カテゴリーアーカイブ:社会の見方

グローバル化の果て

2023年7月19日   岡本全勝

6月28日の朝日新聞オピニオン欄、牧原出・東大教授の「グローバル化の果て 富の偏在進み固定、徳の失墜と無関心、民主主義が劣化」から。

ベルリンの壁に象徴された東西分断が終わり、グローバリゼーションが世界を席巻し始めてから約30年。世界の経済はつながり豊かになったが、その一方で社会の分断は進み、国際的な対立も激しくなっている。新たな壁が地球を覆うのか。我々は何をなすべきか。国内外の政治や行政を見つめ続けてきた牧原出さんに聞いた。

――グローバリゼーションが生み出した変化とは何でしょうか。
「東西世界を引き裂いていた『壁』が崩壊して冷戦が終わった時、最大の問題は旧ソ連、旧東欧圏の国々をどうやって民主化するか、そして資本主義に取り込むかでした。私が大学の研究員として英国に向かった2000年から数年は、EU(欧州連合)で共通通貨ユーロ導入が本格化した時期です。これら旧社会主義圏の取り込みによるEU拡大を、フランスは官僚制の枠組みで、ドイツは連邦制の手法で、英国は投資先の広がりとして捉えているとまで報じられていました」
「当時、グローバル化には希望がありました。ピュリツァー賞受賞者の米ジャーナリスト、トーマス・フリードマンの著書『フラット化する世界』がこの頃出版されます。そこでは、中国やインドの経済成長をインターネットが促す結果、世界経済は一体化し、どこでも共通の条件で競争できる、という世界が描かれていました」

「しかし、その後の現実は異なりました。中間層が縮小し、現代化に向けた改革も世界標準を喪失し、各国独自の方向を探らざるを得なくなりました。経済成長を前提とする『希望のグローバル化』も、成長エンジンだった中国は鈍化し始め、インドもそれに代わるだけの力が見えません。コロナ禍とウクライナ戦争は、そうしたマイナス面を推し進めました」

――結局、プラス面よりマイナス面が大きかったのでしょうか。
「グローバル化の結果、19年の世界のGDP(国内総生産)総額は85・9兆ドルと、1960年の約60倍にもなりました。一方でG7(主要7カ国)の世界経済でのシェアは、00年の65%から20年には46%と急速に小さくなっています。同じ時期に4%から17%に急拡大した中国と対照的です。世界はそれなりに豊かになり、最貧国も貧しさの度合いは確実に改善した。その半面、『壁』がなくなり、グローバルな規模で移民が拡大して先進国にグローバル水準の貧困が流入し、新たな分断が起きています。貧しかった国でも、富が一部の層に集まり、貧富の分断が起きています」

「問題は、こうした富の偏在が是正されなくなっていることです。欧米や韓国などでは、富を自分の家族の中で蓄積させて、子や孫らを高学歴とするための獲得原資に充てようとする傾向が強まっています。米国では大学の授業料があまりに高額になり、授業料ローンを返済できない学生も現れています。結局返済できるのは高額所得を確実に得られるか、親が富裕層の場合だということになっています。教育による富裕層の固定化と言えるでしょう。そこで何が起きたかというと、『徳』の失墜とも言うべき現象です。高等教育を受けて高度専門職に就くと高額の所得を得ますが、そのために不正が行われたり、貧困層への関心を失ったりする傾向が目立ち始めました。彼らの中には一部の市民をどこかで軽蔑している者もいる、とまで指摘する人もいます」

意図や目的のない人工知能

2023年7月16日   岡本全勝

生成人工知能(チャットGPTなど)が、評判になっています。私の理解では、コンピュータが過去の膨大な文章を蓄積し、利用者の求めに応じて、そこから答えを出してくれる仕組みです。
なかなかの優れもので、わからないことを調べたり、一定の指示で文章を書いてくれます。大学入試だと、過去問に強いのです。仕組みからして、当たり前ですね。

