カテゴリーアーカイブ:行政

黒江・元防衛次官の回顧談2

2021年6月29日   岡本全勝

かつて紹介した「黒江・元防衛次官の回顧談」。市ヶ谷論壇で、その続きが始まりました。6月22日は「冷戦終結がもたらしたもの (上 )自衛隊の海外派遣」でした。

・・・8年目の役人と言えば防衛庁では若手の部員で、その頃までには役所の仕事の基本的な考え方を一通り身につけることとなります。
しかし、当時の私は「陸 自師団の特科 (砲兵)部 隊に配属されている榴弾砲は何 門か。それは何故か」とか「自衛隊は憲法上何が出来ないのか」あるいは「陸自部隊の駐屯地と分屯地の違いは何か」とかについてはスラスラ答えることが出来ましたが、戦略的な課題 については全く考えたことがありませんでした。

これはもちろん私 自身のセンスの問題ではありましたが、防衛庁の実務がなべて内向きだつたことも一因だつたように感じます。運用課 に勤務していた頃、出向先の外務省から帰つて来た先輩が「外務省は有事官庁だからなあ。それに比べて防衛庁は・・・」とばやくのを聞いたことがありました。外務省は、常に変化を続 ける国際情勢 にリアルタイムで対応 しなければなりません。また、経済官庁も日々動いている経済を相手に仕事をしています。

これに対し当時の防衛庁の仕事は、予算の獲得や 自衛 隊の行動などに対するネガティブチェック、あるいは国会で問題 とならないような無難な答弁作りなどが中心で、ダイナミズムに欠けるところがありました。このため、陰では政策や戦略に弱い「自衛 隊管理庁」などと椰楡されていました。
冷戦構造が維持されていて 自衛隊の対応が求められるような場面がほとんどなかつた時期 にはそうした仕事ぶりでも良かったのですが、ベルリンの壁が崩れた後はそれでは済まなくなつて行きました・・・

心のサポーター養成事業

2021年6月28日   岡本全勝

6月17日の朝日新聞オピニオン欄「社会季評」、東畑開人・准教授の「心のケア、主役は素人 ささやかな毛を生やそう」から。

・・・ささやかな政策を取り上げたい。巨大な国家からすると砂粒のような政策だ。だけど、そこには私たちの社会のあらゆるところで生じている苦悩が表れている。
「心のサポーター養成事業」のことだ。今年度の予算規模は3千万円弱。厚生労働省の発表によれば、安心して暮らせる地域作りのために「メンタルヘルスやうつ病や不安など精神疾患への正しい知識と理解を持ち、メンタルへルスの問題を抱える家族や同僚等に対する、傾聴を中心とした支援者」を、10年で100万人養成するとのことだが、実際の中身は地域住民に2時間程度のメンタルヘルスの研修を受講してもらうくらいのことだから、正直素人に毛を生やす程度の話だ。だけど、侮っちゃいけない。このささやかな毛がきわめて貴重なのだ。
メンタルヘルスケアというと専門家が特別なことをするイメージがあるかもしれない。だけど、本当の主役は素人だ。実際、私たちが心を病んだとき、最初に対応してくれ、そして最後まで付き合ってくれるのは、専門家ではなく、家族や友人、同僚などの素人たちではないか。

たとえば、最近離婚した同僚の様子がおかしいとき。あなたは彼の受けたダメージを思い、心配になる。だから、気を使い、仕事を分担し、気晴らしに誘う。そうこうしているうちに、彼は少しずつ回復し、気づけば以前のように働けるようになっている。多くの心の危機が、専門家の力なんか借りずに、なんとかやり過ごされていくものなのだ。

ここで働いているのは、古くは哲学者のカントが「世間知」と呼んだものの力だ。つまり、世の中とはどのような場所で、人生にはいかなる酸いと甘いがあるのかについての、ローカルに共有された知のことである。この世間知が、離婚の傷つきや回復のプロセスを想像することを可能にし、必要とされているケアを準備し、コミュニティーに彼の居場所を確保してくれる。素人たちは世間知に基づいて、互いを援助しあう。

と書くと、楽観的過ぎるかもしれない。世間知にはコミュニティーから人を排除する力もあるからだ。例えば、先の離婚の彼が、しばらくたっても回復しなかったらどうか。仕事が滞り、不機嫌が続く。いつもイライラしていて、周りに当たることもある。すると、世間知は彼を持て余し始める。彼は理解できない存在になり、厄介者扱いされるようになる。孤立していく。
そういうとき、専門知が解毒剤になる。「うつ病じゃないか?」。誰かが言いだす。それが視界を少し変える。仕事の滞りやイライラがうつの症状に見えてくる。すると、周囲は彼に医療機関の受診を勧めたり、特別扱いしたりできるようになる。
この素人判断こそが、心のサポーターに生えたささやかな毛だ。うまく専門家につながれば、そこで適切な理解を得ることができるし、すると彼の不機嫌さが悲鳴であったことがわかる。「厄介者」はケアすべき人に変わる。

