岡本全勝 のすべての投稿

官僚制

19日の日本経済新聞が「再編5年目・診断霞が関」で農水省を取り上げていました。「農水省消費・安全局消費・安全政策課長に着任した山田友紀子は、ちょっとしたカルチャーショックを受けた。山田は、国連食糧農業機関の専門官などを務めた食品安全の研究者。国際的には食品安全行政は専門家が担うのが当然なのに、日本にはほとんどいないことが分かったのだ」
「専門性」も、現在の官僚制の問題点です。専門家というと技官(技術系公務員)を思い浮かべますが、それだけではありません。福祉の専門家、教育の専門家、金融の専門家が必要でしょう。しかし現在ではそれらの多くは、法学部か経済学部を卒業した人が、職場で鍛えられて「専門家」になります。もちろん、最先端・高度な技術は外部の専門家を活用することで、官僚はそれを理解できる知識があればいいとも言えます。
しかし、多くの分野で法学官僚が中心を占めていることは、疑問です。

東京大学公共政策大学院講演

今日は、東京大学公共政策大学院で講演しました。他の講師の方はそれぞれの省の個別政策の説明のようですが、私の講義内容はそれらとは違い、今年も「日本の行政の構造的課題」をお話ししました。
法学部22番教室(200人収容)で、多くの学生と院生が熱心に聞いてくれました。こっちもついつい力が入って、2時間の講義を終えたら、へとへとでした。
鋭い質問も来ました。「官僚の方は、みなさん『今のままではいけない』とおっしゃるのに、なぜ改革されないのですか」とか「岡本さんは『戦後日本の行政は大成功だった』といわれるが、数字ではそうだが、街並みなど質の面は成功とはいえないのではないか」などです。
去年は31番大教室でやりにくかったですが、今回はかなりうまくしゃべれました。レジュメは、行政の構造的課題です。
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公務員改革

1日のこのページで、「指定管理者制度の公募は公務員の市場化テストである。職員が職場を失うことがある」と書きました。それに関連して、最近の公務員制度をめぐる話題から、いくつかを紹介します。
4月25日の朝日新聞他は、「鳥取県が2年連続で勤務成績が低かった職員のうち5人に自主退職を勧め、3人が退職した」と伝えていました。民間の人からは、「今までは何だったの」と疑問や質問が出るでしょう。かつて、授業を任せられない教員がたくさんいることが、ニュースになったことがあります。
24日の毎日新聞「発言席」では、松井孝治参議院議員が「官僚にも市場化テストを」を主張しておられました。19日には日本経済団体連合会が「さらなる行政改革の推進に向けて-国家公務員制度改革を中心に-」を発表しました。
渕上俊則(前)総務省人事・恩給局参事官が「公務員制度改革の動向を読む」を月刊『地方財務』(ぎょうせい)に連載中です。
多くの人が公務員改革を主張されます。しかし、議論がいっこうに進まないのは、関係者の間に共通理解がないからだと思います。それは、
①まず制度の現状が、十分明らかにされていないこと。制度と運用を解説した本ってないんです。公務員法の解説はありますが、私の言っているのは公務員制度の解説です。1種・2種・3種の職員が、職種別に何人採用され、どのように昇進し、どのように退職しているのか。配置転換や交流はどうなっているのかなどなど。
②百家争鳴だけど、それぞれ断片的で全体像を述べたものがないこと。
③公務員制度と運用の専門家がいないこと。これは霞が関にも学者にもいません。各省の人事課は、人事異動をしているだけです。給与の専門家はいますが。人事院は運用を行っていません。
④よって、議論が集約されないこと。
私も官僚論に関心を持ち、発言もしています。いつか、まとめたいのですが。制度と運用の現状(全体像)を書いた、良い資料がなくて困っています。(5月6日)
日本経済新聞「経済教室」は17日から「公務員改革」を連載しています。ただし、公務員制度の改革全体像ではなく、個別の問題についてです。

