の能力は正確には調べられない。仕事や勉強などの「生活の中でのいろいろな課題」をこなす能力の高さは、知能検査では調べられない。
・検査で出される問題はクイズと同じで、やるべきことは一つひとつはっきりと指示されている。しかし仕事や勉強のような生活の中での課題は、やるべきことを細かく指示してもらえることはない。段取りなどは、自分で考えなければならない。
・会議で発言する場合も、知識だけでなく、周りの人との関係を考えなければならない。能力は、経験や健康状態、人間関係などさまざまな要素によって成り立っている。
・能力は、本人の中にあるものだけでなく、環境との関係で結果的にできる(家庭や学校、社会など、恵まれた環境とそうでない環境がある)。

・知能指数は4つの指標から構成されている。言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度。
・例えば、言語理解の場合。検査では「これについて話してください」と指示されるが、実生活ではそうではない。例えば中学生が「周りの生徒たちと意見を出し合って何かを決める」場合、誰かがいちいち「次は○○くんが△△について話してください」という指示を出さない。雑然とした雰囲気の中で話し合いが進む。そこでは「他の人が話しているときは、それをさえぎらない」「自分が話すときは、周りの人が聞いているか見る」「緊張しすぎないように、感情を安定させておく」などなどが必要です。しかし知能検査は、これらの要素を調べていません。
・知覚推理の場合は、検査では「何を見て答えを推測するか」が、一つひとつはっきりと指示されている。しかし生活の中では、「何を見るべきか」を教えてくれない。「会社の中にある散らかった部屋に初めて入って片付けをする」という仕事は、知識に頼れず推測しなければならない。どの順番でやるか、書類や荷物をどのように分類するか、箱に入れるのかロッカーに入れるのか、捨てるか保存するかは誰に相談するか、誰に相談すればよいのかなどを、考えなければならない(この説明は、職場によく当てはまります。納得します。いくら学力が高くても、新人では処理できません。経験が必要なのです。『明るい公務員講座』では、一人で悩まず、周囲に相談せよと助言しました)。

スマホをテーブルに置くと親近感が低下する

2025年10月6日   岡本全勝

「PRESIDENT Online」10月3日の「スマホをテーブル上に置くと親近感が低下する…心理学研究が明かした「相手に好かれる人」のさりげない仕草」から。

(恋人を不安にさせてしまう意外な原因)
ペンシルバニア州立大学のマクダニエルとブリガムヤング大学のコインは、テクノロジー機器(コンピューター、携帯電話、スマホ、テレビなど)による日常的な介入を「Technoference(テクノフェレンス)」と呼び、スマホが実生活に及ぼす影響を研究しました。
そのなかで、恋愛関係におけるテクノロジー機器の使用頻度と、機器使用にともなう日常的な中断が、人間関係の幸福度にどのように関係しているかを調査しています。この調査は女性を中心に行われ、既婚・同棲をしている143名にオンラインアンケートで回答してもらうというものでした。

その結果、大多数がカップルの会話や食事の時間などで、テクノロジー機器がパートナーとのやりとりを頻繁に妨げていると回答したといいます。
さらに、人間関係においてテクノロジーへの介入が多いと答えた参加者ほど、人間関係や生活の満足度が低く、精神的に落ち着かないことが多いことも明らかになりました。たしかに、デートの最中にスマホをいじっていたら、「私といてつまらないの?」と思われても仕方のないことでしょう。

(テーブル上にスマホがあるだけで親近感が低下)
また、バージニア工科大学のミスラらが行った、ワシントンのカフェで100組のカップルを観察したという研究では、「テーブルに1台のスマホが置かれている」、あるいは「どちらかがスマホをもっている」という状況にいたカップルは、双方ともに親近感や共感が低下することもわかったそうです。

テーブルに置かれているだけでも不快に思うパートナーがいるわけですから、デートの最中はバッグやポケットにしまうなど目に見えない場所に置いたほうがベター。関係性が親密であればあるほど、スマホが共感に与えるダメージは大きくなり、大切にされている感覚が低下したそうです。
スマホの存在は人間関係に干渉する可能性があるため、デートだけではなくビジネスの現場でも用がないならしまっておいたほうが無難です。スマホはもう鳴る・鳴らないの範疇を超え、そこにあるかないかで印象を変えてしまうアイテムなのです。

フリーアドレス制の欠点

2025年10月2日   岡本全勝

9月9日の日経新聞夕刊に「フリーアドレス生かすには」が載っていました。ウェッブでは「「失敗フリーアドレス」防ぐには」です。フリーアドレスとは、社員の座席が決まっていない職場。これも和製英語だそうです。

・・・オフィスの中で固定の席を持たず、どこでも仕事ができるフリーアドレス制度。導入する企業が増える中、メリットを生かせずに見直すケースも出てきた。単に取り入れるだけでなく社員同士の交流を促すためにはどうすればよいのか。企業の失敗や専門家の助言から、コツを探った。

