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クールジャパン機構、回収率低迷6割

2026年8月9日   岡本全勝

7月21日の日経新聞に「統廃合検討のクールジャパン機構、回収率低迷6割 総花投資ツケ重く」が載っていました。
・・・経済産業省は官民ファンドの海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)の統廃合に向けた検討を7月中にも始める。累積赤字は540億円に膨らみ、投資回収率は60%と他の官民ファンドに見劣りする。コンテンツの「目利き」を欠いたまま総花的な投資に走ったツケが出ている。機構は日本文化などのコンテンツ振興につながる商品やサービスの海外展開を目的に13年に発足した・・・

・・・クールジャパン機構は政府が財政投融資を使ってリスクを取り、民間投資の呼び水となることを狙う官民ファンドの一つだ。国が1406億円と出資金のおよそ9割を出している点は他のファンドと共通する。
「官民ファンドの枠組みに無理があった」。経産省幹部はこう振り返る。官民ファンドには民間が手を出しにくい投資リスクの高い案件が集まりやすい。高い利益を出せば「民業圧迫」との批判も浴びる。民間に比べ運営に一定の難しさはつきまとう。それでもクールジャパン機構の業績は他の官民ファンドに比べて悪い。
会計検査院によると、投資実行額に対する回収額の割合を示す回収率でクールジャパン機構は24年3月末時点で60.0%だった。業績不振で26年3月に解散した農林水産省所管の農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)の58.5%と同水準だった・・・

・・・要因の一つが総花的な投資だ。日本のコンテンツ振興を掲げるものの、総投資額2040億円のうちメディア・コンテンツ分野は30%に過ぎない。ライフスタイル・ファッション分野が36%と最多で、ほかに食やインバウンド観光など対象は多岐にわたる。

コンテンツ産業に詳しい人材の欠如が背景にある。専修大の松本淳教授は「業界全体で目利きできる人が少ない」として、機構が優秀な人材を獲得できなかったとみる。金融出身の人材を中心に「投資成果を上げないといけない中で総花的な投資になった」と指摘する。
社長はイッセイミヤケ社長などを歴任した太田伸之氏が初代を、18年からソニー・ミュージックエンタテインメント最高経営責任者(CEO)などを歴任した北川直樹氏が務めた。21年に就任した今の川崎憲一氏は大和企業投資の社⻑を務めた経歴を持つ。
機構の投資はアジアでの百貨店事業など発足当初から苦戦を強いられたものも多い。明治大の田中秀明教授は「『損をしない』という目標ではうまくいかない。財務相は株主として国民に還元せよと収益を厳しく求めるべきだ」と強調する。
海外に比べたコンテンツ振興の司令塔機能の欠如も目立つ。韓国コンテンツ振興院(KOCCA)は人材育成から資金調達、海外展開まで一括支援する。フランスはCNC(国立映画・映像センター)が映画入場に関する税金などを原資に製作を補助する・・・

女性再就職 正規雇用の壁

2026年8月7日   岡本全勝

7月19日の読売新聞「あすへの考」は、吉田尚大・編集委員の「女性再就職 正規雇用の壁」でした。

・・・女性の正規雇用率は20代後半をピークに下がり続ける。グラフに描くとL字形になることから「L字カーブ」と呼ばれる。正規雇用の女性が出産や育児を機に退職した後、再就職すると、パートなど非正規雇用になることが多いためだ。女性の活躍の機会を減らし、男女の賃金格差や女性の管理職比率の低さの一因となっているため、希望すれば正規雇用で働き続けられる環境の整備が求められる。

正規雇用比率を見ると、男性は50代後半まで70%程度を維持している。一方、女性は、35~39歳は43・6%、40~44歳は39・5%と下がり続けていく。
その影響は大きい。2026年の男女共同参画白書によると、日本の男女の賃金格差は、男性の賃金の中央値を100とした場合、女性は79・3。経済協力開発機構(OECD)諸国の女性の平均89・7と比べて差がある。企業の管理職に占める女性の割合は課長級16・1%、部長級9・3%。いずれも、正規雇用の女性の層が薄いのが一因だ。

