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日本の経済成長と税収

戦後日本の社会・政治・行政を規定した要素の一つが、経済成長であり、その上がりである税収です。この表は、「新地方自治入門-行政の現在と未来」p125に載せたものを更新したものです。

次の3期に分けてあります。すなわち、高度経済成長期、安定成長期、バブル崩壊後です。
1955(昭和30)年は、戦後復興が終わり、高度経済成長が始まった年。1973(昭和48)年は、第1次石油危機がおき、高度成長が終わった年。1991(平成3)年は、バブルがはじけた年です。
第2期は「安定成長期」と名付けましたが、この間には石油危機による成長低下とバブル期が含まれています。
「65歳以上人口比率」以外は、期間の年平均伸び率です。

期 間
1955~1973年
1973~1991年
1991~2008年
名目GDP
15.5%
8.2%
0.3%
国税収入
15.9%
9.1%
△1.6%
地方税収入
17.1%
9.8%
0.7%
参考
65歳以上人口比率
7.1%
(1970年)
12.0%
(1990年)
22.1%
(2008年)
人口増加率
1.1%
0.7%
0.2%

高度経済成長が、いかにすごかったかがわかります。年率15%の成長は、3年で1.5倍、5年で2倍以上になるという早さです。池田総理が「所得倍増論」を唱えました。それは「10年で所得を倍にする」というものでした。名目値では、5年で倍になりました(もちろん物価上昇があったので実質価値では違います)。
税収も同じように伸びていますが、実はこの間に毎年のように減税をしました。累進課税なので、減税をしなければ、もっと激しく伸びたと予想されます。
石油ショック後も結構な成長を続けたこと(近年の中国や東南アジア各国の驚異的経済成長が、8~9%です)。バブル後はそれが止まったことも。
そして、参考(65歳以上人口)に示したように、高度経済成長期は日本が「若く」、社会保障支出も少なくてすみました。当時ヨーロッパ各国は、すでに10%を超えていました。現在ではヨーロッパ各国を追い抜いて、世界一の高齢国になっています。人口の増加率も、もう一つの要因でしょう。この数字は1991年と比べるとわずかに増えていますが、2004年をピークに減少し始めました。

さて、この第3期はいつになったら終わり、いつから第4期が始まるかです。景気は底を打ったのですが、何をもって第4期の始まりとするかです。この見極めは、しばらく時間がかかります。振り返ってみて、あの時点が転換期だったということがわかるのですから。(2007年7月4日)

数字を2006年まで更新しました。1991年までの数字も、見直しの結果、少し動いています。2005年の改訂時は山岸君(内閣府)の協力を得、今回は斎藤君(内閣府)の協力を得ました。(2008年4月22日)

数字を2008年まで更新しました。今回も斎藤君(内閣府)の協力を得ました。2006年までと比べて、GDPの伸び率は下がりました。国税収入伸び率が下がり、地方税伸び率が上がりました。これは、2007年度に実施された3兆円の、国から地方への税源移譲が要素だと考えられます。高齢化率も、着実に上がっています。
この表では、第1期と第2期が、偶然18年間です。第3期が2009年までになると、第3期も18年間になります。(2009年12月13日)

日本国債の格付け

3日の東京新聞が、日本国債の格付けを解説していました。アメリカの格付け会社スタンダード・アンド・プアーズは、4月に日本の長期国債の格付けを、AAー(ダブルエー・マイナス)から、AAに引き上げました。「財政再建、金融政策の正常化、構造改革に進展が見られる」との説明です。
2001年までは、最上位のAAAだったのですが、その後、国債発行残高の急増や財政硬直化を理由に引き下げられました。今回の引き上げは喜ばしいことなのですが、手放しでは喜べません。この格付けは、チリや香港並み、G7ではイタリアの次に低いのです。別の会社のムーディーズでも、G7で最低、台湾、チリ、ボツワナより低いのです。
2002年に、日本国債が「ボツワナより下になった」ことが問題になりました。ボツワナには失礼なのですが。その際の議論を、調べたことがあります。財務省は、格付け会社宛の意見書の中で、次のような主張をしました。
「1 日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか。
2 格付けは財政状態のみならず、広い経済全体の文脈、特に経済のファンダメンタルズを考慮し、総合的に判断されるべきである。例えば、以下の要素をどのように評価しているのか。
 ・マクロ的に見れば、日本は世界最大の貯蓄超過国
 ・その結果、国債はほとんど国内で極めて低金利で安定的に消化されている
 ・日本は世界最大の経常黒字国、債権国であり、外貨準備も世界最高」
これに対し、格付け会社のフィッチ・レーティング社は、回答の中で次のように述べました。
「・・・日本政府は紙幣の発行か債務不履行のいずれかでしか抜け出すことのできない、国内債務の罠に填ってしまうかもしれません。そのようなシナリオでは、日本政府は巨額な国内債務の残高全額の紙幣発行に至るような財務破綻や経済不安のリスクを取るよりはむしろ、債券保有者との債務リスケジュール(返済繰延べ)を実施する可能性があります。」
すなわち、財務省は、日本は対外的に債権国であり、国債はほとんど国内で消化されているから問題ないと主張しました。一方、格付け会社は、巨額の政府債務=国の財政運営を問題視し、国債の格付けを低くしたのです。問題視されたのは日本経済でなく、国の財政運営能力でした。

