カテゴリーアーカイブ:行政

世帯単位の行政支援の見直しを

2023年7月17日   岡本全勝

6月28日の朝日新聞「追い詰められる女性たち第2部3」「世帯単位の行政支援、見直しを 宮本みち子さんに聞く」から。

・・・ 内閣府によると、コロナ禍1年目の2020年度、配偶者などからの暴力(DV)の相談件数は18万2188件で、前年度の11万9276件の1.5倍になった。21年度は17万6967件となり、高い水準で推移している。
一方、22年の自殺者数は、女性は前年より67人増の7135人で3年連続の増加となった。コロナ禍でDVが深刻化したことが、自殺につながった可能性の一つとして指摘されている。
DV防止法施行から20年以上が経つ。DVは暴力による支配だと認識されつつあるが、増加傾向に歯止めがかからない。また、「男は仕事、女は家庭」という性別役割分担意識が、社会に根強く残る。不平等な状態で家族のあるべき姿を求めれば、立場の弱い人の生きづらさが増す。
こうした問題にどう向き合っていけばよいのか。放送大学名誉教授の宮本みち子さん(家族社会学)に聞いた・・・

・・・若い人たちの県外流出に悩む地方圏では、大学や女性が働ける職場を増やそうという議論は盛んだが、「なぜ女性は外へ出て行きたがるのか」ということをもっと考える必要がある。
なぜなのか。一言でいうと、都会のほうが女性にとって魅力があり、生きやすいからだ。
「暮らしやすい」ではなく、「生きやすい」がポイントだ。賃金が高いよい仕事が都会に多いという理由もあるが、単に仕事の問題だけではない。地方には自由がない、選択肢がない、女性差別が残っているということがある。
「そんなに地方は女性にとって暮らしにくいのですか?」とある地方の女性に聞かれたことがある。
「ここが暮らしやすい」と思っていたり、地方のライフスタイルを受け入れたりしている人は残り、それなりに満足している。だが、生きにくいと感じる人は外に出てしまっている。意外にもこの点に気付いていないのではないだろうか。

では、どうしたら地方で女性が生きやすくなるのか。
ありきたりかもしれないが、家庭や職場や地域社会で男女平等を進めることだと思う。女性が意見を自由に発言することができ、可能性を伸ばしていける地方圏をつくること。行政は、男女共同参画政策をより一層進めてほしい。
男性支配の構造が家庭内に根深く、暴力での支配が公然と行われている状況などは論外だ。また、女性を労働力として期待しても、経済的には支配し、身体的・精神的に拘束するというのも許されることではない。

コロナ禍での給付金をめぐって問題になったのは、家族は一体のものという暗黙の前提のもとに世帯単位で給付が行われた結果、夫が独り占めし、弱い立場の妻や子どもに届かないという例がさまざまな場所で確認されたことだ。
行政の支援においては、無条件で世帯単位にするのではなく、個人単位という観点を持たないと、犠牲者が生まれる。

支援機関の実態に関しても考えさせられることがある。実は、困った時に本当に力になってくれる相談機関は少ない。数自体は決して少なくないが、多くは、ただ相談を受けるだけの場になっている。
大事なことは直面する困難の解決に向け、伴走してくれる支援が必要だということ。困っている人に寄り添って、一緒に動いてくれる人や機関があれば、救いとなるだろう。だが、このような相談機関は限られており、しかもパンク状態。孤立する人々の救済のために、人とお金をもっと投入する必要がある・・・

助けを求める声を受け止める

2023年7月16日   岡本全勝

6月27日の朝日新聞「追い詰められる女性たち第2部2」「SOSの受け手側、見えた課題 杏林大・加藤教授、患者聞き取り」から。

・・・困ったら相談を――。繰り返し呼びかけられている言葉だ。しかしSOSが出されても、それを受け取る側がどうするかで状況は大きく変わる。そこにもっと目が向けられることが必要だ。
困った女性たちの多くはSOSを出し、役所にも相談している。にもかかわらず、わずかに条件と異なるだけではじき飛ばされたり、「大変ですね」と慰められながらも具体的な助けを得られなかったりしている。大学病院の救命救急センターで30年以上、精神保健福祉士として自殺を図った人々と向き合ってきた杏林大の加藤雅江教授は、どう見ているのか。

