カテゴリーアーカイブ:人生の達人

同時に2つのことはできない

2017年11月10日   岡本全勝

エドワード・M・ハロウェル著『ハーバード集中力革命』(邦訳2016年、サンマーク出版)の扉に、次のようなアインシュタインの言葉が、引用されています。

「美人にキスをしながら安全運転できる人がいるって?
きっと、彼はキスに集中できていないだろうね」
Any man who can drive safely while kissing a pretty girl is simply not giving the kiss the attention it deserves.

同時に二つのことをする人がいます。音楽を聴きながら勉強するとか。私は、できません。それどころか、気が散る場所では、難しい本も読めません。
人間の脳は、コンピュータのように、並列処理とか、瞬時に切り替えることはできないようです。「ながら族」は、たぶん同時には2つのことをできていない、いえひょっとしたら、2つともできていない可能性があります。

小坂井敏晶さん、フランス大学事情など

2017年11月7日   岡本全勝

小坂井敏晶著『答えのない世界を生きる』(2017年、祥伝社)が、興味深かったです。
著者は、パリ在住の社会心理学者です。ホッケーをするために早稲田大学に入りますが、日本代表選手になれません。アルジェリアで日仏技術通訳などをして、フランスへ。カーン大学、社会科学高等研究院で学んだ後、リール第三大学准教授を経て、パリ第8大学心理学部准教授になります。
このように、「通常の」研究者の道を歩まず、フランスの大学で教員になります。この半生が興味深いです。やっている研究も、社会心理学の主流ではないと、本人が言っておられます。

この本は、著者の半生記と、彼が「自分の頭で考えた」学問についてが載っています。面白いです。
かつて、『責任という虚構』(2008年、東大出版会)を本屋で見つけて買ったのですが、読まずに本棚にあります。『社会心理学講義:〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉』(2013年、筑摩選書) も面白そうだなと思いつつ、読まないだろうと買いませんでした。
しかし、『答えのない世界を生きる』を読んだので、買って読み始めました。多分、この本を読まなかったら、『社会心理学講義』は途中で投げ出したでしょう。

秘書官たちの権力争い

2017年11月6日   岡本全勝

10月31日日経新聞オピニオン欄、アド・マチダ氏(トランプ大統領の元政権移行チーム政策立案責任者)の発言に、興味深いことが含まれていました。ホワイトハウスの中枢幹部の混乱についてです。

「プリーバス氏が首席補佐官だった時は(イバンカ、クシュナー両氏を)警戒していた。そんな状態では困る。だから国土安全保障長官だったケリー氏を後任の首席補佐官に起用し、まず大統領執務室へいつでも予約なしに入れる『ウォーク・イン・ライツ(大統領との自由な面会権限)』を持つ人をなくした」
「普通は6、7人だがプリーバス氏の時は35人もいた。これではトランプ氏が仕事をできない。執務室へのウォーク・イン・ライツを持つ人をゼロにすることについて、イバンカ氏もクシュナー氏も了解してくれた。彼らも政策について大統領と話す時には事前の予約が必要になった」

アメリカ大統領だけでなく、総理大臣にしろ会社の社長にしろ、権力者を支えるスタッフをどのように管理するかは、とても重要かつ難しい課題です。
補佐官や秘書官、大臣や部局長、副社長や部長の間で、権力者に仕える競争(権力者を取り込む競争)が始まります。
権力者が、部下たちの状況を把握しておれば、部下たちの間に優先順位をつけます。ところが、個室に入った権力者には、すべての情報が過不足なく入ることはありません。個室からは外が見えず、入ってくる人と情報が限られるのです。部下からすると、権力者に近づくことができる権限が、重要になってきます。

本来、抱えている課題の重要度合と、権力者が取り組みたい順で、優先すべき課題が決まります。そして、それを担当している部下が執務室に呼び込まれる順番が決まるべきです。しかしそれは、自動的にあるいは計算すれば出てくるものではありません。
外交と内政、経済と福祉、誰と面会するかや、あすの晩飯はどこで何を食べるかまで、どれを優先し限られた持ち時間をどれに割くか。数学で解ける問題ではありません。

