カテゴリーアーカイブ:著作と講演

連載「公共を創る」第188回

2024年6月13日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第188回「政府の役割の再定義ー重ねた被災地訪問と信頼関係の醸成」が、発行されました。前回に引き続き、東日本大震災対応の経験をお話しします。

大きな仕事を進めるために、与党提言を活用し、安倍首相にも動いてもらいました。
私が意を用いたことに、職員に現場を見てもらうことと、被災自治体との信頼関係を作ることがありました。
霞が関の官僚には、現場を見る経験がない、少ない職員もいました。しかし災害復旧、しかも新しい政策を作らなければならないときに、現場を見ずしてよい案を作ることはできません。
復興庁は、当初は被災自治体からよい評価をもらうことができませんでした。その後、評価が上がりました。現場で復旧工事が進んでいないのにもかかわらずです。それは、復興庁職員が現地に出向いて要望を聞き、できることとできないことを整理して、できることから取り組んだからだと思います。

もう一つ難しかったのは、原発事故対応です。
原発事故は、政府が政策の誤りで特定地域に多大な被害を与えた事例なのです。その点では、太平洋戦争での沖縄戦と比較することができるでしょう。被害者である福島県と市町村、その住民が、方針や対応において判断を誤った政府に対して怒りを持つことは当然です。
原発事故被災者の政府に対する怒りには、2つの原因があります。一つは、政府が安全だと言っていた原発が爆発を起こしたこと、政府が十分な安全策をとっていなかったことです。もう一つは、原発事故が起きた後に、正確な情報が伝えられず、住民の避難誘導も十分でなかったことです。
事故後の現地では、原子力被災者支援チームの職員たち、主に経済産業省の職員が、被災者や自治体との対応に当たりました。自治体と住民の間に政府への不信感が強くありました。支援チームの職員たちが事故を起こしたわけではありません。しかし、政府としての責めや省としての批判を一身に背負って現場に入り、頭を下げ、厳しい言葉を浴びながら、要望を聞き、失われた信頼を再建する作業をしたのです。彼らの努力と苦労には頭が下がります。「角野然生著『経営の力と伴走支援』

人事院初任研修2

2024年5月29日   岡本全勝

5月13日に基調講義をした人事院初任研修講師、今日は、その際に与えた課題の発表です。115人の研修生たちが16班に別れて、与えられた課題を議論し、発表します。
指導教官は私のほかに、被災者支援本部で一緒に苦労してくれた、辻恭介君にお願いしました。それぞれ8班ずつ担当します。

各班ともよく調べてあります。論点の整理、資料の作成、発表も良くできていました。採用されてまだ2か月ですが、しっかりしています。慣れているのですかね。
これまでにない事態にどのように対処するか。その場合は、想像力の勝負になります。各課題とも正解のない問題です。

他方で、他省庁の職員と集まって議論をして、一定の結論を出す。それがこの研修の狙いです。初めて出会った人たちが、議論します。司会者、論点整理担当、記録、発表担当、質疑応答担当などを、自分たちで決めていかなければなりません。そして進行を管理する人がいないと、前に進みません。その過程が重要なのです。成功でした。「2023年

立命館大学法学部「公務行政セミナー」講師

2024年5月25日   岡本全勝

昨日5月24日は、立命館大学法学部「公務行政セミナー」の講師に行ってきました。去年に引き続き3回目です。約80人の学生が、熱心に聞いてくれました。
立命館大学法学部では公務員育成に力を入れていて、卒業生の22%が公務員になり、国家公務員と地方公務員が半分ずつです。

この授業では、国家公務員や地方公務員の先輩たちが話をします。私のような高齢者が話すと、自慢話と説教になりがちです。そこで、実例として東日本大震災での対応経験を、写真を見せながら話します。これは、当時小学生だった受講生に、災害を知ってもらうことと、国・官僚は何をしたかを知ってもらうためです。

