投稿者アーカイブ:岡本全勝

脳が作る第3の痛み

2021年11月19日   岡本全勝

11月8日の朝日新聞に「体・神経に傷ない「第3の痛み」、解明進む」が載っていました。
・・・体の損傷などの明らかな原因がなくても痛みが長引く場合があり、脳の神経回路の変化が影響していることが最近の研究でわかってきた。国際疼痛(とうつう)学会が「第3の痛みのしくみ」として提唱。日本疼痛学会など国内8学会の連合が今秋、「痛覚変調性疼痛」と呼ぶことを決めた。名称の決定で、従来の痛みのタイプとの区別が明確になり、治療法の開発の後押しになると期待される。

痛みの発生は従来二つのタイプで説明されてきた。一つは、けがや炎症で組織が傷つき、痛みの信号が出て起きる「侵害受容性疼痛」。もう一つは手術や事故、脳卒中などで神経が損傷して起きる「神経障害性疼痛」だ。だが、どちらにも当てはまらない痛みに苦しむ人は多く、痛む部位を調べても原因は見つからず、医療の中であいまいな位置づけになってきた。
国際疼痛学会は2017年、様々な要因で脊髄から脳にかけた痛みを生み出す神経回路が変化し、痛みが生じたり、痛みに過敏になったりするというしくみを提唱した。国内でも昨秋に発足した日本痛み関連学会連合が用語委員会を立ち上げ、今秋、「痛覚変調性」と呼ぶことを決めた。
この痛みは、痛みへの恐怖、不安、怒りやストレスといった社会心理的な要因が大きく関係する。それらの影響で、神経回路が変化し、痛みを長引かせ、悪化させるとみられている・・・
・・・用語委員会委員長を務める東京慈恵会医大痛み脳科学センターの加藤総夫センター長は「ストレスや心理的影響など様々なきっかけで脳の働きが変わり、脳が痛みをつくることがある。こうした理解が広がれば、痛みに立ち向かいやすくなる」と話す・・・

心の痛みは、これらとは別なのでしょうね。

猫の寿命を延ばす

2021年11月18日   岡本全勝

宮崎徹著『猫が30歳まで生きる日 治せなかった病気に打ち克つタンパク質「AIM」の発見』(2021年、時事通信社)を紹介します。

猫の平均寿命は15歳で、多くが腎臓病で死ぬのだそうです。その原因は、血液中のタンパク質「AIM(apoptosis inhibitor of macrophage)」が正常に機能しないために腎臓病になります。それは、家猫に限らず、ネコ科(ライオン、虎、チーター)の動物すべてにある遺伝だそうです。
AIMを投与すると腎臓病が良くなり、ネコの寿命が延びるのです。宮崎先生は、ほかの研究をしていて、このAIMを見つけます。ひょんなことから、ネコの腎臓病に効くことがわかり、ネコ愛好家や動物病院の方から、薬としてほしいとの要望を受けて、現在商品化の途中です。時事通信ニュースその後

AIMの働きは、本書を読んでいただくとして。素人の私が解説すると、次の通り。
マクロファージという細胞を聞いたことがあるでしょう。体の中の異物を食べて排出してくれる細胞です。AIMは老廃物にくっついて、マクロファージに食べられる働きを持っています。体の中の老廃物を排出しないと、「ゴミ」がたまります。ネコは、この働きがうまく行かず、老廃物が腎臓にたまって腎臓病になるのです。
老化は、体に老廃物がたまることによって進む面もあります。すると、この働きを人間に応用すると、老化が抑えられることになります。人間だけでなく動物一般にです。
これがうまく行くと、ノーベル賞もの、いえ、それ以上の発明になるでしょう。

わくわくする話です。しかも、門外漢が読んでもわかる本です。説明が上手なのと、仕組みが意外と簡単なのです。お勧めです。

学校での同調圧力

2021年11月18日   岡本全勝

11月10日の日経新聞「教育岩盤」は、太田肇・同志社大教授の「学校の同調圧力、創造性を阻害」でした。

・・・日本の学校には、子どもを枠にはめ、はみ出しを許さない風潮が根強く残る。同調圧力の研究で知られる同志社大の太田肇教授は「厳しいルールの下では子どもが自由なアイデアを考える余地がなくなる」と危ぶむ。

――子どもに同じ服装や行動を求める学校が多いのはなぜでしょう。
「服装や持ち物などを画一化した方が子どもを管理しやすい。授業も1クラス数十人の児童生徒に手際よく教えるには例外を認めずに同じ解法を教えた方が効率的と考えているのではないか」
「『他の子と一緒でなければいけない』という同調圧力は理不尽な指導につながる。日本の学校は親の転勤以外で子どもの転校は珍しく、教師も学校関係者以外との交流が少ない。人の流動性が低いため多様な意見に触れる機会が乏しく、理不尽さに気づきにくいのも特徴だ」

――規則重視の指導の弊害は何でしょう。
「厳しいルールの下では子どもが自由なアイデアを考える余地がない。技術革新で世界が急速に変化する中で、日本の教育を受けた人材が世界の潮流についていけなくなると懸念している」
「高度経済成長期のように大量生産型の産業が中心だった時は、規則を守り正確な手順で作業できる人材が必要だった。現代はコンピューターや機械がその役割を担う。いま求められているのは高度な思考や自由な発想ができる人だ。厳しい規則で子どもを管理しても、創造性は生まれない」・・・

