カテゴリーアーカイブ:社会の見方

サイバーセキュリティ

2019年2月11日   岡本全勝

谷脇靖彦著『サイバーセキュリティ』(2018年、岩波新書)が勉強になります。著者は、総務省のこの分野の第一人者です。

コンピュータがネットワークでつながることで、私たちの仕事や生活は、とても便利になりました。このホームページを日本や世界から簡単に見ていただけるのも、そのおかげです。ネットショッピングも、便利ですよね。もはや、これなしでは仕事や暮らしは成り立ちません。
しかしその便利さが、犯罪を生み、対策を難しくしています。世界中どこからでも、匿名で、費用をかけずに、盗みに入ることができるのです。標的の組織を混乱させることも。戦争にも使われているようです。

サイバーセキュリティという言葉は、ニュースで聞かれることも多いでしょう。サイバー空間、すなわちコンピュータがネットワークでつながった空間での、犯罪や事故への対処です。企業や役所が狙われますが、毎日インターネットを利用している私たちも、被害者になります。
困るのは、被害者になるだけでなく、コンピュータが乗っ取られて加害者になる場合もあることです。
電子メールについていた添付ファイルを開いたら悪いウイルスに感染して、それがあなたとつながっている友達に拡散するとか。「私には関係ないことだ」とは言っておられないのです。

毎日多くの組織や個人がサイバー攻撃を受けています。「サイバー攻撃を受けているかいないかの違いではなく、サイバー攻撃を受けたことに気づいているかいないかだけの違いだ」だそうです(はじめに)。
交通法規と同じくらいに、サイバー攻撃への対処は、身につけておかなければいけない知識です。本書は素人にもわかりやすく解説されています。お勧めです。

できあがったものか、つくるものか

2019年2月9日   岡本全勝

社会やそれを支えている制度を見る際に、「できあがったもの」と見るか「つくるもの」と見るかの違いがあります。

まず、法律学です。私が大学の法学部で習ったことは、制定されている法律の解釈学でした。日本国憲法は所与のものとして、その制定経緯、解釈、争点についての考え方を学びました。
「このような(条件が変わった、新しい事態が起きた)場合は、このような法律を作るのだ」といった立法学は学びませんでした。社会の実態と乖離するような場合は、解釈を拡大するのです。立法学とあるのも、現在の法律成立過程の分析が主です。
次に、政治学です。これも、日本の近代現代の政治をどのように見るか、その経緯、あるべき論からの分析と批判、欧米の政治の歴史とそれを動かした思想などでした。それはそれなりに、ものの見方を養ってくれました。
しかし、どうしても「できあがったもの」の分析になります。政治学の分野に政治過程論がありましたが、これもできあがった政策の成立過程分析でした。
成立する過程を学んだのですが、身につけたものの見方は、できあがったものの分析でした。

これは、社会学も同じです。これらの学問は、過去と現在=できあがったものの分析です。
「学問である以上、客観性が必要だ」という主張もあります。立法学、政策論になると、各人の主観が入ってきて客観性が欠けるという批判です。それはその通りです。しかし、今ある法律や制度も、ある立場で作られたものです。

かつて、原島博・東大教授の発言を紹介したことがあります。「過去の分析と未来の創造と
「理系の人間から見ると、文系の先生は過去の分析が主で、過去から現在を見て、現在で止まっているように見える。未来のことはあまり語らない。一方、工学は、現在の部分は産業界がやっているで、工学部はいつも5年先、10年先の未来を考えていないと成り立たない」(『UP』2005年6月号)
この項続く

二項分類と三分類

2019年2月8日   岡本全勝

「全勝さんは、三分類が好きですね」と、指摘されました。そうですね。しばしば、松・竹・梅という比喩を使うからでしょう。「職員の三分類

世の中で物事を分類する際には、最も多いのは二分類です。二項分類とも言います。紅白、白黒、右左、上下、前後、善し悪し・・・。
私も、多くの場合に、二項分類を使います。しかし、「ものによっては、三分類の方がわかりやすいのでは」と思う場合があります。最近の関心分野である、公共政策と職員養成でも使っています。

職員養成では、出来の良い職員と出来の悪い職員とに分けるのが二分類です。しかしそのように分類するより、とても良くできる職員(松)、普通の職員(竹)、出来の悪い職員(梅)と3つに分ける方が、ぴったりくるのです。
ここで、松・竹・梅の3分類は、上中下に均等に3分類しているのではありません。鰻重は、特上・上・並ですよね。下はなくて、上と並の2分類の上に、特上を作っているのです。
ここが味噌です。上と下に分けると、下に分類された人がうれしくありません。そこで、一番下は並にするのです。上はそのまま。しかしそれは実質的に並なので、その上に特上を作ります。なお、この松竹梅という表現は、仕事ぶりについてであって、職員の人格を並べているのではないことに注意してください。ある仕事については梅だけど、他の分野では松の人もいます。

公共政策では、公私(官民)二元論から、公共私三元論を提示しています。
読書も、3分類して説明しましたね。「生産の読書、消費の読書、貯蓄の読書

ところで、松・竹・梅が上下の(垂直的)三分類であるのに対し、官・共・私の三分類などは、上下関係はありません、水平的三分類です。
二項分類の場合は、例えば白と黒に分けますが、うまく収まらない中間領域が出てきます。灰色です。しかし、それは二分類で世界を見ているから灰色に見えるのです。色の三原色のように、最初から3つに分けてみると、灰色領域ではありません。
もちろん、世の中はそんなに簡単に分けることはできませんから、もっと多くの分類が良いのでしょう。しかし、3つ以上になるとわかりにくいですよね。

『フランス現代史』

2019年2月6日   岡本全勝

小田中直樹著『フランス現代史』(2018年、岩波新書)が勉強になります。
1940年代から現在までを、10年ごとに区切って、それぞれの時代の特徴を明らかにしています。そして、全体を通して、社会・国民の間の分裂をどのように統合してきたかという視点で、分析しています。
著者が最初に述べているように、フランスはかつてはお手本とする先進国でしたが、経済面などで「追いついた」日本にとって、以前のようなお手本ではなくなりました。
しかし、欧州統合、移民問題、ポピュリズムなど、内外の変化から生まれる社会の分断に取り組む姿は、いずれ日本のお手本になるでしょう。

社会の分裂と統合。政治の大きな役割です。日本では、それが大きな問題になっていません。たぶん、60年安保闘争が、社会の分裂として政治問題になった最後でしょう。もちろん、都会対田舎、高齢者対若者、正規対非正規、貧富の格差など、社会の亀裂は生まれているのですが。
社会の分裂を政治が統合した例として、イギリスの経験を紹介したことがあります。「社会の分断、それを解決する政治」。アメリカもまた、そのことに悩んでいます。

この本は、現代史と銘打っていますが、経済社会の変化が生む課題とそれに取り組む政治が内容です。かつての歴史書は、政治史でしたが、この本のように社会の変化を視野に入れた政治史まで広がっています。
もちろん、生活や文化などを含めた、もっと広い社会史や文化史も期待したいところです。

新書という分量でまとめるのは、大変な力量が必要です。本書は、それに成功していると思います。お勧めです。日本についても、このような本が書かれると良いですね。