カテゴリー別アーカイブ: 知的生産の技術

生き様-知的生産の技術

会読の持つ社会的、政治的意義

江戸時代の授業方法」の続きです。
会読が、政治問題討論の場と、変わっていくのです。「図録」p17。

会読では参加者の身分にとらわれず、平等な関係に立ちます。従来、政治には関与できなかった低い身分の者でも、発言が可能になるのです。そして、主義主張が共通する者たちは、(政治)集団を形成します。学校を経由して藩の要職に就くと、派閥を形成します。
公家の学校だった学習院で学んだ公家たちも、政治化し、幕末の政局に関与します。さらには、尊攘過激派も出入りします。

会読が、参加者が自発的に集会をするという結社の性格を持ち、幕末の言論の場を作り、同士を育てたのです。それは、藩を超え、広いつながりを作ります。
幕末維新の言論空間、人材登用の素地をつくったのです。政治が、制度や為政者によってのみつくられるのではないことが、わかります。

江戸時代の授業方法

国立公文書館の展示「江戸幕府最後の闘い」を見て、いろいろと勉強になったのですが、その一つに、江戸時代の授業方法があります。
江戸後期には、幕府の昌平坂学問所のほか、各藩の藩校や私塾がたくさんできます。そこでは、素読、講釈、会読の3つの方法で、教えたのだそうです。「図録」p12。
素読は、ご存じの通り、意味内容を教えず、ただ声を上げて丸暗記します。「しのたまわく・・・」でしょう。これは、7歳~15歳くらいの初学者が対象です。
次に、講釈に進みます。先生が生徒たちの前で、書物の中の1章、1節について内容を説明する一斉授業です。これは、日本の小中学校の古典的授業風景ですね。

興味深いのは、会読です。素読を終了した程度の学力を持つ者たちが集まって、ある書物について問題点を出したり、意見を出したりして集団研究をする、共同学習です。
会読には、テキストを読む会読と、講ずる輪講があります。輪講は、10人前後の生徒が1グループになり、一人が指定されていたテキストのか所を読み、講義します。そのあと、他の生徒から読み方や質問などが出され、講師はそれに答え、討論を行うのだそうです。今で言う、ゼミに当たりますね。
しかも、身分社会の江戸時代に、輪講では参加者の身分にとらわれず、平等な関係に立ちます。また、参加者が自発的に集会をするという、結社の性格を持っていました。自主ゼミです。この項続く。

生産の読書、消費の読書、貯蓄の読書

先日、鎌田浩毅先生の『理科系の読書術』を紹介しました。その中に、「生産の読書と消費の読書」という考え方が書かれています。この分類は わかりやすく、読書をする際の指針、例えば学生に読書法を教える際に有用です。

私も、読書の種類を考えていました。
その一つは、「義務としての読書」と「楽しみの読書」という分類です。
学校の授業のためや仕事のために読むことは、義務としての読書です。嫌であっても、読まなければなりません。それに対して、楽しみとしての読書は、誰に命令されるのでもなく、好きで読むものです。
義務としての読書にも楽しいものもありますが、しばしば嫌々ながら読まなければなりません。そして、期限が決まっていない楽しみの読書の方が、早く読めるのです。試験の前の晩に、関係ない小説を読みたくなるとか。あなたも経験があるでしょう。

もう一つは、鎌田先生の「生産の読書と消費の読書」の二分類と共通するのですが、少し改変します。生産の読書と消費の読書のほかに、貯蓄の読書を加え、3分類します。
消費の読書を、「消費(娯楽)の読書」と「貯蓄の読書」とに分類します。
貯蓄の読書は、今すぐに役に立つものではありませんが、将来、役に立つ読書です。教養としての読書は、これに該当します。新書などの解説書は、これに入ります。
また、漫画や小説は多くの場合は娯楽であり、消費の読書です。しかし、漫画や小説で、いろんなことを学ぶ場合があります。それが後で役に立つ場合は、ここに言う「貯蓄の読書」です。
生産の読書との違いは、今持っているある目的のための読書と、直ちに立ちませんが将来役に立つ読書との違いです。
鎌田先生の分類では、貯蓄の読書は「消費の読書」に含まれているようですが、独立させた方が、学生にはわかりやすいと思います。

なお、生産の読書は、授業のための学習やレポート作成のための読書が主なものですが、これらのほかに「実用の読書」を加えることも可能です。それは、ハウツー本だったり旅行案内、お料理の本です。生活にすぐに役立つ読書です。

本を買うときに、この分類をします。読みたい本や読まなければならない本を、このように頭の中で分類しています。皆さんもそうでしょう。
さらに私は、時には、これを1枚の紙に書き出します。見える化です。もっとも、本屋に行っては気になる本を買うので、整理はしきれません。当面読む本だけを書き出しています。
厳密な区分は困難ですが、このように考えると、読み方も目的に応じて変えることができます。しっかりと読み込むのか、あらすじを追うだけとか、というようにです。

「明るい公務員講座 仕事の達人編」では、読む本を3つに分類して説明しました(108ページ)。「仕事に関すること」「公務員として知っておきたい社会や地域の動向」「趣味」の3つです。生産の読書、貯蓄の読書、消費の読書の3分類に、ほぼ相当します。(4月16日追記)

鎌田浩毅著『理科系の読書術』

鎌田浩毅先生の新著『理科系の読書術』(2018年、中公新書)が良かったです。紹介には、次のように書かれています。

・・・本を読むのが苦行です――著者の勤務する京都大学でも、難関の入試を突破したにもかかわらず、そう告白する学生が少なくない。本書は、高校までの授業になかった「本の読み方」を講義する。「最後まで読まなくていい」「難しいのは著者が悪い」「アウトプットを優先し不要な本は読まない」など、読書が苦手な人でも仕事や勉強を効率よく進めるヒントが満載。文系の人にもおすすめの、理科系の合理的な読書術を伝授する・・・

わかりやすいです。すらすら読めて、納得します。学生だけでなく、社会人にも、役に立ちます。いくつかのキーワードを書いておきます。詳しくは、本を読んでください。
多読と速読の違い。速読とは、時間あたりに読める文字数が多いのではない。未知の分野では速読はできない。
人間関係2:7:1の法則は、本にも当てはまる。
難しい本を読む際の、棚上げ法と要素分解法。音楽的読書(丁寧に最初から読む本)と絵画的読書(飛ばし読みができる本)。
生産の読書と消費の読書の違い。

最近の学生は、本を読まないようです。昨日、このホームページでも紹介しました。京都大学の学生もそうだとか。もっとも、昔から、本を読む学生と読まない学生はいました。読まない学生の割合が増えたということでしょうか。
「本の読み方を教えてもらっていない」という指摘があります。私も大学の法学の授業で、教授から読み方のコツを教えてもらいました。法律学の本は、難しいのです。「そうか、教授もこのように読んでおられるのだ」と自信がつきました。
そこで、私が講義する大学の授業でも、本の読み方と新聞の読み方を教えるようにしています。新学期からは、鎌田先生のこの本を紹介することにします。

グラフを発明した人

5月16日の朝日新聞「ネット点描」は「グラフの進化」でした。
それによると、棒グラフと線グラフを発明したのは、1786年のロンドン、ウィリアム・プレイフェアだそうです。
改めて考えると、これはすごい発明ですよね。数字の可視化です。数字を並べるより、はるかにわかりやすいです。
あのナイチンゲールは、クリミア戦争でイギリス兵の多くが戦闘の傷よりも病院の衛生管理で死亡したことを国に訴えるため、独自の円グラフを使ったのだそうです。