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最低賃金50円引き上げ

2024年8月8日   岡本全勝

厚生労働省の中央最低賃金審議会が7月25日に最低賃金(時給)を全国加重平均で50円(5%)増の1054円とする目安を決定しました。
26日の朝日新聞に「官邸、こだわった5% 最低賃金1054円、過去最高50円上げ決定」が載っていました。
・・・過去最高の引き上げ幅に至る攻防には、「物価を上回る賃金」を掲げ、物価高の影響を差し引いた「実質賃金」のプラス転換を図る岸田文雄政権の強い意向があった。議論の舞台は地方に移るが、影響が大きい中小零細企業からは悲鳴も上がる。

「今回の力強い引き上げを歓迎したい」。岸田首相は25日、記者団にこう述べた。官邸関係者は「やはり5%という数字はインパクトがある」と満足そうに語った。
賃金の伸びが物価上昇に追いつかず、生活実感に近い実質賃金は過去最長の26カ月連続でマイナスに沈む。政権は、実質賃金のプラス転換を後押しする残された手段として、最低賃金を重視した。
今年6月の骨太の方針には「2030年代半ばまでの早い時期に全国加重平均1500円を目指す」と明記。実現には毎年3・5%程度の引き上げが必要な計算で、今回は目標を掲げてから初の議論でもあった。
政府は最低賃金の目安を決める中央審議会の運営には中立的な立場だが、6月の初会合から、大幅アップを求める強いメッセージを出した・・・

何度か書いているように、最低賃金を審議会で決めることがおかしいのです。内閣が責任を持って決定すべきです。審議会に委ねて、首相が人ごとのような発言をすることは変だと思いませんか。インフレ率を2%にする目標を掲げたことがありますが、それなら同時に最低賃金を2%以上挙げることとしなければ、実質賃金は目減りします。「最低賃金決定に見る政治の役割

26日の日経新聞は「最低賃金 世界の背中遠く」を解説していました。
・・・とはいえ、上昇率は、諸外国に比べれば決して高くはない。インフレ対応でドイツは22年10月、法定最低賃金を14.8%引き上げた。英国は24年4月、21歳以上を対象に最低賃金を9.8%上げた。
世界のなかで、日本の最低賃金の水準は大きく見劣りする。内閣府が24年2月公表の「日本経済レポート(2023年度)」で示した、経済協力開発機構(OECD)のデータをもとにした分析によると、22年のフルタイム労働者の賃金中央値に対する最低賃金の比率は日本の場合、45.6%。フランス、韓国(いずれも60.9%)、英国(58.0%)、ドイツ(52.6%)を下回る。

最低賃金法第1条は、最低賃金の目的として「労働者の生活の安定」を掲げる。しかし労働者の間には、その目的を果たせる金額に最低賃金が設定されているのかという疑問がある。
23年度の大阪地方最低賃金審議会では、労働者代表委員から、「大阪府最低賃金は昨年(22年)1000円を超えたが、年間2000時間働いても200万円にしかならず、いわゆるワーキングプアの水準」という声があがった。長時間働いても低収入にとどまる現状の是正を訴えた・・・

・・・欧州連合(EU)は22年10月に最低賃金指令案を採択。加盟国に、最低賃金を賃金中央値の60%以上とすることを目安に制度設計するよう求める。英国も賃金中央値に対する最低賃金の比率を6割に高める目標を掲げ、その後、3分の2への引き上げに上方修正した。
日本も最低賃金の引き上げに向けた明確な考え方や方針を示し、それに裏打ちされた目標を再設定する必要があるのではないか。最低賃金政策の背骨の部分だ。

引き上げ幅を議論する国や都道府県の審議会で、エビデンス(科学的根拠)重視が十分に浸透していない点も問題だ。
消費者物価、企業収益の動向や春の賃上げ率、雇用情勢など、各種の経済データを踏まえた議論が、数年前に比べれば審議会で増え始めた空気は感じられる。
しかし、学識者ら公益委員が労使間の調整作業に煩わされ、落としどころを探って上げ幅を詰めていくという日本的なやり方はいまだに根強く残る・・・

