投稿者アーカイブ:岡本全勝

連載「公共を創る」第160回

2023年8月24日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第160回「政策の失敗、政策転換の遅れ」が、発行されました。

前回は、官僚の政策執行と事務処理における大きな失敗事例を取り上げて、説明しました。問題を起こした組織は、何らかの見直しが行われます。組織の廃止、改組などです。業界の振興と規制が分離されることもあります。
大きな失敗をした組織は取りつぶされることもあるのですが、それが責任の所在とその後の償いを曖昧にする危険もあります。私はこれを「お取りつぶしのパラドックス」と呼んでいます。「事故を起こした責任と償い」「責任を取る方法2

このほかに、長期的な評価で見えてくる「政策の失敗」もあります。農業振興に力を入れてきましたが、食糧自給率は低下し、農業従事者は激減しています。教育に力を入れてきましたが、子どもたちは学校が楽しくないと言い、大学はレジャーランドと揶揄されています。道路整備に巨額の予算を投入していますが、鉄道やバス路線が廃止され、車を持っていない人にとっては不便になっています。

これらに共通するのは、当初は高く評価されていたのに、その後に批判の対象となってしまったことです。政策の転換がうまくいっていないのです。目標設定が間違っていると、公務員がいくら一生懸命仕事をしても、国民からの評価は上がらず、職員の意欲も低下します。

外国人労働者の虐待

2023年8月24日   岡本全勝

日経新聞夕刊連載「人間再見」、8月7日からは、外国人支援NPO代表の鳥井一平さんの「彼ら彼女らも日本で働く同僚です」でした。

・・・日本の在留外国人は2022年末に307万人と30年前の2.4倍に増えた。NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」の鳥井一平・共同代表理事(69)は30年以上にわたり、労災や賃金不払いなどのトラブルに遭った外国人労働者を支援してきた・・・

記事には、日本企業が外国人労働者を虐待する事例が載っています。次のような記述も。
・・・91年に千葉県野田市で業務中に大けがをしたバングラデシュ人の青年から、会社が労災申請してくれないという相談がありました。主治医に状況を聞こうと訪れた病院で驚きました。包帯をした外国人が待合室にたくさんいるんです。大変なことが起きていると実感しました。
当時、中小零細企業で働く人は「弁当とケガは自分持ち」と自嘲するくらい、労働災害に遭っても泣き寝入りする状態でした・・・

・・・90年代に観光ビザで来日し成田空港に降り立った人々は、付近の町工場のドアをコンコンたたいて「仕事はありませんか」と尋ねて回ったのです。本来は就労できない資格なのに企業が雇うのは、彼ら彼女らなしではこなしきれないほど仕事があったからです。
路上で警察官の職務質問を受けてオーバーステイだと判明しても、工場の社長が交番まで走っていって「連れていかれると工場が止まってしまう」と訴えれば放免される。おおらかな時代でした。

93年には約30万人のオーバーステイ労働者がいました。入管当局が「本気」で取り締まれば、これほどの規模になることはありえません。日本経済を支えるため政府が「不法就労」を実質的に容認していたのが実態なのです。
23年6月に出入国管理法が改定され、非正規滞在者の強制送還が強化されました。私たちはずっと反対してきました。「不法滞在者」を送還して何が悪いんだと考える人もいるかもしれませんが、かつて政府はオーバーステイを黙認し、彼ら彼女らが日本経済を支えてきた面があるんです。そうした経緯を踏まえた議論が必要です・・・

ひどい上司と憎めない部下と

2023年8月23日   岡本全勝

先日、30数年前に一緒に働いた後輩2人と、久しぶりに意見交換会をしました。当時、私は30代半ばの自治省財政局交付税課課長補佐で、2人はまだ20代半ばで係長とその手前でした。その頃の思い出話で、盛り上がりました(この頃の話は、何度か書いたことがありますが、あらためて)。

この頃の私の仕事ぶりは省内でも鳴り響いていて、この2人も周囲から「岡本補佐に仕えて、大変だね」と、ねぎらいの言葉をかけてもらっていたとのことです。
土曜日の朝に彼らに指示を出し、月曜日朝にできていないと「昨日休んだやろ」と言ったとか。もちろん笑いながらですよ。月曜午後には、「まだできてないの。昼飯食っただろう」と言ったとか。
上司以上に彼らは大物で、「まだですよ~」と、笑って受け流していました。

