カテゴリー別アーカイブ: 明るい課長講座

生き様-明るい課長講座

心理社会的なストレスによる病気

7月26日の読売新聞、中井吉英・関西医大名誉教授の「心療内科の神髄 体と心 患者さんに触れる」から。
「社会が複雑化し、ストレスであふれた現代。先の見えないコロナ禍も重なり、今後は心身の調子を崩す人がじわじわと増えることが予想される。ストレスが背景にある病気は、検査で異常が見つからないことも多く、診断と治療が難しい」

「ベッドサイドで手を握る。体をさする。大人もそれで安心します」
・・・心療内科医になって50年がたちました。でも、いまだに心療内科は多くの人に誤解されています。
精神科は、統合失調症やうつ病、不安症などの精神疾患が対象。神経内科は、パーキンソン病や脳梗塞こうそくなど脳神経系の病気を診ます。
一方、心療内科は、「体と心を分けずに診療する内科」です。主に心理社会的なストレスの影響で、体に不調が表れたり、もともとあった病気の症状が悪化したりした身体疾患(心身症)を診る「心身医学」を、内科の領域で実践します。心療内科医は名前の通り、内科医なのです。

1995年の阪神大震災の時、避難所の体育館に70代の男性がいました。被災後に血圧が高くなり、降圧剤を飲んでも上の血圧が180から全然下がらない。話を聴くと、地震で家が倒壊し、親友が目の前で亡くなった。その場面が何度もフラッシュバックとして現れ、1か月間、ほとんど眠れなかったといいます。私は彼の脈を診ながら手を握り、じっくりと話に耳を傾けました。その後に睡眠薬を処方すると、男性はぐっすり眠れるようになり、血圧も120台にまで下がりました。

人間関係の悩みからじんましんが度々発症していた30代の男性。夫の言葉による暴力から胸痛が表れていた50代女性。幼少時から親に甘えられず大量の飲酒を繰り返して慢性膵炎すいえんになった40代男性――。こうした患者さんたちは、医師が身体所見を正確に診た上で、心理面をはじめ、家族、学校、職場などの社会・環境まで見据えた「全人的医療」を行うことで症状が改善されるのです。
このような心療内科の診療で特に大切なのは、患者さんに「触れること」です・・・

「明るい公務員講座」の活用

何人かの人から、「明るい公務員講座に世話になっています」と報告をもらいました。民間企業の方からもです。新しく管理職になった人に、活用してもらっているようです。

・以前読んだときは「なるほど」と思うだけでしたが、管理職になって読み返すと、「そうそう、これだ」と思い当たるところがいくつもあります。
・数ヶ月に一度、読み直しています。そのたびに、違う発見があります。自分が悩んでいる事案にぴったりの文章に出会うときです。
・職員として事務を処理していた頃が懐かしいです。部下の仕事ぶりを見て、自分で処理した方が絶対早いのですが。ぐっとこらえて、見守っています。
・部下の仕事ぶりに、思わず怒りたくなります。「怒ってはいけない」と自分に言い聞かせています。
・自分が課長になってみて、かつての上司が何に苦労していたかがわかりました。事務処理だけなら楽なのですが、出来の悪い部下の指導ばかりです。

職場での苦手な相手

7月21日の日経新聞Bizワザは、「苦手な相手 反面教師に」でした。
・・・新型コロナウイルスの感染拡大による在宅勤務が緩和され、従来通り出社する会社員は増えている。苦手な先輩や上司がいれば、憂鬱になる人も少なくないはずだ。円滑なコミュニケーションは対面での仕事に欠かせない。苦手な相手と上手に付き合うにはどうすればよいだろうか・・

・・・パーソル総合研究所がアジア・オセアニアの14の国と地域で働く男女1千人ずつを対象にした調査で、職場の人間関係の満足度は日本が各国の平均を大きく下回り、最も低かった。
また日本は転職理由で人間関係が2位になるなど、対象地域で最も高かった。どの国でも職場で上司や先輩との相性など人間関係のストレスはあるが、同社の小林祐児上席主任研究員は「日本企業は従業員の一体感を重視する傾向が強い。人材の流動性が低く、関係がこじれても同じ場所で働くことが多いためだ」と分析する・・・