L字カーブが生まれた歴史的背景として、周燕飛・日本女子大教授は産業構造の変化を挙げる。
1950年代半ばから始まる高度経済成長期前は、農業や自営業の世帯も多く、女性は貴重な働き手だった。畑や店舗は自宅とほぼ同じ場所にあり、働きながら育児や家事ができた。
高度経済成長期が始まると、男女とも会社で働く人が増えた。自宅と働く場が離れ、子どもが生まれると女性が育児や家事のために退職し、子育てが一段落すると教育費などのために非正規雇用で再就職する、という流れができた。
周教授は「日本には年功序列制の企業が多く、雇用の流動性が低い。中途採用市場も小さく、高学歴の女性ほど、希望に沿う業務や賃金の正規雇用の仕事を見つけにくい。欧米ならすぐに採用されるような女性が能力を発揮できないのは損失だ」と指摘する。

L字カーブの一因として、日本企業特有の「メンバーシップ型雇用」を挙げるのは、本田一成・武庫川女子大教授だ。
日本の典型的な会社員は、定期異動によって社内で様々な業務を経験し、勤続年数に応じて賃金が上がっていく。安定した雇用や賃金と引き換えに、長時間労働や転勤を受け入れるなど、企業の良きメンバーに徹していく。
メンバーにとどまるため、男性はハードな長時間労働をこなすが、早く帰宅して家事や育児をすることはできない。一方、家事や育児を担う女性の多くは、ハードな働き方はできないためにメンバーにとどまれず、退職や非正規雇用への移行を選ばざるを得ない。性別役割分担意識の強い日本では、「男性は仕事、女性は家庭」というあり方が受け入れられやすい土壌もあった。国も、会社員らの配偶者が保険料を払わなくても基礎年金を受け取れる「第3号被保険者」制度などを導入し、働く男性社員を支える妻の役割に報いた。
本田教授は「現状だと、メンバーにとどまれるのは、長時間労働をいとわない『M(Male=男性)型』の働き方ができる社員しかいない」と指摘。「生活に重点を置いた『F(Female=女性)型』の働き方をM型に取り入れ、男女とも家事や育児を担いながら働けるようにしてL字カーブを解消するべきだ」と強調する。

女性が正規雇用で働き続けられるようにして、L字カーブを解消するためには、どのような取り組みが必要なのだろうか。
正社員の女性が退職する原因の一つが、長時間労働に加えて、家事・育児の負担が女性に偏り過ぎていることだ。21年の社会生活基本調査によると、女性の家事や育児の時間は1日約7時間半にも及ぶが、男性は2時間に満たない。大和総研の高須百華研究員は「負担の重さから、正社員を辞めたり、働き方の柔軟性が高い非正規雇用を選んだりするようになる。長時間労働が前提の働き方を見直し、フレックスタイム制度の導入などで働く時間を自由にするなど、夫婦とも家事・育児の時間を取れる働き方改革が必要だ」と語る。
「キャリアにつながる責任ある仕事を任せ、『目標を達成できたかどうか』を基準に、時間当たりの生産性を評価するなど、育児中の女性でも昇進できる制度が必要だ」と訴えるのは、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの矢島洋子主席研究員だ。任せる仕事の質は変えずに量を調整することで、「ライフ」だけでなく「ワーク」を充実させることも、働き続ける意欲を持つには欠かせない・・・

室田哲男著『危機管理法制の可能性』

2026年8月3日   岡本全勝

室田哲男著『危機管理法制の可能性』(2026年、信山社)を紹介します。著者は、元総務省の官僚、現在は政策研究大学院大学教授です。

東日本大震災以降の災害対応や危機管理の実務経験を踏まえ、その後の危機管理法制研究の成果をまとめたものです。災害、感染症、国民保護などの危機管理法制を横断的に比較・分析し、それぞれの制度の特徴や課題を整理するとともに、危機管理法制全体の実効性向上に向けた方向性を考察しています。

我が国の危機管理は、近年急速に充実してきました。私も英文の『Public Administration in Japan』(2024年、Palgrave Macmillan)で強調しました。ところが、危機と言っても多種多様で、危機管理も異なります。それぞれに書かれたものはあるのですが、それら全体を横断的に見た本は少ないです。また、実務が変化するので、それを追いかける必要があります。研究としても、労力と分析視点が必要なのです。

