カテゴリー別アーカイブ: 社会

社会

各国での単身世帯の増加

日経新聞12月9日の1面連載「人口と世界 新常識の足音」は「「おひとりさま」家族の標準 広がる孤独 官民で克服」でした。
経済で人口を取り上げる場合は、人口の増減、高齢化などが主な主題です。しかし、この回は、単身世帯の増加を取り上げています。

記事についている図表では、各国で、全世帯のうち3分の1が単身世帯になっています。
日本でも一人暮らし=単身世帯の増加が大きく、私の連載「公共を創る」でも、それが社会の安心に与える影響を取り上げています。
一人暮らしは気ままですが、家庭という保障機能が低下するのです。経済的な安定が弱くなるだけでなく、孤独という心身の負担が増えるのです。前者は社会保障で補うことができますが、後者はお金では買うことができません。

国内の学会と海外学会

11月30日の日経新聞教育欄、恩蔵直人・早稲田大学常任理事の「人文社会科学の学会、世界での競争不可避に」から。

・・・国際的に活躍する研究者の中には積極的に海外学会で活動する人もいたが、言語や地理的な壁や研究テーマによって、国内学会と海外学会はすみ分けがされていた。
ところが近年、海外学会とのすみ分けが崩れ始め、海外での報告が優先されるようになっている。
グラフは、ある国内学会における研究報告件数である。報告件数は開催都市などによっても左右されるので単純に比較はできないが、10年前と比べて減少傾向にあることは確かだ。こうした傾向は、他の国内学会でも確認できる。研究者たちの間で、報告をするなら海外学会でしたいという流れがあるようだ。理由はいくつかある。
まず有益なコメントを得やすいこと。海外学会は世界から研究者が参加する。当該分野の第一人者が参加することも多く、有益で価値あるコメントは自らの研究のブラッシュアップに役立つ。
また、一部の研究分野では、学会報告が評価対象としてカウントされるという背景もある。この場合、同じテーマによる複数回の報告は制限されており、国内学会よりも海外学会の方が高い評価を得やすい。
さらに海外学会では、査読と呼ばれる事前審査があり、一定水準に到達していない報告は受け付けてもらえない。こうした制度が整っていることも、海外学会の支持に結びついている。競争は厳しくても評価が明確な場を求めるというのは、スポーツの分野において、一部のプレーヤーが海外での活動を選ぶのに似ている・・・

・・・海外学会での報告にしても海外論文誌への投稿にしても好ましい傾向であり、我が国の研究水準の向上には不可欠である。研究活動がいちはやく国際化した医学分野、理工学分野、経済学分野などでは、ここで述べたような問題は過去のものかもしれない。しかし、依然として国内での研究トピックが存在している多くの人文社会科学分野の学会は大きな転機を迎えているといえよう・・・

横山晋一郎・編集委員の付記
・・・日本の大学の世界ランキングが振るわない一因は、人文社会科学系の評価が低いことだといわれる。論文の多くが日本語で書かれ、研究対象も日本特有の事象が少なくないからだ。
大学の国際競争が激しくなると、いつまでも〝内弁慶〟でいることは許されない。海外学会志向の強まりは当然といえる。
問題は、それが国内学会の衰退を招きかねないことだ。全ての大学が国際舞台で活動するわけではないように、全ての研究者が海外学会に所属する必要もない。学会は若手研究者養成の貴重な場でもある。恩蔵氏の問題提起の意味は重い・・・

日本はやさしくない国

11月27日の朝日新聞夕刊、田中世紀・オランダのフローニンゲン大助教授へのインタビュー「日本は「やさしくない国」ですか」から。
・・・日本は、他人にやさしくない国――。海外で暮らした人たちが、比較してこう語ることがある。でもそれって本当かと思っていたとき、その点を論考した本に出会った。著者でオランダ在住の研究者、田中世紀さんの話に耳を傾けた。(宮地ゆう)

「日本の多くの政治家や国民は、この社会のあり方が当たり前だと思っている。でも、一歩国の外に出れば違う価値観があるという視点で、社会を見るきっかけになれば」
10月に「やさしくない国ニッポンの政治経済学 日本人は困っている人を助けないのか」を出版した田中さんは、執筆の理由をそう語る。
田中さんは英国や米国で暮らし、オランダの大学で政治学を教えている。日本を離れたとき、「人と人との距離がもっと近い社会があるんだと気付かされた」。町で見知らぬ人同士がよく会話し、気軽に助け合う。
私も海外で暮らした人から「困っていると、知らない人が声をかけて助けてくれた」という話をよく聞いた。米国、ドイツ、カナダ、ブラジル、シンガポール、ベトナム……。比較に挙がった国はさまざまだ。

