カテゴリー別アーカイブ: 歴史

戦後日本のイノベーション

発明協会が、「戦後日本のイノベーション100選」を選んでいます。これは、戦後日本で成長を遂げ、我が国産業経済の発展に大きく寄与したイノベーションを選定したものです。
ここでいうイノベーションは、「経済的な活動であって、その新たな創造によって、歴史的社会的に大きな変革をもたらし、その展開が国際的、或いはその可能性を有する事業。その対象は発明に限らず、ビジネスモデルやプロジェクトを含み、またその発明が外来のものであっても、日本で大きく発展したものも含む」です。
上位10をご覧ください。「なるほどねえ」と思う発明が、並んでいます。

私は、戦後日本が世界に貢献した生活での3大発明は、インスタントラーメン、カラオケ、ウオッシュレットだと考えています。3つ選ぶとしたら、皆さんなら、何を選びますか。世界の人の生活を便利に、豊かにしたという視点からです。
日本の伝統文化も重要ですが、それだけでは発展はありません。新しい生活文化に、何を付け加えていくか。科学技術の発明発見と、それを暮らしに応用していくことが求められます。

プロテスタンティズム

深井智朗著『プロテスタンティズム 宗教改革から現代政治まで』(2017年、中公新書)が勉強になりました。
ルターが、1517年にキリスト教の宗教改革を始めて、今年で500年です。宗教改革は歴史で習います。この本は、そのプロテスタントの始まりから、その後の社会での位置づけや果たした機能を解説しています。ルターの改革の呼びかけが、政治に利用されたこと、それを受け入れるだけの社会の変化があったこと。
その後のプロテスタントの中で、大きく2つの流れがあること。一つは政治と一体となった支配者の教会(ドイツやイギリス国教会)であり、もう一つは政治とは距離を置く自発的結社としての教会(ピューリタンなど)です。そして、前者は保守としてのプロテスタントに、後者はリベラルとしてのプロテスタントとなります。

そのほかまだまだ、なるほどと思うことが書かれています。プロテスタントと西欧政治の関係、プロテスタントから見た西欧社会の文化人類学ともいうべき分析です。
マックス・ヴェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」は有名ですが、それよりはるかに、政治や社会の分析に成功していると思います。しかも、読みやすいです。お勧めです。

国立公文書館

国立公文書館って、ご存じですか。政府の公文書を保管展示する施設です。皇居の北側、近代美術館の隣にあります。
今、「漂流ものがたり」という展示をしています(3月7日まで)。これは、必見です。
江戸時代に外国に漂流した日本人の記録、それも生きて帰ってきた記録です。私も言われて気づいたのですが、出ていく日本人がいれば、流れて来る外国人もいます。その記録もあります。よくまあ、紙の文書が残ったものですね。それを取り調べた藩の記録が、江戸幕府に届き、その文書が明治政府に引き継がれたのでしょう。
幕政時代の公的機関の記録だそうですが、漂流という状況での人間の生き様が垣間見れて、興味をひきました。井上靖や吉村昭をはじめ、小説の題材にされたものもあるそうです。

あわせて、明治以来の内閣の文書も展示されています。明治天皇と大臣の署名、昭和天皇と大臣の署名。字の上手下手も含めて、興味深いです。
森有礼や佐藤栄作の字は、素人が見てもすばらしいですね。森有礼は、明治22年(1889年)2月11日の大日本帝国憲法発布の詔書に署名した後、発布式典当日の朝に暗殺されます。
終戦の詔書(昭和20年8月15日)に前日夜に署名した陸軍大臣の阿南惟幾は、15日早朝自決します。そう思って展示されている文書を見ると、無味乾燥な事実が、人による生々しい生き様に見えてきます。
それにつけても、子供の時に、お習字教室を逃げた我が身を反省します(大隈重信も字が下手で、直筆署名は展示されている大日本国憲法発布詔勅のほかは数件しかないそうです)。