制度改革の前に実態対応

2024年8月5日   岡本全勝

仕組みの解説と機能の評価3」の続きにもなります。
連載「公共を創る」の主題は、日本社会が成熟し、行政の課題が大きく変化していること、それに日本の官僚制が追いついていないことです。ところが、実態は私の想定をはるかに超えて、変化しています。議論の前提としていた実態が変わり、政策や制度を変える議論では対応しきれない事態が出てきています。

例えば、地方自治制度です。地方自治法がその基本を定めています。社会の変化に沿って、制度改正を重ねてきました。大きなところでは、分権改革です。ところが、住民が減少して、自治体の存続が危ぶまれる地域が出てきました。高齢者が多く少人数では、行政サービスも提供できません。自治体がなくなれば、自治制度論どころではありません。

もう一つは、公務員制度です。これまでも、そして今でも、公務員制度改革や育成手法が主張されます。ところが、労働市場と職場の実態が大きく変わりつつあります。一つは職員が集まらないことで、もう一つは早期に退職する職員が増えたことです。国の役所や自治体は、あの手この手で職員を集めていますが、埋まらない職種もあるようです。まずは職員を集めなければ、仕事は進まず、育成どころではありません。
長期間続けてきた行政改革で、国も地方も職員を減らしてきました。その影響で、現場が疲弊しています。そのうえに、定数通りの職員数が集まらないと、さらに現場は人が足りなくなります。

制度改革議論の前提が変わり、これまでの制度論の延長では対応できません。コペルニクス的転回とも言えます。もっとも、少子高齢化はずっと以前から予想されていたので、現実的にならないと気がつかないとも言えます。

官僚長時間労働の原因、国会審議の答弁書作成

2024年8月5日   岡本全勝

7月24日の朝日新聞に、「やめられないのか、答弁書 官僚激務「ブラック霞が関」」が載っていました。
・・・長時間労働が常態化し、「ブラック霞が関」と呼ばれる官僚の働き方。最大の原因は、国会審議の答弁書の作成とされる。しかし、そもそも政治家が質問を政府側に事前通告し、官僚が作った答弁書を閣僚が読み上げるという国会審議のあり方に問題はないのか・・・

・・・国会審議では長らく官僚が事前に議員から質問内容を聞き取る質問取りをし、通告内容を元に答弁書を用意することが常態化。内閣人事局が官僚の働き方を調査したところ、今年の通常国会中(2月5日~3月31日)、官僚が答弁を作り終えた時刻の平均は、委員会当日の午前0時48分。与野党は、官僚の負担軽減のため通告は「委員会2日前の正午まで」と申し合わせているが、ほぼ守られていない。委員会の2日前までに質問が通告されたのは1260件(50・4%)で、前日午後6時以降の通告は173件(6・9%)あった。
長時間労働が問題になる官僚の働き方は「ブラック霞が関」と呼ばれ、官僚離れが進む。官僚による答弁書作成はその最大の原因とされる。

しかし、参議院規則第103条は「会議においては、文書を朗読することができない。但(ただ)し、引証又(また)は報告のためにする簡単な文書は、この限りでない」と規定。原則的に文書の「朗読」は禁じられており、衆議院規則でも似たようなルールがある。にもかかわらず官僚任せの答弁はいつから始まったのか。
終戦直後、衆参本会議では議員同士が自由に意見を述べる「自由討議」が設けられた。田中角栄氏が「明朗なる政治、すなわちガラス箱の中での民主政治の発達助長に資すること大なり」と演説した。だが1955年の国会法改正で規定が削除。自民党一党優位による「55年体制」以降、官僚作成の答弁を読み上げる形式が定着していく。