公務員の2年での異動慣行の起源

2021年11月17日   岡本全勝

人事院月報」2021年11月号に、清水 唯一朗・慶應義塾大学総合政策学部教授の「魅力ある公務に進化するために」が載っています。そこに、次のような指摘があります。

・・・他方、政官関係の構造が大きく変化した中央省庁再編から二〇年が過ぎた。それ以後に採用された公務員は全体の四割に及ぶ。 つまり、 半数近い公務員が、 上から降ってくる案件を打ち返す、省庁再編後に顕著となった受身の政治―行政関係のなかで育ってきたことになる。それ以前に採用された者も、キャリアの大半をこの時代のなかで過ごしてきた。
主体性のなくなった組織ほど、苦しいものはない。シュリンクした地方銀行が主体性を失い、その存在意義を問われるまで追い込まれたように(橋本、二〇一六) 、公務も主体性を失い、されるがままに迷走を続けるのだろうか・・・

また、次のような記述もあります。
・・・現在広く定着している二年単位での異動の淵源について、同僚に尋ねられて調べたことがある。それは日清戦争のとき、つまり今から一二五年前に作られた制度であった(小熊、二〇一九) 。
しかも、 驚くべきことはその理由である。当初は五年を昇進・異動の目途としていたのが、日清戦争による業務量の爆発的な拡大に合わせて行政機構を拡大したため、昇進を早める必要が生じた。その結果、五年から三年、二年と短縮された。もちろん、一度短くしたものが再び長くはならない。
それから長い年月が経った。非常事態の行政需要に対応するための緊急避難策であったはずの二年ルールがなぜか命脈を保っている・・・

私も常々、公務員の短期異動を疑問に思い、改善を主張しています。かつては、上級職はさまざまな仕事を経験させて幹部にする、他方でその他の職員は特定の場所で専門家に育てるという方針があったのだと考えていました。しかし、2年程度で異動を繰り返していては、専門性を持たない職員が育ちます。この点は、民間企業の人たちが不思議に思う点です。その起源が明治時代の緊急措置であったとは、知りませんでした。小熊先生の本も読んでいたのですが。

改めて探してみると、小熊英二著『日本社会のしくみ』(2019年、講談社現代新書)の288ページに出ていました。ただしそこには、高等官の給与制度が理由として挙げられています。
1886年の高等官等俸給令では、5年以上勤務しなければ、より上位の官に昇進できないことを定めていました。その後3年に緩和された後、1895年の改正で2年になりました。背景には、日清戦争による行政の拡大と、帝大卒業生の無試験特権回復を求めての試験ボイコットがありその待遇改善のためと書かれています。
現在では、給与と異動とは連動していないので、この理由では説明できません。

若手官僚が、「このままでは技能を磨くことができない」と嘆く一方で、定期異動の時期になるとそわそわし、異動を望むのでは、技能を磨くことはできません。

理想のリーダー像の変遷

2021年11月17日   岡本全勝

11月10日の読売新聞文化欄「リーダー論 中」「求める姿 強さから優しさへ」から。

・・・出版文化史の横手拓治・淑徳大教授は、ベストセラーを通して「大衆の心性」を探る研究をしてきた。横手教授によると、理想のリーダー像は、20世紀と21世紀とで大きく変化した。それは、〈1〉指示型から支援型へ〈2〉垂直目線から水平目線へ〈3〉クリティカル(批判・批評的)から温容へ——の三つに特徴づけられる。
つまり、上から目線でダメ出しして指示を出すようなリーダーは、いまや求められていない。21世紀は相手に共感し、そっと背中を押すようなリーダーが理想視されているというのだ。

年間ベストセラーを振り返ると、1964年の東京五輪で日本女子バレーボールチームの監督を務めた大松博文の『おれについてこい!』が、同年の5位、翌年の3位を記録した。作家・石原慎太郎の『スパルタ教育』は、70年の9位だった。横手教授は「戦後から90年代までは、必死に頑張れば幸せになれる時代。だから人々は、自分を引っ張ってくれるようなリーダーを求めていた」と説明する。

その理想のリーダー像は、21世紀になると変わり始め、10年代にはよりはっきりする。ベストセラーには、自己啓発の要素が入った本が激増した。『チーズはどこへ消えた?』(2001年1位)、『夢をかなえるゾウ』(08年2位)など、読者自らが、内面の困難解決能力などを引き出すことを、著者が優しく見守るようなつくりだ。横手教授は「このスタンスこそ、今の大衆が求めるリーダーシップ。『リーダーシップのないリーダー』が求められている」と強調する

長引く経済成長の停滞や少子高齢化などによる閉塞感の中、多くの人は疲れ果てている。「そんな時に上から指示されてもついていけない。エリートがいくら現状を批判し変革を訴えても、心に響かない」。さらに農村社会の日本は、「優しい」リーダーこそ、元々理想視されていたとみる。「今後、強いリーダーが求められることは、かなり減るだろう」・・・