経済成長、早さと社会の変化

1月10日に、高齢化に要する時間が、国や地域によって異なることを書きました。「高齢化社会、社会の変化と意識の変化」。

1月4日の日経新聞経済教室に、猪木武徳・大阪大学名誉教授が「大転換に備えよ。競争と再分配、豊かさの鍵」を書いておられます。そこに、各国の経済成長の「早さ」が図示されています。産業革命後の経済成長で、1人あたりGDPの倍増に要した年数です。
イギリス58年(18後半~19世紀前半)、アメリカ47年(19世紀半ば)、日本34年(19後半~20世紀前半)、韓国11年(20世紀後半)、中国10年(20世紀後半)です。
先生は、次のように書いておられます。
・・・一般に後発国の経済成長は「後発性の利益」によりかなり高いスピードを示す。高度経済成長の軌道に乗る時期が遅いほど成長は早く、その終わりが訪れるのもまた早い・・・
高度成長により日本は豊かになりました。また、その早さで自信を持ちました。しかし、アジア各国が同様の道を進んだことで、日本だけの特殊なことではないとがわかりました。

そして、ここで指摘したいのは、「かかった時間の長さ」です。急速な高度成長は、多くの日本人に、田舎を出て都会へ出て行くこと、両親とは違う道を歩むことを求めました。結果として豊かになったのですが、故郷や家族と離れて初めての土地で初めての仕事に就くことには、大きな不安があったことでしょう。そして、地域社会もまた大きく変貌しました。豊かさの光の影には、多くの不安や悲しみもあったのです。この変化が徐々に起きたものならば、「ご近所の××さんところも・・・」とか「お父さんやおじさんも・・・」と近くに見本があってその不安は和らげられたでしょう。
急速な変化、それは経済成長であれ高齢化であれ、個人と社会に大きな影響、それも負の影響をも与えます。その変化をどのように「吸収」するか。変化の大きさとともに、変化の早さも、政治や社会が考えなければならない大きな要素です。

近代世界システムの危機、ウォーラーステイン教授

11月11日の朝日新聞オピニオン欄は、世界システム論で有名なイマニュエル・ウォーラーステイン氏の「トランプ大統領と世界 覇権衰えた米国、衝撃は国内どまり。構造的危機の時代」でした。

アメリカ大統領選挙結果について
・・・個人的には、結果を聞いて驚き、失望しました。一方で、分析的な視点に立つと、この選挙の影響については一言で表現できます。米国内には大きなインパクトがありますが、世界にはほとんどないでしょう・・・
・・・しかし、世界に目を向けると、トランプ大統領の誕生は決して大きな意味を持ちません。米国のヘゲモニー(覇権)の衰退自体は50年前から進んできた現象ですから、決して新しい出来事ではない。米国が思いのままに世界を動かせたのは、1945年からせいぜい1970年ぐらいまでの間に過ぎず、その頃のような力を簡単に取り戻すことはできません・・・

「グローバル化の影響が出ているのではないですか」との問に。
・・・私はグローバリゼーションという言葉に懐疑的です。物と人と資本がより簡単に行き来するために障壁をなくす、という状態を指しているのであれば、それは500年前から続いてきたことです。流れによって利益を得る時は皆が開放的になりますが、下向きになると保護主義的になるという循環が繰り返されてきました。最近は、この上向きのサイクルのことをグローバリゼーションと呼んでいますが、すでにスローガンとしての価値はなくなりつつある・・・現在の近代世界システムは構造的な危機にあります。はっきりしていることは、現行のシステムを今後も長期にわたって続けることはできず、全く新しいシステムに向かう分岐点に私たちはいる、ということです・・・

・・・新しいシステムがどんなものになるか、私たちは知るすべを持ちません。国家と国家間関係からなる現在のような姿になるかどうかすら、分からない。現在の近代世界システムが生まれる以前には、そんなものは存在していなかったのですから。
その当時もやはり、15世紀半ばから17世紀半ばまで、約200年間にわたるシステムの構造的危機の時代がありました。結局、資本主義経済からなる現在の世界システムが作り出されましたが、当時の人がテーブルを囲んで話し合ったとして、1900年代の世界を予測することができたでしょうか。それと同じで、西暦2150年の世界を現在、予想することはできません。搾取がはびこる階層社会的な負の資本主義にもなり得るし、過去に存在しなかったような平等で民主主義的な世界システムができる可能性もある・・・原文をお読みください。