「自然科学」カテゴリーアーカイブ

年齢と体感時間

9月15日の読売新聞に「体感時間 年重ねるごとに短く」が載っていました。年を取ると時間が経つのが早くなると感じる話は、このホームページでも何度か取り上げました。

・・・ 「時計が刻む物理的な時間とは別に、人には内的な体感時間があります」
人の時間の感じ方などを研究する東京理科大非常勤講師、桜井進さんは説明する。「サイエンスナビゲーター」として数学を啓発している。大学での最初の授業では、20歳前後の学生にこう呼び掛ける。「体感時間でいうと、君たちは人生の7割近くを終えています」

説明に使うのがフランスの哲学者、ポール・ジャネが発案した「ジャネの法則」という仮説だ。桜井さんによると、生涯のある時期における心理的な時間の長さは、年齢に反比例する。1歳の1年間の体感時間を1とすると、10歳が10分の1、60歳は60分の1。感覚としては、60歳の人は、1歳児の60倍の速さで時間が過ぎ、1年が終わるのも早いと感じるわけだ。ある年齢までの体感時間を合計すると「人生経過率」がわかる。100歳が寿命なら、10歳で人生を折り返し、20歳で65%が過ぎる計算となる・・・

猛暑、蚊も出てこない

8月17日の日経新聞に「アース製薬、猛暑で動かぬ蚊と株価」が載っていました。

・・・アース製薬の株価がさえない。主力商品である殺虫剤をはじめとする「虫ケア」用品の販売は天候に左右されやすく、春の天候不順の影響で2023年1〜6月期の連結純利益は前年同期比18%減った。株価は年初からほぼ横ばいで値動きが乏しい。巻き返しのカギを握るのは入浴剤などの日用品と海外市場になる。
夏に活発になる蚊は、実は猛暑に弱い。一般に気温25〜30度を好み、35度を超える猛暑では活動が鈍る。暑すぎると蚊と遭遇する機会は少なくなる傾向にあり、対策商品の売れ行きにも悪影響を与えかねない・・・

とはいえ、セミ取りに行く公園の日陰、散歩の途中の神社、朝夕水まきをする庭先には、たくさんの蚊が待ち受けていて、あっという間に刺されます。「新・3秒ルール

「オッカムの剃刀」

ジョンジョー・マクファデン著『世界はシンプルなほど正しい 「オッカムの剃刀」はいかに今日の科学をつくったか』(2023年、光文社)を読みました。大分前に読み終えたのですが、どのように紹介するのがよいか悩んでいるうちに、時間が経ちました。

出版社の宣伝には、次のようにあります。
「よりシンプルな答えこそ好ましく、往々にしてそれは正しい――複雑さや冗長さを容赦なく削ぎ落とすさまから「オッカムの剃刀」と呼ばれるこの思考の方針は、科学を宗教の支配から解放し、地動説、量子力学、DNAの発見など、多くの科学的偉業を支えることとなった。本書は科学の発展史を辿りつつ、単純さこそが、宇宙や生命の誕生といった深遠な謎を解き明かす鍵であることを示す壮大な試みである。そしてすべては、中世の果敢な神学者の冒険から始まる」

西洋科学史の概説書、それを「より簡単に説明する方向に進んだ」という視点から説明した本、といったら良いのでしょうか。重力による地上と天空の運動の統一、電磁力による磁気と電気の統一、遺伝子(二重らせん)による分子と生物学の統一など、なるほどと思いつつ。結果としてみると、オッカムの剃刀なのですが、それぞれの科学者はそれを意識していたかというと、そうでもなさそうです。

科学の進歩を認めつつ、最も簡単な説明は「神様が作られた」という説です。

意図や目的のない人工知能

生成人工知能(チャットGPTなど)が、評判になっています。私の理解では、コンピュータが過去の膨大な文章を蓄積し、利用者の求めに応じて、そこから答えを出してくれる仕組みです。
なかなかの優れもので、わからないことを調べたり、一定の指示で文章を書いてくれます。大学入試だと、過去問に強いのです。仕組みからして、当たり前ですね。

東大出版会の宣伝誌「UP」7月号に、千葉滋・東大教授の「プログラミングはAIに奪われる仕事だってさ」が載っています。面白い例えをしておられます。「酔っ払いと話をしているような気になる」とです。
すなわち、話していることの部分部分は正しく、間違っていると指摘すると修正してくれます。ところが、全体として何を言いたいのかわからないのです。頭に浮かんだ考えの断片を、浮かぶがままに口にしているだけなので、本人だってわからない状態です。
私も、何度も経験があります。その時々は、しっかりして話している(と思うのですが)、あとで考えても、全体で何を話題にしていたかが思い出せないのです。多分、その時点で「今何を話題にしていますか?」と聞かれたら、答えられないでしょう。

これは、わかりやすい例えです。聞かれれば、過去の蓄積から答えを出してくれますが、自分から何かを考えることはありません。機械は、意図や目的は持っていないのです。
「あなたは何をしたいですか」という問いに、人工知能はどう答えるのでしょうか。「条件を与えてくれないと、答えられません」と言うのかな。

『世界がわかる資源の話』

鎌田浩毅著『世界がわかる資源の話』(2023年、大和書房)を紹介します。
宣伝文には、次のように書かれています。
「電気代高騰も、異常気象も、ウクライナ侵攻も、新ビジネスも、私たちの食生活も、ぜんぶ「資源」で読み解ける! ”科学の伝道師”である鎌田浩毅京大名誉教授がおくる、新時代の教養本」

「新時代の教養本」という表現がよいですね。自然科学の分野も、日進月歩です。そしてそれが、私たちの生活に大きな影響を及ぼします。「専門書は難しい」「新聞の解説ではよくわからない」ということが多いです。その際に、このような解説書が役に立ちます。
取り上げられている各主題も、水、木、エネルギーなど身近なもので、文章はいつものように読みやすいです。鎌田浩毅先生は、ますます元気のご様子です。

154ページに「エコバッグは無意味?」との記述があります。
海洋プラスチックごみの多くは漁網とペットボトルなどで、レジ袋は全体の0.3%でしかないのだそうです。
デンマークのある機関の調査では、紙袋は43回、オーガニックコットンのバッグは2万回使わないと元が取れなとのこと。レジ袋を製造している会社は、原料のポリエチレンが石油を精製する際に必然的にできるため、資源の無駄にはならないと主張しているのだそうです。
問題は、レジ袋やペットボトルのポイ捨てにあるのでしょうね。