これが心のサポーターの背景にある「メンタルヘルス・ファーストエイド」の思想だ。心のサポーターとは、専門知を浅く学ぶことで、とりあえずの応急処置や専門家につなぐことを身につけた素人なのである。専門知が世間知の限界を補う・・・

宇野重規教授「民主主義の危機」

2021年6月23日   岡本全勝

6月17日の朝日新聞オピニオン欄、宇野重規・東大教授のインタビュー「民主主義を信じる?」から。
・・・民主主義の危機があちこちで語られている。ポピュリズムの広がり、日本政治の現状、権威主義体制の台頭、巨大プラットフォーム企業の影響の高まり……。背景に様々な動きがある中、政治学者の宇野重規さんに聞いた。危機の本質は何ですか? 本当に危機なのですか? そして、民主主義を信じられますか?・・・

――昨年10月、日本学術会議の会員に推薦されたのに菅義偉首相から任命を拒否されました・・・学問の自由、日本学術会議法の問題として批判されました。民主主義とつながりますか。
「政権が判断の理由を一切説明しなかったことが問題だと考えました。各人が自分の判断や意見の理由を説明するのは、民主主義が機能するための基本的な条件だからです。私個人の任命拒否が妥当かどうかとは別問題です」
「なぜそう考えるか。どんな判断・意見であっても、まずはその理由が示されることで、議論が始まります。今回の問題であれば、政権が理由を明らかにして初めて、世論の側から疑問や批判も生まれる。政権側もさらに応答していく。こうした意見の応酬こそが、民主主義の基盤なのです」
「民主主義は短期的には誤った結論を導き出すこともあります。ただ、多様な意見が示され続ける社会であれば、振り子のように修正がきく。一方今回のように『理由の提示』がない状況では、健全な論争ではなく、臆測と忖度が誘発される。結果的に、言論や学問の自由も損なわれてしまいます」

――ポピュリズムや権威主義体制の台頭も「危機」と言われます。警鐘を鳴らすのは重要ですが、常に「危機だ」と言われると釈然としない部分があります。
「『オオカミ少年』のように見えてしまうということですよね。ただ、私はいま『これまでの危機』とは違う局面にあると考えています。民主主義の基本的な理念の部分が脅かされているのです」
「私たち自身の中に、『平等な個人による参加と責任のシステム』自体を否定する感情が生まれつつある。自分たちが意見を言おうが言うまいが、議論をしようがしなかろうが、答えは決まっている。ならば誰か他の人が決めてくれればそれでいい――そういう諦めの感覚に支配されること。これこそが民主主義の最大の敵であり、脅威だと思います」

おいしくて安全な浪江町の水道水

2021年6月20日   岡本全勝

福島県浪江町の水道水が、国際的な品質評価機関であるモンドセレクションで『金賞』を受賞しました。「町長の言葉

吉田町長は、次のように話しています。
・・・多くの方々が喜んでくださっているのは間違いありませんが、世間の注目度の高さは「風評」の裏返しという部分もあります。
ご承知の通り、水道水の取水場では放射性物質に対する監視を行い「測定限界値未満」であることを監視(24時間365日)していますし、万一、放射性物質が検出された場合は、自動的に弁が閉まる仕組みとなっておりますので、放射性物質が入った水道水が家庭に送られることはありません。(これまでそうした事態が起きた事はありません)
町では、このように安全性を確保し、水道水を提供しています・・・

一部に風評も残りますが、安全な事実の公表を続けて、理解してもらいましょう。

同居孤独死

2021年6月20日   岡本全勝

「同居孤独死」という言葉を、知っていますか。6月13日の日経新聞が、「同居孤独死 3年間で550人」を伝えていました。
・・・家族などの同居者がいるのに死亡後すぐに発見されない「同居孤独死」が、2017~19年に東京23区と大阪市、神戸市で550人を超えたことが分かった。同居者が認知症や寝たきりのため、死亡を周囲に伝えられない例があるほか、介護していた人に先立たれ衰弱死したケースもあった。全国的な調査はなく、実態はさらに深刻な可能性がある・・・

連載「公共を創る」で孤立問題を書いていて、孤独死と、引きこもりの子どもが親が死んでも関係者にそれを伝えないことも、取り上げたのですが。ここで報告されているのは、同居者が認知症であったり、寝たきりや障害を抱えていること、家庭内別居です。このような事態も増えているのですね。近所やその他のつながりがないことが、このような事態を招きます。