カテゴリーアーカイブ:人生の達人

長時間労働是正の条件、その3

2020年3月24日   岡本全勝

3月20日の日経新聞経済教室「長時間労働是正の条件」、中原淳・立教大学教授の「業務・時間・意思疎通を透明に」から。

・・・残業発生のメカニズムは「集中・感染・麻痺・遺伝」という4つのキーワードにより説明できる。
1つ目の「集中」とは、一部の特定の優秀な人材に業務量が集中しがちなことだ。スキルが高い社員に残業が集中している。「優秀な部下に優先して仕事を割り振る」と答える管理職は6割を超える。短期的な成果を追求するには、優秀なメンバーに仕事を割り振る方が効率的というわけだ。

2つ目の「感染」とは、職場でまだ働いている人がいると帰りにくいという雰囲気だ。先に帰ってはならないという同調圧力が最も残業に影響している。こうした同調圧力は若い人ほど感じやすく、20代は50代の2倍近くも帰りにくさを感じている(図参照)。また上司の残業時間が長くなるほど、上司のマネジメントの質が低いほど、部下の帰りにくさは増していく。

3つ目の「麻痺」とは、心理的状況と身体的状況がちぐはぐになり、客観視できなくなる状況だ。月60時間未満までは残業時間が増えるほど主観的幸福感が低下していくが、60時間を超えると幸福感の増加に転じることが明らかになった。残業への没入感、他者から頼られているという実感がそれに関係する。

4点目の「遺伝」とは、上司の過去の残業経験が部下の残業時間に強く影響するということだ。新卒入社時に残業が当たり前という文化に染まっていた人は、上司の立場になっても部下に残業をさせやすい。こうした傾向は転職後の会社でも消えずに残る。つまり残業習慣は上司と部下という世代だけではなく、組織さえまたいで受け継がれる。

多くの企業では既に残業そのものをやめさせたり、残業時間に制限をかけたりしている。こうした時間制限型の施策は、個々人の残業習慣、つまり残業麻痺や残業代依存には対症療法的な効果を期待できる。
だがこの方法の効果は限定的で、否定的な影響も及ぼす。残業施策を打ち出すと社員の37.1%が効果に疑問を持ち、23.2%が施策に従わない方法を考え、「経営や人事は現場を分かっていない」との不信感を持つようになる。また時間制限型だけの施策ではストレス・健康不安が高まり、働きがいや組織への愛着が減少し、離職意向も高まる・・・

かつての私の経験にも、思い当たることがあります(反省)。対策も書かれています。原文をお読みください。

長時間労働是正の条件、その2

2020年3月23日   岡本全勝

長時間労働是正の条件」、黒田祥子・早稲田大学教授の「在宅勤務、生活との境界課題」の続きです。

・・・第1にテレワークが普及すれば、誰が何をどれぐらい手掛けたかという仕事の「見える化」が進む。これまでは出勤していれば会社の「メンバー」としてみなされてきた評価体系も、より成果に見合ったものへと転換せざるを得なくなる。企業には、部下への適切かつ効率的な仕事配分と、生産性に見合う公正な評価制度を確立することが求められる。こうした体制が整わない限り、上司と部下の信頼が確立していない職場ほど、非効率なアピール合戦が生じる可能性もある・・・

・・・第2に筆者らの19年の研究によれば、労働者の自己啓発にかける時間は趨勢的に減少しており、特に00年代半ば以降、「職場での時間外」に自己啓発をする人が大幅に減っている・・・テレワークの普及により職場以外で仕事をする時間が増えれば、上司や先輩から直接指導を受ける機会も減る。企業は新たな職場内訓練(OJT)の方法を模索する一方、労働者は時代に即したスキルを自己責任で蓄積することが必要だ・・・

・・・第3に「いつでもどこでも」仕事ができる状況が広がれば、仕事と生活の境界が曖昧になることにも留意すべきだ。これは日本に限った現象ではなく、在宅勤務が普及している多くの先進諸国が抱える課題だ。欧州連合(EU)加盟国の労働問題を調査するEurofoundによれば、在宅勤務の普及率が高い国ほど「余暇時間にも仕事の対応をすることがよくある」という労働者の割合も高くなる。在宅勤務割合が約25%と高いデンマークでは、仕事と生活の境界が曖昧と答えた人が約3割にのぼる・・・

・・・より長期の視点に立てば企業による時間管理は一層難しくなるだろう。現状、テレワークの時間管理はパソコンのログや実際の操作時間などで把握せざるを得ない。しかし今後は、連続的にパソコンに打ち込むような作業は機械に任せ、人間は人間にしかできない仕事に特化することが求められるようになる。一つの企業に定時に出社し、まとまった連続時間で働くことを前提とした現在の労働時間規制は、時代に合わせて見直していく必要がある・・・

長時間労働是正の条件

2020年3月22日   岡本全勝

3月19日の日経新聞経済教室「長時間労働是正の条件」、黒田祥子・早稲田大学教授の「在宅勤務、生活との境界課題」から。

・・・図はフルタイム男性雇用者の長時間労働者の割合を示したものだ。左側の超長時間労働者(週60時間以上)の割合は急速に低下してきている・・・だが右側の週49~59時間働く労働者の割合はあまり変化していない。週49時間以上全体で考えれば、依然どの企業規模でも男性の3人に1人は週に少なくとも10時間以上の残業をしている。労働時間が上限規制のシーリング(天井)に張り付いているとも解釈でき、長時間労働是正はいまだ道半ばといわざるを得ない・・・

