カテゴリー別アーカイブ: 仕事の仕方

生き様-仕事の仕方

基礎研究が実を結ぶまで

日経新聞私の履歴書、10月は、吉野彰さんです。リチウムイオン電池の発明者として、2019年にノーベル化学賞を受賞されました。

第1回の「創造と挑戦」に、次のような話が出ています。基礎研究が実を結ぶまでには、多くの困難があるとして、3つの難関を挙げておられます。
・研究の大半は芽が出ず、すぐに振り落とされる。「悪魔の川」
・ここを泳ぎ切って基礎技術ができても、商品化にいたるまでに多くの課題を解決しなければならず、大半が脱落する。「死の谷」
・ここを乗り越え、商品化に成功しても、市場が拓けるまでに長い年月がかかる。「ダーウィンの海」

組織の目標と業務管理

10月2日の日経新聞に「パナソニック、長期視点の経営に転換 利益率目標示さず」が載っていました。
・・・同日記者会見した楠見雄規社長は「(利益などの)結果数値で管理しない」方針を示した。利益や時価総額が競合に比べ見劣るなか、新たに事業ごとに競争力向上につながる指標を設定し、長期的な視点で復活につなげる。
楠見氏は会見で「事業戦略の推進のアプローチを変える」と、津賀一宏前社長の経営路線を転換する姿勢を鮮明にした。

パナソニックは2012~21年まで社長を務めた津賀氏の下、売上高営業利益率5%を経営目標に据えてきた。楠見氏はそれが「事業部には足切りラインのように受け止められた」と振り返る。
事業部では目標達成に向けて無理な受注や投資の先送りなどを繰り返し帳尻合わせの数字を作るようになった。結果として大胆な投資などを打ち出した海外勢に比べて競争力を失い、「過去30年間、パナソニックは成長していない」停滞につながっているとの分析だ。
そこで売上高や営業利益など結果として表れる財務指標だけで管理するのをやめ、事業ごとに競争力の向上につながる指標まで落とし込んで管理するように変える・・・

詳しくは、原文を読んでいただくとして。
難しいですね。組織の長は、内外に組織の目標を示す必要があります。部下はその実現を目指して仕事をします。ところが、下部組織に数値目標を割り当てると、記事にあるように、帳尻あわせになることがあります。これでは、本来の目標が忘れられ、手段が目標になってしまいます。他方で、数値でない目標は、物差しにならず、評価もできません。
では、どのように下部組織に目標を割り当て、事後評価をするか。企業は売り上げや利益が数字で出ます。その点で、売り上げがない役所は難しいです。もっとも、企業でも、開発部門や本社管理部門は同じような問題を抱えています。

「ビジネスマンの父より息子への30通の手紙」

キングスレイ・ウォード著『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』(1987年、新潮社。文庫版1994年)を読みました。ベストセラーですから、読まれた方も多いでしょう。

私も、出版されたときに手に取ったのですが、その頃は読もうとする気が起きませんでした。もっとほかに読まなければならない本、読みたい本がたくさんありましたし。ひょんなことから、今回、ページをめくってみました。そして、一気に読了しました。
よいこと、役に立つことが書いてあります。もちろん、社長が後継者として息子を育てるために書いたので、すべての項目が読者である社員や職員に当てはまるわけではありません。しかし、「そのとおり」「悩んでいる若者には、よい助言だな」と思うことが多いです。「私ならどのように助言するか」と考えながら読みました。

このような本は、「もっと早く、若い時に読んでおけば良かった」と思うことがしばしばあります。ところが、若くて血気盛んなときには、先輩の忠告はしばしば頭に入りません。ある程度の経験を積んだ人が、振り返って「そうだよな」と思う本なのかもしれません。
職業人としての「教科書」はないので、若い人は参考書となるものを探します。この本も、読んでいくつかのか所が役に立てば良いのでしょう。そして、どのか所が役に立つかは、読む人の状況によって異なるのでしょう。
管理職の参考書としては、佐々木常夫著「そうか、君は課長になったのか。」(2010年、WAVE出版 。2013年、新書版)も読まれています。

ところで、仕事の作法の助言は後輩には言いやすいですが、息子や娘には、なかなか直言しにくいものです。手紙という形で伝えた著者は、偉いですね。さて、息子さんは、どのように父の忠告を聞いたのか。気になります。「社会人先輩の反省

