カテゴリーアーカイブ:社会の見方

アメリカ民主主義の危機

2022年2月10日   岡本全勝

2月2日の朝日新聞、スザンヌ・メトラー、コーネル大学教授の「米国の民主主義は危機にあるか 分極化や格差、重なる四つの脅威」から。

――著書で米国の民主主義の「四つの脅威」を挙げています。
「一つは政治的な分極化です。本来、立場の異なる政党があることは民主主義にとって良いこととされてきました。問題は、一つの政党が相手を、自らの生存に関わるような脅威と見なして対決するようになることです。相手をそのように見れば、民主主義を無視してでも相手に勝ち、権力を得ることを最優先しようとします。こうなると分極化は脅威となります」

――ほかの脅威は何ですか。
「二つ目の脅威は、帰属をめぐる対立です。特に社会や政治において力を持っていた集団が、自分たちの地位が危うくなり、力を失うと感じるとき、民主主義など気にかけず、あらゆる代償を払ってでも支配的な地位を守ろうとします。たとえば白人、男性、クリスチャンの中には、高まる多様性が自分たちへの脅威だと感じている人たちがいます」
「かつての共和党の大統領や大統領候補は、こうした帰属意識を利用することはありませんでした。たとえばブッシュ大統領は米同時多発テロの後に、反イスラム感情を鎮めようとしました。しかし、トランプ大統領はこれを利用したのです」
「三つ目は経済的な格差の拡大です。多くの富を持つ人が自分たちの優位を保とうとするようになります。この国では超富裕層は政治的にさらに活動的になり、減税や規制緩和を支持しています」
「四つ目は指導者の権力拡大です。米国では歴史的には議会の権限が大きかったのですが、徐々に大統領の権限が拡大してきました。もし民主主義を守るよりも自らの権力拡大に関心がある指導者が出てきたら、こうした大きな権限を、非常に支配的なやり方で使うことになります」

「米国の歴史を振り返ると、過去にも民主主義の後退が懸念された時代がありました。1850年代には最初の三つの脅威が重なり、南北戦争につながりました。しかし今の米国では四つの脅威が重なっており、民主主義にとって非常に危険な時期です」

心がつながらないオンライン会話

2022年2月9日   岡本全勝

2月3日の朝日新聞文化欄、脳研究の川島隆太・東北大研究所長の「オンラインの会話、心は通じるか 視線・音声のズレ、実は孤独に?」から。

・・・ 私がCTO(最高技術責任者)を務める、東北大と日立ハイテクによる脳科学ベンチャー「NeU(ニュー)」で開発した脳活動センサーを使って見てみると、よいコミュニケーションが取れている時はお互いの脳活動がシンクロし、揺らぎが同期するという現象が起きる。対面で顔を見ながら会話しているときは、5人の脳反応の周波数は同期していたが、オンラインではそれが一切見られなかった。
脳活動が同期しないということは、オンラインは、脳にとってはコミュニケーションになっていないということ。つまり、情報は伝達できるが感情は共感していない、相手と心がつながっていないことを意味する。これが多用され続ければ、「人と関わっているけど孤独」という矛盾したことが起こってくるのではないかと推測する。
同期しない理由の一つが視線。心理学でも、コミュニケーションの場面では、視線が合うことで共感が得やすい、といわれる。オンラインではカメラを見て話せば視線は合うが、画面を見るとずれてしまう。これが大きな違和感になる。

もう一つは、どうしても音声と画像がズレてしまうこと。脳にとっては、紙芝居が声がずれた状態で演じられているようにしか感じられないのだろう。
SNSの利用も増えたが、仕事や勉強などと並行することが多く、メインの作業への「割り込み」になる。スイッチがあっちに入ったりこっちに入ったりする「スイッチング」が増えるほど、注意能力が下がり、原因は解明されていないが、医学的にはうつ状態になりやすいと言われる・・・

記者会見で指名されない記者

2022年2月8日   岡本全勝

2月2日の朝日新聞オピニオン欄「多事奏論」、原真人・編集委員の「日銀の質問封じ たかが記者会見、されど」から。

・・・記者稼業を長年続けていると出席した記者会見の数は千回や2千回を軽く超える。その経験から言えるのは会見には2種類あるということだ。一つは「伝えたい何か」を出来るだけ多くの人に伝えるための会見。もう一つは「隠したい何か」をできるだけ話さず、ただやり過ごす会見である。
昨今は後者が増えている。モリカケ、桜を見る会などの疑惑に揺れた安倍政権、ワクチン接種など新型コロナ対策の遅れを批判された菅政権がそうだ。想定問答をひたすら読み上げ、批判的な質問をする記者を排し、時間が来たらさっさと打ち切る。

私がふだん出席する日本銀行の会見もそうだ。先月開かれた定例会見で黒田東彦総裁は14人の記者の質問に答えた後、最後にひとり挙手する私だけ指名せず会場をあとにした。会見の司会は記者会側が務めるが質問者を指名する裁量は総裁にある。
私が質問の機会を奪われたのはこれが初めてではない。以前から私を含め、異次元金融緩和について厳しい質問をぶつけたり批判的な記事を書いたりする何人かの記者が指名されないことがたびたびあった・・・