「フリーアドレスの企業で働いてみると、不便な点が多い」。4月に新卒で都内の建設会社に入社した男性(26)は嘆く。入社したてで相談したいことも多いが、上司を探すのにも一苦労するという。
オフィス家具大手のイトーキの調査によると、首都圏を中心に2021〜23年度に竣工したオフィス111社のうち、フリーアドレスの採用率は8割だった(固定席との併用を含む)。近年、民間企業だけでなく全国の自治体でも導入が進んでいる。ただ、「失敗」を認める企業もある。

「導入の機運が高まる中での『なんちゃって導入』だった」。オフィスの設計や家具販売を手がけるイデックスビジネスサービス(福岡市)が固定席を原則廃止しフリーアドレスに変えたのは2015年ごろだった。
社内のコミュニケーションを活発にする狙いがあった。しかし、実際は「決まった人が決まった席を使う、固定席化が目立った。パソコンの充電器を置きっぱなしにして帰る人もいた」(オフィス環境事業部副部長、村上慶一さん)。フリーアドレス席の約6割が固定席化していたという・・・

私が聞いたある職場では、朝出勤した社員たちが課長席から遠い席を選んで座り、遅れて出社した社員は課長席の前に座るという「罰ゲーム」になったそうです(笑い)。

買い物で磨かれる自分らしいセンス

2025年9月28日   岡本全勝

日経新聞折り込み広告誌「THE NIKKEI MAGAZINE」9月21日号、松浦弥太郎さんの連載「日々是見聞録」は「買い物で磨かれる自分らしいセンス」でした。

・・・買い物は、ただ欲しい物を手に入れるための行為ではない。むしろ、自分の心と向き合う、小さな修行のようなものだと思っている。
品物を前にするとき、必ず「どちらにしようか」「どうしようか」と迷う。色や形、値段や使い心地。どれを選ぶか、その一つひとつの判断に、自分の価値観すなわちセンスが問われる。
とすると、買い物とは、実は自分の「好み」や「美意識」を一つひとつ確かめる作業ではなかろうか。
とくに洋服やアクセサリーを選ぶとき、それははっきりと表れる・・・

・・・小さな決断の積み重ねは、着こなしという経験を得て、やがて自分自身の雰囲気や佇まいをつくっていく。
もちろん、悩んで買った服がほとんど出番を得ずにクローゼットの奥で眠ってしまうこともある。しかし、その後悔もまた大切な学びになる・・・成功と失敗を繰り返すうちに、少しずつ目が磨かれ、ものを選ぶ力が養われていく。

だからこそ、もし買い物をまったくしなくなったなら、その瞬間から、美意識の成長は止まってしまうのかもしれない。新しい色や形に触れることも、自分を試す機会もなくなり、感性の扉は少しずつ閉じていくだろう。そう、買い物は浪費ではなく、自分の中のセンスという感覚を耕す行為なのだ。

センスのよい人とは、生まれつき特別な感覚を持っている人ではなく、選んで買うという、ある種の修行を繰り返し、自分の目と心を磨き続けている人だと思う。
今日、何を買うか。その小さな選択の積み重ねが、やがて「自分らしさ」というかけがえのないセンスを育て、人生を少しずつ美しくしていくのだ。
そして買い物とは自分を知るための学びという名の営みである・・・

不測の事態の訓練

2025年9月26日   岡本全勝

日経新聞「私の履歴書」、9月は宇宙飛行士の向井千秋さんです。11日の「搭乗決定」に、次のような話が書かれています。
選ばれた有能な宇宙飛行士でも、このように訓練します。「火事場の馬鹿力」という表現もありますが、通常の人は異常事態が起きた場合に、想定したこと、訓練したことしか実行できません。いえ、訓練したこともできないのです。東京電力福島第一原発事故も、そうでした。

・・・訓練は大変でしょうとよく聞かれるが、このミッションではこういう実験をやると決まっていて、訓練の手順も決まっている。何回か訓練するとできることをやっていて、一歩一歩やっていって気がつくと打ちあげ当日になっている。NASAではそうした仕組みがしっかりできていて「すごい」と感心した。

大変なのは計画通りに行かないときだ。予定が狂ったときにどう対応するかが訓練のキモで、考えられる限りの異常事態を想定して対応する訓練を繰り返した。訓練の途中で不測の事態が発生したことを知らせる「グリーンカード」が差し入れられると、時間内に対策をとらねばならない。

例えばショウジョウバエ10匹を使う実験の訓練で「容器を開けると3匹しかはいっていない」といったカードが差し入れられる。真剣にやっているので実際の事故か訓練かの区別がつかなくなるほどで、訓練が終わるとぐったりしてしまった。打ちあげ前の2年間はこうした訓練をぶっ続けでやった・・・