2人は素質もあり、将来の幹部に育てるために、他の人より重い負荷をかけたのです。もちろん、彼らの疲労度を勘案してです。私も彼らの職位のとき、しょっちゅう泊まり込んだ経験がありますから、「無理の程度」はわかっています。彼らに聞くと、「明け方までは仕事をしたけれど、家には帰りました」とのこと。
24時間戦えますか~ビジネスマン、ビジネスマン~」という栄養剤の宣伝が流行ったのは、昭和63年です。「そんなこと、できっこないわ」と、私は自分の経験で思っていました。1日か2日はできるとしても、生産性は落ちるし、長続きはしません。

当時は週休2日に移行する時期でしたが、忙しい時期の私には休日という概念はなかったです。ただし季節労働者で、暇なときもありました。そうでないと、体が持ちません。私は休日出勤はしましたが、平日は早く帰るようにしました。
と言っても、意見交換会に出かけていたのです。部下にとって、「上司元気で留守が良い」を理解していたので。もう一つの栄養剤の宣伝、高田純次さんの「5時から男」を実践していました(笑い)。私が退庁してから、彼らが盛り上がっていた話は、次回にします。

次のようなやりとりも、有名でした。
私が彼らに指示を出す際に「私は忙しい。返事は簡潔にせよ。しかし私は民主的だから、押しつけはしない。次の2つの答えの中から選んで良い。一つは『はい』だ、もう一つは『わかりました』だ」と言ったとか。
部下の一人は「はいはいはい~、わかりましたよ~」と、グレながら返事をしていました。私が許した選択肢を逸脱してはいないのですが、不服従をきっぱりと顔に出していました。
この話には、後日談があります。私が交付税課を離れて数年後に、後輩から聞きました。「全勝さん、最近は選択肢がもう一つ増えたんです」と。で「3つめは何?」と聞くと、「喜んで」ですと笑いながら教えてくれました。ある飲食店で、注文を聞いた店員が客に答える際の言葉だそうです。
ここだけ読めば、ブラック職場に見えますね。

テレワーク実施率16%

2023年8月23日   岡本全勝

8月8日の朝日新聞に「大企業、テレワーク22% 半年前から11ポイント急減」が載っていました。

・・・日本生産性本部が7日発表した調査で、働く人のテレワークの実施率が15・5%と新型コロナ禍以降で最低になった。半年前の前回調査の16・8%から低下し、最も高かった初回調査(2020年5月)の31・5%と比べると半分以下の水準になった。特に大企業の低下が目立ち、前回調査から10ポイント以上急減した。
調査は今回が13回目。国内で企業などに雇用されている20歳以上の1100人を対象に、7月10~11日にインターネットで行った。

どんな働き方をしているかを複数回答で尋ねた項目で、自宅やカフェなどでのテレワークを活用していると答えた人は従業員1001人以上の大企業で22・7%。101~1千人の企業では15・5%、それ以下の企業では12・8%となった。
大企業の数字は半年前の前回調査(34%)から11・3ポイント急減し、全体の実施率を押し下げた。日本生産性本部によると、政府が今年5月に新型コロナの感染症法上の位置づけを「5類」に移行したことを受け、コロナへの一時的な対応としてテレワークを採り入れていた企業で出社を求める動きが活発になっているという・・・

「オッカムの剃刀」

2023年8月22日   岡本全勝

ジョンジョー・マクファデン著『世界はシンプルなほど正しい 「オッカムの剃刀」はいかに今日の科学をつくったか』(2023年、光文社)を読みました。大分前に読み終えたのですが、どのように紹介するのがよいか悩んでいるうちに、時間が経ちました。

出版社の宣伝には、次のようにあります。
「よりシンプルな答えこそ好ましく、往々にしてそれは正しい――複雑さや冗長さを容赦なく削ぎ落とすさまから「オッカムの剃刀」と呼ばれるこの思考の方針は、科学を宗教の支配から解放し、地動説、量子力学、DNAの発見など、多くの科学的偉業を支えることとなった。本書は科学の発展史を辿りつつ、単純さこそが、宇宙や生命の誕生といった深遠な謎を解き明かす鍵であることを示す壮大な試みである。そしてすべては、中世の果敢な神学者の冒険から始まる」

西洋科学史の概説書、それを「より簡単に説明する方向に進んだ」という視点から説明した本、といったら良いのでしょうか。重力による地上と天空の運動の統一、電磁力による磁気と電気の統一、遺伝子(二重らせん)による分子と生物学の統一など、なるほどと思いつつ。結果としてみると、オッカムの剃刀なのですが、それぞれの科学者はそれを意識していたかというと、そうでもなさそうです。

科学の進歩を認めつつ、最も簡単な説明は「神様が作られた」という説です。