6月22日の朝日新聞くらし面、「コロナ禍で壊れた心、抱えたまま 行動制限下「すごく孤独だった」、うつの波は今も」から。
・・・5年前の2020年4月、コロナ禍で最初の緊急事態宣言が出された。行動制限は人を孤立させ、ときに心を壊すほどのストレスを強いた。今も、一度負った傷を抱えている人がいる。
神奈川県内のメーカーで総務の仕事をしていた女性(28)にとって、仕事は決して楽しいものではなかった。それでも、19年に新卒で入社した当初は、研修や飲み会を通じて同期と交流があり、愚痴を言い合うこともできた。プライベートではカラオケやライブ、旅行でストレスを発散していた。
翌年からコロナ禍に入り、状況は一変する。家と職場を往復し、業務をこなすだけの日々。楽しみはなくなった。21年3月にリモートワークが始まると、完全に「やる気スイッチ」が消えた。なぜ集中できないのか。家で悶々としていると、孤独感が募った。
夏ごろには日中、急な眠気に襲われるようになった。十分睡眠はとっているのに、パソコンに向かい、気づいたら眠り込んでいる。そのうち、夜に眠れなくなった。今日も眠れない、と思うと不安になり、余計眠れなくなった。
原則出社に戻っても、日中は常に眠気と戦っている状態。すべてを投げ出して逃げたい、消えたいという思いに駆られた。
食事ものどを通らなくなった。息苦しさや貧血、動悸にも悩まされるようになった。
12月には1週間、会社を休んだ。年明けは忙しく、無理に出社した。「休んじゃいけない」と思い込んでいた。4月には、いよいよ朝起きられなくなった。
母に連れられて精神科を受診し、うつ病と診断された。「これでもう会社に行かなくていい」という安堵感と、「気持ちが晴れる日は来るんだろうか」という不安感が同時に押し寄せた。
実際、通院してもよくならないどころか、薬の副作用で吐き気や倦怠感に苦しんだ。何度か転院し、脳に電流をあてる「経頭蓋(けいとうがい)磁気刺激(TMS)」も試したが、期待したほどの効果はなかった。「なぜこんなに自分は弱いのか」と思い詰め、どうやって死のうか、と毎日考えていた。
どん底のなか、ようやく合う薬が見つかり、症状も副作用も少し落ち着いてきた。23年4月からは主治医の提案で、復職に向けたリワークプログラムに通った。同じ境遇の人と悩みを共有し、「一人じゃない」と思えた。
同年9月に復職。夜眠れる、ごはんが食べられる、支度ができる。「ふつうの生活ができる。それが何よりうれしかった」。その後も精神状態の波はある。転職もした。だが、大きく体調を崩さないよう、自分を守ってきた。気兼ねなく友人と会い、旅行もできるようになった。
いま振り返ると、「コロナがなければ、ここまで悪化しなかった」と思う。「すごく孤独だった」
徳島大学の山本哲也教授らの研究では、コロナ禍で悪化したメンタルヘルスは改善傾向にあるものの、若年層ほど回復から取り残されていることがわかった・・・