カテゴリーアーカイブ:社会の見方

稲継先生の新著『シビックテック』

2018年7月22日   岡本全勝

稲継裕昭・早稲田大学教授が『シビックテック』(2018年、勁草書房)を出版されました。
シビックテックとは聞き慣れない言葉ですが。副題に「ICTを使って地域課題を自分たちで解決する」とあります。

金沢市では、分別ゴミをいつ出せば良いかが、スマートフォンですぐにわかるアプリがあります。
奥能登地方には、「のとノットアローン」という子育て中の親を支援するアプリがあります。イベント、遊び場やお店の地図、信頼できる相談先などが載っています。
これらに共通するのは、ICT機能を使って、誰でも簡単に便利に使えること。市役所でなく、市民が主体になって作っていることです。

稲継先生は、これを「自動販売機モデル」(市民が税金を投入すると、サービスが出てくる。出てこない時は、自販機を叩く)から、市民が自分たちで地域の問題を解決する社会への転換だと主張されます。自販機モデルには、機械の中がブラックボックスで、市民からは見えにくいことも、含まれています。

ICTの発達によって、このような形での、市民による地域の問題解決ができるようになったのですね。
これまで市民参加というと、市役所への抗議行動、要請行動が主で、市役所と協働するとしても、審議会への参加、計画過程での参加でした。しかし、スマートフォンやパソコンを使って、「知りたい情報」を提供することが簡単にできるようになりました。
そして市民が知りたい情報は、市役所の仕事だけでなく、企業や地域が提供しているサービスなどもあります。これから、このような市民参加が広がることを期待しましょう。
もちろん、このような動きだけで、地域の課題がすべて解決するわけではありません。しかし、「地域の課題は市役所が解決してくれる」という通念を変えていくでしょう。

医師に必要な国語力

2018年7月21日   岡本全勝

7月12日の読売新聞解説欄、山口俊晴・がん研有明病院名誉院長の「がん医療新時代へ」の続きです。先生は、次のようにもおっしゃいます。

・・・医師にとって国語力は必要なんですよ。患者さんの言葉から思いを理解し、治療法を易しく説明する。物理学や統計学より大事だと思うね。
説明と言えば、ぼくが医者になった1970年代前半、患者さんにはがんを告知しなかった。胃がんの人に抗がん剤を点滴し、「肝臓の調子を良くする薬です」とごまかす。告知する方向へと変わったのは、90年代半ばからかな。

今でも、「本人にはがんだと言わないで」と頼む家族はいる。僕はきっぱりと断り、こう説明します。
「がんはあなたの病気ではなく、本人の病気です。私の長年の経験上、告知すれば、たとえ数日間は落ち込んでも、最後には納得します」
告知していないと、ばれないように家族が患者に近寄らなくなるんですよ。こんな時こそ、家族がそばにいてあげないといけないのに。正直に告知して、残された時間を家族とともに大切に使った方が、患者・家族の双方にとって良い―。こう説明すると、今では例外なく家族も納得してくれるようになったね・・・

がん治療の進歩

2018年7月19日   岡本全勝

7月12日の読売新聞解説欄、山口俊晴・がん研有明病院名誉院長の「がん医療新時代へ」が、勉強になりました。先生は、胃がん手術の第一人者です。こんなに進んだのですね。

・・・僕の専門である胃がんに関して言うと、治療法や対策はほぼ確立したね。
日本胃癌学会が2001年、治療ガイドライン(指針)を公開した。これ以降、各大学や病院が独自に行っていた治療が「均てん化」された。治療の質にばらつきがなくなったわけです。
早期がんは内視鏡や腹腔鏡による切除で根治でき、進行がんも抗がん剤の進歩で生存率が高まった。
何よりも、胃がん患者が減ってきた。上下水道の整備などで衛生状態が改善され、ピロリ菌の感染が減ったことが主な原因です。あとは、早期発見のための検診率を高めればいい。15年後の日本では、胃がんはきわめてまれな病気になっているかもしれない。

