カテゴリーアーカイブ:行政

コロナ対策特別会計案

2022年6月8日   岡本全勝

5月27日の日経新聞に「宙に浮く「コロナ特別会計」構想 増税論想起を警戒」が載っていました。
・・・新型コロナウイルス対策で膨らんだ債務処理の議論が進まない。特別会計で管理する構想も浮かんだが、夏の参院選を前に増税論を想起させかねないとして慎重な意見が根強く、先送りされている。米欧は債務を区分したり、復興基金を創設したりしてコロナ後の財政正常化も見据える。物価高などで歳出圧力が強まる中、透明性を高める取り組みが問われている・・・

・・・関係者が指摘するのは11年の東日本大震災の際との差だ。当時、政府は増税を含む「復興の基本方針」を地震発生からわずか4ヶ月半後に公表した。
約30兆円の復興資金は後から特会で区分した。復興対策をまかなうために発行した国債(復興債)の将来の償還財源を確保するため、13年から25年間、所得税を2.1%上乗せし、国民全体で広く薄く負担することなども決めた・・・
・・・それでも議論すら封じてきた日本を尻目に、米欧はコロナ対策の債務処理や財源を明確にし、具体策を練っている。米国は法人税や富裕層課税の強化を検討。フランスとドイツはコロナ関連の債務を区分し、20年以内に償還すると決定済みだ。
欧州連合(EU)も100兆円規模の復興基金の財源として、国境炭素税やプラスチック税の制度設計を進める。英国は23年4月から法人税を19%から25%に引き上げると決めた。スナク財務相は「次の危機に対応できるよう財政基盤を強化する」と訴える・・・

違いの一つは、当時は野党自民党が、政府と与党民主党に財源見通しを立てるように迫ったことです。野党自民党の主張は、至極まっとうだったのです。参考「非常事後の増税準備

自動化されていない感染者集計作業

2022年6月6日   岡本全勝

5月21日の読売新聞「コロナ警告 進まぬデジタル」は「感染者「一元集計」遠く…国も自治体も「ハーシス遅い」」でした。

・・・午前0時。厚生労働省が委託した大手コンサルティング会社のシステムが、人知れず活動を始める。全国の都道府県のホームページを〈自動巡回〉し、新型コロナウイルスの新規感染者や重症者、死者の数を拾い集めるという活動だ。
その後、今度は同社のスタッフが「人の目」で各ホームページを確認。データを照合した上で、朝までに厚労省に「納品」する。
「朝、私たちが出勤すると、それらのデータが手元に届いているわけです」と、厚労省コロナ本部の担当者は言った。そうして同省は毎日、国として集計した「全国の新規感染者数」などを発表している・・・
・・・しかし、もともとコロナ感染者の情報は、国自身が導入した専用システム「HER―SYS(ハーシス)」で一元的に集計・管理されるはずではなかったか?
「それが、ハーシスにはなかなか入力されなくて。待っていると遅くなるので、先に集めているのです」と、担当者は説明した・・・

・・・ハーシスの活用が進まないのは、入力項目の多さなどから医師らが敬遠して入力が行われず、保健所や自治体の職員が代行して入力に追われているからだ。代行入力には時間がかかる。一方で、「きょうの新規感染者」への人々の関心は依然として高い。
「そこで私たちは、ハーシスとは『別集計』をしているのです」と、滋賀県感染症対策課の古川卓哉さん(38)は話す。同県では代行入力とは別に、感染集計に特化した職員らのチームも編成。発生届を見ながら表計算ソフト(エクセル)で別集計し、毎日夕、その日の新規感染者をホームページで公表している。
「二度手間、と言われればそうなのですが、ハーシスではすぐ対応できない以上、大変でもやるしかない」と古川さん。このような〈二刀流〉の集計は、川崎市や北九州市、高知県などでも行われている。
国が毎晩、ホームページをのぞいて集めているのは、こうした自治体の苦労によって積み上げられたデータということになる・・・

社会目標の再設定

2022年6月4日   岡本全勝

連載「公共を創る」で、日本社会の不安とその解消方策について考えを書き続けています。ジャパン・アズ・ナンバーワンと呼ばれ、世界から高い評価をもらった経済成長期から一転して、失われた10年は30年になりました。その間の経済力の低下は甚だしく、給料は上がらず、非正規労働者が増加し、社会に元気はありません。

ところが、野球、サッカー、テニス、ゴルフを始めスポーツ選手の国際的活躍は素晴らしく、芸術分野や科学研究分野でも個人の活躍には目を見張るものがあります。
「日本は元気がない」と言われますが、そうではないのです。うまくいっている分野とそうでない分野があります。これらスポーツ、芸術、科学技術分野の成功も、個人が根性で頑張っている結果ではなく、組織として育成し、世界で挑戦しているからです。