三位一体改革46

22日の日本経済新聞は、「三位一体改革最終攻防・下」を解説していました。朝日新聞は「失速小泉改革・中」で、官僚任せでは改革は進まないことを解説していました。その中で、三位一体改革が取り上げられていました。(4月23日)
25日の毎日新聞は、連載「知事たちの闘い-分権は進んだか」第8回「茹でガエル」を載せていました。「族議員や官僚が既得権益にしがみついているから改革が進まないとよく言われるが、当の本人らにその認識は全くない。中央による補助金行政は国民のためだと、大真面目に反論する。官僚のこの真面目なかたくなさが、改革遂行にはやっかいなのだ」(4月25日)
28日に、今年初めての「国と地方の協議の場」が開かれました。麻生大臣の「残り6,000億円の補助金削減について、地方6団体が考えを示していただければ、参考になる」との発言に対し、麻生渡・全国知事会長は、「地方6団体が昨年まとめた補助金廃止案を元に、6,000億円分の削減策を7月までにまとめ、政府に提示する」と応えました。
「地方団体が案を考え、政府が実行する」という仕組みが、今年も機能を発揮しそうです。(4月29日)
3日の朝日新聞は、「国vs地方攻防再燃へー連休明けに協議本格化、見えぬ税源移譲」を大きく解説していました。「地方側は『政府も与党も三位一体改革への熱意が冷めている』との危機感を背景に、補助金削減の具体案を突きつけて、政府の対応を促そうとしている」。
そうです。与党側は昨年秋の「疲れ」が残っています。郵政民営化という大きな争点もあります。霞が関は、このまま冷めたままで逃げおおせたら、勝ちです。地方団体が熱くなるしか、進まないのです。マスコミや国民の理解を得て、政治家を動かすしかないのです。
第2期についての「足並みの乱れ」も、指摘されていました。ありがとうございます、内田記者。
麻生大臣と麻生知事会長の写真が並んで載っていました。余談ですが、お二人は親戚ではないとのことです。(5月3日)
5日の読売新聞は、「中央vs地方再燃、三位一体残り6000億円どう削減」「連休明け議論本格化」を書いていました。3日の朝日新聞といい、この読売の記事といい、論点は絞られています。
①「骨太の方針2005」にどのような記述をするか
②義務教育国庫負担金と生活保護費負担金の一般財源化
③残る6000億円の内容決定、です。(5月6日)
3日の毎日新聞は「知事たちの闘いー地方分権は進んだか」第9回を載せていました。「補助金返上、地方から言い出そう」。2003年7月の、知事会議の記録です。(5月6日)
9日の毎日新聞は、「知事たちの闘い-地方分権は進んだか」第10回を載せていました。16年度予算で地方交付税が大きく削減されたことに、地方団体が怒ったことについてです。
月刊「地方財政」2005年4月号では、神野直彦東大教授が「地方財政改革とセーフティ・ネットの張り替え」を書いておられます。その中で、所得税から住民税へ3兆円税源移譲することに続き、次のようなことを主張しておられます。
①消費税から地方消費税へ3.7兆円(税率で1.5%分)移譲。これで、消費税率は2.5%、地方消費税率も2.5%になります。
②法人住民税のうち1.7兆円を国税とし、交付税財源とする。
③その代わり、交付税財源となっている消費税のうち1.7兆円を、地方消費税とする。
このようにして、国から地方への税源移譲と、地域間格差の是正をしようという構想です。詳しくは原文をお読みください。なお、4月号にはその他の研究者の論文も載っています。(5月9日)
14日の毎日新聞は「三位一体、来年度分調整に着手」を解説していました。「義務教育、生活保護で攻防」「3兆円を目標とする地方への税源移譲は残り6000億円分が実現できるかが焦点。全国知事会など地方は同額の補助金削減案の策定に着手、見返りとして税源移譲を実現するよう求めている・・・」
16日の毎日新聞は連載「知事たちの闘い-地方分権は進んだか」第11回を載せていました。「交付税って何?」です。
一般の方には、なじみがないですよね、地方交付税は。そんなに難しい制度ではないのですが。わかりやすく説明してこなかった、私たちが悪いのでしょうか(元交付税課長の反省です)。(5月16日)

政治と行政または政治主導

昨日付けの総務省の幹部人事異動について、大きく報道がなされています。総理が各省の官僚人事に「介入」したのは異例ではないか、という観点からです。私は詳細は知りませんので、発言できませんが、リクエストに応じて制度については、解説しておきましょう。
(幹部公務員の任免権)
各省の職員の人事権(採用・昇進等)は、各大臣にあります(国家公務員法第55条)。ただし、局長以上などの幹部職員の任免にあっては、閣議での承認(閣議決定による内閣承認)が必要です。これは、平成12年12月19日の閣議決定に根拠があります。これも、中央省庁改革の一環です。事前に、内閣の人事検討会議(官房長官主宰)に諮られます。
次に、事実についてです。今回の異動について、総理の意向が働いたことについては、総理自身が「麻生総務大臣と相談して決めた」とおっしゃっています(18日付け読売新聞、NHKニュースなど)。
(公務員の降格)
「降格だ」との報道がありますが、これは降格ではありません。総務審議官にあっては、職名も総務審議官のままで担当する所管が変わりました。局長にあっては、政策統括官へこれまた所管替えです。
ちなみに、指定職(省庁幹部、企業では取締役クラスと思ってください。課長以下と給料表が違います。勤勉手当がありません) には、大きく分けて4つのクラスがあります。次官級(各省の次官と、省名がついた審議官例えば総務省の総務審議官・外務省の外務審議官など)、外局の長官(消防庁長官など)、局長級(局長のほか、政策統括官)、審議官級(官房審議官、部長)です。
なお、今回の事例は該当しませんが、国家公務員は、決められた事由以外では、本人の意に反して降任や免職をされることはありません(国家公務員法第75条)。降任されるのは、勤務実績がよくない場合や、適格性を欠く場合、病気や職がなくなった場合です(同法第78条)。その場合は、処分の事由を記載した説明書を交付しなければなりません(同法第89条)。地方公務員法にも、同様の規定があります。
(政と官)
今回の人事は、「政と官」を考えるテーマとなりました。朝日新聞の18日の社説は、その点から取り上げています。
「これまでも幹部が追われる例があったが、不祥事が引き金だったり、政権交代にからむ政争だったりした。政策論の違いから起きた今度の人事とは、大きな違いがある。」
「政策を決めるのは、国民から選挙で選ばれた政治家であり、支持を失えば落選という形で責任を取らされる。官僚には、そんなけじめのつけようがない。」
「中立的で公正な専門家として、官僚は選択肢を示す。決断は政治家に委ね、無理な根回しは慎む。それが原則だろう。」
内閣と行政の関係については、拙著「新地方自治入門-行政の現在と未来」p276の図をご覧下さい。