イノベーションに対応できない官僚機構

12月3日の日経新聞連載「ニッポンの統治」、冨山和彦氏の発言「統治構造、変化に対応できず」から。

――なぜ日本の統治が機能不全を起こしているのでしょうか。
「2つの要因がある。一つは明治以来中央省庁の形が変わっていないことだ。縦割りの構造がデジタル化など現代直面する課題とかみ合っていない。規制改革会議でも単独の省庁で完結する規制緩和はほぼ終わったが、省庁をまたいだ改革になると調整に時間を要し、動きが途端に鈍くなる。例えばドローンの規制緩和では5~6の省庁が関わり、改正する関連法令は数十に上るため、決まる頃には時代遅れになる」
「もう一つは霞が関の終身、一括採用モデルへの魅力が薄れている点だ。自分より若い世代からロールモデルが変わり、外資系証券など就職する間口が広がった。崇高な志を持ち、国家の役に立つために、キャリア官僚として40年近く働く必要がないと思われてきている。戦略的に人事を担う内閣人事局の仕組みも悪くはないが、終身雇用とは相性が悪い」

――日本では米国のようなイノベーションが生まれにくくなっているように見えます。こうしたことも統治構造に理由があるのでしょうか。
「日本でイノベーションが生まれにくい理由は、英米との法体系の違いにもあると考える。柔らかく法律を作り、もめた場合は裁判で解決する英米の判例法主義に対し、日本の法文化は法の前提となる規範概念を決めていく実定法主義だ。イノベーションを促すようなこれまで見たこともないものに規範概念を当てはめていくのは難しく、実定法主義に慣れた官僚は対応できない」