カテゴリーアーカイブ:行政

新型コロナ対策、専門家の提言

2023年10月23日   岡本全勝

10月11日の朝日新聞、尾身茂氏に聞く、コロナ提言づくりの裏」「「ここは学会じゃない」何回か言った」から。

コロナ禍で100以上の提言を発表した専門家集団。とりまとめ役を担った尾身茂氏が提言づくりの内幕を描いた新著を先月出版した。尾身氏はインタビューで「我々の提言が完璧とは思っていない」と述べ、提言内容が妥当だったのか検証が必要との考えを示した。

――2020年5月8日、最初の緊急事態宣言の解除の条件を議論する勉強会で、「一体何を考えているんだ」と声を荒らげたと書いています。
ある程度、客観的な解除の目安を作ることは、勉強会の4日前に政府の基本的対処方針等諮問委員会で合意していた。
でも、勉強会には委員会のメンバーでない人もいる。自分の専門領域のことが当然頭にある。だから、「感染がゼロになってから解除するべきだ」とか「宣言は1~2年継続するべきだ」という意見が出た。
私は「何を考えているのか」と思った。そもそも、緊急事態宣言を出すときの記者会見で三つの理由を示した。(1)感染が拡大して、(2)医療が逼迫(ひっぱく)し、(3)クラスター対策が出来なくなっている。宣言を出した理由がなくなれば、解除は当たり前と思っていた。

――「ここは学会ではない」と言ったこともあったそうですね。
我々の最大の仕事は、政府に提言することだ。提言は直接的、間接的に国民生活に影響する。だから、研究者には酷なことだと十分わかっていたが、厳密なエビデンス(科学的根拠)がないから何も言えないのであれば、専門家の存在理由がなくなる。「ここは学会じゃない」「専門家としての判断や考えを言うことが必要だ」と何回か言ったと思う。
提言をつくる過程で正解はない。合理的で、人々に理解してもらえる内容に落とし込むのは、そう簡単ではない。専門家といえども、専門性や価値観、経験が違うから、考え方も違う。それぞれの意見をぶつけ合うことでしか、提言をまとめることはできなかった。
提言をつくる過程の、時に激しいやり取りを知ってもらうことで、新しい専門家の助言組織に少しでも参考にしてもらいたいという思いがある。

民間委託、企業と非営利団体との違い

2023年10月20日   岡本全勝

ダイバーシティ研究所メールマガジンVol.185(2023/10/20発行)、田村太郎さんの発言から。

・・・阪神・淡路大震災をきっかけに市民活動が法人格を得て契約の主体となって行政や企業とともに公共の担い手となることへの関心が高まり、1998年にNPO法が成立、施行しました。その後NPOと行政との「協働」が叫ばれ、委託契約を結んで公共のNPOは増えました。加藤哲夫さんはNPOが行政から委託を受けて仕事をすることは「自治の取り戻し」であるとよくおっしゃっていました。これまでは行政に公共の仕事を委託していたが、これからは当事者性と専門性の高い市民が自ら地域の課題を治めていくのだ、民間企業への委託とNPOへの委託はそもそも意味が異なる、コストを下げるための委託ではなく、これまで行政に委ねてきた自治を取り戻すプロセスなのだと。

ダイバーシティ社会を推進する上で、この「自治の取り戻し」という発想はとても重要です。行政のしくみは市民が納めた税をもとに同じ施策を公平に分配するには優れていますが、ひとりひとりのニーズに合った施策を提供するには不向きです。専門性に加え、当事者性の高いNPOが質の高い取り組みを行ってこそ、人の多様性に配慮のある社会を形成することができます。NPO法の成立・施行から25年が経ちましたが、現状はどうでしょうか。

私は自治を取り戻す装置としてのNPOの機能はこのところ後退しているように感じます。景気の後退で民間の企業も行政からの委託に次々と参入し、当事者性はおろか、専門性も低いところが価格だけで委託契約を落札していく事例が各地で起きています。阪神・淡路大震災で発見した市民活動の重要性と、自治を取り戻す装置としてのNPOの機能を改めて見つめ直し、ちがいを認め合い誰もが活躍できる社会の再構築に臨まなければならない。8月末の仙台での熱い議論から、そんな思いを新たにしました・・・

企業への委託は、「協働」とは言いませんよね。

「首相補佐官・岡本行夫の記録」

2023年10月20日   岡本全勝

朝日新聞に「首相補佐官・岡本行夫の記録」が連載されています。第2回「サミット誘致、移設前進にらみ 官房長官の名護訪問「是非実現」」(10月5日掲載)が、興味深いです。沖縄の地元の人たちと官邸との両方に信頼関係を作り、難しい問題を望ましい着地点に持って行く。その脚本を書くのです。

