カテゴリー別アーカイブ: 自然科学

消費電力の半分はモーター

12月15日の日経新聞「エネルギーの新秩序・国富を考える」は「1%改善モーターに脚光」でした。

国際エネルギー機関(IEA)によると、21年の世界の消費電力量は24兆700億キロワット時で、この半分はモーターが消費する電力だそうです。
モーターの性能を1%上げれば(消費電力を1%減らせば)、1200億キロワット時の省エネになり、それは原発13.5基分になるのだそうです。

モーターは、電車、エレベーター、冷暖房機など様々な場面で使われていることは知っていましたが、電力消費の半分とは、知りませんでした。

新しい英単語「脳の腐敗(brain rot)」

12月16日の朝日新聞1面コラム「天声人語」は「「森の生活」から170年」でした。
・・・オックスフォード英語辞典の出版社が、今年の単語に「脳の腐敗(brain rot)」を選んだと発表した。最初に使ったのはソローだが、現在は10~20代のデジタル世代の間に広がっているという▼「取るに足らない、特にオンラインコンテンツの過剰消費による精神状態や知的能力の低下」と定義されている。昨年から使用頻度が230%も増えたとか・・・

うまく表現した、わかりやすい英語ですね。日本語にしたら、何でしょうか。「腐敗脳」「脳腐れ」ではどうでしょうか。
天声人語の書き出しは、次のような文章です。
・・・19世紀の米作家で思想家のヘンリー・D・ソローは20代の末にボストン郊外の湖畔に小屋を建て、2年余りを過ごした。自然のなかで自給自足の生活をしつつ、思索を重ねた日々の記録『ウォールデン 森の生活』は、今でも世界中の自然愛好家らに読み継がれている▼ソローは結びで、複雑な考え方や多様な解釈を軽視する社会の傾向を批判した。精神と知性の衰退につながると警告し、こう問いかけた。「英国がジャガイモの腐敗を治す努力をする一方で、より広く致命的に蔓延する脳の腐敗を治す努力はしないのか?」・・・

Oxford University Press のページ
当時はジャガイモの疫病で食糧難にあったことが、この背景にあります。4年ほどで収束したとありますが、良い対処法が見つかったのでしょうか。現在では、予防対策が採られているようです。

では、今回のオンラインによる「脳腐れ」を防ぐ薬は何でしょうか。オックスフォード大学出版局の説明には、アメリカの精神衛生センターの処方箋もリンクされています(機械に翻訳してもらいます)。
・脳の衰えは、スクリーンを見る時間が長すぎることが原因で、精神的な混乱、無気力、注意力の低下、認知力の低下などの症状が現れる状態です。
・脳を衰弱させる行動の 1 つにドゥームスクロールがあります。これは、長時間にわたってインターネット上で否定的で悲惨なニュースを検索する行為です。
・脳の衰えの結果、情報の整理、問題の解決、意思決定、情報の想起が困難になります。
・脳の衰えを防ぐ、または軽減するには、画面を見る時間を制限し、気を散らすアプリを携帯電話から削除し、不要な通知をオフにしてみてください。

ドゥームスクロールについては、ウィキペディアは次のように説明しています。
ドゥームスクロールまたはドゥームサーフィンとは、ウェブやソーシャルメディア上で大量のニュース、特にネガティブなニュースを読むことに過度の時間を費やす行為である。ドゥームスクロールは、短編動画やソーシャルメディアのコンテンツを長時間にわたって止まることなく過度に消費することとも定義される。この概念は、特にCOVID-19パンデミックの文脈で、2020年頃に造られた。
調査や研究によると、ドゥームスクロールは若者の間で主流である。これはインターネット依存症の一種と考えることができる。2019年、米国科学アカデミーの研究では、ドゥームスクロールが精神的および身体的健康の低下に関連している可能性があることが判明した。ドゥームスクロールの理由は、ネガティブバイアス、取り残されることへの恐怖、不確実性をコントロールしようとする試みなど、数多く挙げられている。

新型コロナウイルスの教訓、アメリカと日本

10月25日の読売新聞「米科学政策と日本の行方(下)」に「新たな感染症 対策急務 医療格差 コロナの教訓」が載っていました。

・・・新型コロナウイルス感染症への対策で、米国はワクチンや治療薬の開発を強力に進めた。一方、コロナ禍による死者は日本に比べ圧倒的に多かった。

米国のコロナ対策の「顔」となった米国立アレルギー感染症研究所長(当時)のアンソニー・ファウチ氏は、トランプ前大統領との対立も目立った。トランプ氏は、根拠のない治療法を推奨するなど、科学軽視の姿勢を繰り返したためだ。
ファウチ氏は2021年1月のバイデン政権発足後もコロナ対策の先頭に立った。記者会見で前政権との違いを問われると、「(バイデン政権は)透明、オープンで正直だ。全て科学とエビデンス(証拠)に基づく」と答え、前政権からの様変わりを印象付けた。
バイデン大統領は、22年3月、自身のワクチン接種の様子を公開し、国民に接種を呼びかけた。
その4か月後、バイデン氏はコロナに感染する。指針に従って自主隔離に入り、治療薬を服用した。「私の前任者はコロナに感染し、病院にヘリコプターで搬送された。私はホワイトハウスで(隔離期間の)5日間、仕事をした。私が受けた検査、ワクチン、治療薬は大統領でなくとも無料で受けられる」。22年7月、回復後の演説でバイデン氏は皮肉を込め、現政権の対策をアピールした。

