カテゴリーアーカイブ:社会の見方

回復していない日本経済

2024年11月12日   岡本全勝

このホームページでしばしば紹介している川北英隆・京都大学教授のブログ。世界の山歩きから近場の小さな山まで、その記録を楽しみに読んでいます。
でも、先生の本業は、株式市場や債券市場です。最近も「賃上げへの期待と現実」(11月4日)と「株価も失われた30年」(11月11日)を書いておられます。

・・・図表を2つ示す。製造業と非製造業(銀行や保険を除く)の労働分配率である。
つまり企業が生み出した付加価値(営業利益+人件費+減価償却費≒名目国内総生産=名目GDP)のうち、人件費として支払った比率の推移である。ついでに企業が営業利益として支払った、というか懐に入れた「利益分配率」も同じ図に示した。期間は1960年度から2023年度までである。
この2つの図から、製造業も非製造業も、足元で労働分配率を低下させ、それによって利益分配率を高めていることが判明する。つまり「賃上げ」はできるだけ抑制し、それによって企業自身の取り分を増やす行動である。1990年代以降を見れば確認できるだろう。
この傾向が著しいのが非製造業の大企業(資本金10億円以上の企業)である。製造業の大企業でも、コロナ禍が収束し円安が進んだ2021年以降、この傾向が急速に進んでいる・・・
・・・言い換えれば、2000年初頭まで、非製造業の大企業は設備投資に力を注いでいた。通信会社の携帯電話事業、コンビニの店舗網拡大が典型例だろう。しかしこれらの事業も成熟段階を迎え、設備投資がピークアウトし、それにともなって減価償却費の比率も低下したのである。付け加えれば、日本の場合、アメリカのIT関連企業のようなプラットフォーマー的事業展開は乏しいから、設備投資も大きくない。

まとめれば、大企業は政府の要請に応えるように、渋々ながら賃上げをしている。利益が増えていることも背景にあろう。一方、高い人件費を支払い、優れた人材を多く集め、世界的な競争に打って出よう、事業や産業を革新しようとの気概に乏しい。
ということで、賃上げと景気の好循環に入るのはまだまだ不足が目立つ。ということで、日本の景気は、依然としてアメリカなどの海外経済次第である。2024年度に入っても、状況はそれほど変わっていないだろう・・・

「株式市場は10年前に回復したが、経済は依然として回復しておらず、「失われた40年」になりかねない」という主張について。
・・・論点は2012年後半から上昇してきた株価を「蘇った」と見るのか、そうではなく「単に元に戻っただけ」と見るのかである。依然として上場企業の半分前後のPBR(株価純資産倍率)が1倍を割れている現在(言い換えれば解散価値を下回っている現在)、「失われた時代を乗り切った」と断じるのは言い過ぎだろう。もちろん、素晴らしい企業が日本にあることを否定しはしないので、曇天の中に青空が見え始めたと言うのが正しいのかもしれない。
そもそも先進国の経済は企業活動と一心同体であり、その企業群の中心に上場企業が位置する。とすれば、経済と上場企業が、片や失われた30年に陥り、片や失われた30年から抜け出したというのは変な論理である。

株価と株価の裏側にある企業業績が回復したように見えるのは、企業が人件費を節約しまくり、古い設備を使いまわしたからであり、大人しい従業員が文句を言わずに生活費を削って対応したからである。さらに足元では円安が急速に進み、その結果として企業業績が伸びたように見えている。しかし世界基準(たとえばドルベース)で日本の企業業績を評価するのなら、見掛け倒しでしかない。
付け加えれば、過去に活躍した企業のうち、今も世界で活躍し、注目され続けている企業が日本にどれだけ残っているのか。多くの日本企業は名前さえ忘れ去られようとしている。逆に新しく登場し、世界的に注目を浴びつつある企業が日本にどれだけあるのか。これも少ないだろう・・・