秘書官たちあるいは補佐官や取り巻きを含めて、直接権力者に会うことができる部下たちの間で、どのように序列ができるか。もちろん、権力者が指名して部下の序列を作るのですが、必ずしもそうなりません。
時間が経つと、補佐官たちに序列ができます。一つは、一番回数多くかつ長く権力者と会っている者が、第一人者になります。
もう一つは、権力者の執務室の扉のノブを握っている秘書官が、第一人者になります。それは、誰を執務室に入れるか入れないか(権力者に会わせる会わせないか)の決定権を握るからです。会社においても、副社長より秘書室長が権力を持つことがあるのです。

あわせて、権力者の日程を調整する者が、実権を握ります。仕事の優先順位は、あすの日程をどうするかに現れます。たくさんある課題の内、どれの説明を優先するか。たくさんある面会希望の内、誰を優先するのか。誰を会わせないのか。
ところが、権力者はとても忙しくて、あすの日程を自分で判断する時間はありません。仕事を効率的に処理する=あすの日程を作るには、権力者が信頼する筆頭秘書官が必要です。そして、彼が権力を持つことになります。

補佐官たちの権力争いとしてみると、このように分析できます。他方、権力者と筆頭秘書官からすると、これを認識した上で、補佐官たちを管理することや、日程を調整する必要があります。

企業の不祥事、第三者委員会

2017年10月30日   岡本全勝

日経新聞10月25日のオピニオン欄、中山淳史記者の「不正の芽摘む「失敗の科学」」でした。
かつては大事故があった飛行機ですが、世界の民間旅客機による死亡事故発生率は、830万フライトに1回まで低下しています。失敗に学んだ結果です。「失敗をさせない」ではなく、「失敗を事故に結びつけない」との発想だそうです。この記事ではそれに引き続き、企業の不祥事について書いています。

・・・東京都内にある公認会計士事務所が運営するウェブサイト「第三者委員会ドットコム」によると、存続が危ぶまれるような不祥事が起きた日本企業が有識者を入れて設置する「第三者委員会」や「特別調査委員会」の数は2015年以降、年間50件前後に増えている。それまでの2倍以上だ。
確率論的には株式上場企業(3572社)の重大不祥事発生率は毎年1%を超す。ガバナンス(企業統治)改革が進み、不祥事に社会全般の関心が強まっているせいもあろう。今年もすでに31の委員会ができた。アルミ、鉄鋼製品などのデータ改ざんがあった神戸製鋼所も含まれている・・・

・・・一方、慶大の菊沢研宗教授は「日本の組織は合理的に失敗に向かう傾向がある」と言う。例えば、東芝は原子力事業から撤退したら「政府からしかられ、従業員の雇用も不安になる」。神戸製鋼は「納期やコストを守らないと取引先から契約を打ち切られる」などの懸念を抱いた。
「経営陣、管理職は下に向かって『何とかしろ』と命令を下すが、何ともならないとわかっている部下たちは袋小路に嵌まり、不正行為を考え始める。不正が起きても周囲は目をつぶり、何も言わないことがその組織にとっての『合理性』になっていく」(菊沢氏)という・・・

第三者委員会ドットコム」のサイトを見ると、「こんなにもあるのか」と驚くくらい事案が載っています。管理職に参考になる分析です。原文をお読みください。

商工中金事件、奇妙な論理

2017年10月23日   岡本全勝

商工中金事件の続きです。社長が命じた特別調査の際に、コンプライアンス担当は奇妙な論理で、隠蔽してしまいます(要約版p16以下)。はしょって紹介しますので、原文をお読みください。

不正融資をするために、貸出先の数字を改ざんしました。その際に、決裁に付け判断の材料とする「顧客名義の試算表」を、担当者が自作したり改ざんしたことが、私文書偽造罪に当たるかが問題になりました。弁護士に相談して、次のような回答を得ます。
①顧客名義の試算表について、「商工中金作成(名義)資料」(=商工中金内部資料)と認識して作成していた場合、故意がないため、私文書偽造罪は成立しない。
②試算表の自作について「顧客の承諾を得ていたと思っている場合」や「顧客の承諾を得られると思っている場合」には、故意がないため、私文書偽造罪は成立しない。

簡単にいうと、「顧客の資料を改ざんしたのではない、会社の内部資料なので」という理屈のようです。これで、不正ではないと結論づけるのです。
問題は、事実に反した顧客の経営状況(数字)に基づいて融資をしたかどうかです。しかし、それを私文書偽造罪に矮小化して、それには当たらないと判断します。
う~ん、知恵者なのか・・・。