加藤さんはある時、治療にあたる医師たちから「なぜこれほど自殺未遂が多いのか。救命して体を治療して退院させるけど、意味があるのか」という疑問の声を聞いた。そこで加藤さんは入院患者に聞き取りをした。
話を聞いたのは年間100人程度、10~60代の年齢層。そのほとんどが、落ち着いた子ども時代を送れていなかった。虐待、性暴力、DV(家庭内暴力)、非行、ヤングケアラー……。これらを何度も経験し、不登校や引きこもりなどをへて、実社会とのつながりが希薄になっていた。
「支援につながらなかったとか、嫌な思いをしたから支援なんて受けても仕方ないとか、そういったことがインタビューを通じて見えた」
加藤さんは、支援が十分に行き届かない理由について、「支援する側が助けたいと考えていることと、支援を受ける側の困りごとがずれています。意識しないと、支援者は自分の尺度で測ってしまう」と指摘する。
また、支援する側が「成果」を求めがちで、食料不足や不登校、親の病気といった目に見える困りごとのほうが支援されやすいという・・・

自殺者2万人

2023年7月15日   岡本全勝

6月26日の朝日新聞「追い詰められる女性たち第2部1」「年2万人「消えたい」と感じさせる社会 清水康之氏に聞く」から。

・・・日本では毎年2万人超が自殺で亡くなっている。主要7カ国(G7)の中で自殺率が高く、女性の自殺者数はトップだ。その背景や自殺対策の現在地などについて、NPO法人「ライフリンク」の清水康之代表に聞いた。

――昨年の自殺者数は2万1881人でした。1日に60人弱の方が死を選んでいます。現状をどうみますか?
2003年に自殺で亡くなる人は、3万4千人と最多になり、06年に自殺対策基本法ができて、その後2万人台まで減りましたが、下げ止まっている状況です。
日本社会に、「死にたい」「消えたい」と思わせるような悪い意味での条件が整っている。この視点を強調して発信し続けなければならないと思っています。

――ライフリンクによる自殺者523人の実態調査から見えてきたこととは?
その多くが「追い込まれた死」でした。自ら死を積極的に選んでいるわけではない実態が見えてきました。その人らしく生きるための条件が失われていたのです。
自殺で亡くなった人は平均で四つの悩みや課題を抱えていた。理由が複合的であることも分かりました。と同時に、じわじわと自殺に向かって追い詰められている。自殺の行為だけでみると瞬間的ですが、そこに追い込まれていく過程をみるという捉え直しが必要なのです。
さらに重要な発見は、職業や立場によって、自殺に追い込まれる状況には一定の規則性があることです。例えば失業者であれば、失業したことで生活苦に陥り、借金を抱え、精神的に追い込まれて自殺に至る。働く人なら、配置転換などの職場環境の変化で過労に陥り、人間関係の悪化も重なりうつになり自殺に至るといったものです。
こうした自殺の典型的な危機経路が明らかになってきました。原因が社会性を帯びているのです。自殺は個人的な問題であると同時に社会的な問題として捉えるべきです。
毎年2万人台前半が自殺で亡くなっています。1年間、この社会をこのまま回していくと、2万人が「もう生きていられない」状況に追い込まれる社会構造とも言えます。

――国内の自殺対策の現在地は今どこになりますか?
10をゴールとすれば、今は5だと思います。06年に自殺対策基本法が施行され、16年の大改正で都道府県と市町村で地域自殺対策計画をつくることが義務づけられました。
市町村単位で自殺者の性別、年代、職業、原因、同居人の有無など細かいデータを把握することができ、それに基づき計画をつくり、関係機関が連携して対策にあたるようになりました。研修も行い、首長がその旗振り役を担うという自覚も生まれています。計画を策定しているのは都道府県すべてですし、市町村も95%にのぼります。
検証も進められ、自殺総合対策大綱が見直される度に地域自殺対策計画策定のガイドラインも見直されることになっており、ようやく日本の自殺対策のPDCA(計画・実行・評価・改善)が循環する状態まできました。
ただ自殺者は下がる傾向とはいえ、2万人台です。まず、課題としては、子どもの自殺の実態解明をして、それに基づき総合戦略を立て、関係機関が連携し、対策を推進する流れをつくらなければいけません。もう一つの課題は、社会全体の自殺リスクを減らすために、社会保障や介護制度など大枠の制度も変える流れに持っていく必要があると思っています。

