カテゴリー別アーカイブ: 仕事の仕方

生き様-仕事の仕方

定時に退社すると批判された。変えてやる

10月5日の日経新聞「私の課長時代」は、渋谷直樹・NTT東日本社長でした。

・・・民営化1期生で、あらゆる仕事に前例がありませんでした。会社の転換期に新しいプロジェクトを任せてもらい、育てられた自覚があります。その経験から、人材育成では部下を信頼し、仕事を任せることを強く意識しました。部下の提案にはとにかく全部、「ええやん。やってみよう」と。課長時代の送別会で色紙をもらった際、部下の間で「ええやん課長」と呼ばれていたことに気づきました。

この考えには原点があります。入社して間もない頃、業務効率にこだわり、集中して仕事をこなして定時に退社していました。すると、上司から「君はいつも早く帰るね」と批判され、全く評価されずにショックでした。当時、上司はまず部下にダメ出しをする組織風土があり、「自分が変えてやる」と誓いました。

誰でも意見を言いやすい前向きな空気感があると、新しいアイデアが生まれやすいです。「予算や人手が足りない」「前例がない」など、できない理由を考えるより、部下にはクリエーティブな人材になってほしいと願ってきました。
社長になってもキャッチフレーズは「ええやん」です。課長時代はリーダーの原点で、成長のチャンス。今は課長になりたくない人も多いと思いますが、固定観念にとらわれる必要は全くありません。ぐいぐい引っ張るだけでなく、肩の力を抜き、部下の潜在力をどんどん引き出すリーダーも良いと思います・・・

村田製作所「当社には一人でできる仕事はほとんどありません」

9月20日の読売新聞LEADERSは、中島規巨・村田製作所社長の「電子部品 こだわりの一貫生産」でした。
「世界の製造業は「垂直統合」ではなく、他社の製品を調達してモノを作る「水平分業」が主流になっている」ことに関して。

・・・垂直統合にはこだわります。独自性のある部品を設計し、品質改善を進めながら量産し、コストを下げていく地道なモノ作りの努力が当社を支えています。
「ジョブ型雇用の時代」と言われますが、当社には一人でできる仕事はほとんどありません。多様なスキルを持つ多くの人がチームとして仕事をしており、帰属意識や一体感が強い会社です。チームの力を高めていけば、投資額が大きくなる垂直統合のデメリット以上の恩恵があります。

こうした組織には、基軸となるフィロソフィー(哲学)のようなものが求められます。豊かな社会の実現に貢献し、会社を発展させるという社是や「誰も作っていないものを作ろう」という経営理念は、今も共有されています。古くさい経営と言われても、これからも全うしていきたい・・・

菊澤研宗著『組織の不合理ー日本軍の失敗に学ぶ』

夏に、野中郁次郎著『『失敗の本質』を語る なぜ戦史に学ぶのか』を読んでいたら、積ん読の山から、菊澤研宗著『組織の不合理ー日本軍の失敗に学ぶ』(2017年、中公文庫)が出てきたので、合わせて読みました。この本は、2001年に単行本として出ています。

この本も、日本軍の失敗を経営学から分析した本です。『失敗の本質』など多くの分析は、「合理的なアメリカ軍に対して、非合理的な日本軍」という構図で説明します。しかしこの本は、日本軍幹部の判断はそれぞれの立場で「合理的」であったという視点に立ちます。
分析手法として、新制度派経済学を使い、取引コスト理論、エージェンシー理論、所有権理論を使って、日本軍の不条理な判断がそれぞれの立場では合理的であったと分析します。主流の経済学は、人間が合理的に判断することを前提としますが、実際には人間は完全な合理的な動物ではありません。詳しくは本を読んでいただくとして。

文庫本のまえがきに、組織の不条理が3つ整理されて示されています。
1 個別合理性と全体合理性が一致しない場合。個々人や個別組織が全体合理性を無視して、個別合理性を追求し、全体が非効率になって失敗する。
2 効率と倫理が一致しない場合。個々人や個別組織が倫理より効率性を追求し、結果として不正となって失敗する。
3 短期的帰結と長期的帰結が一致しない場合。個々人や個別組織が長期的帰結を無視して短期的帰結を追求し、長期的には失敗する。

この指摘には、納得します。私も実例を見てきました。この失敗に陥らない方法は、「この判断は、10年後や20年後に評価されるか。問われた場合に、胸を張って説明できるか」です。「閻魔様の前で胸を張れるか

リーダーが理想を追い、全員で実現する

9月15日の日経新聞夕刊、私のリーダー論、WOTA・CEO前田瑶介さんの「人間愛の技術で水問題解く」から。前田さんは29歳、使った水の98%以上を再利用できる小型の浄水システムを手がける会社の最高経営責任者です。

――経験豊富な社員が多い中で、リーダーとして心がけていることはありますか。
「私が語るのはおこがましいですが、基本的には2つだと思います。まず、哲学や理念などに基づき理想の状態を定義したうえで、現在地を正しく認識し、理想と現実をつなぐ方法を決めます。そして、方法が決まれば、そこに最速で向かうことです」
「理想というものは合議で決めるのはなかなか難しく、リーダーが明確な意思でとことん腹落ちするまで考えて決めるものです。一方で理想と現実をつなぐ方法は、開発メンバーや関係者がいる場所で、全員が納得して決めるべきです。お客様の要望や現実の技術、チームの実力から外れてはいけないからです」

――社員数は1年前から2倍程度に増えているそうですね。組織が大きくなる際の苦労はありますか。
「社員には下水処理場を何十施設も造った方もいますし、米航空宇宙局(NASA)で水の研究をしていた方もいます。いろんなメーカーから技術者が転職してきますが、まず使う言語が違います」
「伝統のある会社なら用語が統一されて、『企画』『設計』『計画』が何を指す言葉なのか皆が理解できます。新しい人が入社しても『郷に入れば』、といった具合ですが、WOTAにはいま郷が存在しません。WOTAらしいと感じる言葉は残します。ただ、社外の人が持ち込んできた、業務を効率化するのに良いと思った言葉があれば、社内用語として受け入れる場合もあります」

エリザベス女王のハンドバッグ

朝日新聞のウエッブニュース「エリザベス女王のハンドバッグ」(9月16日)から。

・・・英国のエリザベス女王の左腕に、いつもかけられていたハンドバッグ。亡くなる2日前、静養先のバルモラル城でトラス首相を任命した際にも、黒色のバッグがかけられていた。
女王はなぜバッグを持ち歩き、中には何が入っていたのだろう。
「王室の秘密は女王陛下のハンドバッグにあり」の著者の一人で、王室に詳しいジャーナリストのフィル・ダンピア氏は「女王は、ハンドバッグなしではどこにも行かない。ハンドバッグを持たないのは、バルモラル城のような完全にリラックスした環境のときだけだ」という・・・

ハンドバッグの中に何が入っていたかは、記事を読んでいただくとして。
・・・王室評論家のクリステン・マインザー氏によると、女王がハンドバッグをもう片方の腕に持ち替えた時には、「会話を中断してほしい」という侍女たちへの合図だったという。
会食の際にハンドバッグをテーブルに置けば、「あと5分で食事を終えたい」。床に置けば、「この会話はつまらないから助けて」の合図だったという。
「毎年何千人もの人に会う女王は、頑丈な正方形のハンドバッグを使って、他者と一定の距離を保ち『パーソナルスペース』を確保していた」とダンピア氏は説明した・・・