長時間労働是正の条件、その2

長時間労働是正の条件」、黒田祥子・早稲田大学教授の「在宅勤務、生活との境界課題」の続きです。

・・・第1にテレワークが普及すれば、誰が何をどれぐらい手掛けたかという仕事の「見える化」が進む。これまでは出勤していれば会社の「メンバー」としてみなされてきた評価体系も、より成果に見合ったものへと転換せざるを得なくなる。企業には、部下への適切かつ効率的な仕事配分と、生産性に見合う公正な評価制度を確立することが求められる。こうした体制が整わない限り、上司と部下の信頼が確立していない職場ほど、非効率なアピール合戦が生じる可能性もある・・・

・・・第2に筆者らの19年の研究によれば、労働者の自己啓発にかける時間は趨勢的に減少しており、特に00年代半ば以降、「職場での時間外」に自己啓発をする人が大幅に減っている・・・テレワークの普及により職場以外で仕事をする時間が増えれば、上司や先輩から直接指導を受ける機会も減る。企業は新たな職場内訓練(OJT)の方法を模索する一方、労働者は時代に即したスキルを自己責任で蓄積することが必要だ・・・

・・・第3に「いつでもどこでも」仕事ができる状況が広がれば、仕事と生活の境界が曖昧になることにも留意すべきだ。これは日本に限った現象ではなく、在宅勤務が普及している多くの先進諸国が抱える課題だ。欧州連合(EU)加盟国の労働問題を調査するEurofoundによれば、在宅勤務の普及率が高い国ほど「余暇時間にも仕事の対応をすることがよくある」という労働者の割合も高くなる。在宅勤務割合が約25%と高いデンマークでは、仕事と生活の境界が曖昧と答えた人が約3割にのぼる・・・

・・・より長期の視点に立てば企業による時間管理は一層難しくなるだろう。現状、テレワークの時間管理はパソコンのログや実際の操作時間などで把握せざるを得ない。しかし今後は、連続的にパソコンに打ち込むような作業は機械に任せ、人間は人間にしかできない仕事に特化することが求められるようになる。一つの企業に定時に出社し、まとまった連続時間で働くことを前提とした現在の労働時間規制は、時代に合わせて見直していく必要がある・・・