カテゴリーアーカイブ:社会の見方

玉木俊明著『近代ヨーロッパの形成』

2022年10月9日   岡本全勝

玉木俊明著『近代ヨーロッパの形成 商人と国家の近代世界システム』(2012年、創元社)を紹介します(本の山から出てきたので、読みました)。

なぜ近代に入り、ヨーロッパがいち早く経済成長を遂げたのか。産業革命はなぜイギリスから生まれたのか。そして、近代主権国家システムを作り上げたのか。さまざまな説明がされてきました。
この本では、オランダのアントウェルペンを起点とする商人ネットワークの拡大と、財政軍事国家論を重点に説明します。

経済史は大きな貢献をしたのですが、物の生産と移動(貿易)の数値に根拠を置いています。他方で、知識(技術)や情報の貢献は、あまり明らかにされていません。資料が残らないのでしょう。現在の企業や産業を見ても、知識と情報の重要性は明らかです。原材料と機械があるだけでは、生産は起こらず、また消費されません。その点での、この本の主張は、納得できます。

もう一つの国家の役割も、近年重視されているようです。「国家の見える手」です。ラース・マグヌソン著『産業革命と政府 国家の見える手』(邦訳2012年、知泉書館)

本書は読みやすいのですが、ところどころ疑問に思う点もありました。玉木先生は、次々と興味深い書物を出版されているようです。

子どもの心「なんとなく不調」

2022年10月6日   岡本全勝

9月20日の日経新聞夕刊「子どもの心「なんとなく不調」」、平山哲・大阪母子医療センター子どものこころの診療科副部長の発言から。

ここ3年ほど、子どもの心のストレスが話題になり、精神疾患発症率の上昇なども報告されるようになった。国立成育医療研究センターが2020年6月以降に公表した複数の報告書では、心身の不調を訴えている子どもが一定数いることがわかっている。
21年12月に実施したアンケートでは、1週間のうち数日以上で「気分が落ち込む、ゆううつになる」などと答えた小学4~6年は36%いた。中学生では56%にのぼっている。「疲れた感じがする、気力がない」と回答したのも小学4~6年で43%、中学生では75%だった。
私は子どもの発達にかかる領域全般を専門に診療しているが、初めて受診される方の約半数は未就学児で、残り半数は小中高校に通っている児童や生徒。未就学児では発達に関する相談が中心だが、小学生以上になると学校生活の問題や思春期特有の悩みなど、心のストレスにまつわる内容が多くなる。

そもそもストレスはどのような時に感じるのか。
嫌な出来事があった時によく「しんどかった、つらかった」などと言う。だが、実は嫌な事だけがストレスにつながるとは言い切れない。
厚生労働省によるコロナ下でのメンタルヘルスに関する調査では、回答した15歳以上の約8300人のうち17.5%が「第5波」の期間だった2021年7~9月に「生活の変化に対する不安」を感じていた。このような結果を参考にすると、ストレスとは嫌な事があった時だけではなく、変化が起きて心身へ何らかの影響があったことで生じると考えられる。
外来では「コロナが落ち着き、遠足や運動会など様々な行事が再開できるようになって楽しみにしていたのに、体調を崩してしまった」と保護者が不思議そうに話すことがある。楽しみにしているにもかかわらず、体調不良という正反対の反応が出てしまっている。これも変化によって生じた不調と言えるだろう。

大切なのは子どもと対話をすることだ。国立成育医療研究センターのアンケートでは「子どものことを決めるときに大人たちが気持ちや考えを聞いてくれるか」と尋ねたところ、小学4~6年で18%、中学生で39%が「そう思わない」と感じていた。
大人に対して「もっと熱心に話を聞いてほしい」「接している時にスマホを見ないでほしい」など求める声もみられた。
外来にくる子どもたちを診療していると、コロナ下であっても「友達と遊ぶ」「祖父母に会いに行く」など自分がしたいことを保護者と共有できている子どもたちは元気に過ごしている傾向がみられる。話す時間は短くてもかまわない。「明日は何をしようか」ということを保護者から語りかけてもらいたい。

30年後の世界予測と課題解決

2022年10月6日   岡本全勝

9月22日の日経新聞、ジャック・アタリ元欧州復興開発銀行総裁の「30年後の課題解決、カギは個人に」から。

人類は太古から未来予測を試みてきた。旅立ち、種まき、出産、開戦などに適した時期を探り、自らの死期、計画の行方、企業や国家の運命を占ってきた。かつては動物の内臓、コーヒーカップに残る粉の形、落ち葉、薬物による錯乱状態などが用いられた。やがて科学的に天候などが占われるようになり、今日、地球と人類の未来は、かなり正確に予測できる。
2050年の世界人口、気候変動、自然環境は、ほぼ正確に予測できる。一方、技術進歩の未来予測では不確実性が高まり、医療、教育、食糧、水資源の利用、労働組織、地政学的な緊張、紛争の勃発、移民の動向、政治的イデオロギーや宗教的価値観などでは不確実性がさらに高まる。これから私の未来予測を披露したい。

まず、気候では30年後、南アジア、イラン、クウェート、オマーン、ソマリア、エジプト、エチオピアなどでは、猛暑で居住が困難になる。ブラジルとメキシコも同様だ。パキスタン、バングラデシュ、英国、オランダも洪水の頻発で住めなくなる。

