カテゴリーアーカイブ:行政

イノベーションに対応できない官僚機構

2021年12月11日   岡本全勝

12月3日の日経新聞連載「ニッポンの統治」、冨山和彦氏の発言「統治構造、変化に対応できず」から。

――なぜ日本の統治が機能不全を起こしているのでしょうか。
「2つの要因がある。一つは明治以来中央省庁の形が変わっていないことだ。縦割りの構造がデジタル化など現代直面する課題とかみ合っていない。規制改革会議でも単独の省庁で完結する規制緩和はほぼ終わったが、省庁をまたいだ改革になると調整に時間を要し、動きが途端に鈍くなる。例えばドローンの規制緩和では5~6の省庁が関わり、改正する関連法令は数十に上るため、決まる頃には時代遅れになる」
「もう一つは霞が関の終身、一括採用モデルへの魅力が薄れている点だ。自分より若い世代からロールモデルが変わり、外資系証券など就職する間口が広がった。崇高な志を持ち、国家の役に立つために、キャリア官僚として40年近く働く必要がないと思われてきている。戦略的に人事を担う内閣人事局の仕組みも悪くはないが、終身雇用とは相性が悪い」

――日本では米国のようなイノベーションが生まれにくくなっているように見えます。こうしたことも統治構造に理由があるのでしょうか。
「日本でイノベーションが生まれにくい理由は、英米との法体系の違いにもあると考える。柔らかく法律を作り、もめた場合は裁判で解決する英米の判例法主義に対し、日本の法文化は法の前提となる規範概念を決めていく実定法主義だ。イノベーションを促すようなこれまで見たこともないものに規範概念を当てはめていくのは難しく、実定法主義に慣れた官僚は対応できない」

一人親の技能習得支援

2021年12月10日   岡本全勝

ひとり親(シングルマザー)の技能習得支援を紹介します。機会があれば応援してください。
一般社団法人日本シングルマザー支援協会が「ICT支援員養成講座」を行っています。シングルマザーにICTの技能を身につけてもらって、就職につなげようとするものです。既に認定試験に合格した人も出ています。課題は、この人たちを雇ってもらうことです。想定されているのは学校現場ですが、シングルマザー支援は、多くの自治体では福祉部門が所管していて、教育部門とはあまり連携が取れていないのです。

取り組みの概要は、次の通りです。「報道資料
ひとりで子育てと仕事の両立をするシングルマザーの困窮は、近年の社会課題の一つです。調査によると、シングルマザーの平均年収は243万円で、就業している約169万人の47%がパートや派遣社員などの非正規雇用で不安定な生活を送っています。
こうした問題を解決するため、需要が高まるデジタル人材としてのスキル・知識をシングルマザーに習得してもらい、ICT支援員に採用されることを目指しています。この職は、小中学校でのICT教育の実務的な支援をする専門スタッフのことで、授業で使うICT機器の準備、先生や児童・生徒のICT機器の操作のサポート、授業で使うソフトやアプリの操作指導などを担います。文部科学省は2018~2022年度の「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」で、4校に1校のICT支援員の配置目標水準を設けています。

ICT支援員の勤務時間は小中学校に通う子ども授業の時間と重なるため、仕事と子育ての両立に適しているとされています。何よりシングルマザーが、需要が高まるIT・デジタルの知識・スキルを身につけることで、将来に子育てを終えた後などに、小中学校以外にも様々な企業で求められる人材になれると考えました。
シングルマザーがICT支援員として自治体や学校などに採用されやすくなるよう、「ICT支援員認定試験」(特定非営利活動法人情報ネットワーク教育活用研究協議会が実施)の合格を目標に、受験対策講座を始めました。
技能研修は進んでいるのですが、課題は、彼女たちを市町村教育委員会や学校に受け入れてもらうことです。そのような機会があれば、ぜひ彼女たちに挑戦の機会を与えてください。

政権交代のために、中道左派の役割

2021年12月10日   岡本全勝

11月30日の朝日新聞オピニオン欄「立憲民主、立て直せるか」、田中拓道・一橋大学教授の「雇用と財政、体系的政策を」から。

・・・1990年代以降、日本を含む先進国はグローバル化や情報技術の発達により、産業構造が大きく変化しました。長期間安定して働ける職場が減った半面、非正規雇用は増えました。男性が「働き主」で女性が子育てや介護を担うという家族のありようも大きく変わりました。
雇用と家族の変化にいち早く対応したのが、欧州の政党でした。中道右派は市場の活力を重視しながらも、教育や福祉を通じて人々を労働市場に誘導する形で、新自由主義政策を修正しました。中道左派は、労働組合の党内への影響力を弱め、中産階級を支持層に取り込み、子育てや就労支援などを充実させ、生き残りを図りました。
その頃、日本では選挙制度改革が一番の関心事でした。96年の衆議院選挙から小選挙区比例代表並立制が導入され、政治のエネルギーはもっぱら政党の離合集散に費やされてきたのです。