これらの危機管理の多くは、地方自治体が担います。自治体関係者に有用です。お勧めします。

川内村、震災復興策効果を検証

2026年8月2日   岡本全勝

7月18日の日経新聞夕刊に「福島県川内村、震災復興策の効果を独自検証 「工業団地は不十分」」が載っていました。
自己検証は、「勇気ある行動」だと思います。誰でもどの組織でも、自らやったことを評価する、しかも「不十分だった」と認めることは、めったにできることではありません。
役所には、企業と違う「制約」「困難さ」があります。企業では、新しい商品やサービスが期待通りに売れないことはしばしばあります。「絶対に売れる」という商品はなく、リスクを冒さないと成功しません。少々の失敗は織り込み済みです。ところが役所では「財源は税金」なので、「失敗は許さない」という風潮があります。「それは絶対成功しますか」と問われれば「はい」と言えるようなことはまずあり得ません。「考えられる対策は取りましたが、絶対成功するとは言えません。しかし、今これに取り組まないと、村は発展せず、住民も困ります」という答えを許してほしいです。特に川内村などは条件不利地域です。挑戦しない限り、衰退します。

・・・福島県川内村は、東日本大震災や東京電力福島第1原子力発電所事故からの復興事業を独自に検証した。補助金など主に国の支援を受け約538億円をかけた取り組みを職員らが振り返った。被災地の街では異例の作業で、工業団地の整備を「期待した効果が上がらなかった」とした。

震災前に3000人強の住民がいたが、原発事故を受けて村全体に避難が求められた。それでも周りの自治体の中では最も早く、1年ほど後の2012年には住民の帰還が始まっている。
「財源のほとんどが税金で、当初に期待した効果が出たのか国民や関係者に伝える責務がある」。2日に記者会見した遠藤雄幸村長は点検の狙いをこう話した。
検証は副村長が委員長となり、課長級の職員ら10人ほどが担った。これまでの約1500の事業を46項目に分類。村独自の除染、公営住宅やワイナリーの建設、医療や教育の施設づくり、高齢者の外出のための乗り合い車両といった大半のプロジェクトを「効果があった」とまとめた。
一方、働き口を得ようと14年から28億円をかけ開発を始めた田ノ入工業団地は芳しい結果が出ていない。7工区のうち進出を決めた4社のうち1社が建設を中止。1社が倒産した。「復興へのスピード感を優先するあまり企業についての情報を得るのに甘さがあった」(遠藤氏)

今回の検証を踏まえ、すでに終わった11事業を除く34の事業はすべて続けると決めた。
一方で事業の経済効果について詳しい計算は資料に乏しい。議論の記録も公表も見送った。「職員個々の考えについても記載がある。自身や先輩が取り組んだ事業を振り返ることに心理的な抵抗もあった」。遠藤氏の説明には最前線で悩んだ職員の胸の内が垣間見える。
「84点」。遠藤氏は会見で復興事業の採点を問われ言葉を探したうえで、避難した住民の帰還率からこう答えた。災害復興の物差しは何か。厳しい経験から15年後の作業が、投げかけているようだ・・・

東京一極集中「学」の勧め

2026年7月30日   岡本全勝

これだけ長く指摘されながら、一向に改善されない東京一極集中。ふと考えてみると、専門的に考える役所や大学はあるのでしょうか。政府も国民も、この問題に真摯に取り組んでいるとは思えません。

私は、世界で競合するために、東京がある程度の規模が必要だと考えます。ニューヨーク、ロンドン、パリ、上海などが、競合相手です。しかし、これだけもの規模が必要なのか。なぜ、他の都市は、人口が減るのか。日本の他の地域が人口減少する中で、東京に集中し続けることは、よくないのではないか。通勤地獄も、長距離通勤も、住居費の高騰も、東京一極集中が加速しています。「コメントライナー」への寄稿「少子化対策、産業界の責任」」にも書きましたが、共働き夫婦には、暮らしにくい町です。

何が東京に人や企業を吸い寄せるのか。何をすれば、東京一極集中が止まるのか。それらを、専門的に考えるべきだと思うのです。
一つの観点は、企業の東京集中でしょう。ウィキペディア「首都圏へ本社機能を移転させた主な企業一覧」。かつて「商都」と呼ばれた大阪から、日本を代表する企業が、東京に本社を移しました。大阪府知事と大阪市長の一番の仕事は、大阪・関西経済を復興させることだと思うのですが。
東京一極集中は、政府の政策で進めたものではありません。逆に地方移転を進めているのですが、効果が上がっていません。経済界が、この問題に取り組んでくれないでしょうか。

大阪市と大阪府が取り組まなければならない一番の課題は、大阪の復活、関西経済の復権だと思います。行政改革を進めても、市民と府民は豊かになりません。もう一度、プライドを取り戻してほしいです。阪神タイガース復活ぶりを見習ってほしいものです。

私も奈良の田舎から出てきて、東京に居続けているので、東京一極集中をあまり批判はできないのですが。