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色あせる「アメリカン・ドリーム」

1月19日の読売新聞、大塚隆一・編集委員の「色あせる「アメリカン・ドリーム」「「親より豊か」遠のく白人労働者/低成長時代へ 格差の是正必要」から。

・・・主要先進国の政権が次々と交代を迫られている。共通する要因は物価高への不満だが、底流には「子は親より豊かになれる」「明日は今日より良い生活が送れる」とは限らなくなった現実がありそうだ。様々なデータを手がかりに米国と世界の現状や問題の背景について考えてみた。

まずトランプ氏が大統領に復帰する米国の状況を見たい。
最初に紹介したいのは左上の二つのグラフだ。どちらも米ハーバード大の経済学者であるラジ・チェティ教授のチームが作成した。
二つのうち左側は成人後の子供が親の所得を超えた割合を示している。発表は2016年と少し古いが、話題を呼んだグラフだ。インフレの影響を除いた30歳時点の所得を親と子で比べている。
ご覧の通り、1940年生まれの子供は約9割が親の所得を超えた。その後、親より豊かになった子供の割合は減り続け、80年代生まれだと約5割に落ち込んだ。
このグラフを含む論文のタイトルは「しぼむアメリカン・ドリーム」。まじめに働けば、親より豊かになれる。家を買って子供を育てられる。老後も心配はない。そんなモデルが色あせてきていることを象徴するグラフとされた。
80年代以降に生まれた世代については親の所得を超える割合が再び増え始めたとする調査結果もある。問題はそれが幅広い層に等しく行き渡ってはいない点だ。

・・・このうち人種別の所得に注目した調査結果が右隣の二つ目のグラフだ。こちらは昨年発表された。ここでは子供世代の成人後の年間所得が1978年生まれから92年生まれまでの間にどう変わっていったかを調べている。分かったことは二つある。
まず親が低所得の白人と低所得の黒人の場合、成人後の年間所得の差は約1万3000ドルから約9500ドルに縮まった。次に親が高所得の白人と低所得の白人を比べた。すると所得差は約1万400ドルから約1万3200ドルに広がっていた。貧しい白人は貧しい黒人に差をつめられる一方、豊かな白人には差を広げられたわけだ。
チェティ教授は「人種間の格差は狭まり、階級間の格差は広がったことになる」と指摘する。

・・・「子が親より豊か」になる割合が減り、「米国の夢」がしぼんできた要因は二つある。経済成長の鈍化と格差の拡大である。
世界経済の成長率は左下のグラフで分かるように1960年代をピークに減少傾向に転じた。米国も同じ流れである。格差の拡大は右下のグラフから明らかだ。米国では90年代に上位1%が占める所得が下位50%を超え、差は広がり続けてきた。
他の先進国の格差は米国ほどひどくない。だが低成長に加えて高齢化もあり、豊かな暮らしを支えてきた年金や医療などの制度にほころびが出始めている。
今後は新興・途上国も低成長・高齢化時代を迎える。米国とともに国の指導者が「夢」を語るもう一つの大国・中国も成長の鈍化と格差の拡大に直面している。

では「夢」に与える影響は低成長と格差のどちらが大きいのか。
チェティ教授は米国のケースについて、「20世紀中盤の高成長+今と同じ大きな格差」と「今と同じ低成長+20世紀中盤の小さな格差」という二つの前提条件で模擬計算している。それによると、子が親の所得を上回る率は「高成長+格差大」だと62%にとどまった。これに対して「低成長+格差小」は80%まで上がったという。
教授はこの結果からアメリカン・ドリームの実現が難しくなってきたのは低成長よりも格差、すなわち「成長の果実の不平等な分配」が主因で、富の広範な共有が必要だと結論づけた。この主張はノーベル経済学賞を昨年受賞したサイモン・ジョンソン米マサチューセッツ工科大教授が説く「包摂的な資本主義」などとも重なる・・・

ニューヨーク、横断歩道での赤信号無視

自治体国際化協会の「CLAIRメールマガジン」358号に、ニューヨーク事務所から「「ジェイウォーク(Jaywalk)」が合法化」(1月10日)が載っていました。

・・・赴任して最初に目の当たりにした当地ならではの習慣が、この「ジェイウォーク(Jaywalk)」でした。ジェイウォークとは、口語で横断歩道のない車道を横切る行為や赤信号を無視して横断歩道を渡る行為を指します。
日本では道交法で歩行者に対して罰則がありますが、ニューヨーク市では日常的に行われているため、当初は合法であると思い込んでいました。しかし実際は、1958年から「ジェイウォーク」が禁止されており、違反者には250ドル以下の罰金が適用されます。今年上半期だけでの取締りは、780件以上です。

2024年9月、ニューヨーク市議会において合法化法案が可決されたため、2025年2月の施行以降「ジェイウォーク」は正式に認められることになります。
この法案を提出したメルセデス・ナルシス市議は、召喚状を受けたジェイウォーク違反者のうち92%が黒人またはラテン系で占められていることを指摘し、この合法化の目的は、人種に基づく不平等を解消することにあると説明しています。信号無視が職務質問の口実となり、他の犯罪を取り締まる手段として利用されているという指摘もあります。

一方で、横断歩道のない車道の横切りや、信号無視による道路横断の結果、死亡した歩行者の数は過去5年間で200人に上り、歩行者死亡事故全体の34%を占めているとの報告もあります・・・

