カテゴリーアーカイブ:行政

覇権国家イギリスを作った仕組み

2014年7月27日   岡本全勝

近藤和彦著『イギリス史10講』(2013年、岩波新書)が、とても面白く、勉強になります。昨年出版されたとき、私はその表題を見て、「エピソードの羅列かな。いずれ読もう」としか考えていませんでした。大きな間違いでした、失礼しました。
先日紹介したように、先生は、グローバル化をきわめて簡潔に説明するとともに、世界史が20世紀に入って書き直されたことも簡潔に説明しておられます(2014年7月6日の記述)。
特に、17世紀以降の分析がすばらしいです。イギリスが、社会の課題や亀裂を、どのようにして解決していったか。それが、遅れた小さな島国を、政治経済の先進国、世界帝国に持ち上げるのです。勉強になる点を、いくつか紹介します。

1 その前段として、イギリスは複合的な社会です。日本と同様、大陸から適度の距離のある島国であり、歴史も古いです。しかし、はるかに複合的な社会です。この指摘も、目から鱗です。古くは地理的にはアイルランドやスコットランド、社会的には階級、新しくは植民地からの移民の流入など、いくつもの亀裂があります。それを統合する努力が必要なのです。それが、「社会を作る努力」や「政治」を作ります。これは、アメリカ合衆国にも当てはまります。
・・じつはブリテン諸島の住民は、有史以来、多民族からなっていた。イギリスという国の連邦制と社会の複合性には歴史があって、それを反映して、人々の顔立ちも国土の景観も変容をこうむってきた。イギリス人は過去と現在ばかりでなく将来にわたって、連邦制、複合性、多様性を守り続けるだろう。本書の課題の一つは、これを歴史的に説明することにある・・(p9)
・・こうしたもろもろの結果として、イギリスは複合社会である。ロンドンやグラスゴーの街角に立ってみれば、このことは紛いようもない。イギリスには、「単一民族国家」や「一にして不可分の共和国」といったものとは異なる政治社会が成り立ち、今日、さらに多様性(ダイヴァーシティ)の促進が唱えられている。その政治社会はコスモポリタンだが、国家と個人とのあいだに「民間公共社会」ともいうべき要素がしっかり根付いている・・p9

2 そして、近世になって、議会が社会の課題や亀裂を解決する役割を担います。
それが、イギリスにおいて産業革命から覇権国家を生んだことの分析になっています。当時のイギリスの指導者達は、そのような結果を見通してはいなかったのでしょうが、社会の統合と安定、地域の統合、自由な市場経済を支える仕組みが、他国より早く整ったのです。
・・議会という統治機関、交渉と合意の闘技場は、17世紀の経験を経て国民的=全国的な意志の決定機関として展開する。1689年以来、毎年開かれる議会では、国制、税制、外交、予算、決算といった大きな問題ばかりでなく、ローカルな請願により囲い込み、農漁業の助成、特定産業の保護規制、鉱山、運河、都市空間の整備、公益団体の設立などを審議した。議員は、与野党に分かれて地元や利害関係者のロビーイングをうけ、立法によって議会の、すなわち国民の意志を決した・・p158
この項続く

政党の構図、2

2014年7月19日   岡本全勝

7月9日の朝日新聞オピニオン欄、「政党政治を問い直す」の続き。広井良典・千葉大教授の発言から。
・・枝葉を取り払って言うならば、成熟社会の政党構造は、「3大政党プラス緑」に接近するのではないか。
3大政党とは、保守主義政党、自由主義政党、社会民主主義的政党だ。それぞれ「伝統的な家族や共同体」(共助)、「市場経済」(自助)、「政府など公的部門」(公助)の役割を重視する・・
広井さんの発言も、興味深いです。「社会を支える3つの次元、あるいは負担方法が、政治の対立軸になるのではないか」という見立てです。確かに、西欧各国の歴史や現在の政治でも、大きく見るとこのような構図になっています。
3つの経済主体、官共私三元論については、『新地方自治入門』p216で説明しました。
社会を支える基本構図なので、この3つの対立が政党の構図に持ち込まれることは、納得できます。ただし、この3つの要素は3つとも必要で、どれか1つというわけにはいきません。時代とテーマによって割合を変えつつ、鼎立しています。
哲学・政治思想として、どれかに重きを置くことになりますが、個別のテーマごとに、そう簡単に割り切れない場合もあります。
ところで、政党の構図がはっきりする、対立が明確になるためには、一つの政党が主義主張を明確にするだけでは、成り立ちません。まず、相手=敵が必要です。「反自民」は自民党があり、それへの対抗として成り立ちます。
しかし、野党が政権を取ると、「反自民」だけでは主義主張になりません。一つの体系として、政策を示さなければなりません。「反××」では、国民に対して、選択する政策群を提示したことになりません。それでは相手の土俵で戦っているのです。
野党としては、政権党が提示する政策への反論をするだけでなく、自らが政策課題を取り上げる必要があります。そして、政権党をその土俵に上らせなければ、対立軸を示したことにならず、有利な戦いにはなりません。

