投稿者アーカイブ:岡本全勝

渡辺利綱・前大熊町長「中間貯蔵一人腹固めた」

2020年9月27日   岡本全勝

9月22日の福島民友新聞「震災10年証言あの時」に、渡辺利綱・前大熊町長の「中間貯蔵一人腹固めた」が載っています。

・・・「全てを話すことはできないのだが」。前大熊町長の渡辺利綱は言葉を選びながら語り始めた。渡辺は中間貯蔵施設(大熊町、双葉町)の建設受け入れに至るほぼ全ての流れを知る数少ない"証人"の一人だ。東京電力福島第1原発事故後の除染で出た県内の汚染土などを保管する施設の建設は、本県全体の復興に欠かすことができない重大な決断だった。受け入れの背景に何があったのか・・・

・・・原発事故で県内各地に拡散した放射性物質を除染し、その過程で出た土壌などをどこかに集約しないと環境再生は進まない。「理屈は分かっているが、それが大熊なのか」。渡辺には割り切れない気持ちの中で、どうしても頭から離れない考えがあった。「放射線量が高い大熊町の土を、どこか引き受けてくれるところがあるのだろうか」。渡辺は一人、受け入れへと腹を固めていった。
町民への説明の前、町の担当課長が「反対意見が多かったら引き受けられませんね」と言った。渡辺は「反対してどこかに決まるのなら、俺もどこまでも反対する。だが、現実はそうではないだろう」と諭した。渡辺は、復興支援策や賠償基準と複雑に絡み合う政府交渉に心血を注いでいく・・・

・・・「(震災当初の双葉町長だった)井戸川克隆町長は受け入れに反対だったように、双葉郡が一枚岩で施設の受け入れを協議するという雰囲気ではなかった。誰だって首長は自分の町や町民がかわいいわけだから。それを露骨に出したりしたら、とても施設の問題は解決しない。解決しなかったら福島の復興は進まない。そのような状況で、建前と本音を使い分けて話していた」
「自分の場合、大熊町長という立場で『大熊町の汚染された土壌をどこが引き受けてくれるんだ』と考えていた。町政懇談会をやる日程を組んだ時、担当課長から『町長、町政懇談会をやって反対が多かったら引き受けられませんね』と言われたが、『その気持ちは分かる。でも大熊町の土をどこが引き受けてくれるんだ。反対してどこかが受けてくれるなら、俺も最後まで反対してもいいんだ』と言った」
「正直に言えば、反対している方がトップとしては楽だったと思う。『町民が反対だから』と町民を前面に出して。でも、現実問題としてどこまでそれを通せるのか。通していったら、結局は町民が困ることになると思っていた・・・

渡辺町長には、難しい・苦しい判断を、何度もしていただきました。全町民の避難、遠く離れた会津若松市での暮らしなど。そして、中間貯蔵施設の受け入れ。町長の勇気ある決断で、難しい物事が進みました。
みんなが嫌がる中間貯蔵施設を、誰かが引き受けなければならない。町長の証言には、他の自治体の「無責任な発言」への反発も書かれています。
時間が経つと、この難しい決断とともに、嫌がる施設を大熊町と双葉町が引き受けてくれていること自体が、忘れられます。
それは、第一原発で増え続けている処理水も同じです。「タンクにため続けよ」とか、「先送りしよう」という発言は、この2町がタンクを受け入れていることを忘れています。もし「タンクにため続けよ」と発言するなら、「そのタンクを、私のところで引き受けますから」という発言を合わせてして欲しいです。

町長の証言の最後には、次のような言葉があります。政府関係者は、忘れてはならないことです。
「ただ、大川原地区の整備が進められているものの、町全体から見ればまだまだだ。今でも国の一部には『住民が帰らないところにお金をかける必要があるのか』という考え方があるように感じる。しかし、震災直後から言ってきた通り、帰る帰らないは町民が判断することであって、帰る環境をつくるのは国と東京電力の責任だ。そこは必ず守ってもらうつもりだ」