実は、こうした話を裏付けるようなデータがあると、田中さんはいう。英国の慈善機関が2009年からほぼ毎年行ってきた「人助け」に関するものだ。新型コロナウイルス禍前までは各国で調査をし、これまでに約160万人から回答を得た。
その質問は、「過去1カ月に、(1)見知らぬ人を助けたか(2)慈善活動に寄付をしたか(3)ボランティア活動をしたか」。
21年6月発表の調査結果では、日本は114カ国中、(1)「人助け」が114位(最下位)(2)「寄付」が107位(3)「ボランティア」は91位。これらを総合した結果でも、114位で最下位となっていた。
09~18年の10年間でみても、日本は126カ国中107位で、先進国で最下位。この慈善機関は「日本は歴史的にも、先進国の中で市民社会が非常に脆弱(ぜいじゃく)な国だ」と指摘している。
この調査には社会制度や文化の差なども影響しているだろう。田中さんも、この結果がすべてを物語っているわけではないとしつつ、「残念ながら、日本人は他人に冷たいという傾向は、他の調査でもみられます」。
米・調査会社が07年に実施したものでは、「政府は貧しい人々の面倒を見るべきだ」という項目に「同意する」と答えた人は日本では59%。47カ国中、最下位だった。英国は91%、中国は90%、韓国が87%だった・・・
・・・田中さんが注目するのは、日本は他の国に比べ、慈善団体、宗教団体、政治団体、スポーツや余暇の団体など、社会参加をしている人の割合が低いという調査結果だ。仕事関係以外に、社会と関わりを持つ活動の場がないというのは、いまも珍しいことではない・・・

連載「公共を創る」で議論している点の一つです。ムラ社会ではムラビト同士の助け合いや信頼は高いのに、よそ者には冷たい。組織外の人との付き合い方に慣れていないことが、背景にあります。「この国のかたち」を、どのようにして変えていくか。

オンライン授業で勉強時間が増えた

11月20日の朝日新聞夕刊「課題地獄の嘆き、いまも オンライン授業拡大、背景に」から。
・・・コロナ下で大学にオンライン授業が普及して以降、急浮上した問題の一つが「課題地獄」だ。「教えた内容が身についているのか不安」などの理由で各教員が多くの課題を出し、学生たちが疲弊した。その後、大学の対応は進みつつあるものの、道半ばのようだ・・・

・・・コロナ禍を受け、各大学では昨年春以降、オンライン授業が一気に拡大。多くの教員が、教えた内容が身についているかどうかを確認する手段として、あるいは試験が実施できない時の成績評価の代替手段などとして、リポートや動画などの提出を求めた。金子元久・筑波大特命教授(高等教育論)は「日本の大学では教員同士の連携が少なく、それぞれ独自に授業を進める傾向が強い。このため各教員が、オンライン授業の導入当初は互いに調整せずに多くの課題を出し、『課題地獄』という問題が起きた」と話す。
大量の課題をこなすために、学生たちの勉強時間は増えた。学生を対象とした日本学生支援機構の2020年度の調査によると、「授業の予習・復習、課題などに、1週間に6時間以上使った」と回答した割合は51%。コロナ前の18年度に比べて23ポイントも上昇した・・・

・・・コロナ前は国の基準ほど勉強していない学生も多く、朝日新聞と河合塾の調査では「負担が増えたと言っても本来学ぶのに必要な時間でもあり、授業内容の理解は深まっている」(関西の公立大)として、課題の増加を問題視しない大学も一定数あった。
金子特命教授は長年、日本の学生の勉強時間の少なさを問題視してきた研究者の一人。「大量の課題が出されたことで、苦労もあったとは思うが、多くの学生は対応することができた。勉強時間が増えたのは歓迎すべきことだ」と話す・・・

仏教を生かした授業

朝日新聞の教育欄で、仏教系学校での医学を目指す生徒への教育について、連載が載っています。11月21日の「医の心、育む:1 医の道、心もケアしたい」から。
・・・10月下旬、午前8時半をまわると、紫色の巾着袋を手にした高校2年生たちが、黄金色の阿弥陀如来像を置く講堂に集まってきた。福岡市中央区にある筑紫女学園中学・高校の朝の勤行=おつとめだ。
「姿勢を正してください」
仏教委員長の赤司瑞祈(あかしみずき)さん(17)の凜とした声を合図に、講堂が静まりかえった。
「黙想」
香炉から広がる柔らかい香りに包まれ、およそ420人の生徒たちの表情が穏やかになっていく。
澄んだ鐘の音とともに、宗教担当の平孔龍(たいらこうりゅう)先生(44)のお経が講堂に響きわたる・・・

・・・学校は浄土真宗の教えに基づく人間教育を建学の精神とする。生徒たちは礼拝や仏教の授業を通して、他者をいたわる慈悲の心や、命の大切さを学ぶ。
その仏教の視座を身につけ、医療の道をめざす生徒が学ぶ「医進コース」が誕生したのは2020年春のことだった。松尾圭子校長(64)は、訪問した大学の医学部の先生の言葉が忘れられない。
「医者は日々、精神が不安になる患者と接する仕事。そういう気持ちをくみ取って話ができる医者じゃないと困る」
さらに、力説された。
「受験の成績がよくて合格しても、患者に向き合えるだろうかと心配になる学生もいる」、と。
学校には、医学や看護学といった学部がある大学に進学したい生徒が多く在籍する。
松尾校長は「医学部をはじめ医療系の難関学部への合格可能な学力のある生徒に、進路先を偏差値基準で薦める指導はするべきではない。医の道に進んで何をしたいのか、受験に臨む前から明確にしておくことが大事なのではないか」と思いを深めた。
人の痛みがわかる仏教の教えは、医の道に進む生徒たちの学びの素地にもつながるのではないかと考え、志を同じくする生徒が集まるコースを立ち上げた・・・

学校教育で避けてきたのが、心の問題、宗教などです。学生たちの今の不安、将来への不安にどのように対応するのか。これも、教育現場での大きな課題です。