カテゴリーアーカイブ:社会の見方

進んでいる移民の受け入れ

2021年12月2日   岡本全勝

11月26日の朝日新聞オピニオン欄、社会人口学者・是川夕さんへのインタビュー「「移民国家」になる日本」から。

――日本に働きに来ている外国人は「移民」なのでしょうか。
「国連は移民を『1年以上外国に居住する人』と定義しており、経済協力開発機構(OECD)は『上限の定めなく更新可能な在留資格を持つ人』としていますが、どちらにしても、事実として日本は移民を受け入れています。コロナ禍の直前で毎年約17万人の技能実習生、約6万人のハイスキル層、約12万人の留学生など、年間約54万人の外国人が新たに来日している。今後は、日本への永住も可能な特定技能2号の対象業種拡大も見込まれています」

――技能実習生の失踪が問題になり、出入国在留管理局では収容中にスリランカ国籍の女性が死亡しました。日本は「移民受け入れ後進国」なのではないですか。
「再発防止を徹底するべきですし、人権擁護の重要性は言うまでもありません。しかし、理想的な移民政策を採ったとしても不幸な事件は起きうるでしょう。外国人だという立場の弱さ、力の不均衡が事件の前提にあるからです」
「多くの外国人労働者が、働くための在留資格という正面玄関ではなく、研修目的の技能実習制度や留学生のアルバイトなどのバックドアから入っているという見方が主流です。ゆがんだ制度によって外国人労働者が来日し、それが故に人権侵害が一部で起きていることも否定できません。しかし、それだけでは大切なことを見落とすことに気付きました」
――何が見えなくなる、と?
「それでも、彼ら彼女らは日本を目的地として選んだという事実です。外国人労働者たちを『だまされて日本で働いている可哀想な人たち』と見ていると、なぜ日本に永住する人が増えているのか、説明がつかない。未知のリスクがあるにもかかわらず国境を越えることを選んだ人たちの視点に立つと、別の風景が見えてきます。『差別され、貧困に苦しむ人たち』としてしか見ない視線では、国境を越える熱量とダイナミズムは理解できません」

――雇用という面で見れば、外国人労働者、つまり移民は日本社会に溶け込みつつある、と?
「ええ、ゆるやかに社会統合されていると分析しています。私の研究では、在留外国人のうち、最大のカテゴリーである永住者の賃金水準は、日本人と大きく変わりません。専門職に就く割合も、日本人と変わらない。周囲を見回せば、私たちと同じような暮らしをしている外国人が近くにいる、という状況になっています」
「小学校入学前の子どもたちでは、外国籍、日本国籍取得者、親のいずれかが外国籍という『移民的背景を持つ人』は2015年で5・8%に上り、30年には10人に1人となるという推計があります。子ども世代にとっては、クラスに2、3人は外国ルーツの友だちがいることがリアルです」

――文化の違う出身国ごとのコミュニティーができているという話も聞きます。それでも日本社会に統合されていると言えますか。
「日本人同士でも、隣に住んでいる家族がどんな人たちなのか、分からないことがある。それが移民となると、地域に溶け込むべきだ、となるのはおかしいと思います。階層、雇用、教育、婚姻など公的な領域では、差別や分断はあってはなりません。一方で、文化的なものは私的な領域に属する部分も大きく、日本人も外国人もそれぞれが大切にすればいい」
「米国でも、移民たちは出身国の文化を守り、コミュニティーを形成しています。それでも学校や職場では価値観を共有し、同じ社会のメンバーという意識を持っている。文化的な統合まで求めるよりも、最低限押さえるべき共通部分について決め、それを守る方がいいのではないでしょうか」

政府の統計、民間の統計

2021年12月2日   岡本全勝

11月22日の日経新聞に「統計の主役交代、コロナで加速 急激な景気変動、政府追いつけず民頼み」という記事が載っていました。

・・・新型コロナウイルス禍をきっかけに民間データが政策現場に急速に普及している。代表格は携帯電話の位置情報やクレジットカードの決済情報など。いずれも経済の動きをリアルタイムでつかめるのが特長だ。国内総生産(GDP)をはじめ旧来の公的統計は集計・公表に時間がかかり、景気のめまぐるしい変化に追いつけなくなっている・・・