連載「公共を創る」第57回

2020年9月26日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第57回「日本は大転換期―成熟社会で見えた教育の問題と限界」が、発行されました。
成熟社会日本の問題。労働の次に、教育について議論します。労働が人の生き方と社会の形を表すものとすれば、教育は子どもや次世代の社会への期待を表しています。それが、日本人と日本社会を再生産します。

日本型雇用慣行と共に日本の教育も、日本の驚異的発展を支えた仕組みとして高い評価を得ていました。しかし雇用と同じように、教育も今やさまざまな問題を抱え、批判にさらされるようになりました。それは、発展途上社会に適合した教育の仕組みが、成熟社会ではうまく機能しなくなったからです。

成熟社会での教育の問題。その1は、高学歴化が生んだ問題を取り上げます。
みんなの憧れだった高等教育。高校進学率は1970年代に9割を超え、大学進学率は平成元年の25%から令和元年には54%と急上昇しました。では、みんなが幸せになったか。そうはなりませんでした。
大卒がエリートではなくなり、かつては高卒の人が就いていた職に、就かざるを得なくなりました。他方で、学歴競争はさらに激化しました。

成熟社会の教育の問題。その2は、近代化手法の問題です。
近代化の過程で効率的だった、集団で一律の教育を行うこと、知識を詰め込むことが、成熟社会では弊害を生むようになりました。

鹿島茂先生、書棚の風景を売り物にする

2020年9月26日   岡本全勝

9月17日の日経新聞夕刊「こころの玉手箱」鹿島茂さんの「ブックエンド」から。鹿島茂先生については、このホームページで、古書集めのすごさを紹介したことがあります。
先生が集めた、フランスの古書。とんでもないお金がかかった成果ですが、それを並べた書斎が、レンタル・スタジオとして家賃を稼いでいるそうです。確かに、日本で洋書が並んだ書棚はそうはないでしょうから、売れるでしょうね。
松原隆一郎先生の書庫を見せてもらって、うらやましく思ったことがあります。

ところで、書棚で、気になることを思い出しました。
一つは、先日開所した、東日本大震災・原子力災害伝承館です。導入の映画の背景に、書物が並んだ書棚が写ります。それが、すべて洋書なのです。なぜ、福島の紹介に洋書なのですかね。
ちなみに、そのあと背景は変わり、言葉が並びます。それもすべて英語です。見学に来た子どもたちは、どう思うでしょうか。この映画を作った人たちは、誰を観客に想定して作ったのでしょうか。次回見直しの際には、日本語、それも子どもにもわかる言葉にしてください。

もう一つ、自民党総裁室の総裁の後ろの書棚です。これも、整然とした背表紙が並んでいます。整然としすぎて、この本は何なのだろうかと、疑問に思います。

ビデオ会議は対面に代わるか

2020年9月25日   岡本全勝

9月16日の日経新聞経済教室は、鶴光太郎・慶大教授の「ビデオ会議、対面に代わるか」でした。
コロナウイルスの感染拡大で、ビデオ会議の利用が急速に進みました。では、ビデオ会議は、対面接触に取って代わることができるのか。

・・・対面接触の経済学ともいうべき分野の第一人者としては、経済地理学者であり、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校のマイケル・ストーパー教授が挙げられる。2004年の共著論文では、経済における対面接触の4つの特徴について述べている。

第1は情報伝達技術の側面である。対面接触であれば、対話は高頻度かつ瞬時のフィードバックが可能だ。これは電子メールと対比すれば明らかである。また、文字や数式などにより成文化された情報のみならず、不確実な環境下で、複雑で言葉にできない、また、やりとりする人々の間でのみ理解できるような文化・文脈依存型の情報、つまり、暗黙知ともいえる情報も伝達することが可能となる。これは会話のみならず、表情、ボディーランゲージ、握手などの肉体的接触による多面的な情報伝達が可能になるためだ。

第2はモラルハザード(倫理の欠如)などの機会主義的な行動を抑制し、信頼関係を築くという側面である。面と向かって嘘は言いづらいし、対面接触によって相手を注意深く観察し、動機、意図、本音をより正確に察することができ、共通の理解や親近感が生まれる。また、対面接触は、関係構築に時間、お金、努力などの目に見え、関係解消で戻ることのないコストがかかるため、関係を継続させるコミットメント(約束)と解釈できる。