治りにくいがんは、まだたくさんあるけど、がん治療は確実に進歩している。免疫治療薬の「オプジーボ」を使うと、従来の抗がん剤が効かなかった肺がん患者が劇的に良くなるケースも出てきた・・・

・・・どんな健康的な生活を送っても、がんになる人はなります。
その場合は、「がんは老化」と理解した方がいい。75歳を過ぎてがんになったら、老化だから仕方ないと割り切って、体力や価値観に応じた治療を受ければいい・・・
この項続く

砂原先生の新著

2018年7月15日   岡本全勝

砂原庸介教授が、『新築がお好きですか? 日本における住宅と政治』(2018年、ミネルヴァ書房)を出版されました。「何だろう」と疑問を持たせる書名ですね。

日本では、新築の持ち家が好まれます。若いうちはアパートや社宅に入っていても、最後は新築の持ち家を持つことが、「住宅双六」の上がりでした。家を建てることが、男子一生の夢でした。
では、なぜそのような意識が、国民の間にできあがったのか。政府が強制したのでも、誘導したのでもありません。政府の住宅政策はありましたが、必ずしも新築持ち家ではありません。住宅メーカーや工務店、不動産屋などが提供し、国民が選択した結果、できあがったものです。
教授は、これを「制度」として分析します。ここで制度とは、法律、共有されている規範、習慣など、個人の住宅選択を制約するものです。

私はこの本の主旨を、「戦後日本の住宅(新築持ち家志向)を対象とした、政治行政の政策と国民の行動の相関の分析」と理解しました。政府の政策と国民の意識が相まって、このような新築持ち家志向ができあがるのです。それを分析した本です。
江戸時代の町人が大家さんの長屋を借りて住んでいたこと、戦前でも夏目漱石が借家住まいをしていたことなど、新築持ち家は必ずしも日本の伝統ではありません。経済学からしても、新築持ち家が経済的とも思えません。それを支えたのが、「制度」です。

私は、「制度」を2つに分けて、理解しています。一つは狭い意味での制度です。 法律や規則など、明示的にルールと定められているもの。 政府が定めるものだけでなく、会社が(従業員向けに、顧客向けに)定めるものなども含みます。
もう一つは、国民が持っている「通念」です。規則として決められていないのですが、多くの国民がそれが良いと信じているものや、慣習です。これが、社会の運用や秩序を支えています。
法制度が国民に一定の行動を強制し、後者がそれを支える関係にあります。法制度がなくて、通念だけがある分野も多いです。冠婚葬祭などは、後者の部分が大きいです。

さて、この通念が続くのか、変わるのか。これについても、分析されています。
既に空き家が膨大な戸数になり、売れなくて負の遺産になっています。他方で、大都市での土地の値上がりで、戸建ても新築マンションも、サラリーマンには手の届かないものになっています。質の良いマンションもできています。
実は、この通念を支えてきた基礎には、土地についての神話(土地は最高の財産)と所有権絶対の意識があります。この部分が変わらないと、住宅についての意識は変わらないのです。でも、あれだけ執着された農地が放棄され、空き家(空き土地)も増えつつあります。この経済的変化が、通念を変えていくでしょう。
私は、変わると想像しているのですが。といいつつ、私も宅地を買い、戸建て住宅を建てました。

夫の家事と育児時間

2018年7月11日   岡本全勝

7月4日の朝日新聞「育児、ママじゃなきゃダメなの?」に、各国の、6歳未満の子を持つ妻と夫の家事・育児時間が載っています。それによると、

日本:妻7時間34分、夫1時間23分
スウェーデン:妻5時間29分、夫3時間21分
ドイツ:妻6時間11分、夫3時間
アメリカ:妻5時間39分、夫2時間53分
イギリス:妻6時間6分、夫2時間46分
フランス:妻5時間49分、夫2時間30分

日本の夫は、先進各国の半分以下の時間ですね。これは、妻に叱られますわ。
私は子育てに参画しなかったので、発言する資格がありません。日経新聞夕刊コラム「仕事人間の反省