記事では、人流、カード決済、ネット消費額などの統計が、政府は取っていなかったり遅れるのに対し、民間がいち早く把握していることが取り上げられています。背景には、社会特に経済がデジタル化していることがあります。カード決済、スマートフォンの位置情報、レストランの予約やネット消費の動向です。
調査員が面接して調査票に記入し集計する調査統計と、このような情報通信技術を使った調査統計と。それぞれの長所があります。

「文明の衝突」発刊25年

2021年12月1日   岡本全勝

11月23日の読売新聞、待鳥聡史・京大教授と池内恵・東大教授の対談「「文明の衝突」刊行25年 影響と評価」から。
・・・自由民主主義で世界が覆われるかのような楽観論を一蹴した米国の国際政治学者サミュエル・ハンチントンの『文明の衝突』が刊行され、今年で25年。刊行後の世界やこの本の意義について、比較政治研究の待鳥聡史・京大教授と、イスラム研究の池内恵・東大教授に語り合ってもらった・・・

池内  本書の一番のテーゼ(命題)は、西洋文明に対する、最も明確な挑戦者がイスラム文明だと言い切ったところです。中東では、超大国・米国の政治学の権威に認められたと受け止める傾向が強い。一方、潜在的な敵として描かれたと不快感を抱く人もいる。中東では文明の衝突論がねじれた形で受容され、人々の冷戦後の世界観を規定した面があります。9・11の米同時テロの首謀者、ウサマ・ビンラーディンなどは、まさにイスラム文明が西洋文明に挑戦しているとの世界認識を持つとみられます。
待鳥  世界規模で人々の思考の枠組みを無意識に規定してきたのだと思います。本書は、フランシス・フクヤマの『歴史の終わり』(1992年)と、時に対比されて論じられてきました。自由民主主義が冷戦に勝ち、体制間競争はなくなったとするフクヤマの見方に対し、ハンチントンは文明間競争が残っていると主張したからです。実際、2010年頃までは、非国家主体が続々と現れ、国際政治のかく乱要因になった。文明の衝突論は、そうした状況に適合的に見えました。

待鳥  ただ、ハンチントンの議論は、学術的には扱いにくい。文明という概念は、何かをつかんではいるのですが、定義が難しく、経済指標のように測れないからです。定義や測定ができないものは、今の比較政治学では取り上げるのが難しい。また、文明は、簡単に変化しないのに、実際の政治変動や紛争は広く起きている。政治学が科学であろうとすれば、文明が「原因」との説明はできないのです。
池内  現在の学術界の研究成果といわれるものは、集合知にどれだけ積み増し、どれだけ引用されたかが評価基準になる。本書はそれらと一線を画し、彼個人の直感に多くを依存し、方法論としても定式化しにくい。超大国の介入を正当化しているなどと、刊行直後から多くの専門家に批判されました。疑問点はたしかに多く、いま本書が書かれたら、日本は独自の文明に入らないでしょう。

待鳥  現実をつかむために学者がするのは、地図を描くような作業。球体である地球を平面に描くと必ずゆがむので、地図は常にどこかが間違っている。それでも目的によって、正しい部分の価値が大きいなら、その地図を使うわけです。今、世界地図を描くような研究は、間違いを批判されるから取り組まれない。ただ、ごく一部を精密に捉える地図ばかりでは、全体は見えてきません。
池内  政策当事者は、現実にあるものを、雑ぱくでも大づかみにする言葉を求めています。文明の衝突論は、おおむね共有されている常識をざっくりと言語化してくれ、有用だから生き残ったと言えますね。
待鳥  文明という言葉は、国民性や県民性という言葉と、使われ方が似ています。あいまいな概念なのに、本質的なものを含むと感じる人が多い。しかし、学術界はそのあいまいさを嫌う。結果的に学術界と一般社会との距離は広がり、読む本や知識を共有できなくなっています。
池内  政治学は科学化して厳密になったものの、社会との接点が乏しくなってきたのですね。
待鳥 残念なことです。政治の世界には、うまく整理できない要素が多く存在します。それを、科学化を重視して切り捨てるだけだと、社会の見取り図を提示できない。バランスが難しいのです。

オンライン授業で勉強時間が増えた

2021年11月30日   岡本全勝

11月20日の朝日新聞夕刊「課題地獄の嘆き、いまも オンライン授業拡大、背景に」から。
・・・コロナ下で大学にオンライン授業が普及して以降、急浮上した問題の一つが「課題地獄」だ。「教えた内容が身についているのか不安」などの理由で各教員が多くの課題を出し、学生たちが疲弊した。その後、大学の対応は進みつつあるものの、道半ばのようだ・・・

