カテゴリーアーカイブ:社会の見方

「日本語の発音はどう変わってきたか」

2023年6月21日   岡本全勝

釘貫亨著『日本語の発音はどう変わってきたか 「てふてふ」から「ちょうちょう」へ、音声史の旅』が面白かったです。お勧めです。
題名の通り、奈良時代から現代までの、日本語の発音の変化を説明したものです。奈良時代には母音が今より多かったこと、漢字を輸入した時期によって読み方が異なることなどは知っていましたが、この本でよくわかりました。
どうして、奈良時代の発音がわかるか。レコードもなかったのに。江戸時代から始まったその謎解きは、推理小説でもあります。
室町末期に宣教師が来て、アルファベットで日本語を表記しています。これは、有力な手がかりになります。すると、羽柴秀吉は、ファシバフィデヨシと発音したのです。

私たちは、ひらがなを50音図で表記します。縦に母音を5つ並べ、横に「あかさたなはまやらわ」を並べて、すべての(濁音などを除く)ひらがな(日本語の発音)を表記するのです。これは、偉大な発明です。これを作ったのが、江戸時代の契沖です。それまでは「いろは歌」で音を覚えたようです。では、この「あいうえお」の順番はどのようにして決まったか。インドからの輸入だそうです。

学問の成果を新書程度の短さにまとめて、素人にわかるように解説することは、難しいことです。でも、私たちには、とても役に立ちます。

こども誰でも通園制度

2023年6月20日   岡本全勝

6月3日の朝日新聞東京版に「「誰でも通園」10分で100人超 文京区事業へ申し込み殺到、面談予約停止に」が載っていました。

・・・文京区で、幼稚園や保育園に通っていない子どもを週1〜2回、保育所で定期的に預かる事業が7月に始まる。区が今月1日に利用申し込みを開始したところ、初日だけで100人以上の申し込みがあり、事前に必要な面談の予約を一時停止する事態になっている。
区によると、国が「異次元の少子化対策」として挙げている「こども誰でも通園制度(仮称)」の実施に向けたモデル事業で、来年3月まで期間限定で実施される。認可保育園のように、保護者が就労しているかどうかなどといった状況にかかわらず定期的に利用できるのが特徴だ・・・

考えてみたら、そのような需要はありますよね。

巣立たぬ若者、米英も急増

2023年6月19日   岡本全勝

5月29日の日経新聞に「巣立たぬ若者、米英も急増 3分の1が親と同居」が載っていました。

・・・成人したら親元を離れ自立した生活を営む。そんな慣習が米国や英国で揺らいでいる。住居費や学費の高騰などを背景に、米英で若者の3分の1が親と同居するようになった。日本や南欧など親との同居率が高い国は出生率が低い傾向がある。このまま米英でも「巣立たぬ若者」が増えれば、人口動態に影響する可能性がある・・・

若者の親との同居は、国によって大きな違いがあります。18~34歳をとると、デンマーク16%、スウェーデン17%、フィンランド18%です。18~20代前半に家を出て自立するという規範があります。
他方で、ポルトガル72%、イタリア71%、スペイン65%です。イギリス、フランス、アメリカはその中間に位置します。
韓国70%、日本は47%です。

ところが、記事にあるように、英米で3分の1が親と同居するようになりました。一番の理由は、家賃の高騰です。この20年間でアメリカでは1.7倍、イギリスでは1.5倍になりました。授業料の値上げもキツいようです。
親と同居している国ほど、出生率が低いという統計があります。山田昌弘・中央大学教授は「日本の少子化は、パラサイト・シングル現象が一因だ」と指摘しています。親元を離れず、結婚もしないまま中年になる人です。

暴論のはびこり

2023年6月17日   岡本全勝

6月2日の朝日新聞オピニオン欄「「暴論」の存在感」、真梨幸子さん(作家)の「昔より減った分、悪目立ち」から。

・・・昔に比べ、暴言暴論の類いは減っているのではないか、と思います。昔は暴言だらけだったけど、問題になっていない。今は少ないが問題になる。少ない理由は「言ってはいけない、言うべきではないことは何か」について、多くの人が共通認識を持っているから。だからその反動で、匿名の誹謗(ひぼう)中傷がネットにあふれるのだとも言えます・・・

・・・政治家、官僚、企業幹部など、公的な立場の人も社会的な発言には細心の注意を払っている時代です。だから、ごくたまに表に出てくる暴言が悪目立ちするのでしょう。多くの場合、面白く語ろうとしてブラックジョークを使い誤る失言が多いと思います。
社会的問題への暴言暴論の場合は、世論に対する「興奮剤」になってしまいます。何か極端な発言があると、ネットを中心に賛成派、反対派がわーっと出てきて、激しくやりあう。発言が闘争ホルモンを全開にさせる合図、「レディーゴー」(用意ドン)になって、人々が戦闘状態に切り替わってしまうのです・・・

・・・ただ思うのは、誹謗中傷や暴言を封じても人間から無くなるわけではないし、人間を進化させてきた言葉から、その美しい、良い部分だけを後世に残し、醜い、悪い部分だけを撲滅することはできない、ということです。人間の世界は、白も黒も引き受けながら進んでいかないと、息苦しくなってしまいます・・・

『中華を生んだ遊牧民 鮮卑拓跋の歴史』

2023年6月16日   岡本全勝

松下憲一著『中華を生んだ遊牧民 鮮卑拓跋の歴史』(2023年、講談社選書メチエ)が、面白く勉強になりました。紹介文を一部抜粋します。

・・・中国の歴史は、漢族と北方遊牧民との対立と融合の歴史でもある。なかでも、秦漢帝国が滅亡した後の「魏晋南北朝時代」は、それまでの「中華」が崩壊し、「新たな中華」へと拡大・再編された大分裂時代だった。この「中国史の分水嶺」で主役を演じたのが、拓跋部である。
拓跋部は、モンゴル高原の騎馬遊牧集団・鮮卑に属する一部族だった。386年には拓跋珪が北魏王朝を開いて、五胡十六国の混乱を治めた。雲崗・龍門の石窟寺院で知られる仏教文化や、孝文帝の漢化政策により文化の融合が進み、「新たな中華」が形成された。北魏の首都・洛陽の平面プランは、唐の都・長安に受け継がれ、さらに奈良・平城京へともたらされるのである。
その後、中国を統一した隋王朝、さらに大唐帝国の支配層でも拓跋部の人々は活躍し、「誇るべき家柄」となっていた。「夷狄」「胡族」と呼ばれた北方遊牧民の子孫たちは中国社会に溶け込みつつも彼らの伝統を持ち込み、「中華文明」を担っていったのである・・・

「秦漢時代の中国人と、隋唐時代の中国人とは違っている」と聞いたことがありました。中華思想は、中華を高く夷狄を低く見る考え方ですが、ラッキョウの皮をむくと、中華の中に夷狄が現れるのですね。
中国という言葉の使い方は、19世紀末から20世紀初頭に形成されたのだそうです。120年前に梁啓超が自国史を書こうとしたときに、「我が国に国名はない」として「中国史」という言葉を作ったのです。「中国5千年の歴史」という言葉も、たかだか100年の歴史しかありません(6月10日の日経新聞書評欄、川島真・東大教授の「中国という捏造」)。

追記
この記事を読んだ肝冷斎によると、「現在の中国あたりを表す言葉は、直前には「キタイ」(契丹から)で、その前が「タブガチ」(拓跋から)です」とのこと。