原因の一つが自民党の「事前審査制」の導入だ。法案は自民党内で議論、了承を得たうえで、国会に提出されるようになった。学習院大学の野中尚人教授(比較政治)は「与党が国会論戦を回避するための仕組みで審議が形骸化した。国会は野党の抵抗の中で、与党が事前に党内で決めたものをただ追認する場となった」。
ただ、過去には官僚答弁からの脱却をめざす動きもあった。98年には、小沢一郎氏率いる自由党(当時)が、自民党と連立政権を組む条件として、閣僚に指示された官僚が答弁を担う政府委員制度の廃止を主張し、その後に実現。党首討論も導入された。
2009年に誕生した民主党政権も「政治主導」を掲げて答弁のあり方を見直そうとし、質問取りは政治家である政務官が担うとした。だが政権発足から1カ月ほどで平野博文官房長官(当時)が官僚に質問取りを要請したことが発覚。民主党政権は短命に終わって次の政権交代可能な政治状況が作られなかったこともあり、再び官僚任せの答弁は定着した。

一方、欧州諸国の議会は日本と異なる。日本と同じ議院内閣制の英国(下院)では、首相との討論では質問の事前通告はなく、閣僚への質問では通告不要の補充質問が認められている。フランスでも首相や閣僚に対する口頭質問では事前通告しない・・・

千代田区、複数職員で議員対応

2024年8月4日   岡本全勝

7月31日の読売新聞夕刊に「千代田区が官製談合受け再発防止策「複数職員で議員対応」」が載っていました。

・・・東京都千代田区の発注工事を巡り、区議が職員から聞き出した入札情報を漏らした見返りに業者から賄賂を受け取っていた事件を受け、同区が設置した検討委員会は、複数の職員で議員への対応に当たるなどの再発防止策をまとめた・・・

・・・職員へのアンケートでは、過去5年以内に議員や元議員から公表前の予定価格などの情報提供を求められた職員が部長級の幹部で13・6%に上ることが判明。議員から大声で罵倒されたり、依頼を断ると「お前の人事異動がどうなっても知らない」と威圧されたりするなど、議員によるハラスメントの実態も浮かび上がった。
再発防止策をまとめた報告書では、事件の背景について「議員と良好な関係を構築し円滑な議会運営に貢献したい職員の思いが、適切な判断を誤らせ、非違行為につながった可能性が高い」と指摘。議員に対する職員の行動基準として、「複数職員での対応」「対応記録の徹底」「議員など部外者の執務室立ち入り禁止」などを盛り込んだ・・・
千代田区の発表

地方創生10年

2024年8月2日   岡本全勝

7月18日の朝日新聞に「地方創生、夢の跡 提唱10年、東京一極集中変えられず 交付金、計1.3兆円」が載っていました。

・・・第2次安倍政権が「地方創生」を打ち出してから10年。東京一極集中に歯止めをかけ、人口減少を食い止めようと、これまで約1・3兆円を自治体に配ったが、政府は6月の報告書で「大きな流れを変えるには至っていない」と結論づけた。今後の戦略も描けておらず、「地方創生」の旗印は行き場を失っている。

地方創生は、第2次安倍政権が2014年に新たな成長戦略の目玉として掲げた。異次元の金融緩和で大幅な株高が実現し、富裕層を中心に恩恵が広がっていた時期だ。翌年春に控えていた統一地方選をにらみ、「アベノミクス」の果実を地方に波及させる姿勢を打ち出す狙いがあった。
政府は、地方創生の司令塔となる「まち・ひと・しごと創生本部」を設置。雇用創出や移住などを基本目標にする「総合戦略」を14年12月に閣議決定し、自治体にも数値目標を盛り込んだ地方版の総合戦略をつくるよう求めた。それに応じて新たに創設した「地方創生推進交付金」を配った。

ただ、成果は乏しい。例えば、東京一極集中の是正をめぐり、政府は生活コストの高い東京への人口集中は少子化につながるとみて、東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県)から地方への転出増を重要目標の一つに掲げた。しかし、政府がまとめた報告書によると、23年の東京圏への転入数は転出数を11・5万人上回り、14年時点の10・9万人より増えた。報告書は「国全体でみたときに人口減少や東京圏への一極集中などの大きな流れを変えるには至っていない」と認める。当時より人口が増えている自治体についても「多くは移住者の増加による『社会増』にとどまっており、地域間での『人口の奪い合い』になっている」と指摘した・・・