ただ、世界保健機関(WHO)によると、今年9月29日時点で米国のコロナの累計死者数は約120万人で世界最悪だ。2番目に多いブラジルの1・7倍、日本の17倍で、バイデン政権下でも70万人以上が亡くなった。
惨状を招いた要因として、▽医療格差が大きく、低所得層が必要な医療を受けられなかった▽州ごとの方針がバラバラで統一した対応を取れなかった――などが指摘されている。米カリフォルニア大サンフランシスコ校のモニカ・ガンジー教授(公衆衛生学)は「公衆衛生当局の信頼は低下しており、改善は急務だ」と述べ、次のパンデミックへの危機感をあらわにする・・・

記憶はデジタルより紙が有効

9月23日の読売新聞に「デジタル教科書、巨額予算で推進ありき…学習効果の検証置き去り」が載っていました。ここで紹介するのは、その記事についていた囲み記事です。

・・・「記憶「紙が有効」研究も デジタル操作「認知負荷」高く」
学習の定着には、デジタルよりも紙を使った方が有効だとする研究データがある。専門家は「まずはデジタルの長所、短所を検証することが必要だ」と指摘している。

東京大などの研究チームは、日常的なスケジュール管理を再現する実験を実施。被験者を3グループに分け、〈1〉紙の手帳にペンで書く〈2〉タブレット型端末に専用ペンで書く〈3〉スマートフォンに入力する――の三つを比較した。その結果、紙の手帳にスケジュールを書き留めた方が、電子機器を使う時よりも短時間で記憶できることがわかった。手帳に書き込んだグループの脳の状態を見ると、言語、視覚、記憶に関わる領域の血流が増え、活動量が増えていた。

研究チームの酒井邦嘉・東大教授(言語脳科学)は「紙の本は(情報が載っている)位置関係など、記憶の手がかりが豊富にあるが、デジタル画面では限定的だ。学習効果の根拠がないままデジタル活用の議論が進めば、学力低下を招きかねない」と危惧する。

群馬大の柴田博仁教授(認知科学)によると、子どもにとってデジタル機器の操作は、思考を中断させる「認知負荷」が高くなる傾向が見られるという。柴田教授は「デジタル教科書のデメリットを含めた検証が足りておらず、デジタルだけに偏るのは時期尚早だ」としている・・・

奄美大島でマングースを駆除

奄美大島で、マングースが駆除されました。
9月4日の朝日新聞「外来マングース、奄美大島で根絶 ハブ対策不発、捕獲30年
・・・鹿児島県奄美大島で駆除を進めてきた特定外来生物マングースについて、環境省は3日、「根絶宣言」を発表した。ハブ対策などの目的で持ち込まれて約半世紀。いったん定着したマングースがこれほど大きな島で根絶されたことはなく、「世界的に前例のない、生物多様性保全上の重要な成果」としている。
南アジアなどが原産のマングースはハワイなどにも持ち込まれたが、定着後に完全排除できたのは面積約1平方キロ以下の島だけ。奄美大島は712平方キロもある。奄美大島は21年、世界自然遺産に登録。その審査でも事業が評価されていた・・・

・・・マングースは1910年にまず、沖縄島に導入された。環境省によると79年ごろ、その子孫が奄美大島に放たれた。島民を悩ませた毒蛇ハブと、農作物を荒らす外来ネズミの対策が狙いだった。
だが、昼行性のマングースは、夜行性のハブではなく、アマミノクロウサギやケナガネズミなど島在来の希少種を襲った。自然保護関係者の危機感に押され、90年代前半に駆除が始まった。
2000年度からは環境庁(当時)と鹿児島県が取り組みを本格化。05年に外来生物法が施行され、マングースが「特定外来生物」に指定されると、同じ年度に「駆除のプロ」として専従12人の「奄美マングースバスターズ」が発足した。
「誰も経験がなく、手探りの連続だった」と発足時の隊員、山下亮さん(52)。おびき寄せるエサは何がよいか。魚肉ソーセージ、唐揚げ、ツナ缶、チーズなどを試し、たどり着いた一つが、豚の脂身の塩漬け。島の保存食を参考に森でも長持ちするようにした。
捕獲用には、塩化ビニール製パイプを使った小型の筒ワナを改良。中のエサをマングースが食べようとすると、首のあたりでひもが締まる。駆除が進んだ07年には、「切り札」として先進地ニュージーランドから探索犬を導入した。
張りめぐらせたワナは島全域に約3万個。マングースの推定生息数は、ピークの00年の1万匹から20年には10匹以下に。姿を見るのが難しいほど減っていた希少種も戻ってきた。環境省は、18年4月の最後の捕獲から6年がかりで慎重に確認し「根絶宣言」に踏み切った・・・

ハブ対策に導入したマングースですが、ハブを襲わず、黒ウサギなどを襲ったのです。人間の浅知恵でした。かつて、ハブとマングースを戦わせる見世物がありました。マングースは輸入品なので、負けないように、ハブを弱らせていたと聞いたことがあります。

沖縄県で、ウリミバエの根絶に成功したことがあります。農薬散布でなく、不妊の虫を大量に放って、子孫を残さないようにするのです。中公新書で読んで、感激したことを覚えています。今は絶版になっているようです。伊藤嘉昭著『虫を放して虫を滅ぼす―沖縄・ウリミバエ根絶作戦私記』(1980年)