東大出版会の宣伝誌「UP」7月号に、千葉滋・東大教授の「プログラミングはAIに奪われる仕事だってさ」が載っています。面白い例えをしておられます。「酔っ払いと話をしているような気になる」とです。
すなわち、話していることの部分部分は正しく、間違っていると指摘すると修正してくれます。ところが、全体として何を言いたいのかわからないのです。頭に浮かんだ考えの断片を、浮かぶがままに口にしているだけなので、本人だってわからない状態です。
私も、何度も経験があります。その時々は、しっかりして話している(と思うのですが)、あとで考えても、全体で何を話題にしていたかが思い出せないのです。多分、その時点で「今何を話題にしていますか?」と聞かれたら、答えられないでしょう。

これは、わかりやすい例えです。聞かれれば、過去の蓄積から答えを出してくれますが、自分から何かを考えることはありません。機械は、意図や目的は持っていないのです。
「あなたは何をしたいですか」という問いに、人工知能はどう答えるのでしょうか。「条件を与えてくれないと、答えられません」と言うのかな。

言語が階級を作るインド

2023年7月11日   岡本全勝

6月21日の日経新聞夕刊「映画でみる 大国インドの素顔(3)」、インド映画研究家・高倉嘉男さんの「お受験熾烈、英語力で決まる人生」から。

・・・2023年に中国を抜いて人口世界一に躍り出たとされるインドは、単に人口が多いだけでなく、若年層が総人口の半分を占める若い国でもあり、受験戦争も熾烈だ。
さらに、インドには言語が教養人と無学者を分断してきた歴史がある。庶民の言語とは異なる高等言語が政治や文学の場で使われ、その言語にアクセスできない者は無学者扱いされた。古代の教養語はサンスクリット語だったが、中世、イスラーム教の浸透に伴ってペルシア語がそれに取って代わり、英国植民地になった後の近現代では英語が教養語に躍り出た。
現在、インド人英語話者の数は総人口の1割ほどとされている。この1割がほぼそのまま上位中産階級から上流階級までの社会的上層を形成し、富と権力を手中に収めている。インドの身分制度というとカースト制度が有名だが、カースト制度以上に古代からインド社会を分断してきたのは言語だ。

近現代の都会を舞台にしたインド映画を観ると、台詞には現地語に加えて英語がかなり使われていることに気付く。単に現地語文の中に英語の単語やフレーズを交ぜるだけでなく、現地語文と英文を往き来しながら会話をする。日本人の耳には奇妙に聞こえるのだが、これが教養あるインド人の一般的な話し方であり、インド映画はかなり写実的にそれを再現している。英語を適宜交ぜながら会話をすることで、彼らは自身の教養を証明し、エリート層としての仲間意識を確認し合うのだ。
それだけではない。多言語国家インドには無数の現地語があるため、英語には共通語の役割もある。IT企業など、高収入が期待される多国籍企業が就職先として人気だが、その絶対条件も英語力だ。つまり、インドにおいて英語ができない人は、教養層から排除され、社会的・経済的な地位の向上も難しく、異なる地域から来た人とのコミュニケーションにも困ることになる・・・

日立の改革

2023年7月10日   岡本全勝

日立製作所、私たちの世代には家電製品の印象が強いですが、大きく転換しました。きっかけは2008年、当時最高の赤字を出したことです。そこからの改革と復活は有名です。本にもなっています。
NHKウエッブニュースが、「日立製作所 採用・人事担当者に聞く「モノづくり」から「社会課題の解決」へ 大赤字からの大変革」(7月5日掲載)を載せています。詳しくは記事を読んでもらうとして。

会社が潰れるという危機感から、扱う事業と商品を絞り込みました。記事では、それを3つに整理しています。
1 社会課題解決型ビジネス
2 データ・アナリティクス(データ分析)
3 ジョブ型人事

