カテゴリー別アーカイブ: 自然科学

日本の研究力低下の原因

9月1日の日経新聞夕刊、私のリーダー論、橋本和仁・科学技術振興機構理事長の「政府と研究つなぐ」から。

ー科学技術政策に関わってきた経験から、日本の研究力の世界的な地位が低下した原因は何だと思いますか?

「国際競争力が低下しているのは事実でしょう。しかしちまたで言われているほどひどい状況ではないと思います・・・
・・・なぜ低下しているのか、いくつもの要因がありますが、根本的な原因はバブル経済が崩壊して以降、全体的な国家戦略が欠如していたことです。高度経済成長の時代が終わり、皆が努力すれば社会が良くなる時代が終わった段階で、科学技術も含め新たな戦略を描きませんでした。

英国やドイツは一度地位が低下して、それを食い止めるためにもがき苦しんだ結果、今があると思います。基本的にはずっと成長している米国や急成長している中国と日本を比較しても仕方ありません。欧州では科学技術予算はそれほど増えていませんが、努力や工夫で地位を維持しています・・・」

とても大きな量を表す言葉

8月5日の朝日新聞科学面に「10の30乗、ルーキー「クエタ」」という記事が載っていました。

・・・スマートフォンのデータ通信量の話題で、よく耳にする「ギガ」。数の桁を表す約束事「SI(国際単位系)接頭語」の一つだ。今年11月、ギガよりはるかに大きい「クエタ」など四つが、新たに加わる見込みとなった。「新規加入」は31年ぶり。「ルーキー」に期待される役割は?

「SI接頭語」は、十進数の桁数(主に3桁ごと)に名前を定めたものだ。「メートル」や「ヘルツ」といった単位の前に使うことで、とても大きな量やごく小さな量を簡潔に表すことができる。
例えば、「1000000000ヘルツ」と書かれていても、一瞬では読みにくい。でも、接頭語を使えば、10の9乗は「ギガ」なので、「1ギガヘルツ」とすっきり表せる。
いま接頭語で表せる最も大きな桁は10の24乗の「ヨタ」、小さな桁は10のマイナス24乗の「ヨクト」だ。そこに10の30乗を表す「クエタ」と27乗を表す「ロナ」、10のマイナス27乗を表す「ロント」とマイナス30乗を表す「クエクト」が加わる見込みとなった。

計60桁を接頭語がカバーするようになる意義を、長さの単位「メートル」で考えてみよう。地球から観測できる宇宙の果てまでの距離(約138億光年)は、10の26乗メートルのスケールで、「約0・1ロナメートル」と言いかえられる。
「プランク長(ちょう)」と呼ばれる現代の物理学で扱える最小の長さは、10のマイナス35乗メートルのスケールで「約0・00001クエクトメートル」と言える。つまり、人類が現時点で認識しうる世界の全スケールを接頭語でスカッと簡潔に表せるようになるのだ・・・
記事には、表がついています。
キロ=10の3乗、メガ=10の6乗、ギガ=10の9乗、テラ=10の12乗、
ペタ=10の15乗、エクサ10の18乗、ゼタ=10の21乗、ヨタ=10の24乗、
ロナ=10の27乗、クエタ=10の30乗
この逆に小さな数字についても、センチ、ミリ、マイクロ、ナノ、ピコ・・・と続きます。

8月14日の日経新聞も取り上げていました。「10の30乗、新呼称は「クエタ」

生命知能と人工知能

高橋宏知著「生命知能と人工知能 AI時代の脳の使い方・育て方」(2022年、講談社)が分かりやすく、勉強になりました。お勧めです。

人の脳と人工知能とを比較して、脳の機能に迫ります。二つは、何が違うか。
人工知能はある目的のための「自動化」の技術であり、あらかじめ決められた規則に従って物事を進めます。その際には、なるべく無駄を省くように設計されています。それに対し生命知能は、その生命体が生きていくための「自律化」のためにあります。こちらは自分で目的を決め、規則も自分で決めます。人工知能は、これまでにないことを見いだしませんが、生命知能は、これまでにないことを考えます。

どうして、このような差がでるか。人工知能は、その目的のために人間が設計します。生命知能・脳は、細胞から始まり、動物の進化の過程で発展してきました。種がダーウィンの法則で進化してきたのと同じく、細胞が変異を続け、適者が生き残ってきました。「変異」によって「多様性」が生まれ、その中から「選択」されて、私たちの脳ができました。
これは、すばらしいことです。変異が生まれないと多様性は生まれず、進化は起こりません。細胞は脳や司令塔を持っていないので、「この方向に進化するのだ」という意図も持っていません。その中で生物の進化が起こるのは、この仕組みによってです。この比喩は、社会にも当てはめることができます。