まだ2万人を超える人が亡くなり、子どもの自殺が増えています。そこの課題が残る5の部分だと思っています。
自殺というのは孤立というより、生きる場所がないということが大きな問題だと思っています。そこにアプローチできる社会にしていかなければなりません・・・

「公文書を守れ」

2023年7月13日   岡本全勝

月刊誌『文藝春秋』8月号に、「公文書を守れ 高市捏造発言、森友事件を叱る」という座談会が載っています。福田康夫・元首相、上川陽子・元公文書担当大臣、老川祥一・読売新聞会長、鎌田薫・国立公文書館長(前早稲田大学総長)、加藤丈夫・前国立国会図書館長(元富士電機会長)による座談会です。

福田総理が法案作成の決断をした理由、担当大臣に上川大臣を任命した理由などを話されているのも興味を引きますが、本年春の元総務大臣の「捏造」発言や重要裁判記録の廃棄問題、森友学園に関わる文書改ざんなどの近年の問題から、原爆開発や金大中事件、トランプ問題まで、実に幅広く文書に関する話題が取り上げられていて、充実した内容です。
そして、公文書は、国家がいまこうなっていることを説明するための資料だということ、これを作成・管理するのは公務員ですが、それを勝手に改ざんしたり捨てたりすることは言語道断であるとお叱りがあります。
詳細は原文をお読みいただかなければいけませんが、まずはこんな肩書や経歴の人たちが公文書についてこんなに心配していることに、驚きです。確かに国家や社会の仕組みを知り尽くした人たちの視点からみると、公文書の重要性がよく理解されるものなのでしょう。

二点、気のついたことを書きます。
一つは、アーキビストという専門職についての期待です。「自分たちの文書は自分たちが責任を持つ」というのが日本の官僚の基本的な姿勢でしょう。外部の専門家をうまく業務の中に取り込んでいけるのか、現状の風土では難しいと思います。とはいえ、公文書の改ざんや廃棄という問題が続くと、「公務員たち自身に任せておけない」との意見が強くなるでしょう。

もう一つは、これだけのメンバーがいながら、官僚出身者が一人もいません。この分野での役人の発言権が無いこと、発言しようとする者もいないことが、さびしいかぎりです。この対談の中に、実務の面から見た提案や将来像が入っていれば、充実していたと思います。関連した公文書管理の経験者などの発言を期待します。
情報公開法の制定や内閣法の改正、公文書管理法などによって、役人の仕事ぶりがどう変わったか変えられなかったなど実務者としての正直な経験を話したり、あるいは国民との共有の仕方についての提案をしてほしいのです。本来、文書を作り保管している役人こそが、発言と提案をしていくべき分野です。そういう提案ができるような雰囲気を少しづつでも作っていきたいと、わたし自身の問題として思いました。
なお、これに関連したことを、コメントライナー「行政文書は正確か」に書きました。

性的多様性法、委員会審議2時間

2023年7月12日   岡本全勝

6月21日の朝日新聞夕刊「取材考記」、松山紫乃記者の「法案審議 熟議せず成立、国会の役割とは」から。

・・・通常国会の最終盤を迎えるなか、マイノリティーの人権、尊厳の擁護を目的とする法整備の動きも進んでいた。性的少数者に対する理解を広めるための「LGBT理解増進法」だ。各党の主張が異なり、与党案のほか立憲民主・共産・社民党案、日本維新の会・国民民主党案の3案があった。

国会を取材するなかで、自民党中堅議員の言葉が印象的だった。「野党の意見にも向き合い、修正協議にも応じる。国会は政局ではなく、充実した審議をもっと行うべきだ」。実際、難民認定の申請中でも外国人の送還を可能にする入管難民法の改正をめぐり、与野党の実務者が修正合意を模索した。最終的にまとまらなかったが、そのプロセスからは真摯に法案審議に臨んでいるように見えた。

LGBT法は違った。各党とも自分たちの支持者を意識した言動ばかりが目立ち、法案審議は先延ばしし続けた。修正協議の指示が首相から出たのは、衆院内閣委員会の審議入り前日の8日。維新などの案を与党が丸のみする形で協議を終えた。内閣委の審議は、わずか約2時間。その日のうちに採決され、1週間後の16日には成立した・・・

正式名称は「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律