カテゴリーアーカイブ:人生の達人

「あなたの人生の意味」

2017年4月25日   岡本全勝

デイヴィッド・ブルックス著『あなたの人生の意味』(邦訳2017年、早川書房)が良かったです。副題に「先人に学ぶ「惜しまれる生き方」とついています。
著者は、人間の美徳には2つあると指摘します。一つは履歴書向きのもので、社会でどのような資格を得て、成功を収めたかです。もう一つは、追悼文向けのもので、あなたの葬式に集まった人たちの思い出話として語られるもの、親切、正直、誠実といったものです。その人たちと、どのような関係を築いていたかにもよってきます。生き様、人格といったものでしょう。
前者を「アダムⅠ」と、後者と「アダムⅡ」と名づけます。Ⅰは外向きです。高い地位と勝利、世間からの評価を求めます。Ⅱは内向きです。良き生き方を求め、心の中に道徳的資質を持とうとします。Ⅰは他人との競争、Ⅱは自分または神との約束とも言えます。
この本は10人の人を取り上げ、それぞれの人がどのようにアダムⅡで立派な人生を送ったかを書いたものです。

アイゼンハワー・大統領は、自己抑制の人であったこと。マーシャル・国務長官が自制心の人であったこと。二人ともアダムⅠとして成功していますが、ここでは大変な努力家として描かれています。そういう人を、周囲が放っておかず、大きな地位に就けるのです。
ほかに、自ら進んで恵まれない人への支援を行い社会改革に取り組んだ女性たちなど。それぞれに、簡潔な伝記として、彼らが自らを律した様、それもしばしば強烈な体験が書かれています。

人生とはなんぞや、どのように生きるべきかを考えている人には、良い本です。
取り上げられている人がアメリカ人がほとんどで、しかも私たちになじみがないこと。450ページを越える厚さであることが、難点です。
1か月ほど前に読んだのですが、ほかの記事を優先していたら、今頃になりました。私の研究課題は日本の政治と行政で、主にアダムⅠの世界ですが、たまにはアダムⅡについても書いてみました。

残業削減、やればできる

2017年4月24日   岡本全勝

4月24日の毎日新聞が「無駄省き「7時前退社」実現」という記事で、三井住友海上火災保険の取り組みを取り上げていました。
・・・大手損保の三井住友海上火災保険は4月、残業削減に向け全社で午後7時前に退社するルールを導入した。ホワイトカラー中心の社員2万人の大企業で、職場はどう変わるのか・・・
・・・「絶対できない、と思っていた」。3月まで所長代理だった鳥飼有子(とりかいゆうこ)さん(36)=現首都圏損害サポート部=は当初、冷めた目で見ていた。電話受け付けが終わる午後5時まで対応に追われ、それから社内報告の作成に入る。たいてい午後8~10時まで「残業ありき」だった。
だが、事故を減らすのは難しいが、通話時間の短縮は可能だった。相手からの電話を受けてから対応するのでなく、要点を明確にして自分から連絡すれば、効率よく、顧客満足度も高まる。「残業をして一人前の意識だったが、今は仕事の質が最優先」
生活も変わった・・・
・・・自動車保険部の商品業務チームは、昨秋に始まった社内改革に先駆け、業務見直しに取り組んだ。23人中18人が女性で、うち6人が育児中だ。
自動車保険引き受けの規定やその確認ルールについて約600種のマニュアルを作成し、年1回の商品改定にあわせ更新する。・・・全ての業務に明確な手引書があり、細かくスケジュール管理。誰かが急に休んでも支障がないようにしていた。
「だが、業務の中身を問う視点は抜けていた」。2014年にチーム長になった萬代さんはそこに踏み込んだ。例えば、契約者が従業員であることを条件に保険料を安くする「団体扱い」の点検業務。以前は年400件の契約を抽出しチェックしており、現場の負担となっていた。そこでマニュアルを改善することで不備を激減させ、16年度に廃止した。「不備のない体制作りが目的なのに、点検が仕事と思い込んでいた」。14年度に43あった点検項目は17年度は15に減り、現場から本社への報告も数を絞った。見直しは第一線の負荷を減らし、チームの業務効率化にもつながった・・・

やればできるんですよね。記事には、長時間労働を当たり前と考える「常識」が9項目載っています。
・・・かつては一生懸命働けば、企業は業績拡大、個人は高評価という見返りがあり、長時間労働をいとわなかった。だが、産業構造の変化や働き方が多様化しているのに、意識は変わらないまま、生産性への関心が低い。長時間労働是正は生産性向上と一体なのだ・・・
原文をお読みください。

