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社会

無関心と消極性

私は、現在の日本社会の大きな問題は、無関心と消極性ではないかと考えています。
連載「公共を創る」(第30回)では、私たちが社会で暮らしていく際に必要な、「装置や環境」「財産」を、社会的共通資本として整理しました。自然資本(自然環境)、施設資本(いわゆる社会資本、インフラ)、制度資本(各種サービス)、関係資本(ソーシャル・キャピタル)、文化資本(気風や助け合い精神、民主主義を支える精神など)です。そのうちの関係資本と文化資本が弱くなっているのです。

まず、他者への無関心についてです。
イギリス旅行中に、地下鉄に乗ったときのことです。座席は埋まっていたのですが、私たち夫婦が乗り込むと、勤め人と思われる若い男性と若い女性が、すぐに立ち上がって席を譲ってくれました。「そんな年寄りではないんだけどな」と思いつつ、「ありがとう」と言って座りました。
帰ってきて、羽田空港第3ターミナル駅から京浜急行に乗りました。前駅の羽田空港第1第2ターミナル駅から乗ってきた客で混んでいました。旅行鞄を引きながら私たちが乗り込むと、大きな旅行鞄を前にして座っていたアジアからきたと思われる若い観光客2人が、すぐに席を譲ってくれました。これまた「ありがとう」と言って、座りました。
品川駅で、山手線に乗り換えました。誰も、席を譲ってくれませんでした。

先日、小学校5年生の孫娘が、足にケガをしました。松葉杖をついて、母親と一緒に登下校しています。ある朝、通勤時に一緒になったのですが、丸ノ内線では誰も孫に席を譲ってくれません。
座っている人たちは、居眠りをしているか、スマホを操作しているか、ゲームをしています。まったく周囲に、関心がありません。目を上げた際に、松葉杖の子どもがいることを見ている人もいるのでしょうが、無関心です。日本人は親切だとか、おもてなしと言いますが、とてもそうとは思えません。

安心安全な日本社会をつくったのは、他者への思いやりであり、共助の精神です。この関係資本が弱くなると、安心安全な社会は壊れます。続く

街頭犯罪は20年で8割減

9月13日の日経新聞「交番「24時間体制」転換 街守り150年、人員配置見直し」から。

・・・警察庁は原則24時間体制だった交番・駐在所の運用を見直す方針を決めた。交番は3交代制、駐在所は住み込みが中心だったが夜間は無人となる日勤制を認める。犯罪の舞台が街頭からインターネットへと移行するなか、効率的な人材配置が必要と判断した。治安を守る要として長年機能してきた地域警察活動の転換点になる。
警察庁は交番や駐在所について定める「地域警察運営規則」を13日に改正する。各交番・駐在所の具体的な見直し策は都道府県警が検討する。
改正規則は交番・駐在所について、必要がある場合にはいずれも日勤制の地域警察官により運用できるとした。地域の状況や人出に応じて、ワゴン車による移動式交番や警察官が一定期間常駐する臨時交番を開設できるとする規定も盛り込んだ。
交番は1874年に警察官が交代で立つ「交番所」が東京にできたのが始まりで、1880年代に24時間体制になったとされる。パトロールや落とし物の受理といった業務に加え、事件が起きれば現場に急行し初動捜査も担う。2024年4月時点で全国に交番は6215カ所、駐在所は5923カ所ある・・・

・・・見直しの背景には犯罪情勢の変化がある。23年の刑法犯認知件数は約70万件で、戦後最多だった02年(約285万件)と比べ7割超減った。なかでも地域警察官が警戒するひったくりや車上狙いといった街頭犯罪は02年から8割減の約24万件に抑え込んだ。
一方、近年は特殊詐欺やSNS型投資詐欺・ロマンス詐欺、サイバー犯罪といったインターネットや電話を通じた犯罪が増えている。各警察では摘発に向けこうした犯罪に対応する部門の陣容を強化している・・・

明文化されていない規則に縛られる

9月11日の朝日新聞オピニオン欄「「ルール守れ」に縛られ」から。
・・・法律や規則、明文化されていないマナーまで、社会には様々なルールが存在する。大事だと分かっていても、「ルールを守れ」の声に息苦しさを覚えることも。その背景を考えてみる・・・

住吉雅美・青山学院大学教授の「攻撃、嫉妬と不公平感から」
・・・ルールとは本来、集団生活の中で秩序を守るためのものであるべきで、個人を殺すものであってはなりません。ですが、日本社会では人を攻撃する道具のように使われることがあり、個人がルールにがんじがらめにされてしまっています。

慣習、モラル、エチケットなど、ルールにはさまざまなものがあります。最も権威があるルールとして思い浮かべるのは法律でしょう。国家権力によって強制され、改廃したり違反などをめぐる争いを解決したりする権限が誰にあるのか、明確に定められている。ただ、法律も長い時間をかけて培われた社会の慣習やモラルが下地になっており、数あるルールの中の一つにすぎないとも言えます。

日本の特徴は「法律未満」のルールの拘束力が非常に強いことです。明文化されていないものも多く、そもそも誰が何のためにそのルールを作ったのか分からなかったり、強制力が一律ではなかったりするため、ルールの解釈や違反をめぐる争いが起きたり、恣意的に適用されたりするややこしさがあります。
例えば、コロナ禍で政府はマスク着用を義務付けてはいなかったのに、着けていない人を責める「マスク警察」が現れました。公共施設などでは、やらないで欲しいことを伝えるために「お控えください」といったあいまいな表現がよく使われます。それでもほとんどの人が従っている。不倫した有名人が、再起不能になるほどバッシングされるのは当たり前の光景になりました。要請やモラルが社会の同調圧力によって強い縛りとして広まり、時に法律以上に厳しいまなざしが向けられています。