・・・たかが日銀会見の話と思わないでいただきたい。黒田体制の9年間で日銀は政府の借金のうち400兆円を事実上肩代わりし株式市場に30兆円超のマネーを投じた。国家の未来を脅かしかねない異様な政策はわずか9人の政策決定会合メンバーで決められた。その権力の中心が日銀総裁なのだ。
たかが一問でもなかろう。権力を批判する一つの質問の制限が全体を萎縮させる。

朝日新聞社史は戦前戦中の朝日報道を「大きな汚点」と記している。戦争を批判せず軍部に協力して国民の戦意をあおり、実態と異なる戦況報告を垂れ流した。戦後はそれを猛省し、二度と同じ過ちを繰り返すまいと社をあげて誓った。その精神は私たち現役記者にも引き継がれている。
とはいえ将来、国家権力が再び戦争に突入しようとしたとき、メディアはそれを止められるだろうか。私には自信がない。権力が手を下すかもしれない検閲や報道統制、記者の逮捕や暴力的圧迫のもとで批判的報道がどこまで続けられるものか・・・

記者会見で、手を挙げても指名されない記者は、一つの勲章なのでしょうね。もっとも、その状況を多くの国民は知らず、また原さんの心配するような社会になっては困ります。

育児休暇、日本とアメリカ

2022年2月8日   岡本全勝

2月6日の日経新聞「風見鶏」は、山内菜穗子記者(ニューヨーク)の「育休が映す日米の未来」でした。
・・・育児休業法の施行から30年がたつ日本からみれば、驚きかもしれない。
経済協力開発機構(OECD)加盟国で唯一、政府として有給の産休・育休制度がない国がある。米国だ。バイデン大統領は大型歳出・歳入法案の一部として有給の家族休業創設をめざすが、成立のめどは立たない・・・
なぜ、アメリカでは、産休と育休がないのか。その背景は、記事をお読みください。

もう一つ、重要な指摘があります。
国連児童基金(ユニセフ)の調べでは、日本の育休制度は先進国で1位の評価をもらっています。これは意外でした。
ただし、この話には続きがあります。制度は立派なのですが、男性の取得が進まないとも指摘されています。課題は、制度とともに、運用です。

「人手不足で育休取得が進まない」との意見もあります。しかし、育休だけでなく、(家族を含めた)コロナ感染や介護などで、従業員が休まざるを得ない場合が増えています。安心して働き続けるために休暇を取りやすくすることが、人材確保にもなります。

失われた30年からの脱出

2022年2月7日   岡本全勝

1月30日の読売新聞1面コラム「地球を読む」、伊藤元重先生の「「新しい資本主義」「失われた30年」構造不況」から。

・・・1990年代にバブル経済が崩壊してから日本経済はジリ貧が続き、「失われた30年」とも言われる。低成長・低金利・低インフレ(デフレ)の3点セットである。顕著なのは、賃金の低迷、中間所得層の弱体化、所得格差の広がりで、長期停滞と呼ぶこともある。要するに、単に景気が悪化したというよりも、経済全体に構造的な問題があるということだ。
旧来の資本主義経済を擁護する人は、市場経済メカニズムが持つ資源配分機能や成長 牽引力を強調した。こうした考えをもとに日本でも規制緩和が進められ、市場経済をより有効に機能させるために多くの改革が実施された。これらの改革に意味がなかったわけではないが、その結末が「失われた30年」でもある・・・

・・・ただ、1970年代のインフレの経験を通じて、新古典派は、ケインズ的な過剰な政策的介入には好ましくない面も多いと、批判を展開した。そうした論争の中で、新古典派をさらに先鋭化させた市場原理主義の考え方が広がった。
しかし、日本に続いて世界の主要国が構造不況に陥ると、ケインズ的な考え方が復調してきた。日本でも、アベノミクスによる需要喚起策が効果をあげた。コロナ危機に際しては、多くの国がケインズ的な需要喚起策に頼っている。
財政や金融政策による需要喚起は、カンフル剤としての効果は期待できるが、経済の構造を変える力はない。日本の潜在成長率が依然として低迷を続けていることが、それを裏付けている・・・

・・・日本経済の構造を変えないと、人々が望む成果は期待できない。低成長やデフレ状況が続くだけでなく、貧困の広がりや中間層の弱体化などの多くの問題が、抜本改革を迫られよう。
ケインズ政策の基本が、政府や中央銀行による需要刺激策であるとすれば、今求められるのはそれだけではない。経済構造を変えるには供給サイドのテコ入れが必要となる。
ただ市場に委ねればいいという新古典派への批判も多い。供給サイドの構造を変えるには政府による何らかの関与が求められる。
供給サイドの基本は、経済の成長力を示す潜在成長率である。これを高める方策は、労働増加、資本増加、生産性の上昇の三つしかない。高い成長を目指すことに抵抗感を持つ人もいるだろう。しかし、日本経済の成長率を上げないと、賃金上昇も、安心できる社会保障制度も実現できない・・・

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