社員のやる気をどのように高めるか

2017年4月23日   岡本全勝

4月17日の日経新聞経済教室は、若林直樹・京都大学教授の「社員のやる気 どう高める」でした。
「企業の人事管理にとって、社員の「やる気」を高める取り組みは最重要の課題だ。ところが国際比較調査を見ると、日本企業の社員が会社の仕事に対して示すやる気は欧米よりも低く、アジアの中でも劣る。やる気を表に出すことをはばかる文化が日本人社員にあるためなのかもしれないが、社員のやる気が高く示されないことは大きな経営課題だろう」として、現在の代表的な4つの論点が示されています。
1 金銭的報酬。しかし限界があり、社員がそれぞれ求める幸福のあり方に配慮して報いる方が、動機づけには効果的である。
2 社員が会社の職務に積極的に関わる要因に注目する「ジョブ・エンゲージメント」。具体的には、(1)会社との価値観の適合の高さ(2)職務に対する会社の支援の多さ(3)職務に自分がふさわしいと考える自己評価の高さ。
3 会社側から社員への業績評価のフィードバックのタイミング。タイミングが適切であれば社員がやる気を高めるという見方で、社員が良い仕事をしたならば、できるだけ早い時期に的確に評価内容を本人に伝えるのが良いというもの。
4 個人的成果主義によって損なわれがちな「チームワーク」に対する動機づけ。個人の動機づけも大切だが、チームや組織に貢献する意欲を社員が高く持つことを重視する。

連載「明るい公務員講座・中級編」第20回で、「意欲を持たせる指導」をお話ししました。仕事の出来の悪い職員をどう指導するか。彼ら彼女たちに欠けているのは、技能ではなく意欲です。意欲を持たせるにはどうすれば良いか。
一つは、仕事を面白いと思わせる。達成感、満足感を持たせることです。
二つ目は、褒めることです。
三つ目は、みんなと一緒に仕事を進める一体感を味わってもらうことです。
そして、やりがいの与え方について解説しました。(金銭的報酬は、公務員の場合はボーナスに反映されますが、飛び跳ねてもらえるるということはありません。出世によって、長期的に差がつきますが。)

私が書いていることと、世界の研究者の最先端議論は、ほぼ同じなのですね。私のは経験で得たことです。理論的に説明されると、難しそうに見えます。しかも、私の文章は、わかりやすいでしょ。
「何か私の知らないことが書いてないか」と、勉強のために読んだのですが。自説について安心するとともに、自信がつきました。

危機対応、マニュアルを作っても。

2017年3月31日   岡本全勝

3月27日の日経新聞の法務欄は、「DeNA問題、法令順守迫る」でした。いわゆる「まとめサイト」が、出典不明や根拠のない記事、著作権侵害の記事のコピーを載せていた問題です。詳しくは本文を読んでいただくとして。ここでは、問題が起きた際の対処について、上沼紫野弁護士の発言から。
・・・DeNAがトラブルを広げてしまったのは、問題を初期段階で見つけ、対処する体制が整っていなかったためだ。第三者委員会の報告書を読むと、部門間、現場と管理者などの間で意思疎通ができていなかったことが分かる。マニュアルを作っても、内容が適切か、正しく運用されているかをチェックする体制ができていなかった。
法的責任を避けることだけを重視してモラルが低下したことが、確認の甘さにつながり、著作権法や医療関係の法律に触れる事態を招いた。企業が挑戦することは悪いとはいえないが、行為の結果を背負うのは企業自身だ。挑戦はリスク管理と両輪で行わなければならない・・・

青春期の仕事と、老年期の仕事

2017年3月27日   岡本全勝

三谷太一郎著『日本の近代とは何であったか』(2017年、岩波新書)のあとがきに、次のような文章が書かれています。
・・・私はこれまで、いつのころから、学問人生の中の「青春期の学問」に対する「老年期の学問」の意味を考えてきました。多くの場合、学問の成果(特に目立つ学問の成果)は、「青春期の学問」の成果であり、「老年期の学問」の成果と目すべき実例は、ほとんど念頭に浮かんできませんでした・・・
・・・「老年期の学問」は、所詮「青春期の学問」の可能性の範囲を超えるものではない。それぞれの「青春期の学問」が持っていた可能性を限界にまで追求することによってしか、「老年期の学問」は成り立たない。結局「青春期の学問」のあり方が「老年期の学問」のあり方を決定する。それが私の結論です。・・・
・・・ただ「老年期の学問」は、どちらかといえば、特殊なテーマに焦点を絞る各論的なレベルの発展よりも、より一般的なテーマに傾斜した総論的なレベルの発展に力点を置くべきではないかと考えます・・・

詳しくは、本を読んでいただくとして。納得します。
春から慶應大学に教えに行きますが、行くことが決まってから、どのように授業を構成するかを考えてきました。かつて東大の大学院や慶應大学で教えていたときは、当時の私の問題意識と周りにある実務の実例やデータを教えることに重点を置きました。しかし、この歳になって、またいろいろなことを経験して、それとは違うことを教えるべきだと思うようになりました。
もちろん大学の授業ですから、知っておかなければならない事項を、教えなければなりません。でも、それは、市販されている教科書に書かれています。私が「付加価値」をつけるとするなら、これまでの経験を生かして、現場の実態を教えるとともに、地方自治を通じて「社会の見方」をお教えすることでしょう。
いま、そのような観点から、講義ノートを作成中です。