史上最長となった安倍晋三政権は、「1億総活躍」や「人づくり革命」など巧みなキャッチフレーズを打ち出しました。しかし、子育てや就労支援、公教育への支出は、いまだに先進国では最低水準です。雇用を増やしたとはいえ、多くは非正規職にとどまっています。雇用と家族の変化にきめ細かく対応したのではなく、格差は固定化されたままです。
多様化する人々の働き方に合わせてきめ細かい支援をしなければ、格差は拡大し続けます。少子高齢化を止めるためにも、高齢世代向けから現役世代向けへと社会保障の転換を図る必要があります。
ところが、日本の中道左派は政治勢力として弱いままで、雇用、社会保障、財政を含む体系的な政策を打ち出せていません。立憲民主党の衆院選の公約は、消費税率の時限的な引き下げでした。分配のメニューを並べるだけでなく、財源の裏付けを明らかにしなければ、政権担当能力は示せないでしょう・・・

この点では、研究者やマスコミの役割も問われています。

政権交代のために、長期ビジョン提示が必要

2021年12月9日   岡本全勝

11月30日の朝日新聞オピニオン欄「立憲民主、立て直せるか」、松井孝治・慶応大学教授の発言「批判の前に長期ビジョン」から。

・・・1998年にできた民主党は「与党批判だけでは政権は取れない」と考えていた旧社会党の議員、「自民党では改革できない」と自民党を飛び出した議員らで結党されました。その精神は、既得権益に縛られた自民党に代わり、官僚主導の政治を変えるというものでした。しかし今は、もっぱら与党のスキャンダルを追及する野党というイメージが定着しています。
この変質は2000年代後半、小泉内閣のときに起こり始めていた、と私はみています。当時の小泉純一郎首相の「改革」の演出が巧みだったため、むしろ自民党の方が改革を進めている、という印象を国民に与えました。そんな自民党に対抗し、選挙で勝つために、民主党は与党の新自由主義などを批判する「批判政党」へと次第に変質し、今に至っているのです。

しかし、こうした政治手法では「どんな日本社会を作りたいのか」という政党としてのビジョンを国民に示すことはできません。
かつて民主党は、子ども手当を創設するチルドレン・ファースト(子ども第一)、高校無償化なども含む「コンクリートから人へ」、それに「新しい公共」といった自民党が掲げないような政策理念を掲げました。今後の立憲民主党も、若い世代のために何をするのかということを軸に、長期的な将来ビジョンを示すべきです・・・

全国町村会100年

2021年12月5日   岡本全勝

全国町村会が創立100年を迎えました。機関誌「町村週報」が特集号を組んでいます。そこに、大森 彌・東京大学名誉教授の「全国町村会と外部研究者とのコラボレーション」、神野 直彦・東京大学名誉教授の「全国町村会100年の歩みへの讃歌」、生源寺 眞一・福島大学食農学類長・東京大学名誉教授の「町村とともに歩んで」が載っています。貴重な記録であり、考えることが多いです。ぜひお読みください。

生源寺先生の発言から。
・・・いささか荒っぽい話をお許し下さい。日欧の農村空間は、第1に自然の産業的利用の空間、典型的には農業や林業の空間であり、第2に非農家住民を含んだコミュニティを支える居住環境としての空間であり、さらに第3に外部からのアクセスが容易で人々がエンジョイできる自然空間、ヨーロッパ流に表現すればグリーンツーリズムの空間でもあります。このうち居住環境としての空間には、地域に密着した関連産業の立地も含まれると言ってよいでしょう。そして、このような空間利用の3つのディメンションが重なり合う構造が日欧の共通項だというわけです。 少し先走って申し上げるならば、人間社会の長い歴史を有する日本や西欧においては、未開発の空間は乏しく、3つの目的での利用を同一空間に重ねるしかなかったのです。
この点については、アメリカ中西部や豪州のような歴史の浅い地域との比較を通じて、なるほどと自分なりに得心した次第です・・・

・・・さらに荒っぽい話で恐縮ですが、農村を広くカバーする自治体、すなわち町や村の行政には農村空間の三重構造による特徴と苦労が伴っています。限られた空間を複数の目的に合理的に振り分けることが求められているからです。ときには、空間をある目的に活用することが隣接する別の目的の空間利用にマイナスに作用することもあるでしょう。難しい取組なのです。 「二兎を追う者は一兎をも得ず」とは古くからの言い伝えですが、産業空間、居住空間、アクセス空間の三兎を追って、高いレベルで三兎をバランスよく確保することが求められているわけです・・・