後半は、そのほかの私の体験を話し(新聞記事や書いたものを配布し)、公務員になる際の心構えを話しました。日経新聞から提供してもらった、新聞の読み方も配りました。新聞各社も新聞離れを嘆くなら、もっと学生に新聞を読むこと、その効用を宣伝するべきですね。
そして質問を受けました。
タマネギの皮を増やす

朝日新聞オピニオン欄「人口減時代の防災・復興」に載りました

2024年5月24日   岡本全勝

5月24日の朝日新聞オピニオン欄「交論 人口減時代の防災・復興」に、私の発言が載りました。朝日新聞が継続的に書いている「8がけ社会」の一つです。廣井悠・東京大学教授と対になっています。

・・・少子高齢化はさらに進み、2040年には働き手の中心となる現役世代が現在から2割減る。さらに制約が増していく「8がけ社会」において、地震や津波などの大災害にどう向き合えばいいのか。人口減少下の被災について考えを深めてきた2人に、防災と復興のあり方を聞く。

――東日本大震災の被災地に通って「ミスター復興」と呼ばれた経験から、過疎地の復興の難しさをどう考えますか。
「被災者に要望を聞けば『元通りにして欲しい』との声が出る。その思いに、政治家や役人が『できません』とはなかなか言えません。東日本大震災では、行政が率先して原状復旧を掲げ、災害公営住宅の建設や大規模な土地整備をしたのに、住民が減ってしまった地域が生まれています」

――なぜ、住民が思い描いた復興にならなかったのですか。
「人口減少下の地方で起きた災害だからです。日本の人口は2008年から減少に転じ、過疎と少子高齢化が進みました。被災すると都市部に移る人が増え、人口流出は加速する。集落を元に戻しても震災前の光景は戻らないのです」
・・・

――人手や財源の確保が今後ますます厳しくなる国や自治体に、どこまで対応できるでしょうか。
「個人が『移らない』という選択をしても、集落として考えた時に持続性が乏しくなる恐れがあるのは東日本大震災の事例が示しています。そして、今後は社会を支える働き手が減り、生活に欠かせないサービスの維持がますます困難になる。答えは簡単には見つからないと思いますが、能登半島の人たちには、ぜひ東北の現在地を見てもらい、新しいまちをどうするか、考えてもらいたいのです」・・・

4月20日の朝日新聞デジタルに載った「成否分けた復興「東北の現在地を見て」ミスター復興が伝えたいこと」の要約版です。

連載「公共を創る」第187回

2024年5月23日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第187回「政府の役割の再定義ー震災復興、政治主導の在り方と官僚の仕事」が、発行されました。前回に引き続き、東日本大震災対応の経験をお話しします。大震災対応については、本に書いたり、この連載でも冒頭に書いたのですが、今回は特に私が事務方の責任者として、幹部官僚として何を考えたかを書きました。

被災者支援の次は、公共インフラの復旧と公共サービスの再開を急ぎました。町が流され、その場所は危険なので、高台移転などこれまでにない大きな計画と大工事を行いました。これはこれで大変だったのですが、各省が頑張ってくれました。
ところが、その工事が進むにつれ、それだけでは町のにぎわいが戻らないことが分かってきたのです。生業と産業が再建されないと人は暮らしていけず、活気と人のつながりが戻らないと人は孤立するのです。そこで、災害復旧の哲学を「国土の復旧」から「生活の再建」へと転換しました。

もう一つ実務の責任者として考えなければならないことがありました。政治との関係、政治主導との関係です。
民主党政権は官僚を排除した政治主導を唱えていました。しかし、政治家には政治家の、官僚には官僚の役割があります。そして、被災者支援や災害復旧について経験と知識を持っているのは官僚です。私は「官僚の力量を示そう」と同僚や部下に話しました。大臣や官房副長官も、私たちに任せてくださいました。
自民党が政権に復帰してからは、大島理森・自民党復興加速化本部長(後に衆議院議長)の指導の下、与党提言をまとめていただき、それを総理が受け取り、政府が実行する仕組みを作りました。政治指導、政府与党が一体となって政策と事業を進めるよい形だったと自負しています。