教育ではデジタル技術の発展により、読み、書き、計算、プログラミングは、学ぶ必要がなくなる。神経科学の進歩に伴い、ゲーム感覚で独学できるようになり、アフリカやインドでは伝統的な学校制度が崩壊、富裕層の子弟向けの私立学校が増える。学校を経ず、まずはインターネット、次にホログラム、仮想空間などを経たデジタル教育が急速に普及する。

地政学と戦争では、国家や社会集団間の不平等が拡大し、水など不可欠な天然資源の利用に著しい格差が生じると緊張が高まる。その結果、ウクライナのような地域紛争が続発するかもしれない。特に台湾での紛争、イランや北朝鮮で独裁者の生き残りを賭けた行動が予想される。中国は世界の覇権を握れず、内政に専念せざるをえなくなり、軍事的な賭けに出る。
こうした流れを変えるような世界規模の行動が起こるとは考えにくい。世界政府も、何をなすべきかというコンセンサスも存在しないからだ。とはいえ、衛生、環境、政治に関する問題が続発すれば地球規模でなければ解決できないというコンセンサスができる。
解決のための目標設定は、世界よりも、国、企業、個人のレベルのほうが容易だ。意思決定の主体が小さいほど、また主体の将来への影響が大きいほど、目標設定は簡単になる。全員が一丸となって命の経済を目指すのなら、30年後の未来は明るいだろう。

NPOによる政策形成

2022年10月3日   岡本全勝

9月19日の朝日新聞オピニオン欄に、秋山訓子・編集委員が「政策形成の新潮流 NPO×政治家、課題解決へつなぐ」を書いていました。

政治家や官僚、業界団体による伝統的な政策形成のあり方が少しずつ変化している。社会課題に取り組むNPOや社会的企業の中から、現場での問題解決だけでなく制度を変えようとする人々が動き出し、政治と結びつくようになってきた。
2021年、菅義偉政権で「孤独・孤立担当相」が新設された。英国に続き世界で2例目だったが、これはあるNPOの活動が始まりだった。

「孤独」のような課題は新しい。複雑化、多様化した社会で官僚は現場の動きについていけず、情報収集能力も落ちている。高度経済成長時代には政治家、官僚、業界団体が票とカネを媒介に結びついた、いわゆる「鉄の三角形」による政策形成が主流だった。だが、少子高齢化で財源は限られ、無党派層も増えて、この構造は崩れかけている。縦割りの省庁より、先駆的で柔軟なNPOや社会的企業のほうが新しい課題に取り組みやすい面がある。

1980年代以来の行政・政治改革で官邸機能が強化され、首相が指導力を発揮するようになった。NPOなどでも首相やその周辺とうまくつながれば、政策実現可能性が高まる。孤独担当相創設はその例といえる。
NPOに対しては自民党内に偏見もあったが、若い世代が増えると受け止め方が変わってきた。女性や障害者など、自民党が従来あまり触れなかった課題もNPOと連携して政策化する例が出ている。NPO側も、政策実現のため与党志向が強まっている。

孤独担当相の創設に関わった加藤氏(現厚生労働相)は、政治家とNPOなどが協力し合う意義をこう語る。「政治だけで何でも解決できる時代ではない。行政は縦割りであり、制度をきれいに作ってしまいがちだが、機能しないことも多い。政治家がコーディネーターとなり、NPOや社会的企業、官僚、研究者など関係者でフラットに政策を議論することが必要だ」
このような政策形成の実例は、まだまだ少数だ。だが多様化した社会で、新しいやり方が出てくるのは時代の必然ともいえる。政治家も官僚もNPOも、社会の課題を解決するという目的自体は同じだ。手を携えながら政策づくりをどのように進めていくか、さらに知見を積み重ねていくことが必要になるだろう。

縮む日本経済、30年前に戻る

2022年10月2日   岡本全勝

9月19日の日経新聞1面は「止まらぬ円安 縮む日本 ドル建てGDP、30年ぶり4兆ドル割れ」でした。

ドル建てでみた日本が縮んでいる。1ドル=140円換算なら2022年の名目国内総生産(GDP)は30年ぶりに4兆ドル(約560兆円)を下回り、4位のドイツとほぼ並ぶ見込み。ドル建ての日経平均株価は今年2割安に沈む。賃金も30年前に逆戻りし、日本の購買力や人材吸引力を低下させている。付加価値の高い産業を基盤に、賃金が上がり通貨も強い経済構造への転換が急務だ。
経済協力開発機構(OECD)によると日本の今年の名目GDPは553兆円の見込み。1ドル=140円でドル換算すると3.9兆ドルと1992年以来、30年ぶりに4兆ドルを下回る計算だ。現時点での期中平均は127円程度だが、円安が進んだり定着したりすると今年や来年の4兆ドル割れの可能性が高まる。

ドルでみた経済規模はバブル経済崩壊直後に戻ったことを示す。世界のGDPはその間、4倍になっており、15%を上回っていた日本のシェアは4%弱に縮む。12年には6兆ドル超とドイツに比べ8割大きかったが、足元で並びつつある。

1ドル=140円なら平均賃金は年3万ドルと90年ごろに戻る計算だ。外国人労働者にとって日本で働く魅力は低下している。今年の対ドルの下落率は円が韓国ウォンを上回り、ドル建ての平均賃金は韓国とほぼ並ぶ。11年には2倍の開きがあった。物価差を加味した購買力平価ベースでは逆転済みだが、市場レートでも並ぶ。