第3はスクリーニング(ふるい分け)とソーシャリゼーション(社会の規範や価値観を学び、社会における自らの位置を確立すること)の側面である。対面接触はコストが高いだけに、そうした接触が必要なグループのメンバーを選ぶには、試験や資格要件だけではなく、仲間内でのみ共有できるようなローカルで文脈依存的な暗黙知が欠かせない。また、こうしたグループのメンバーとして認められるためには、お互いを良く知り、広く共通した背景を持つためのソーシャリゼーションが必要となる。家族、学校、企業にかかわらず、こうしたソーシャリゼーションは対面接触によってこそ可能となる。

第4は対面接触の際のパフォーマンスで得られる快感の側面である。例えば、プレゼンテーションで自分がその場にいる誰よりも優れていることを示したいという競争心・ライバル意識を生む効果だ。

ストーパー教授らは、対面接触が分業にまつわるコーディネーション(調整)やインセンティブ(誘因)の問題を解決し、ソーシャリゼーションが組織のメンバーをスクリーニングすること、また、競争心をあおるような動機を与えるといった上記の特徴を一体的に捉えて、こうした環境を「バズ」(人々の会話のざわめき、ワイガヤ)と名付けた。そしてこれが都市、産業、イノベーション(革新)の集積の根幹的な要因であることを強調した・・・
・・・情報伝達手段の違いによる影響という観点では、実験経済学が専門の独デュイスブルク・エッセン大学のジャネット・ブロジック教授らの一連の研究が参考になる。教授らは4人で10回繰り返されるゲームの実験を行い、協調が達成されるかをみた。対面接触で行った場合に比べ、顔が見えない電話会議では協調達成は低かったが、ビデオ会議の場合は対面接触と遜色がないことを明らかにしている。対面接触と電子メールとの対比では、明らかに前者の方が協調達成されやすいことが既存研究でも明らかとなっているので、顔が見え、リアルタイムでやりとりのできるビデオ会議は、その他の情報伝達手段と比較しても、本質的に異なる可能性が示唆される・・・

・・・対面接触の役割で代替が最も難しいと考えられるのは、ソーシャリゼーションである。新たな組織のメンバーとなり、そこでの価値観や流儀を学びながら仲間になっていくプロセスを、ビデオ会議で実現するためのハードルは相当高そうだ。これは、今年の社会人1年生や大学1年生が、まさにいま直面している困難である。それをどう乗り越えていくか、我々のアイデアと技術を活用する知恵が問われている・・・

松永真さん、条件を無視して勝つ

2020年9月24日   岡本全勝

9月15日の朝日新聞「語る 人生の贈りもの」、グラフィックデザイナーの松永真さん第9回「負けてもいい、作り替えたロゴ」から。

―1986年にはティッシュ「スコッティ」のパッケージをリニューアルするための国際コンペティションに参加しました。
このコンペには二つの条件がありました。花柄であることと、指定のロゴを使用することです。納得できずに大いに悩みました。

―コンペの条件なのに。
ティッシュといえば生活必需品の最たるものです。狭い家の小さな部屋ごとに置かれるものがなぜ花柄でなければならないのか。白い箱に小さくロゴがあればいいじゃないかと。でも「ロゴを作り直していいですか」と聞いたって、どんなロゴを作るか分からない相手にオッケーしてくれるはずがない。僕は負けてもいいから自分の信じる通りにやろうと決断し、半年かけてロゴを作り替えました。そして花柄をストライプに置き換えたデザイン案を提出しました。

―ルールを無視したのに、国際コンペで優勝したんですよね。
担当者が電話で「あなただけ花柄がない」と言うので、「このストライプが私の花です」と答えました。後で聞くと、1次、2次、3次と続いた審査では毎回得点が低かったようですが、「ここでは落としたくないので、次の段階で」と結局、最終段階まで残ったそうです。必須条件を二つとも無視したのですから大学の試験だったら0点で不合格ですよね。最後に社長決裁で優勝となりました。
当時「山陽スコット」だった会社は合併で名前も変わりました。うれしいことに、コンペから34年経った今もこのデザインは健在です。微調整を続けて進化させていますけどね。