新型コロナウイルスの教訓、アメリカと日本

2024年11月12日   岡本全勝

10月25日の読売新聞「米科学政策と日本の行方(下)」に「新たな感染症 対策急務 医療格差 コロナの教訓」が載っていました。

・・・新型コロナウイルス感染症への対策で、米国はワクチンや治療薬の開発を強力に進めた。一方、コロナ禍による死者は日本に比べ圧倒的に多かった。

米国のコロナ対策の「顔」となった米国立アレルギー感染症研究所長(当時)のアンソニー・ファウチ氏は、トランプ前大統領との対立も目立った。トランプ氏は、根拠のない治療法を推奨するなど、科学軽視の姿勢を繰り返したためだ。
ファウチ氏は2021年1月のバイデン政権発足後もコロナ対策の先頭に立った。記者会見で前政権との違いを問われると、「(バイデン政権は)透明、オープンで正直だ。全て科学とエビデンス(証拠)に基づく」と答え、前政権からの様変わりを印象付けた。
バイデン大統領は、22年3月、自身のワクチン接種の様子を公開し、国民に接種を呼びかけた。
その4か月後、バイデン氏はコロナに感染する。指針に従って自主隔離に入り、治療薬を服用した。「私の前任者はコロナに感染し、病院にヘリコプターで搬送された。私はホワイトハウスで(隔離期間の)5日間、仕事をした。私が受けた検査、ワクチン、治療薬は大統領でなくとも無料で受けられる」。22年7月、回復後の演説でバイデン氏は皮肉を込め、現政権の対策をアピールした。

ただ、世界保健機関(WHO)によると、今年9月29日時点で米国のコロナの累計死者数は約120万人で世界最悪だ。2番目に多いブラジルの1・7倍、日本の17倍で、バイデン政権下でも70万人以上が亡くなった。
惨状を招いた要因として、▽医療格差が大きく、低所得層が必要な医療を受けられなかった▽州ごとの方針がバラバラで統一した対応を取れなかった――などが指摘されている。米カリフォルニア大サンフランシスコ校のモニカ・ガンジー教授(公衆衛生学)は「公衆衛生当局の信頼は低下しており、改善は急務だ」と述べ、次のパンデミックへの危機感をあらわにする・・・

パクス・ニッポニカ

2024年11月10日   岡本全勝

10月25日の日経新聞オピニオン欄、イェスパー・コール氏(マネックスグループ グローバル・アンバサダー)の「パクス・ニッポニカは可能である」から。

・・・この21世紀、「パクス・アメリカーナ」も「パクス・シニカ」も世界に受け入れられる解決策ではなかった。ワシントンも北京も、グローバルサウスや欧州が直面する問題に対して、信頼に足る答えを示さなかった。両国の首脳が「我々とともにあるのか、我々に敵対するのか」と言いつのるほど、覇権国家に対する憤りは大きくなり、信頼は失われていった。

だが、「パクス・ニッポニカ」は歓迎されるだろう。日本は新しい秩序の調停役として、世界を穏健化させるのに必要なものを持っている。私が考えるパクス・ニッポニカは、1815年からのパクス・ブリタニカや1945年以降のパクス・アメリカーナのように力ずくで世界を支配するやり方ではない。
強い基軸通貨も、革新的な大手企業も、人材を集める大学も、支配的な軍もない。日本が世界を支配している分野はない。それこそがパクス・ニッポニカが可能な理由だ。

脅威ではなく、恐れられてもいない、真のポスト工業化国である。史上最速で経済発展を遂げ、破壊的な不平等に苦しむことなく、史上最大のデフレサイクルを乗り切れる回復力のある経済を持っている国である。最速の高齢化社会であり、雇用収入に依存するのではなく、資産収入を増やすことで繁栄を生み出す方法を学んでいることなどが世界のロールモデルとなる。
建築、ファッション、食、ゲーム。またスポーツをはじめ数々の分野で西洋文化を輸入するだけでなく完成させ、改良してきた。世界的にみれば日本は東洋でも西洋でもあり、世界の北でも南でも尊敬される文化を保持している・・・