厳しさの背景には、嫉妬と不公平感があると私は考えています。「自分は守っているのに」「自分は我慢しているのに」という思いが、逸脱者への攻撃という形で強い制裁になっている。SNSでは、実は少数の執拗なネットユーザーに起因するという説があるものの、「自分こそが正しい」とばかりに「ルールを守れ」という側の声があふれ、異論を差し挟めない状況に陥っています・・・

高齢者食堂が映す男性の孤立

9月5日の日経新聞夕刊に「高齢者食堂が映す男性の孤立 地域での交流にハードル」が載っていました。

・・・地域のシニアが集まって食事をともにする「高齢者食堂」が増えてきた。子どもに無料か低額の食事を提供して育ちを見守る「子ども食堂」のように、シニアの新たな居場所として注目が集まる。一緒に調理したり、誰かに作ってもらって食べたりと形態は様々だ。一方で男性の参加が少ない食堂があり、男性が地域でネットワークを築く難しさの一端も透けて見える。

「きょうはホタテやカキがあるんですよ」「ご飯のお代わりはいい?」
東京都文京区の住宅街の一角。NPO法人居場所コム(東京・文京)が運営する一軒家「こまじいのうち」で食事会が開かれていた。
月1回、地域のシニアが集まって昼食をとる。食卓にはスタッフが作ったサラダや鶏もも肉の梅酒煮などがずらりと並ぶ。参加費は無料で、この日は10人集まった。「出会いの場になるね」。一人暮らしの80代の男性はここでの会話に刺激を受けているという。
都は地域で高齢者らの交流を増やそうと2023年度、文京区など5自治体13食堂で高齢者食堂の補助を始めた。24年度は5自治体18食堂で支援する。認知度は少しずつ高まっているが、課題のひとつは男性参加者が少ない食堂が目立つことだ・・・

・・・日本のシニア男性は友人の少なさで際立つ。内閣府が米国など4カ国で60歳以上の男女に聞いた調査では、「同性、異性の友人がいずれもいない」という回答が日本の男性は約4割と突出して高い。
孤独・孤立の事情に詳しい早稲田大学の石田光規教授は「今のシニア男性は猛烈に働き、地域との関わりを持たなかった人が多い。頼る人が配偶者のみとなりがちだ」と話す。
性別に対する規範的な考え方も影を落とす。小池准教授は「男性は周囲に助けてもらいながら生きるより、1人で自立して強く生きていくのが『男らしい』とされてきたことが大きい」とする・・・

中年期の心の危機

9月2日の朝日新聞には「中年期の心の危機、僕は48歳で 医師・鎌田實さんに聞く」も載っていました。

「微うつ」歴50年という人気絵本作家・ヨシタケシンスケさんのインタビューを先月、2回にわたって掲載しました。中年期に陥る心理的危機「ミッドライフ・クライシス」。自ら経験し、著書もある医師の鎌田實さん(76)にその症状や対処法について聞きました。

――ミッドライフ・クライシスとは?
発達心理学者エリク・エリクソンの提唱した「ライフサイクル・モデル」では、乳児期から65歳以上の老年期までを8段階に分けて40歳から65歳を成年後期としました。
人生の上り坂から下り坂に入るこの時期に、心や体の変化が表れ、葛藤や不安、焦り、うつなどの心の不調を抱えやすくなります。40代~60代で8割が経験するとも言われて、「第二の思春期」と言われることも。
僕自身は48歳で症状が出て、完全に抜け出すのに4年かかりました。

――何か特別な原因があるのですか?
苦境にある人ばかりではなく、大きな問題がない人にも起こりえます。僕に症状が出たときは、勤務していた公立病院づくりに成功し、人生絶頂の時期でした。
背景にあるのは、キャリア。高い山へと進んでいたのですが、どうもこのくらいの高さかと、見えてきて揺らいでくる。
健康も影響します。体力の衰え、食欲の低下、睡眠の質……。男女ともに更年期を迎えることも要因になる。テストステロンという男性ホルモンは女性も男性の10分の1程度分泌されており、壁があっても壁を壊すチャレンジングホルモンなのです。これが男女ともに低下しやすくなり、元気を失ってしまう。
家庭環境もあります。子どもの受験や巣立ち、介護、夫婦関係の悪化なども要因になります。

振り返ると、ミッドライフ・クライシスは「人生の成長痛」だと思います。
――成長痛ですか。対処法は?
脱皮の苦しみ。言い換えるなら、人生の二毛作ですよ。ひとつは、筋トレ、運動が有効です。男女ともに、重度のうつ以外は運動が処方箋(せん)になります。自分でやれるスクワットやランジ(下半身の筋トレ)をいくつか覚えて実践する。
次世代に目を向けることも重要です。ミッドライフ・クライシスに苦しんだ結果、被災地の子どもたちを救うとか、難民キャンプに病院をつくることなどに目を向けるようになった。
転職しなくたって、生き方を変えるチャンスはある。先が見えた時に、「自分は課長どまりかな」と思ったら、自分のために部長だけを目指していたことから脱皮する。近視眼的な「自分、自分」から脱皮する。すると、自分のやるべきことが見えてくる。
「仕事人間」を見直すことも大切です。仕事への向き合い方を変えてみる。家や職場だけでなく、第三の場所をつくる。