1については、次のように説明しています。
・・・先ほどの2008年度の赤字をきっかけに、大きくビジネスを見直し、 「モノづくり」から「社会課題の解決」にかじを切ったからです。
少し前まではお客様が自分たちが何を欲しいのか分かっていました。この時速で走る電車が欲しいとか、それに耐えうるモーターが欲しいとか、日立に限らず、どのメーカーも品質の高い製品を競って作るという時代でした。
けれど、いまの時代は何かを作って欲しいではなく、例えば利用者が減って困っているという状況に対して、何ができるかが問われています。
そうです。そのため「単に良いものを作ったら買ってくれる」ではなく、社会が何を求めているかを踏まえたうえでビジネスを展開していくようになったんです・・・

2は情報通信技術の発達によるものですが、1と3は経済成長期になじんだ仕組みからの脱却です。拙稿「公共を創る」で議論している、日本社会の転換に通じます。

人工知能が新たな人類の脅威に

2023年7月8日   岡本全勝

6月18日の読売新聞「あすへの考」、大塚隆一・編集委員の「生成AI 新たな人類の脅威」から。

人間が書いたような文章を作ることができる生成AI(人工知能)の利用が急拡大している。一方で「人類や文明の存続を脅かす」などの警鐘も相次ぐ。なぜ、それほど恐れるべきなのか。核兵器や気候変動など他の脅威と何が違うのか。それらとの比較で何が見えてくるのか。

「人類存亡の脅威」と聞くと、何を思い浮かべるだろうか。
自然がもたらす破局的な脅威には小惑星の衝突や超巨大火山の噴火などがあるが、ここでは人間の活動、特に技術や産業の発展で生じた脅威を取り上げたい。
具体的には「気候変動」「核兵器」「遺伝子の改変」「人工知能(AI)」の四つだ。程度の差はあるが、どれも人類の存続を揺るがすリスクをはらむ。

一方、「遺伝子の改変」は「命」の謎解きに挑む生命科学が生んだリスクだ。特に近年、遺伝子を自在に操作できるゲノム編集が登場したことで懸念が強まった。
この技術を人の生殖細胞や受精卵に使い、遺伝子を望み通りに変えた「デザイナーベビー」を誕生させるとどうなるか。改変の影響は子々孫々まで残る。専門家は人類の多様性や進化に未知の問題を生じさせかねないと危惧する。
もちろん科学技術や産業の発展は多大な恵みをもたらしてきた。
数次の産業革命で私たちの暮らしは豊かになった。核エネルギーは原子力という新しい電源を生んだ。核融合にも期待が集まる。
遺伝子の研究は難病の治療や新薬の開発、作物の品種改良などでめざましい成果を上げてきた。
だが人類は、恵みと引き換えに、扱いを誤れば自らの生存を危うくするリスクを背負った。
いわば、災いが詰まった「パンドラの箱」を開けてしまった。

「人工知能」のうち、いま話題の「生成AI」は「知」の分野の驚くべき成果だ。代表格の対話型AI「チャットGPT」は人間のような巧みさで「言語」を操る。
それゆえ、脅威にもなりうる。こちらの「パンドラの箱」はどんな災いをもたらすのか。
政府のAI戦略会議は先月、懸念されるリスクとして、偽情報の氾濫、犯罪の巧妙化、著作権の侵害など7項目を挙げた。
一方、イスラエルの歴史家ユヴァル・ノア・ハラリ氏は英誌エコノミストで、「言語」が人類の文明を築いてきたことを考えれば、生成AI問題はもっと「大きな構図」で捉えるべきだと論じた。
「民主主義は対話であり、対話は言語による。AIが言語を乗っ取れば、有意義な対話、すなわち民主主義は破壊されかねない」
さらに「核兵器は文明を物理的に破壊できる」が、生成AIは「私たちの精神世界と社会」を滅ぼす「新しい大量破壊兵器」になりうる、とまで指摘した。
もちろんハラリ氏も、生成AIが社会の抱える様々な課題の解決に役立つ可能性は認めている。
しかし今は、その能力を見極め、規制を優先すべき時だと訴える。