・・・筆者が山本勲・慶大教授と経済産業研究所のプロジェクトで実施した調査によれば、震災が起きた11年夏の節電対策として約6割の企業が残業抑制や業務効率化を進めたと回答し、翌年以降も取り組みを継続する予定と答えていた。当時も人々の働き方を変えるきっかけになることが期待されたが、労働時間減少は一時的で、12年には震災以前の状態に戻った。未曽有の大災害でさえも日本の働き方を変えるのは難しかった・・・
この項続く

日立製作所の雇用改革、その2

2020年3月21日   岡本全勝

日立製作所の雇用改革」の続きです。

・・・入社年次にかかわらず、スキルや経験次第でポストや収入が決まる「ジョブ型」の雇用。一方で、課題もある。解雇されやすくなるのではないか、会社に対する忠誠心が失われるのではないか、といった点だ・・・

中畑専務
「従来の日本型雇用でも、事業が非常に厳しくなった場合には雇用を保てません。逆にジョブ型にしたほうが、ポジションが明確になって手を挙げられるし、チャンスを得られる制度だと説明しています」
「私の部下にはすでにジョブ型で働いている外国人が17人いますが、決まった仕事しかやらないなんていう社員は1人もいません。それこそ自分が成長するために仕事は広げます。従業員の意識調査でも、『日立で働くことに誇りを持っている』と回答したのは、海外が8割に対して日本は6割ぐらいなんです。ジョブ型で忠誠心が損なわれるというのは、理屈があるのかな、と」

日本型雇用のもとで働いてきたベテラン社員にとって、性急な改革は厳しいのではないだろうか。

中畑専務
「それはあると思います。私の世代はみな日本型雇用で育っていて、自分からキャリアを積んできた人はあまりいませんので。そういう人たちにも、例えばポジションごとにどういうスキルや経験が必要なのかを知らしめて次のステップやチャンスを渡す。そして、会社は教育を提供する」
「それでも手を挙げない人はいるかもしれません。結果として、いま部長だった人が係長になるかもしれません。会社として機会を与えたうえでの結果ならしかたがないとも言えます。逆に言えば、若い人にチャンスを与えることになります」
「ジョブ型への完全な転換には時間がかかると思います。理由の1つはやはり社員の意識が変わりにくいこと。もう1つは、日本全体で雇用の在り方が変わるのに時間がかかること。ただ日立の中は変えていけますから、4年後くらいには、『あの事業部のあの仕事をやりたい』と手を挙げ、異動し始めるようなイメージを持っています」

日経新聞「やさしい経済学」では、山田久・日本総合研究所副理事長の「日本型雇用、改革の行方」が始まっています。

日立製作所の雇用改革

2020年3月20日   岡本全勝

NHKニュースウエッブに「日立の雇用改革」が載っていました。
・・・年功序列や終身雇用を柱とする「日本型雇用」の見直しが進んでいる。山場を迎えたことしの春闘でも、重要なテーマになった。とりわけ見直しの動きが進んでいるのは、グローバル企業との間で人材の獲得競争がしれつになっているIT関連の企業。その中にあって、「ジョブ型」と呼ばれる雇用体系に大きくかじを切ろうとしているのが日立製作所だ。世界で約30万人(このうち国内16万人)の社員が働く巨大企業の人事部門のトップに、そのねらいを聞いた・・・。

「日立でも定年まで働き続けるという考えの人は減ってきていて、20代・30代の3分の1は将来転職を考えています」
「マーケットはグローバルなので、いろいろな人が必要になります。海外企業の買収などもあって、日立はことし6割が外国人になります。日本型の雇用システムがなじまなくなっているんです」

日立が目指すのは、職務に応じて賃金や待遇が決まる制度。海外で一般的な「ジョブ型」と呼ばれる雇用体系だ。ポストごとに決められたスキルや経験を満たしていれば、年齢や社歴に関係なく、望む地位と報酬を得られることになる。「ジョブ型」への移行に向けて、会社は制度やシステムの整備を急いでいる。たとえば、会社がポストを明確に提示し、社員はみずからの経験や希望するポストなどをシステムに入力。双方をマッチングするようなイメージだ。

中畑専務
「人に仕事を割り当てるのではなく、仕事に人を割り当てるのです。これこれこういう仕事があります、そのために必要なスキルは何ですか、必要な経験は何ですかというのが先に明示されていて、そこに必要な人は誰ですか、ということです」
「日本の場合は人事異動で受け身が強かったと思いますが、ジョブ型では自分で自分のキャリアを考えていく、自分で切り開くという意識が必要になってくると思います。自分のキャリアを作るためにこのポジションを経験しておいたほうがいいといったことを自分で考えておく。そのためにはツールが必要で、会社はきちんと、こんなポジションがありますよ、どんな経験が必要ですよ、どんなスキルが必要ですよといったことを示していくことが必要だと思います」
この項続く