・・・コロナ禍を受け、各大学では昨年春以降、オンライン授業が一気に拡大。多くの教員が、教えた内容が身についているかどうかを確認する手段として、あるいは試験が実施できない時の成績評価の代替手段などとして、リポートや動画などの提出を求めた。金子元久・筑波大特命教授(高等教育論)は「日本の大学では教員同士の連携が少なく、それぞれ独自に授業を進める傾向が強い。このため各教員が、オンライン授業の導入当初は互いに調整せずに多くの課題を出し、『課題地獄』という問題が起きた」と話す。
大量の課題をこなすために、学生たちの勉強時間は増えた。学生を対象とした日本学生支援機構の2020年度の調査によると、「授業の予習・復習、課題などに、1週間に6時間以上使った」と回答した割合は51%。コロナ前の18年度に比べて23ポイントも上昇した・・・

・・・コロナ前は国の基準ほど勉強していない学生も多く、朝日新聞と河合塾の調査では「負担が増えたと言っても本来学ぶのに必要な時間でもあり、授業内容の理解は深まっている」(関西の公立大)として、課題の増加を問題視しない大学も一定数あった。
金子特命教授は長年、日本の学生の勉強時間の少なさを問題視してきた研究者の一人。「大量の課題が出されたことで、苦労もあったとは思うが、多くの学生は対応することができた。勉強時間が増えたのは歓迎すべきことだ」と話す・・・

インターネットの悪用を防ぐ

2021年11月29日   岡本全勝

11月18日の日経新聞オピニオン欄、イアン・ブレマー氏「テック企業から民主主義守れ」から。

・・・米フェイスブック(現メタ)は30億人に社会的交流や情報、ニュースを提供するプラットフォームを運営している。このため、評論家や政治家、規制当局者らが、同社は収益向上のため極端で悪意に満ち、うその多いコンテンツ拡散を助長していると非難してきたことは非常に重要だ。マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)はこうした非難をはねつけているが、どの国の政府も同社が及ぼす脅威に気付き始めている。
公正を期すために言うと、フェイスブックは規制を求める声に抵抗していない。民主主義を守る直接的な責任を負うことなく、利益を上げて競争力を維持したいと考えているだけで、世論を分断するつもりはない。経営陣はインターネット全般やSNS(交流サイト)を対象にした新たな規制を定めるよう政府に求めている。SNSのあり方や情報掲載可否の判断基準が、全ての企業に公正に適用されることを望んでいるのだ・・・

・・・フェイスブックを解体したり、別の方法で弱体化したりすることなく、社会の分断を阻止する解決策はある。1つは政治広告の禁止だ。そうすれば政治の偽情報拡散は抑えられ、議論のレベルが上がる。2つ目はサイト全体で国内政治の重要度を抑えることだ。3つ目は全てのユーザーが実在の人物であることを確認することだ。匿名アカウントやボットは認めない。全ての利用者がヘイトスピーチや偽情報を禁止するルールに従うことに合意・署名したうえで、ルールを破って追放された人が、新たな名前を使ってサインインできないようにする。
これらの方策は、デジタルテクノロジーがもたらす様々な問題に対処する一歩となるだろう。規制当局や市民は、テック企業が力を増しつつある社会にどう適応するのが最善か、世界全体で議論すべきだ。各国の首脳は1990年代半ば以降、気候変動への対策を毎年協議している。海面上昇や不安定さを増す気候パターンと同様に、テック企業が民主主義や社会に及ぼす害を抑えるため、即座に対策を講じなくてはならない・・・

小柳建彦・編集委員は、次のように補足しています。
・・・フェイスブックは近年コンスタントに毎四半期10億件超の偽アカウントを削除している。直近7~9月は18億件削除した。それでも1億近い偽アカウントが監視をすり抜けて活動中という。
大多数は、見知らぬ人からの「友達」申請に応じてしまう個人を狙って金銭などをだまし取ろうとする犯罪目的とみられる。一方、世論操作のため国家や政治家、思想集団がSNS上に設けた大量の偽アカウントは、陰謀論などの有害情報を拡散している・・・
詳しくは原文をお読みください。