・・・異動や転職は対人関係のストレス解消につながる。ただ、大きな決断で本人の負担も大きい。まず職場内での解決を図ってみよう。
小林氏は「相手を観察対象として見てはどうだろうか」と指摘する。相手の問題点をみつけ、反面教師にするのだ。ストレスに役に立つ面があると考える人はそうでない人と比べ、同じ環境下でも精神的に安定し、仕事の成果が高まるという。
1級キャリアコンサルティング技能士の木村典子氏は「相手に自分を理解してもらおうとせず、相手の価値観を理解しようとすることが重要だ」という・・・

明るい公務員講座』では、私のつらかった経験を元に、苦手な上司との付き合い方をお教えしました。「嫌な上司は反面教師」(37ページ)。一人で悩まないでくださいよ。

中国古典に共通する仕事の仕方

肝冷斎が、中国古典の中に、仕事のコツを見つけました。「呻吟語」より「三種方便」
私の「明るい公務員講座」と共通するようです。少々強引とも思えますが。

我嘗自喜行三種方便。甚於彼我有益。
不面謁人。省其疲於応接。
不軽寄書。省其困於裁答。
不乞求人看顧。省其難於区処。

・・・明・呂坤「呻吟語」応務篇より。一瞬、①要らん会議はするな、②無関係な人にまでメールで同送するな、③とりあえず「はい」と言っておけ、という岡本全勝さんの教えを思い出しました。ちょっとづつ違いますが、実は一緒ことを言っているのかも。でもよく考えたら、同じような組織人の行動を真摯に考えたら、同じような結論になるのは当たり前ですね・・・

組織構成員の分類その3。階級の区別

組織構成員の分類その2。能力差」の続きです。その1で、次のように説明しました。
B 上下の分担は、部長、課長、補佐、係員、平社員・職員です。また軍隊では、将官、士官、下士官、兵の区分です。「階級」(rank)です。一般的には、管理職、中間管理職、平職員の3段階に区分します。

諸外国の職場や、戦前の軍隊など、この階級差ははっきりしていて、給与や処遇だけでなく、食堂や便所まで違う場合もあります。
この区分をあまり際立たせない、なるべく平等にするのが、日本型職場でした。会社の中に「身分」や「階級」をつくらない。これが戦後日本の民主主義や平等意識の反映であったと、小熊英二著『日本社会のしくみ』(2019年、講談社現代新書)は指摘しています。

それが、かつては職場の生産性を上げ、近年では生産性の低さを生んでいると、私は考えています。
多くの組織において、目標を効率的に達成するには、管理職・中間管理職・職員という階級区分が必要です。それは、軍隊でも会社でも役所でも同じです。管理職は、その組織が何をすべきかを考え、それを中間管理職に指示します。中間管理職は、管理職の指示に従い、業務を達成するために、職員に指示し職員の仕事ぶりを管理します。職員は、中間管理職に指示されたことを実行します。
日本の職場でも、管理職、中間管理職、職員(社員)の区分はあります。しかし、その区分による職務の違いが、明確でないのです。
上司も部下も、みんなが一体となって一つの仕事に取り組む。それは、組織への一体感をつくり、全員で仕事をやり遂げるという長所を持っています。職場でのカイゼン運動は、その一つの表れです。
ところが、それが管理職と社員の仕事と責任のあいまいさを生みました。なるべく、上司による命令や指示という形を取らず、部下から意見をあげていく、全員が納得して仕事を進める形がよいとされました。稟議制もその現れです。しかし、その組織の進むべき方向を決めたり、新しい仕事の目標と期限を決めたりする場合には、管理職が責任を持って、時には部下全員の同意を得ることなく、決める必要があるのです。

管理職が、管理職の仕事をすること。部下の合意取り付けに労力をつぎ込むのでなく、責任を持って指示を出すことが必要なのです。管理職が責任を果たしていないことが、日本の職場の生産性の低さの原因の一つです。
この文章は、「管理職、中間管理職、職員の区分」で書いたことの要約・再掲です。参考「フランスの経済エリート
この項続く