25年間の変化、楽観主義が怒りや恨みに変わった

12月18日の朝日新聞、ポール・クルーグマン氏の「より良い世界に戻る道 恨みの支配は、長続きしない」から。

・・・ニューヨーク・タイムズに私がコラムを書くのは今回で最後となる。最初に執筆したのは2000年1月だった。この25年間で何が変わったかを振り返るのには、今回はちょうどいい機会である。

過去を振り返ってみて考えさせられるのは、米国と西側諸国の人々の多くが当時いかに楽観的であったかということであり、そしてその楽観主義がどれほど怒りや恨みに取って代わられてしまったかということである。私が話しているのは、エリート層に裏切られたと感じている労働者階級のことだけではない。現在の米国で最も怒りを抱き憤慨している人たちの中には、十分に称賛されていないと感じている億万長者たちもいる。

1999年から2000年初めにかけて、多くの米国人がどれほど良い気分でいたかを伝えるのは難しい。世論調査は、国の方向性に対する満足度が、今日の基準では非現実的に見えるほど高いことを示していた。欧州でもうまくいっているように見えた。特に1999年のユーロ導入は、政治と経済のより緊密な統合、欧州合衆国への一歩として広く歓迎された。
もちろん、全てが順調だったわけではない。例えば、クリントン政権時代の米国でも、Qアノンの原形のような陰謀論がすでにかなりあったし、国内テロの事例さえあった。アジアでは金融危機があり、これから起こる事態の前兆ととらえる米国人もいた。私は99年に出版した本で、同じようなことが米国でも起こりうると記した。10年後に改訂版を出版したのは、それが起こったときだった。

それでも、私がニューヨーク・タイムズへの執筆を始めた頃は、人々は将来にかなり明るい見通しを抱いていた。
この楽観主義はなぜ崩れ去ったのか。私の考えでは、エリート層への信頼が崩壊したのだ。物事を動かす人たちが自分で何をしているかをわかっているか、彼らを誠実だとみなしていいのか、その確信を国民はもはや持てなくなっている・・・

・・・最近では、イーロン・マスク氏をはじめとする一部のテック業界の億万長者たちが急激に右傾化したことが話題になっている。このことについては深く考えすぎるべきではないし、特にこれが「政治的正しさ」を訴えるリベラル派のせいだなどと騒ぐべきではない。基本的には、かつて世間から称賛を浴びていた金持ちたちが、世の中の全ての金をもってしても愛を買うことはできないのだと、今になって気づきつつあるという狭量さに帰結する。

では、厳しい状況から抜け出す方法はあるのだろうか。私が信じているのは、恨みによって悪い人が権力の座に就いたとしても、長期的にその座にとどまることはできないということである。国民はある時点で、エリート層を非難する政治家のほとんどが、実はあらゆる意味でエリート層そのものであるのだと気がつき、約束を果たせなかった責任を彼らに問い始めるだろう。国民はその時、権威を盾にした議論をせず、偽りの約束をせず、それでも精いっぱい真実を語ろうとする人々の意見に耳を傾けるようになるのかもしれない。
かつて持っていたような指導者への信頼を、私たちはもう二度と取り戻すことはないかもしれない。権力を持つ人々は一般的に真実を語り、自分が何をしているのかわかっている、という信頼だ。そして、それを取り戻すべきでもない。しかし、この瞬間も台頭しつつあるカキストクラシー、つまり最悪の人々による支配に立ち向かえば、最後にはより良い世界に戻る道が見つかるかもしれない・・・

パスポート所持率の低下

11月29日の日経新聞「私見卓見」は 鈴木克洋・全日本空輸ウィーン支店長の「パスポートから始まる国際化」でした。

・・・外務省の旅券統計によると、日本人のパスポート所持率は17%で、この5年間で8%減少した。他国と比較してみると、英国は86%、米国は50%、韓国は42%となっており、日本はかなり低位であることがわかる。

パスポート所持率が低い理由はまず円安による影響だ。円の価値の下落により、海外での費用増が挙げられる。また、新型コロナウイルスの影響も依然としてあり、海外での感染を恐れるあまり、渡航をためらうという心理状態から抜け出せていない。
さらに今後の日本にとって大きなリスクになると思われる理由は、「日本から出たくない」という内向き思考である。「日本は最良・最高であり、海外へ行く必要がない」という考えが根本にあると、日本全体が進化の止まる「ガラパゴス化」することにもなりかねない・・・

・・・日本が世界でどのように見られているのか。これまで戦後の日本が培ってきた世界での立ち位置はどこか。そして今後日本が果たすべき役割は何か。特にこれからの日本を背負っていく10代から20代の若者たちにぜひ海外を経験し、国際感覚を身に付けてほしい・・・

車椅子の知人のドイツ旅行記

知人の、元公務員が10月下旬にドイツに行ってきました。彼は車椅子なのです。その旅行記を、インターネットに載せています。

私の海外旅行は旅行会社のパック旅行ですが、彼は自分で計画を立てて、さまざまなところを見ています。美術、音楽、サッカー、建築物、鉄道・・・盛りだくさんです。事前準備が大変だったと想像できます。それも楽しいのでしょうね。
旅行記は、きれいな写真と一緒に記録しています。車椅子での苦労も、書かれています。

本人の了解を得て、紹介します。
38回にもわたるので、お暇なときに少しずつご覧ください。