その脳が、意識を作ります。目や耳、皮膚から刺激を受けて反応することは、機械の類推で理解できます。情報処理です。
他方で、目を閉じてもいろんなことを考える、寝ていていても夢を見る、さらにこれまでにないことを思いつくことができることは、そのような類推では理解できません。脳細胞が、どのようにして記憶するのか、そしてそれを呼び出すのかも、不思議です。
何もしていなくても、脳は動いています。自発活動をしています。常時、20ワット程度のエネルギーを消費しています(体全体では約100ワットです)。
私たちの意識に登らない「作業」を、脳は常に行っているようです。経験した音や画像、文章などを記憶し、良く似たものと関連づける作業をしているのでしょう。

外部刺激を受けてそれを知覚するのに、20ミリ秒かかります。ところが、脳への電気刺激で意識的な知覚を作るのには500ミリ秒もかかります。それを脳は統合しています。私たちの見ている現在は、かなり過去の物です。
そして、指を動かそうとする場合に、まず脳が動き出し、300ミリ秒たって動かそうと思う瞬間が訪れ、その200ミリ秒後に指が動きます。私たちが思うから動くのではなく、その前に脳が指示を出しているのです。これは理解しがたいことです。じゃあ、何が脳を動かすのか。私の印象では、私たちが意識しないところで脳がぐるぐるといろんなことを考えていて、何かのきっかけ、それは見ていることであったり、他の考え事であったりして、それがきっかけになって、あることが動き出すのでしょう。そこから意識に登るので、その前の脳の活動は分からないのです。
まだまだ勉強になることとが書かれていますが、それは本をお読みください。

著者は、将来に人工知能が発達して人間の行動の代替をするようになったらどうなるかも、言及しています。機械に置き換えることができる作業は、置き換わるでしょう。すると、人間らしさは、機械ができないことをすることです。
既にわかっていることを記憶し、問に答えることは、人工知能の得意とすることです。そのような大学入試問題なら、人工知能も正解できます。
分かていないことを考えることが、人間の仕事です。分からないことをパソコンやスマホで調べることは、検索であって、脳を使った学習ではありません。仮説を立てて検証することが、人工知能は不得手です。そこから、どのような学習が良いかが、導かれます。

都心のカラスが減っている

4月12日の朝日新聞に「都心のカラス、なぜ減るの 20年で7分の1、駆除進み生ごみも減り」が載っていました。

・・・東京都心のカラスが減っている。ねぐらに集まるカラスの調査では、20年前のピーク時に比べ、7分の1に減っていた。都が進めるカラス駆除の取り組みに加えて、新型コロナウイルスの影響で、エサとなる繁華街の生ごみが減ったことも拍車をかけている・・・
・・・都心に多いハシブトガラスは、冬場の夜、ねぐらとなる緑地に集まる習性がある。研究者らでつくる「都市鳥研究会」は、明治神宮(渋谷区)、豊島岡墓地(文京区)、国立科学博物館付属自然教育園(港区)の3カ所で、1985年から追跡調査を続けてきた。
2021年12月に調べると、前回15年の4816羽より4割少ない計2785羽に。ピークだった00年と比べると、85%も減っていた。
東京都が毎年都内40カ所で行っている調査でも、減少傾向にある。最も多かった01年度の3万6400羽から、20年度には1万1千羽まで減った。
カラスが都心で増えたのは、70年代以降のことだ。都心は天敵の猛禽(もうきん)類が少なく、針金など巣作りの材料も得やすい。特に家庭や繁華街から出る生ごみをエサとすることで、環境に適応していった・・・

そのカラスが減ったのは、ゴミを荒らされないようにカラスよけのネットやボックスを使うようになったこと、コロナ禍で飲食店が休業して生ゴミが減ったことによるのだそうです。我が家の近所では、毎朝カラスがうるさいのですが。「賢いカラスとの闘い

「さらに、近年は都心でもオオタカやハヤブサなどカラスを襲う猛禽類が観察されている。オオタカが都内の緑地で繁殖し、カラスをつかまえることで、減った場所もあるという」とのことですが、私が善福寺川公園で見たオオタカはカラスと同じくらい大きさで、カラスを襲うようには見えませんでした。「善福寺川公園のオオタカ

『一生モノの物理学』

鎌田浩毅、 米田 誠著『一生モノの物理学 文系でもわかるビジネスに効く教養』 (2022年、祥伝社)が、分かりやすく勉強になります。光、電子、磁力などを、身近な医療や機械、気象などから説明してくれます。××の法則を覚えるより、分かりやすい説明です。

出版社の宣伝文が的を射ているので、転載します。
「大学受験で文系を選択した人にとって理解が難しい世界――「物理」。
しかし、家電が動くのも、飛行機が飛ぶのも病気を発見できるのも、部屋の明かりがともるのもすべて根底には物理学が存在しています。
それだけ社会の根底理論となっている「物理」を知らないことはビジネスパーソンにとって大きな損失ではないでしょうか?..
そこで、「京大名誉教授」×「関西大手予備校・研伸館講師」という教えるプロがタッグを組み、”「物理が苦手」な人のための物理の本”を制作しました。
日常の中にある技術に活用されている物理の世界をわかりやすくお伝えします!」