行政構造改革

月刊『地方財務』(ぎょうせい)で、2007年9月号から連載。2008年10月号で、中断。

  「行政構造改革」ー日本の行政と官僚の未来ー
総目次

はじめにー私の問題意識

第一章 行政に転換を迫るもの
1 近年の行政改革・・・以上2007年9月号
2 社会の変化と行政の転換・・・10月号

第二章 行政機構と官僚制
1 日本の行政機構・・・11月号
2 日本の官僚制・・・12月号
3 官僚の失敗と官僚制の限界・・・2008年1月号
4 責任の所在と対応策・・・2月号・3月号・4月号

第三章 政治の役割と行政の役割
1 政治と行政・・・5月号
2 政と官・・・6月号・7月号・8月号
3 政治の役割・・・9月号・10月号
 
第四章 行政構造改革・・・以後、未定
1 行政改革の新たな展開
2 行政の課題と役割の変化
3 手法と手段の変化
4 行政改革から行政構造改革へ

詳細の目次は、「行政構造改革」その2へ。

「はじめに」から
 私は、二〇〇三年に「新地方自治入門ー行政の現在と未来」(時事通信社)を出版しました。この本は地方自治と銘打っていますが、副題にも示したように、地方自治にとどまらず、広く日本の行政の課題と方向を解説しました。そこでは、戦後日本の行政と社会について、その成功と失敗を論じました。
 その後も、行政の失敗といわれる事件は続き、官僚に対する批判も収まりません。かつて日本の官僚は、政治においては、「政治家は信頼できないが、官僚に任せておけば安心」と信頼されました。経済においては、「日本の奇跡の経済成長は、官僚が司令塔だから」と評価されました。社会においては、最も信頼され、優秀と認められていた職業集団だったのです。それは、「エリート官僚」という言葉に表れています。しかしその官僚と官僚制が、今や批判と改革の対象になっています。
 私の問題意識は、世界一優秀だといわれた日本の官僚制が、なぜ大きな批判にさらされているのかということです。なぜ「官僚の失敗」といわれる事件が続発するのか。また、いくつもの課題があるのに、なぜそれに対し有効な対策を打てないのか、という疑問です。
 これに対する私の診断は、今起きている官僚の失敗は、それぞれ個別の政策課題に対する「失敗」ではなく、日本の官僚制の「構造的機能不全」であるというものです。
 日本には、これまでにない、新しい大きな政策課題が発生しています。また、いくつもの行政改革が続けられています。それら政策課題や行政改革を研究した論文や記事は、たくさんあります。しかし、現在の日本の行政がどのような位置にあるのか、そして今後どのような方向に進むのかについて、概括した適当な本はないようです。教科書はその性格から、変化を追うことは難しく、一方、個別の課題や行政改革を扱った論文は、全体構図を示していません。また、何人もの大学教授をして「大きな改革が続いて、追いかけるのが大変だ」「教科書が間に合わない」と嘆かせるほどに、変化を続けています。
 しかし、日本の行政に大きな改革が続いていることと、日本の官僚制が評価を落としたことの根は、同じところにあるのです。すなわち、社会の変化に行政をあわせること、これがいくつもの行政改革が進められている理由です。そして、その変化に追いついていない、あるいは理解できていない官僚が、失敗をしているのです。とすると、大きな改革が続いているからこそ、現在の行政がどの位置にあり、どの方向に進んでいるかを把握することが重要でしょう。
 そこで、私なりの考えをまとめてみようというのが、この稿の意図です。それは、現在の日本の行政が置かれている位置、抱えている構造的問題、変化を迫る環境と課題は何かを明らかにすることです。そして、それへの対応のために、どう改革するべきかということです。それはまた、日本の官僚制が失敗している原因を明らかにすることであり、これからの官僚のあり方を示すものだと考えています。もちろん、これが無謀なことであることは、承知の上です。力不足のため、正確性を欠いた分析になるかもしれません。しかし、大づかみに日本の行政の現状と未来を鳥瞰することは、意味あることと思います・・・(2007年7月15日)