・・・ところが11月の知事選で保守系新顔の稲嶺恵一氏が大田氏を破ると、岡本氏は12月7日付の文書で「サミット誘致を取り付ければ再来年の夏までは沖縄が燃え上がる。完全に稲嶺時代を築ける」と強調。2000年に日本で開かれる主要8カ国首脳会議(G8サミット)の沖縄開催を稲嶺氏が率先して政府に要請するべきだと説いた。
文書の送り先は外務省から県庁の知事公室参事に出向していた山田文比古・名古屋外国語大学教授(69)。沖縄サミットは岡本氏の持論で、山田氏も大田県政の頃から誘致責任者を務め、ともに稲嶺県政誕生を転機とみていた。
岡本氏の提案で「サミット誘致県民会議」が実現。
99年4月に小渕内閣がサミット開催地を沖縄に決定。稲嶺氏は11月に普天間飛行場の県内移設を条件付きで認め、政府の方針に沿って候補地を名護市の辺野古沿岸と表明した・・・

・・・政府は12月17日、名護市を含む県北部振興や、普天間飛行場の代替施設の使用協定を名護市と結ぶ方針を表明。岡本氏はその夜、市内のホテルで岸本建男市長と約3時間懇談した。就任2年近くの岸本氏は移設問題への態度をまだ明確にしていなかった。
この懇談の概要を記す岡本氏の文書がある。12月20日付で古川貞二郎官房副長官宛て。岸本氏は「本日の決定には心から感謝。特に使用協定締結の約束には感激した」と述べ、「反対派の巻き返しの力は侮れない。市民を一つにまとめなければいけない」とし、青木幹雄官房長官が名護市を訪れ政府方針を説明するよう求めた。
岡本氏は文書の最後で「普天間移設問題は最も重要な場面を迎えている」と指摘。「(沖縄への根回しが不十分だった)普天間移設の出発点でのボタンのかけ違えを始め、こじれた例は数知れない。『官房長官の(県)北部訪問を受けての市長受け入れ声明』の形は是非(ぜひ)とも実現させていただきたい」と求めた。
岡本、岸本両氏の懇談から9日後に青木氏は名護に入り、岸本氏は翌日に条件付きで移設容認を表明。懇談に市企画部長として同席した末松文信県議(75)は「市長の表明に至るまで、岡本さんと丁寧にスケジュールを組んだ」と話す・・・

岡本正著『災害復興法学Ⅲ』

2023年10月19日   岡本全勝

岡本正著『災害復興法学Ⅲ』(2023年、慶應義塾大学出版会)を紹介します。著者は、東日本大震災以来、被災者支援と被災地復興に携わった経験から、災害復興法学の分野を切り開いた第一人者です。その著作、第3弾です。
新著には、新型コロナウイルス感染症、異常気象という最新の大災害が取り上げられています。内容も分厚く、その執筆ぶりに脱帽します。

かつては災害に関する法律は、政府の側に立った災害対策基本法や災害救助法、国庫負担法などしかありませんでした。「天災だから、あきらめるしかない」という思想がありました。阪神淡路大震災や東日本大震災の経験から、被災者の生活を支援すべきだという考え方が広がりました。そして、被災者の生活を保障することが、当然のこととなったのです。
紹介文には、「災害復興法学は、医療、看護、福祉、公衆衛生、公共政策、事業継続、リスクマネジメント、メディア等の様々な分野と連携しながら、学校教育、社会教育、生涯学習、金融教育、主権者教育、消費者教育、防災教育として、あなたの傍にある」と書かれています。

被災者と向き合う市町村役場職員には、有用な本です。
著者は「法学法律学としては全く事前知識は無用であり、社会人の皆様なら全く難なく読めてしまうと思います」と言っておられます。

最低賃金と知事の関わり

2023年10月18日   岡本全勝

何度か取り上げている最低賃金の決定過程についてです。「最低賃金審議の一部公開が広がったが・・

10月4日の日経新聞が、「最賃1000円の宿題(上)」で「最低賃金、1円の上げ幅競う自治体」を伝えていました。そこに、次のような話が紹介されています。
・・・茨城県で審議会がまとめた答申額は国の目安より2円多い42円の引き上げだったが、大井川和彦知事は「最低賃金で働く人は、茨城という地で苦しんでいる」と訴えて公開質問状を突きつけた。それでも42円上げの決定は変わらず、「妥当な見解として受け入れることはできない」(大井川氏)と不満を募らせる。
福井県の杉本達治知事は8月上旬、自ら「議場」に乗り込んだ。最低賃金を決める審議会を開く福井労働局に出向き、審議会長らに「積極的な引き上げを」と申し入れた。審議は労使の代表者による直接交渉が原則で、知事が現れたのは異例だ・・・

私が何度か指摘しているように、地域ごとの最低賃金を、国の出先の審議会が決めて、県知事や県議会が関与できないのです。早くこの決定過程を変えて、知事や議会が決めるようにすべきです。