ここから導かれる教訓は、次の通り。
1 停滞している日本ですが、活躍している人や組織もあること。
2 他方で経済産業や政治の分野で、うまくいっていない。批判はされているが、それが転換に活かされていない。日本全体を見て、社会目標の再設定に失敗している。
3 かつての経済成長のように、国民みんなに共通する目標はあり得ず、多様な生き方になるのでしょう。しかし、それは「各自が自由に行動せよ」という放任ではないでしょう。
4 すると、国民が多様な目標に挑戦できるように、活力があり安心できる社会をつくることが、国家と国民の目標になります。

大嶽秀夫先生の政治学

2022年6月2日   岡本全勝

大嶽秀夫著『日本政治研究事始め 大嶽秀夫オーラル・ヒストリー』(2021年、ナカニシヤ出版)を読みました。「岡義達先生の政治学を分析する」で取り上げた、澤井勇海さんの論文で、「大嶽先生が岡先生の弟子であり、跡継ぎと目されながらそうならなかった」と書かれていたので、興味を持ちました。

大嶽秀夫先生の著作は、若い頃読んだことがあり、感銘を受けました。当時珍しかった現代の日本政治の実証分析を行うこと、そして切れ味鋭いことです。『現代日本の政治権力経済権力』(1979年)『アデナウアーと吉田茂』(1986年)『自由主義的改革の時代』(1994年)などです。政治学専門誌『レヴァイアサン』創設者の一人としても。

本書は、大嶽先生の学問の軌跡とともに、日本政治学の歩みと政治学界の内情を語ったものです。お弟子さんによる聞き書きで、かつよく整理されているので、読みやすいです。著名な学者である先生も、いろいろ悩むことがあったのですね。
大嶽先生と指導教官や先輩学者との関係は詳しく述べられているのですが、大嶽先生とお弟子さんとの関係は詳しく語られていないのが残念です。この本の性格上、それは無理ですね。

先生の業績の一つに、現代日本の政治を実証的に分析したことが挙げられます。私が大学生の頃までは、日本の政治学は現代日本政治分析よりも欧米の政治学の輸入か欧米の政治を扱い、日本を扱う場合は政治史が多かったのです。チャーチルは扱うが吉田茂は扱わない。それが変わった頃でした。日本の現代政治を扱う場合も、実証分析は少なかったと思います。
政治学もまた「配電盤」(司馬遼太郎さんの言葉。欧米の知識と技術を輸入し国内に普及させる役割)でした。

二種類の「詰める」

2022年5月30日   岡本全勝

新しい政策や事業を考える場合や新しい事態が起きたときに対応を考える場合、公務員はその問題点を詰めます。それは、民間企業も同じでしょう。ええ加減な詰めで、後々問題を起こしてはいけません。きっちりと問題点を指摘し、その解決方法を考えなければなりません。

その際に、二種類の公務員、特に二種類の上司がいます。新しい企画を潰す職員と、作る職員です。
潰す職員にとって、新しい企画の問題点はすぐに2つや3つは思いつきます。「前例がない」という決めぜりふも用意されています。潰すことで、彼は安心します。あるいは決定を先送りすることで、当面安心します。「新しいことをしないことで、責任を負わなくてすむ」とです。
他方、作る職員は問題点を見つけつつ、その解決方法を考えます。あるいは解決の方向を考え、関係者に指示を出します。

企業の場合は、新しい企画を潰したり、検討に時間をかけていると、競合企業に先を越され、競争に負けてしまいます。よって、どこかの時点で見切り発車することもあります。大きな企画で失敗すると傷が大きい場合は別ですが、小さな傷だと「そういうこともあるよ」と方向転換します。
ところが、行政の場合は競合がないので、先送りができるのです。新しい何かをした失敗は目につくのですが、しなかった場合の失敗は当座は見えないのです。参考「制度を所管するのか、問題を所管するのか

すると、有能な公務員や上司に求められることは、次のようなことでしょう。
・部下が新しい企画を考えてきたら、潰すことを考えるのではなく、一緒にどうしたら成功するかを詰めること。
・失敗してもよい程度の企画なのか、失敗してはいけない企画なのかを判断すること。

私は、「必要な場合に新しいことに挑戦しない官僚は存在理由がない」と考えていました。従来通りなら上級職は不要で、中級職や初級職の職員に任せておけば良いのです。で、しばしば職場内で「前例通りの壁」にぶつかりました。それを頭とからだを使って突破するのも、官僚の「技」です。
東日本大震災の際は、これまでにない大災害で、これまでにない政策を次々と打ち出しました。それらは私が考えたことより、部下や関係者が考えて持ち込んできたものです。それを実現するのが、私の役割でした。大震災という非常時だからできたのでしょう。政治家から「霞が関の治外法権」と呼ばれたときは、「ああ、そのような見方もあるのだ」と感心し、うれしかったです。