執筆状況)
「行政構造改革」の原稿を書いています。これも、月刊『地方財務』に連載する予定です。長年予告していた、日本の行政論、官僚制論です。ここ数年、大学でしゃべった内容や、このHPに書いたものを基にしています。もっとも、一つの論文にしようとすると、大変な労力と時間が必要になります。週末と会合のない夜は、ほとんどこれに没頭中です。肩がこって、目が疲れて・・。(2007年7月2日)

大作「行政構造改革-日本の行政と官僚の未来」は、順調とは言えませんが、少しずつ進んでいます。書いては消し、章立てや節を入れ替え、事実を確認し・・と、苦労してます。それでもこつこつ書いたので、第2章の半ばまでほぼ完成。連載にすると、3か月分くらいは書きためました。全体は4章と考えているので、3分の1はできましたかね。(7月8日)

いよいよ、「行政構造改革-日本の行政と官僚の未来」の連載を始めます。第1回は、月刊『地方財務』(ぎょうせい)2007年9月号に載ります。今、ゲラの校正をしています。発行は、8月末です。乞うご期待。(8月4日)

大論文「行政構造改革」の第2章を、ほぼ書き上げました。1,200字×57ページ+資料13枚の大作です。暑いのによく頑張りました。自分で自分をほめてやりたいです(笑い)。この後、知人や専門家に目を通してもらって、完成させます。「地方財務」に載るのは、まだだいぶ先です。でも、書けるときに書いておかないと。まだ、第3章と第4章が残っています。(8月12日)

連載「行政構造改革ー日本の行政と官僚の未来」が、月刊『地方財務』(ぎょうせい2007年9月号から始まりました。第1回は、「近年の行政改革」です。私の方は、今週末は10月号のゲラの校正です。第2章(11月号~1月号)の原稿は、今日、編集長に渡しました。一部は未定稿なのですが。第2章は、8月中に書き上げようと思っていたので、まずは目標達成です。自分をほめてあげましょう(こればっかり言ってますね。笑い)。
「再チャレンジ支援施策に見る行政の変化」が載った8月号は、売り切れたそうです。もっとも、私の論文で売れたのではないでしょうが。いずれにしろ、めでたいことです。(8月31日)

大論文連載「行政構造改革」第2回が、月刊「地方財務」10月号に載りました。今回は、第1章第2節「社会の変化と行政の転換」です。内容は、次の通りです。なかなか、意欲的で興味深いでしょ。日本の行政にご関心ある方は、ぜひお読みください。
(1)政府の新たな課題
①政府は新たに何をしたか、②何がうまくいかなかったか、③日本政治の失敗
(2)行政に改革を迫るもの
①私たちの成功、②日本の行政が成功した三条件、③成功の三条件の反転
(3)見えてきた日本の成功の問題点
①負担を考えない、②国際貢献を考えない、③自分たちで考えない、④二一世紀の日本と行政
一息つく間もなく、来月号の校正が来ています。しかも、9月なってから新しい執筆が進まず、困っています。本業が忙しくなったのと、大学の授業が始まったからです。次の講演のお誘いも来ているし・・。でも、こうして連載にして自分を追い込まれないと、なかなか書けませんよね。(10月2日)

失敗したアジア通貨基金構想

30日の朝日新聞変転経済は、アジア通貨危機「97年9月、基金設立は失敗した」でした。
1997年のアジア金融危機は、夢物語に過ぎなかった「アジア通貨圏」が現実の課題だということを域内各国に意識させた。その一歩となるはずの「アジア通貨基金」構想は、日本の覇権を警戒する中国がそっぽを向いて失敗する・・
経済というのが、いかに政治と関係しているかが、よくわかります。

知恵と工夫

28日の日経新聞夕刊「広角鋭角」は、俳句コンテストでした。お茶の伊藤園が主宰する「おーいお茶新俳句大賞」です。始まったのは1989年、缶入り緑茶を売り出そうとしたが、広告宣伝費が足りない。知恵を絞った結果、安上がりな俳句コンテストをすることに。社内には消極論も多かったが、初回の応募は4万句。8年目には50万句、いまや170万句というお化けのようなコンテストです。
俳句愛好家の多くが、発表の場がなくて不満を持っているとのこと。缶やペットボトルに入賞作品が載るのは、こたえられないでしょうねえ。そして、自分の句が載った商品を買いためる・・・。よーく考えてあります。