政党の構図

2014年7月17日   岡本全勝

7月9日の朝日新聞オピニオン欄、「政党政治を問い直す」、萱野稔人・津田塾大教授の発言から。
・・政党とは本来、政策を競うものだ。そうよく言われる。しかしこれからの時代、それを素直に自明視することはできない。
なぜなら政策を実行するには財源が必要だからだ。社会保障の拡充にしても、景気対策にしても、あるいは防衛力の強化にしても、その点は同じである。
政党が政策を競うということは、したがって財源を奪い合うということである・・
・・少子高齢化のもとでそうした集団による競争がおこなわれれば、希少なパイの奪い合いになり、いきおい既存のパイでは足りなくなるだろう。足りないパイは政府が借金をして、将来世代にツケをまわすしかない。政党間の競争は将来世代のパイまで奪い合う事態をもたらしている・・

政党は、近代民主主義国家にとって、必要不可欠です(なのに、日本国憲法には、規定がないのですが)。
国会などの場で、多様な国民の意見や利害を代表する、あるいは集約するには、政党が必要です。有権者の支持を集めるために、社会のある利益集団(利益層)を代表するか、意見を同じくする人たちを代表することになります。
社会に、利益や意見の明らかな対立があると、政党の配置はわかりやすくなります。ごく簡単に言うと、近代先進国では、地主、企業家、労働者、その他のホワイトカラー、あるいは軍人が、母集団になりました。税金をどこから取るか、関税や補助金などで既存産業を保護するか、労働者の利益を保護するか企業家の利益を優先するかなどです。
どのような社会をつくるかの意見の違いも、そこから出てきます。資本主義で行くのか、社会主義に進むのか。東西冷戦を背景に、第2次大戦後の保守対革新は、この争いでした。もっとも、戦後日本においては、保守政党(と呼ばれる政党)が改革を提唱し、革新政党(を自称する政党)が「憲法を守れ」に代表されるように保守を提唱しました。
さて、そのような「呼称と実態のズレ」を別にして、現在の日本において、政党の構図がいまいちわかりにくい。また、2大政党制を目指したのにそうなっていないことの背景には、国民の間の利害対立が明確なっていないことがあります。経営者の多くがサラリーマンになり、資本家対労働者の対立は、明確でなくなりました。市場経済主義対共産主義(=自由主義対一党独裁)も、勝負がつきました。
私は、日本においては、都会対地方や高齢者対若者が利害対立の軸、そして政党の対立になるのではないかと思っていました。前者については、東京一極集中が進み、政治的には成り立ちにくくなりました。後者については、年金や医療費の財政負担において、今なお存在理由を失っていないと考えています。

萱野さんの発言は、なるほどと思います。対立軸は、何に予算をつけるかでなく、誰が負担するかになっているのです。しかし、それはあまりに露骨で、夢がありません。政党が有権者に売る「商品」としては魅力がなく、正面からは打ち出しにくいです。政策の販売戦略としては、「○○に予算をつけますよ」と唱え、その負担については言及しない戦法をとるのでしょう。それを見抜いた有権者は、「その政策は良いですが、どこから財源を持ってくるのですか」と質問しなければなりません。
政策の販売合戦が実は負担の押しつけ合いだと、国民に見抜かれると、民主主義は難しくなります。民主主義は経済成長のある時代にしか成り立ち得ないのではないかという説を、『新地方自治入門』p301で紹介しました。

男女共同参画が進んでいる分野

2014年7月15日   岡本全勝

朝日新聞連載「患者を生きる」7月13日は、「男性の介護者急増」でした。
・・全国組織「認知症の人と家族の会」(事務局・京都市)の調査では、介護者の男性の割合は1981年は8%だったが、2010年には32%に増えた・・
私は、家庭で介護をしているのは、女性が多いと思っていました。高齢者の介護は、娘や嫁が多いとです。これ自体が、古い思い込みですね。
認知症の介護に関して、この調査によれば、男女の比率は1対2です。妻の介護を夫がし、両親の介護を息子がしているということでしょうか。

大阪の課題とは

2014年7月11日   岡本全勝

今日の放課後は、旧知の関西の方との意見交換会。最近の情勢をお互いの視点から分析した後、関西の課題、10年後の大阪について議論しました。
私は、拙著『新地方自治入門』で、自治体が取り組まなければならない課題を、「役所内の課題」と「地域の課題」に分けて議論しました。行革や分権、役所の効率化は、市役所としては重要な課題です。しかし、住民からすると、暮らしが良くなって「なんぼ」です。自治体の効率化は、その手法なのです。
住民の安心など地域の課題はたくさんありますが、東京から見ると、関西・大阪の課題の第一は、「地盤沈下」をどうするかでしょう。関西復権は、経済界の復権です。東京都知事はそんなことは考えなくても良いのですが、大阪市長と府知事の一番の仕事は、10年後の関西経済の復権です。そしてそれは、役所だけではできません。どのように、経済界、マスコミ、住民を巻き込むかです。そして、4年や5年では出来ません。