・・・ではいま、日本はパクス・ニッポニカを主導し、組織する準備ができているのか。個人的には答えはイエスである。なぜなら、世界はいまほど信頼できる立派な調停者を必要としたことはないからだ。さらに重要なのは、日本が歴史的な転換点にあるということだ。日本は新たな野心、目標を持たなくてはならない状況にある・・・
・・・ただ、日本のエリートたちの声がいかにも内向きであることに、いつも困惑させられてきた。よりよい世界を築くために役割を果たしたいという願望は感じられなかった・・・
・・・しかし現在の日本は、国家の目標を再設定できるまたとない機会を得た。米国、あるいは中国に対して「ノー」と言うか「イエス」と言うかという問題ではない。世界が待っているのは「我々はこういうやり方を提案します」と言う国だ。東西南北の調停者となりうるパクス・ニッポニカは世界が待ち望んでいる野心であり、日本はそれを受け入れるべきである・・・

日本の稲作反収、世界で16位

2024年11月9日   岡本全勝

10月23日の日経新聞経済教室は、荒幡克己・日本国際学園大学教授の「稲作農政の課題、単位収量増で競争力強化を」でした。詳しくは記事を読んでいただくとして、びっくりしたことがあります。

面積当たり収量(反収)が、世界第16位だそうです。アメリカにも中国にも負けているそうです。
日本は10アール当たり536キログラム、オーストラリアは800キロを超え、アメリカも700キロに近いです。
日本は、1969年には第3位でした。
日本の農業は生育方法の改良や品種改良、それに人手をかけて丁寧に作業しているので、粗放な農業と比べはるかに反収が良いと思い込んでいました。その後、各国は努力して、日本は発展しなかったということですね。

役員に女性を入れると新発想を生む

2024年11月7日   岡本全勝

10月26日の朝日新聞夕刊、越直美・元大津市長の「役員に女性、新発想を生む多様性」から。

・・・「キヤノンショック」という言葉を聞いたことがありますか。昨年3月のキヤノンの株主総会で、御手洗冨士夫会長兼社長CEOの取締役再任の賛成率が50・59%しかなかった衝撃をさします。もし1%賛成率が下がっていれば、再任に必要な過半数の賛成は得られず、御手洗氏の選任は否決されていました。
御手洗氏は経団連会長も務めた著名な経営者。なぜ、賛成率がこれほど低かったのか。女性の取締役の不在が理由だとされています・・・

・・・機関投資家が女性役員の選任を求めるのは、そのほうが企業の業績が上がると考えているからです。実際、女性役員がいる会社といない会社を比べると前者のほうが株式パフォーマンスがよいというクレディ・スイスの世界的な調査結果があります。本当?と疑う方もいるでしょう。そこで自身の体験を通じ、女性役員の意義を述べたいと思います。

私は36歳で大津市長になりました。市役所は終身雇用・年功序列の組織で幹部は50代の男性が多かった。様々な案件を巡り、幹部からは反対があり、衝突することもありました。私は当時、自分が年下の女性だからと思っていましたが、今は違うと考えています。真の原因は私の方針が従来のやり方と違っていたことでした。
私は市長として保育園整備や中学校給食など子育て施策のために予算を使い、それ以外の予算を削減しました。これまで自治体は人口増にあわせて道路や公共施設をつくってきましたが、人口減を迎えるとやり方を変える必要がある。何かを増やすには何かを減らさなければなりません。それがなかなか理解されませんでした。同じ組織に長期間いると視線が「内向き」になり、外の変化が見えにくくなったり、やり方を変えられなくなったりするのではと気付いたのです。
これは市役所に限りません。企業でも似たようなことがあるのではないでしょうか。

平成以降の日本経済は「失われた30年」と言われ、世界を変えるようなイノベーションは生まれませんでした。イノベーションには従来と異なる発想が必要です。女性、若者、外国人など、企業の意思決定に関わることが少なかった人の参加、ダイバーシティーが大切です。
取締役会に女性が入るとどうなるか。女性がこれまで誰も聞かなかった、基本的だが大切な質問をする。それを受けた発言が続く。会議の「予定調和」が崩れて議論が起こり、新しい発想が生まれる。これこそが多様性の目ざすところです。

一方、女性役員は増えたが、増えているのは社外役員という実態もあります。社内から昇進する社内役員に対し、他の会社の経験者、弁護士、会計士などが社外役員となります。
社外役員が増えるのは、コーポレートガバナンスの観点からは良いことですが、男性役員は社内が6割、社外が4割なのに、女性役員は社内が1割、社外が9割。この差はどこからくるのか。女性が社内で昇進するのが難しいからです・・・