デザイン思考、あるいは商品としての言葉

「デザイン思考」という言葉や考え方が、よく使われるようになりました。この20、30年間のようです。興味を持っていたのですが、深く勉強しませんでした。ようやく、このようなことを主張しているのだと理解できました。

デザインと聞くと、商品の色と形を意味すると考えます。日本語にすると、意匠です。デザイナーは、商品の形や色を考える人、そしてどうしたら売れるかを考える人です。
これに対しデザイン思考は、商品(物)に限らず、サービスや事業などをも対象とします。それは色と形を考えるのではなく、どうしたら効率化できるか、よりよいサービスを提供できるかなどを考えます。課題解決と言い換えたらよいでしょう。

この思考自体は良いことだと思いますが、目新しい話ではありませんよね。「デザイン思考」と言われると、何か高尚なものかと思ってしまいます。これがカタカナ語を使う落とし穴ですね。
中国語では、デザインを「設計」と訳すそうです。田中一雄著『デザインの本質』(2020年、ライフデザインブックス)15ページ。これなら、デザイン思考が課題解決という意味であると理解できます。ものの形だけでなく、さまざまな業務に適用できます。

反対語は、成り行き任せ、前例通り、何も考えずに取り組むことでしょうか。
課題解決あるいは設計なら、経営者も管理職も、あるいは課題を与えられた社員も、みんな実践しています。でも、それでは売れないので、「デザイン思考」と名前をつけて、本や講演、コンサルタント業を売るのでしょうね。
売られるのは、店に並ぶ商品だけではありません。このようにアイデアを新しい言葉で売る人たちも、新しい理論を売る学者もいます。ところで、低下する日本の国力を嘆く人は多いのですが、次の日本のあり方を売る人が見当たらないことが心配です。

人材育成、規範的判断力の重要性

8月3日の日経新聞、宮田一雄・元富士通シニアフェローの「ジョブ型時代の高度人材 規範的判断力こそ重要」から。

・・・データサイエンティストやデジタル部門責任者などのジョブ型雇用が始まり、人材の流動化が日本でも進み始めたことは喜ばしい。専門性が求められるデジタル部門責任者に、終身雇用下でゼネラリストとして育った人材が就く日本の現実は世界でも特殊だ。
既存企業がデジタル技術の急速な進化に対応していくには新卒一括採用後に企業内研修を経て職場で育てる時間はない。
経営陣には技術の重要性を的確に判断できる高度専門人材がいないと、正しい判断はできない。価値の重みがモノからサービスにシフトし、企業は技術を価値に転換する経営が求められているからだ。「GAFA」に代表される米ネット大手の経営陣の多くはコンピューター科学や心理学、経営学などを大学院で学んだ人々である。
といって、専門知識のみが大学教育に求められているわけではない。企業は、その根っことしてのリベラルアーツ教育に期待している。

リベラルアーツというと歴史や文学を思い浮かべがちだ。高度専門人材のためのリベラルアーツとして産学で合意したのは「人文学、社会科学、自然科学のどの分野であれ学生が一つの専門を深く学ぶとともに、他分野にも関心を広げ、幅広い知識と論理的思考力、規範的判断力を身につけること」という定義だ。
ここで規範的判断力が重要であるという指摘は新鮮だった。これからは「望ましい社会や企業とは」「公正な社会とは」といった判断が避けて通れない。それには一定のトレーニングが要る。
哲学・倫理学だけではなく政治学、法学、経済学、社会学などの規範に関する理論を学び、規範的な思考の枠組みを身につけなくてはならない。複雑な社会課題の解決や共通善に向けた新たな価値づくりのためには、論理的思考力に加え規範的判断力が必須なのだ。
ドイツでは大手企業の経営者の45%が博士号を持つ。大企業の役員・管理職に占める修士以上の割合は米国62%に対し日本は6%。日本の大学院進学率は理工系こそ40%前後だが、人文社会学系は5%以下だ。
こうしたデータを見ると、バブル経済の崩壊以来30年に及ぶ日本の停滞の原因は役員・管理職層の規範的判断力の不足、企業で活躍する文系大学院修了者の少なさにあるという仮説が浮かぶ・・・